(主要人物:阿門 葉佩 真里野 ジャンル:ギャグ キーワード: - 作品No.14)
最終更新:2005/02/20(Sun) 01:27
寄稿者:大江
阿門邸、深夜。
鎧兜がならんだ屋敷の一室で、なにやら動く影がふたつあった。
「ふむ、これなどはなかなかよい装備になりそうだ」
そう言って葉佩はごっそりと鎧兜をかつぎあげていた。その背後では複雑な顔をした真里野が立っている。
「しかし、九龍……これは窃盗と呼ぶのではないか」
チッチッチ、と目の前で指をふってみせる。
「これは生徒会に対しての宣戦布告であるとともに、敵の財力を我が物とする一石ニ鳥の策だ。断じてコソ泥などではない!」
とはいえ、ほっかむりして言っても説得力が無かった。
日本刀や鎧兜を風呂敷からはみ出るまでつめている姿は、どうみても欲の皮のつっぱった泥棒。しかも、相手は顔見知りである。やけに最近木刀がなくなると思っていたのだが、どうも彼の仕業だったようだ。
そういう真里野も日本ヨロイを1セットかつがされている。あの日、プリクラ渡したのが運の尽きだったのかもしれない。
「ちょっと《重い物》を運ぶから手伝ってくれ」
と言われて行ってみれば、合鍵をつかって堂々と玄関から不法侵入。たしかに重いものを運ぶことになったが、まさか生徒会長の所有物とは。
「ふむ、これなどは金になりそうだな……?」
とりあえず物色し、さあ引き上げようとしたとき、急に葉佩が立ち上がった。
「何か音が聞こえてこないか?」
その言葉に、真里野は耳をすませてみた。
……コツッ……コツッ……コツッ…
「……誰か来るぞ九龍っ!」
「シッ、声をたてるな」
見つかったら、遺跡で化人や墓守にやられるよりも先に、国家権力で学園からフェードアウトである。まず、言い逃れできる状況ではない。
………ガチャリ。
遠くでドアを開ける音がする。どうやら一部屋ずつチェックしていくようだ。今のうちに手をうたなくては。
部屋には窓がない。長い廊下のどんづまりだから、ドアから出ても見つかってしまう。そして出入り口は、そのドアしかない。
(どうするのだ九龍)
(うむ、落ち着け。何かないのか?)
隠れる場所といったら、日本鎧の陰しかない。ここは展示室のようなものなので、大方の部分は見えるようにできている。さらに、どこにも二人の男子高校生が隠れられるスペースはなかった。
……ガチャリ。
まずいことに、音はこっちへ近づいてきている。
(ヨロイとか元に戻して、あくまでごまかしてみるか)
真里野はずっしりと重い荷物を見つめる。たしか葉佩は日本刀を5本と、さらに日本鎧を2セット積んでいたはずである。そこに真里野がヨロイをもう1セット。
(元に戻すだけの時間が残っておらん、無理だっ)
(くそっ、何か解決法があるはずだ)
そんなことをしているうちにも足音は近づいてくる。
追い詰められた葉佩はとっさの行動に出た。
(真里野、脱げ)
(何、九龍まさかそれは……本気なのか?)
(いいから、早くしろ。これしか方法はない)
…ガチャリ。
すでにチェックは隣の部屋にまで迫っていた。時間が無い、真里野も腹をくくった。
ゴソゴソと何かをいじる音だけが耳に届く。
(これはどうしたらよいのだ)
(とにかく形になればいいんだから。早くしろ、早く)
必死なささやきが続く、ようやくそれが収まったとき、隣の部屋からも気配が消えた。
(準備はできたが、これは……)
(うむ、大丈夫だ。万事上手くいく、俺の腕を信じるがいい)
ガチャリ。
すっと阿門の手が伸び、電灯をつける。一気に明るくなり、部屋の中があらわとなった。
現れたのは二人のヨロイ武者。日本刀をかかげて直立不動。
ものすごくビックリしたが、顔には出さない。流石は鉄壁の生徒会長であった。寝巻き姿なのはちょっとアレだったが。
「夜中に起きてみれば、何のマネだ。答えろ《転校生》」
「何のことかな? ワレワレは合戦に行く途中の、なんの変哲もない武士ゴザルよ」
このうえなく必死だが、どう見ても絶望的。生徒会長の視線が冷たいから、痛いレベルに変わってきている。
「そうでござる、たまたま迷い込んだだけでござる!」
「……そっちは真里野か」
ぎくり、と分かりやすい反応をする真里野。
「せっ拙者は通りすがりのただの武士だ。真里野とかいう生徒とはまったくもって関係ない!」
「そうでゴザル、そなたの言う通りでゴザル」
さりげなく、じりじりとドアの前に移動する二人。
「それではワレワレは合戦があるので、失礼!」
横をすり抜けると、ふたりは脱兎のごとく逃げ出した。
すかさず阿門もその後を追うが、ヨロイを身につけているとは思えない速度で遠ざかっていく。
さすがに窃盗で退学など食らったらシャレにもならない。二人とも遺跡で戦っているときより本気だった。
だからといって見つけた手前、阿門も諦めるわけにもいかない。彼は寝巻きに裸足ということも忘れて、屋敷の外へと走り出た。
その夜、一年生の男子生徒であるAくんは、お気に入りのMDを中庭に忘れてきてしまっていた。
禁止されていることは知っていたが、どうも雲行きが怪しい。雨に濡れさせるわけにもいかず、しかたなく取りにいったのだった。
幸いにも月が出ていたので、すぐに彼はベンチにあったMDを見つけた。
喜びもつかの間、生徒会に見つかっては大変と寮に戻ろうとするAくん。だがそのとき、遠くから迫るなにかを聞いてしまったのだった。
……待……ガシャ……お前た……ガシャン…
まさか、生徒会?
すぐにAくんは茂みに身を隠した。うわさに聞く生徒会による『処罰』、考えただけでも身がすくむ。何としても見つからないように彼は祈った。
結果、見つかりはしなかったA君。その変わりに衝撃的なものを見ることになる。
月明かりの中庭に現れたのは、
ガシャッ ガシャッ ガシャッ ガシャッ
「まだ、追ってきているぞ……」
「……うむ、いい加減に諦めて欲しいのだが」
全速力で走ってくるヨロイ武者の二人組。そして、
「待つがいい、転校生!」
そのうしろから、寝巻き姿に裸足で追っかけてくる生徒会長の姿だった。
三人がところ狭しと中庭を走り回る図に、A君は目の前がまっしろになって意識を失った。その後、寮に逃げ込もうとして失敗した二人が、なりゆきで校舎にまで流れ込んだのは、また別のお話。
彼らの卒業後、A君の証言によって十番目の生徒会長と武者が足されることになるのも、また別の話である。