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未亡人の罠 転

(主要人物:葉佩 皆守 他 ジャンル:ギャグ キーワード: - 作品No.24)

最終更新:2005/05/08(Sun) 18:20
寄稿者:黒町


九龍 葉佩。
高校生兼トレジャーハンター。

高校生。
無駄に青春を謳歌している真っ最中。

「…だから、これは当然の帰結だと思うのだよ」
その手の中にはガーターベルトが握られている。
「………例えそうだとしても、俺を巻き込まないで欲しいんだが」
皆守 甲太郎がパイプを吹かせながら呟く。
「何言ってるんだ親友。不幸は分かち合い、幸福は独り占めと固く誓い合ったじゃないか」
「独り占めかよ。と言うか不幸を分かち合うって時点でもう先が見えたんだが…」
「なら、少しくらいは幸福も分けてやろう。まあ、それはともかく!」
「…ともかく?」
どこか疲れた風に皆守が訊くが、そんな事で止まったりはしない。
言わば、これは本能。
男として生まれた以上、従わなければならない絶対とも言える掟なのだ。
そう。
「女性がガーターベルトを穿いている姿を見たい!!」

一人、吠え猛る九龍を他所に皆守はひっそりと溜息を吐いた。

先日、ガーターベルトが届きました。
事の起こりはそれである。
未亡人から届けられたそれを観賞したり、装着…はともかく色々していたが、やはり物足りない。
理由は一つ。
ガーターベルトは女性が穿いてこそ光る。
「だろう!?」
「俺に何を言わせたいんだ…」
「やはり女性用下着は女性がつけてこそだ!よって!」
ぐっと拳を天へと突き出して、叫ぶ。
「穿いて貰おう!!」
「…………誰に?」
「…………」
そこまで考えていなかった。
それに、考えてみれば「ガーターベルトを穿いてくれ」と言った所で穿いてくれる筈も無い。
むしろ変態扱いだ。
「盲点……」
「いや、気付けよ」
「それに……」
それに誰でも言いと言う訳でもない。
やはり似合う御方がつけてこそと思うのだ。
例えば、
瑞麗先生。
確かに似合いそうだ。と言うか似合う。
大人の女性の魅力と言った所か。
素晴らしい脚線美。
「……く、眩しいっ……!」
しかし、問答無用で殺されかねない。
瑞麗先生は強いのである。
ならば、雛川 亜柚子先生ならどうか。
同じく大人の魅力。
(でも、どっちかって言うと白だよね…)
黒の下着を穿いている姿は想像できない。
奥ゆかしいあの先生の事だ。
恥ずかしがって身に纏うなどとても……、
「見たいかも…」
恥らう姿にそそられる。素晴らしい。
「おい」
「…………」
「おい!」
「はっ!?……なんだ?どうした」
「あっちの世界に旅立ってたようだが…。ずっとこうしてる気か」
そういえばそうだ。
気がつけば日が高い。
「マミーズにでも行くか」
「そうだな」
ガーターベルトを包んで、ポケットにしまうと、部屋を後にした。

「いらっしゃいませー」
「やあ」
「ああっ。九龍君に皆守君じゃないですかーっ。お昼ご飯ですか?」
「ああ、…二人だ」
「はーい。こちらのお席にどうぞー」
ふむ。
舞草さんか…。
似合うかはともかくこのノリなら…行けるか?
「どうしたんですか?九龍君」
「奈々子さん」
ぎくり。と皆守が、身を固めたような気がしたが構わずに舞草の両肩を掴む。
「ガーターベル……「九龍ぅ!!」」

ばきぃ!!

「ごはぁ!!」
素晴らしい角度からの蹴りが側頭部を襲う。
「きゃあああ!皆守さん、何するんですか!?凄い良い角度で入ってましたよ!」
遠くから悲鳴が聞こえる。
「いいから、さっさと行け。二人ともカレーだ!」
カレー星人の声も聞こえた。
「でも…」
「早くしろ!」
そう言って、皆守はずるずると生ける屍を引き摺っていく。

席に着くなり皆守は小声で怒鳴る。
「何考えてんだ!この馬鹿!!」
「馬鹿とは失礼な」
「そうまで変態扱いされたいのかお前は!?」
「ああ、成る程」
ぽんと、一つ手を打つ。
「確かにバイト中は迷惑だな」
「そうじゃねええええええ!」
テーブルをバンバン叩きながら、皆守がわめく。
これも珍しいかもしれない。
「………わかった。舞草さんはやめとくよ」
「…………そうしてくれ」
親友を気遣った九龍の言葉に、皆守は力無く項垂れたのであった。


「じゃあ、何処に行く?」
「…………」
どうにも疲れきっているらしく、皆守の顔には生気が無い。
仕方無しに周囲を見渡していると、
「九龍君、こんにちわですの」
「あ、リカさん。こんにちわ」
小柄な少女が声をかけてきた。
椎名 リカ。
白い化粧にゴスロリチックな服装。
……ん?
似合う、のか?
「リカさん」
「はい?」
幼い容姿におよそ似合わぬ大人の下着。
「……………」
「九龍君?」
「………っ!!くっ、これがギャップの力か!?」
悶絶しつつ、皆守を呼ぶ。
「おい!これは強力だ!是非にでも……ってあれ?」
向いた先には誰も居ない。
「皆守さんなら、ふらふら何処かへ行ってしまいましたの」
「あ、そうなんだ……」
「九龍君。リカに何か御用ですの?」
「あーー、うん。いや、また今度、ね」
何となく肩透かしを食らった気分だ。
とりあえず、その場を後にする。

「なんだよ、皆守のやつ」
ブツブツといいながら、歩いていると白岐さんが向うから歩いて来た。
「あ。白岐さん」
「九龍さん。こんにちわ」
少し冷たく感じる声の響きに軽く笑いながら、
「………」
「九龍さん?」
首輪とガーターベルト?
な。何か怖い感じがするぞ。
と言うか何か軍服とか似合いそう。
「………いや、何でもないよ」
さすがに進めてはいけない相手ぐらい分かるつもりだ。
しかし、
「し、白岐さん?」
口が勝手に動く。
「何?」
「ガ…」
「が?」
「ガ、ガーデニングに興味ある?」
何とか誤魔化した。
思い切り不審そうな眼で見られているが、ともかく踏み止まると、小さくガッツポーズをとるのだった。

「…やっぱり皆守がいないとな…」
ブレーキをかけてくれる相手が居ないと、どうも落ち着かない。
思ったよりも皆守を当てにしていた事に気付いて、軽く笑う。
「九龍?」
艶やかな声。
「ん?」
「何か面白い事でもあった?」
双樹 咲重。
生徒会メンバーのお色気姉さんだ。
見かけによらず話してみると結構いい人だったりする。
「いや、そう言う訳じゃ…」
気付く。
いけるかもしれない。
あの水着を着られる御方なら!!
「双…って、何その包み?」
「ああ。コレ?」
そう言って手に抱えたくしゃくしゃの紙袋を上げる。
「馬鹿な男が、これを着た君の姿を見たいって、下着なんか寄越してきたのよ。
 どう言う神経してるのかしら。…まあ、ちょっと痛い目に遭って貰ったからいいけど」
「……ふ、ふーん」
「どうしたの、九龍?顔色悪いわよ」
「いや、何でも有りません」
寸での所で命を繋いだようだ。

その後も何人か会ったが、どうにも機会に恵まれなかった。
まあ、考えてみればそうだろう。
そもそも無茶な考えだったのだ。
ずっと持っていた包みを見る。
「……帰るか」
なんとなく、白けた気分になって寮へと足を向ける。
――その時、
「あら、九龍君。どうしたの?」
「あ。亜柚子先…じゃなくて、雛川先生」
言い直す九龍ににこりと微笑む先生。
ああ、なんかほっとするなぁ。
「いや、今から帰る所なんです」
「そう。…もう日が落ちるけど九龍君、あんまり無茶しちゃ駄目よ」
遺跡の事を言っているらしい。
こう言う所を見ると、やっぱり先生だな、と思う。
「?九龍君、その包みは何?」
「!!!!」
しまった。
正気に戻った今となってはこれは危険アイテムでしかない。
誤魔化さなくては。
「えーと、そう購買で買ったパンです」
「そうなの?あんまりパンばかりだと栄養偏るわよ」
「まあ、普段は自炊ですけど、たまにはと思って」
「そう」
何とか誤魔化した。
とにかく早々にこの場を去ったほうが良い様だ。
「あ、そうだ。九龍君」
「はいっ!?」
思わず飛び上がる。声が裏返ってしまった。
「どうしたの?」
「あ、いえ、なんですか?」
「さっき肥後君が探して…」

「あー、九龍君、何持ってるでしゅかー?」

悪魔の声がした。
嫌な予感がする。
そのふくよかな腹を揺すりながら声が近付いてくる。
「あ、これは……」
「購買のパンですって」
誤魔化すより先に雛川先生が言ってしまった。
致命的な一言を。
案の定、目を輝かせた肥後が包みに興味を示す。
「何のパンでしゅか?カレーパン?アンパン?」
下着です。
「いや、これは違くて」
「何が入ってるかみたいでしゅー」
肥後は普段からは考えられない動きで包みを掴む。
一瞬の油断。
咄嗟に抵抗したのがまずかった。
びりりっと、音を立てて包みが破ける。

『…………』

沈黙が降りる。
視線の集まる先は地面に広がる黒いアレ。
「でしゅ?」
肥後はポカンと首を傾げる。
しかし、そんな事はどうでも良い。
「………九龍君」
「………はい」
恐ろしく平坦な声に、身体が固まった。
まずい。まずすぎる。
ゆっくりと、恐る恐る顔を先生に向ける。
先生は笑っていた。
それはもう素晴らしいくらいの微笑み。
きっと、誰もが先生を好きになりそうな微笑。
………問題は手がチョークが握っていること。
どっからもってきたんだろうなー。やっぱなげんのかなー。
現実逃避する事、十秒。
「これはなあに?」
「ぷ、ぷれぜんとです」
「ふうん?」
「せ、せんせいに」


直後、凄まじい絶叫が響いた。


もちろん、ガーターベルトは没収され、散々説教される羽目になった。
肥後は先生の豹変振りがトラウマだったらしく、この件について語る事は無い。
事情を知っている皆守は、やはり生温かい目で遠くから見守ってくれた。

歯を食いしばりつつ、九龍はうめく。
「……くっ、未亡人、恐るべし!!」

あるいは旦那の怨念か。


  

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