(主要人物:葉佩 皆守 ジャンル:シリアス キーワード: - 作品No.31)
最終更新:2005/06/15(Wed) 00:04
寄稿者:西屋
高校三年の九月下旬に、また転校生が来た。
転校生は少なくないにしろ、この時期に転校してくるとは何か事情があるのだろう。
何にせよ、こんな閉鎖的な学園に入るなんて、よっぽどの物好きか、ただの能無しだ。
だが今回の転校生、今までの奴らとは少し違う。
転校初日にして、変な格好で墓地に侵入したこともその理由の一つだ。
次の日に八千穂から聞いた話によれば、トレジャーハンターだとか……。
ああいうのは映画やゲームの中だけに存在するもんだと思ってた。
まぁ、悪い奴ではないようだ。
「甲ちゃんっ」
「……高三にもなってその呼び方、恥ずかしいだろうが」
せっかく屋上で昼寝でも、と思っていたのにそいつが現れた。
こいつが来てから校舎内で安眠できた試しがない。
「いいだろ別に。俺にとってはあだ名って珍しいんだからさ」
あぁ、そうか。
トレジャーハンターなんて職に就いてる奴が、まともに高校へ通うなんて滅多にないんだろう。
そんなこいつにとって、あだ名は新鮮なのかもしれない。
「……そんなに珍しいのか?」
「珍しいよ。先輩ハンターも、依頼人も皆『さん』付けだもん。それに、こんな風に毎日学校へ来るってのも初めてなんだ」
ということは、やっぱりこいつ今までも……。
「小さい頃は?小学校とか行かなかったのか?」
まさか小学生でトレジャーハンター、なんてことはないはずだ。
「一応は行ってたけど……バディとして親父について行ったりしてたし。それに世界各地に転校が多くてさぁ。お蔭で日本語、英語以外も話せるけどね」
小学生でバディかよ……。
どんな人生歩んでるんだ、お前は。
「って、お前の父親もトレジャーハンターなのか?」
「うん。母さんはバディ。二人ともこの世にはもういないけど、凄腕だったんだ」
「……悪い」
悪いことを聞いたと、謝ったものの――嬉しそうに話しやがって。
お前一人残していくような両親を自慢そうに話しやがって。
「別に謝ることないよ。二人とも凄腕だったんだって、自慢なんだ」
悔しいと思う。
何故か、凄く悔しかった。
少しでも落ち着こうと、アロマパイプに火を付けた。
ラベンダーの香りが、少しずつイラつきを抑えてくれる。
「……トレジャーハンターなんて辞めちまえよ」
そう言っていた。
聞く前から答えなんて解りきっているのに。
「俺達と一緒に卒業して、普通に生活しろよ」
言葉が勝手に出てくる。
九龍は笑っていた。
困ったように、嬉しそうに。
「ありがと、甲ちゃん。でも俺はやめないよ。俺の両親が命を落とした遺跡の謎を解くために。それに……」
そこで一度言葉を止めて、九龍は立ち上がり空を見上げた。
その横顔の意思は固い。
「きっと天職なんだ。いろんな国でいろんな人達と出会って、たくさんのことを知って……そういう今の生活が楽しいんだ。だからやめない」
「そう、か」
思った通りの返答に残念なような、内心ほっとしたような、複雑な気分になる。
そんな気分もすべて、ラベンダーの香りがどこかへ持ち去っていく。
「……お前は強いな、九龍」
「え?何か言った?」
小さく呟いた言葉は、涼しくなってきた風の音で聞こえなかったようだ。
俺も、いつか……九龍のように強くなれるだろうか。
いつでも前を向いて進めるような、こいつのように――。
「腹が減ったなって言ったんだ。マミーズにカレーでも食いに行くか」
「さっすが甲ちゃん。やっぱりカレーなんだ」
「あたり前だろ?」
誰に対しても友好的で、いつも笑ってて、俺と毎回カレーを食べるような奴。
今まで俺の近くにはいなかったタイプの友達。
凄く変わり者だが、こんな友人も悪くはない。
それに、こんな奴だから誰もが、心を開いて付き合いたいと思うのだろう。
せめてこいつがまた違う場所へ行ってしまうその時まで、俺はこいつとカレーでも食っていたいと思う――。