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友情の在り処

(主要人物:葉佩 皆守 真里野  ジャンル:ギャグ キーワード: - 作品No.3)

最終更新:2005/01/03(Mon) 16:50
寄稿者:黒町


「と、言う訳なんだよ。真里野」
「…そう言われてもな」
「何でだよ!!この気持ちがお前には解らないのか!?」
多少、自分でもオーバーだと思ったがそうは言っていられない。
そう。自分は間違ってなどいない。

葉佩 九龍(はばき くろう)。高校生。
ごく平凡な何処にでも居る若者。と誰もが思うだろう。
しかしその正体は天香学園に派遣されたトレジャーハンターなのである。

しかし。
その俺が何故こんなにも取り乱しているのか。
事の起こりは一時間前、否、五日前に遡る。

「皆守ー。ちょっといいか?」
「…あー?」
心底だるそうにドアを開け顔を出す、友人でありクラスメイトであり遺跡発掘の仲間(バディ)。
皆守 甲太郎に軽く笑いかけながら部屋に来ないかと誘う。
「…なんで夜、男の部屋に誘われなきゃならないんだ?」
「そう言うなって。カレー余っちゃってさ、処分手伝ってくれよ」
ちなみにこの場合、処分と言うのは食べるの意味である。
「カレーか。…分かった、ちょっと待ってろ」
だるそうにしていた顔を僅かに綻ばせると部屋で軽く着替えて出てくる。
そう、皆守 甲太郎はカレー好きなのです。
「…上手いな」
「だろ?」
狭い部屋で男二人顔を合わせカレーをつつく。
何かもの悲しい気もしたがこれも友情だろう。うん。
日頃の感謝を込めての意味で軽い口調で皆守に言う。
「ま、こんなもんでよけりゃ料理ってか調合がてら作ってやるよ」
「そりゃいいな。わざわざマミーズに行く手間が省ける」
そんな事を言い合いながらカレーを減らしていく。
今、思えばこの台詞がすべての原因だったのかもしれない。

一日目。

「おい、今日のメニューはなんだ?」
「今日はカレーラーメンだ」
「ま、たまには良いか」

二日目。

「遺跡で結構手に入ったから、肉たっぷりの肉カレー」
「じゃあ、明日は野菜カレーか」
「決定済みかよ」

三日目。

「野菜カレーですよ。兄さん」
「誰が兄さんだ」

四日目。昼食時。

「…皆守。それカレーパン?」
「ああ。お前もいるか?」
「いや、いい」
「そうか」
「今日も部屋に飯食いに来るか?」
「…今日はチーズカレーの気分だ」
「……了解」

五日目。昼。

「…おい、葉佩」
「ん?」
「マミーズに新作が出たらしいんだが行くか?」
「オッケー」

「……」
「…どうした?食わないのか」
「新作ってシーフードカレー?」
「ああ。…いつものカレーより海の物に合せたブレンドにしてあるな。美味い」
「……美味しいけどさぁ……」
「?」

そして放課後。教室。

「葉佩」
「……うん?」
「…どうした?疲れた顔して」
「いや、何でもない。で、なんだ?」
ここで聞いたのがまずかった。

「ああ、昨日のカレーの残りあっただろ?夜食に食おうと思って…おい?」

そう、この時だ。
確かに聞いた。切れる音。
ぷつん。

「いい加減にしろぉぉぉお!!!」
「…おっ、おい?」
「カレーカレーカレーってお前はカレー○ンマンか!?」
「カレー○ンマンって…」
「てっめ、今日で何日目だと思ってんだ!?五日だぞ五日!!しかも一日に二食はカレー!!幾ら好きだからって限度あるだろ!?」
「…(たまに三食だが)」
「夜はこっちが勝手に作ってるだけだから文句言えたモンじゃないが!でもリクエスト聞いたとき全部カレーってのは可笑しいだろ!?」
「…ああー…」
「他に無いのかよ!?なんか言ってみろ!?」
「………カレーピラフ」
「カレーから離れられんのかぁぁぁぁぁ!!!」
「ごふっ!?」

そうして俺は皆守を蹴り倒すと教室から走り去ったのだった。


後日。武道場。
俺は真里野に向かって縋るように情けない声をあげている。
「ってこの話を聞いてお前は何も感じないのか!?」
「好きな物は個人の自由でござろう」
あっさりと真里野。
確かにそうだ。しかし。
「……でもさあ……」
ぐったりと項垂れて板張りの床を見る。
ああ、綺麗に掃除してるな。ってそうじゃなく。
「…そりゃ好きなんだろうさ…タイプを変えたってカレーばっかり…食神の魂(包丁)が泣くよ…と言うか主婦だって泣くよ…」
本職はトレジャーハンターだけど。
「ふう…葉佩。よく聞け」
「なに?」
「お前は相手の好きなものを自分が飽きたからと言う理由で切り捨てるのか?」
「………」
「皆守にとって何よりも大事なのであろうカレーを友であるお前が否定するのか?」
そこまで大事か知らんけど。
「…それは」
「友ならば受け入れられるのではないのか」
「……」
「例え毎食カレーであってもな。・・・これはお主の器の問題だ」
「……」
「……」
何時だったかマミーズで初めて一緒にカレーを食べたのを思い出す。
あの時、カレーについて嬉しそうに語ってたっけ…。
お互いに黙したまま時間だけが過ぎていく。
どれくらいの時間が経ったろうか俺はゆっくりと顔を上げた。
「真里野…俺、行くよ」
「うむ」
僅かに笑いながら短く真里野は答える。
武道場から出る直前振り返って笑う。
「お前と仲間になれてよかったよ」
「ふっ水臭い事を言うな」
「ははっ。今度、七瀬と一緒に遺跡に行こうな!」
「なっ!!?」
狼狽する真里野の声を背に校舎に向かって歩き出す。

皆守はきっとあの場所だ。

屋上。
風に乗ってもう嗅ぎ慣れたラベンダーの香りが流れてくる。
そこには予想通りにパイプを咥えた皆守が寝そべっていた。
「…もう直ぐ校舎から出ないとまずいんじゃないのか?」
その俺の声にだるそうに身体を起こす。
「…皆か「なあ」
遮るように皆守が呟く。
「……何?」
「マミーズに飯食いに行かないか?たまには奢るぜ」
「……カレー?」
言ってからしまったと思う。嫌味に聞こえただろうか。
しかし皆守はふっと笑うとこう言った。
「今日はハンバーガーにでもするか…新作フェアでこっちも新しいのらしい」
………。
気を使ってくれたって事か…。
つられる様にふっと笑って俺は答える。
「…悪くないね」

そうして俺達は二人で歩き出した。



しかし。

「いらっしゃいませー。マミーズにようこそー!」
「おう。開いてるか?」
「はーい。こちらのテーブルにどうぞー…メニューはお決まりですか?」
舞草が出そうとするメニューを押し止め皆守が告げる。
「今日出た新作の奴。2人分な」
「はーい。少々お待ちくださーい」
パタパタと厨房に向かう舞草を見ながら皆守に笑いかける。
「その新作ってどんな感じなんだ」
「さあな?だがなんか八千穂の奴が騒いでたな」
「へえ」
他愛の無い会話をしつつ待っていると、
「お待たせしましたー」
と、元気な声とともにトンと二つ、皿が置かれる。


カレーの入った皿が。


あれ?
最近のハンバーガーって液状?
って言うかパンじゃないし。
これフェイント?
そこで俺の思考は停止した。
「おい…舞草!どういう事だ?」
「えー皆守さん、新作のカレーですよ?」
「新作ってそれは昨日のだろうが!」
「このカレーは今日の新作なんです。ほら、今日のはポークカレーでしょう?」
「………」
「違ったんですかぁ?」
「いや、おま…はっ!?」
皆守がこちらを向く。
「いや、葉佩…これは手違いだ。落ち着け」
うん。分かってるよ。
お前の。
キモチは。
俺は朗らかに笑う。
「いやあ、甲太郎君は本当にカレーが好きなんだなあ」
「…葉佩?」
「さ、食べよう。冷めちまうよ」
「あ…ああ」
そうして俺達は大した会話も無いまま食事を終えた。

「ありがとう、甲太郎君。君の気持ち良く分かった」
「お、おう」
「じゃあ」
「あ…ああ、また明日な…」


次の日、俺は学校を休んだ。

そしてまた次の日。
「葉佩?その荷物どうした?」
寮生の一人がこちらを見て不思議そうに尋ねる。
「ああ、プレゼント」
「プレゼント?」
「うん」
プレゼントと言うのは両手で抱えた大きなダンボール箱と背負った大きな風呂敷包み。
丸1日かけて準備したそれらをしっかりと抱え、よろよろと俺は目的地に向かう。
そしてその目的地に立って俺は深く暗く呪うように笑った。

「君の大好きなものだよ。ふっふふふふふふふふふふ」

その晩、皆守 甲太郎は自分の部屋の中に大量のレトルトカレー、タッパー詰のカレーを発見。
そしてダンボールの箱に貼られた「毎日、毎食残さず食べてね」と、血文字で書かれたメモを読んで、そしてそのメモに繋がっている紐を見て硬直する事になる。
直後、破裂音が寮を揺るがした。
駆けつけた生徒達が見た物は爆裂四散したダンボールやタッパーの破片と部屋中に飛び散ったカレーにまみれて立ち尽くしている皆守の姿であった。

因みに。
勇気ある男子生徒が飛び散るそのカレーを味見した。
そのカレーの味は素晴らしく、正に《地上最強》の味だったと言う。

この後、2人は関係修復に三日を要した。


それとは別の場所。別の時刻。

「…早く着過ぎたか」
そわそわと腕を擦りつつ真里野は呟いた。
授業が終わって直ぐに墓へと向かい何十度目かの呟き。
いや、落ち着け。こんな事で動揺してどうする。と自分を戒めて息を吐く。
そして。
たったったと足音が背後から近付いてくる。
「…!!」
はやる心を落ち着けてゆっくりと振り向く。
そこには。
「あっらーん。待ったー?」
そこには鳥肌の立つような濁声とともに朱堂茂美がいた。
「…!?なっ何故貴様がここに!?」
「葉佩ちゃんに頼まれたからに決まってるじゃなーィ」
「何!?」
「あらーん。まだ葉佩ちゃん着てないのねぇ」
「葉佩…!!計ったな!?」
「ね・え・ん。葉佩ちゃんが来るまで2人で仲良くしましょうよん」
「来るな!妖怪変化め!」
ぶんぶんと刀(真剣)を振り回し、朱堂を威嚇しつつ真里野は叫ぶ。

「おのれー!!はばきー!!!」

実はただ単に七瀬が私用で誘いを断られただけなのだが。
更に言えばその経緯をちゃんとメールで知らせたのだが。
そんな事を舞い上がっていた真里野が知るわけも無く。



ここにも壊れた友情が一つ。


  

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