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未亡人の罠

(主要人物:葉佩 皆守 ジャンル:ギャグ キーワード: - 作品No.23)

最終更新:2005/05/08(Sun) 18:17
寄稿者:黒町

先日、ガーターベルトが届きました。

「…どうしろってんだ。これ…」
部屋の中、一人呟く。
手の中には黒いガーターベルト。
保存状態に問題があったのか、あるいは他の理由か何故か人肌に温かい。
使用後!?と、思わずときめ…否、驚愕してしまった位だ。
これは、とある未亡人から仕事の報酬にと送られてきた物である。

葉佩 九龍。職業、トレジャーハンター。
天香学園に派遣されて数ヶ月。
学園にある墓地に隠された秘宝を探す合間に、依頼されて仕事をこなしたりもする。

仕事をこなしていく内に、時々、お得意様からお礼の品や手紙が届く。
もちろん悪い気はしない。それだけ評価されていると言う事だからだ。

が、

「………どう言うつもりですか。奥さん………」
ガーターベルト?
何故?
「…………」
改めて、注意深くそれを観察する。
誤解の無い様に言っておくが、不純な気持ちではない。
例え匂いを嗅いだり、頬擦りしてみたりしたとしても、だ。
重ねて言うが、不純な気持ちは一切無い。
未だ見ぬ若き未亡人にときめいたりなどしていない。断じて。

「………まあ、観賞用では無いよな」
あらかた調べた後、何に使うのかを考えてみる事にした。
無論、観賞用では無いだろう。
ならば、結論は一つだ。

「…………………穿くか?」

一度、意識するとそれは耐えがたい誘惑だった。
ふらふらと、ズボンを脱ぎ、ガーターベルトへと足を………、

「―おい、九龍。ちょっといいか?」
がちゃり。

そこで、時間が止まった。

皆守 甲太郎。
親友にして数ある障害を共に乗り越えた戦友とも言うべき仲間。
ノックも無しに部屋に入ってきた親友は硬直した後、引きつった声を上げた。

「わ…悪い」
そう言って、そそくさと部屋から出ようとする。

動きは迅速だった。
一足飛びに布団へと近寄ると、滑る様に枕に手を伸ばす。
枕の下から拳銃、グロック17を抜き出し、正に部屋の外へと出ようとする皆守へと向ける。

ぱんっ!

乾いた音と共に皆守の頭の横を弾丸が通り過ぎる。
部屋の外の壁に小さな穴があく。
皆守は石のように動きを止めている。
「……フリーズ」
静かに告げて、扉を閉めるように命じる。
照準は眉間に固定したままだ。
「……分かったから、その銃を下ろしてくれ……」
皆守は、扉を閉め両手を挙げて降参のポーズを取っている。
しかし、そんな事には構わずに口を開いた。
「皆守」
「………何だ?」
「誤解だ」
「ガーターベルトに片足突っ込んで誤解も何も…」
ぱんっ!
皆守の足元に穴が開く。
「おわぁっ!!何しやがる!!」
「誤解だって言ってんだろ」
銃で動きを牽制したまま、手紙を投げ渡す。
「何だ?………この未亡人からの贈り物だと?」
皆守はざっと視線を走らせて流し読みをした後、手紙を投げ返してきた。
「そう言う事だ」
「………何で穿くんだよ」
「………いや、使用法が分からなくて」
視線を逸らして、小さく呟く。
「ともかく、見なかった事にしてやるからその銃を下ろせ。と言うかズボンを穿け」
「分かったよ」
銃を横に下ろして、床に胡座をかいて座る。
近くにあったミネラル水を放って、皆守に渡す。
「…何だってこんな物が送られてきたんだ?」
水に口をつけながら、皆守が尋ねる。
「知らないよ。でも、こんなん見たら穿きたくなるだろ」
「………」
ならねえよ。とでも言いたそうな皆守の視線を感じながら、首を捻る。
「どうしたモンかな?これ」
「捨てるかすればいいだろ」
「なにぃ!!お前、これを捨てろと言うのか!?」
「何キレてんだお前は」
「未亡人の下着だぞ!みぼーじん!推定二十代後半から三十代前半の!!」
「なんだよ。推定って」
「使用済みかもしれないんだぞ!?」
「………一応、聞かなかった事にしてやる」
「………そうしてくれ」
ふう。妙な事を口走ってしまった。
汗を拭いつつ、結論を出す。
「………ともかく、閉まっとくよ。なんかの役に立つかもしれないし」
「立たないと思うが…」
酷く疲れ切った顔で、皆守が呟く。

そうして、ガーターベルトは部屋の隅へと隠されて保管される事になった。



夜が深まった頃。

墓地に立つ影が一つ。
「………」
暗視ゴーグルの閉まり具合を確認して、ゆっくりと息を吐く。
いつもなら、仲間を連れてくるが今日は一人だ。
誰にも知られる訳には行かない。
今日、行われる事は誰にも知られてはならないのだ。
今後の学校生活、否、人生に置いて拭いようの無い汚点を残す事になるかもしれないからだ。
地下遺跡へのロープを滑り降りる。
いつもの様に数分で地面に降り立つ。
慣れたものだな。と、他人事のように感心しながら懐のH.A.N.Tを起動させた。
そして、



『よいっしょぉ。じゃ、イクわねぇ』



凄まじい音を立てて、階段を踏み外した。

翌朝。
墓地の前で重傷を負って倒れている九龍 葉佩をある生徒が発見。
保健室に担ぎこまれる間、うわ言の様に「…未亡人……恐るべし…」と、呟いていたとかいないとか。
仲間達が心配する中、皆守 甲太郎だけが離れた場所で何とも言えない表情で九龍を見ていた。


………旦那が泣いてるよ。奥さん。


  

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