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素敵ハンター九龍

(主要人物:葉佩 皆守 取手他 ジャンル:ギャグ キーワード: - 作品No.34)

最終更新:2006/01/21(Sat) 12:13
寄稿者:ハリハラ [Mail]

 俺の名前は葉佩九龍。まだ18才の恐れを知らぬトレジャーハンター。
 トレジャーハンターになったきっかけは、姉が勝手にロゼッタ協会のオーディションに書類を送ったからなのだが、今となってはこの仕事も結構気に入っている。
 この世には隠された素敵な秘宝がたくさんある。それをこの手にしたときの喜びは何にも換え難い。
 俺はこの仕事を天職だと思ってる。できることなら俺は全ての秘宝を手にいれたいし、秘宝も俺の手に入りたいと思ってるに違いない。きっと両想いだと信じてる。
 それぐらいのバカだ。そうじゃなきゃ、こんな湿っぽくて辛気臭い遺跡潜りなんてやってらんない。
 俺は今、頼もしきバディの連中と遺跡の中に潜っている。彼らは俺を信頼し、秘宝探しに協力してくれている。彼らがいるからこそ、俺もまた素敵探しを進められるのだ。

「あー、だりィ。九ちゃん、早く帰ろうぜ」
「はっちゃん、そろそろ戻ったほうがいいと思うんだけど……」
 ちなみに今日のバディは皆守甲太郎と取手鎌治だ。
 やる気に満ちた彼らの声援は俺の勇気を後押しする。なんとも頼もしい連中だ。
「もう無理だろ。いいから戻ってこいよ」
 甲太郎が再びアクビと一緒に熱い声援を送る。わかったから静かにしていてくれ。
「はっちゃん、さっきから全然進んでないよ……」

 ―――ワイヤーロープにぶら下がった状態のまま小一時間が経過したところだ。
 鎌治の言うとおり、さっきから少しも進んでいない。さすがに限界も近づいてきている。
 手がしびれてきた。汗が目に入るし、足が痛くなってきてるし、なんでか無性にコンビーフが食べたい。
 正直、もう限界なのだろう。だが、そんな泣き言をバディの前で口にするわけにもいかない。
「なんてもないってこれくらい! ちょっと休憩してるだけだよ」
「ホントかよ? なんか辛そうだぜ?」
 辛くないはずがないだろうが。
 俺のジャケットの中には招き猫と鎧と粘土と扱い方もよくわからないまま勢いで買ってしまったショットガンやらアサルトライフルやらと園芸用の窒素系肥料とパイプ椅子が入ってるんだぜ?
 こうして今もぶら下がってられるほうが奇跡だ。
「はっちゃん……」
 鎌治が心配そうな声を出す。
 いけない。バディにこんな心配されるようなら、まだまだ三流のトレジャーハンターだ。
 俺は精一杯の笑顔を作って、無理やりに親指立てて鎌治に言う。
「バッキャロウ! 俺はまだまだ大丈夫だって!」

  『脈拍上昇、心拍数上昇。ハンターのやせ我慢を確認しました』

「確認してんじゃねぇよ、くそH.A.N.T!」
「やっぱり無理してるんだね、はっちゃん。もう見てられないから戻っておいでよ」
「ふぁ~あ。ホラ、待っててやるから帰ろうぜ」
 どいつもこいつも勝手なことを。
 だって仕方ないじゃないか。俺もそろそろ今日は引き上げようと思っていた矢先、ちょっと素敵な壷を発見してしまったのだから。
 それがたまたま足場の遠いところにあって、ワイヤーで渡ってみると下が硫酸のプールだっただけじゃないか。
 たいしたことじゃない。自重で動けなくなった俺はここで死んでしまうかもしれないってだけだ。
「おかーーーさーーーん!!」
「やれやれ……言わんこっちゃない」
「はっちゃん、本当は泣くほど怖かったんだね」
 もし生きて帰れたら、辞表を書こうと思う。
「とりあえず、まずはそのパイプ椅子は捨てろ。どこに座るつもりだよ?」
「粘土とか肥料とかも何かに使うわけでもないし捨てていいんじゃないかな? あと招き猫とか、顔が怖いし」
「いやだ! これは全部俺の見つけた素敵トレジャーだ! 全部持って帰るんだ!」
「わがまま言ってる場合か! 落っこちるぞ!」
「いやだったらいやだ!」
 トレジャーハンティングは手に入れた全てを持って帰るのが基本だ。
 何がどのような意味を持っているかは、時間をかけて分析しなければわからないし、たとえ不必要に思われるものでも、その時代においては重要な意味を持っていたのかもしれないからだ。
 まあ、パイプ椅子は確かにもういらないが(疲れたら座ろうと思って持ってきただけ。しかもこの状況じゃ意味なし)だからといって遺跡に捨ててしまうのはハンターとしてのモラルにもとる。
 結局、このまま突き進むしかないのだ。
「はっちゃん、本当に無理しないでよ」
 鎌治が青白い顔をさらに青くして言う。
 この子はもともと心配性で気が弱い子だ。まるで自分のことのようにオロオロしている。
「いいか、鎌治。よく聞け」
 俺は鎌治のためにプルプル震える頬でもう一度笑顔を作った。
「ライオンはな、生まれてきたときから百獣の王だったわけじゃないんだ。自らの勇気で炎の輪を潜り抜け、他の獣の尊敬を集めることによって初めて王と認められたんだ」
「いや、それはサーカスの仕込みだろ?」
「だから俺も決して引き下がったりしない。なぜなら、これは俺がライオンとして認められるための儀式だからだ。この硫酸のプールを越えて、初めて俺はトレジャーハンターと認められるんだ!」
「はっちゃん……」
「いやだから、ライオンは違うだろ?」
「そうだったんだね、はっちゃん。僕が間違ってた。はっちゃんの勇気を疑うなんて恥ずかしいよ」
「なんなんだよ、お前ら?」
「思えば、初めて会ったときから、君の勇気はいつも僕を導いてくれた。僕に再びピアノと向き合うための勇気を分けてくれた」
 そして鎌治は、じつにいい顔をして微笑んだ。
「ありがとう、はっちゃん。僕がこうして笑っていられるもの、全部、君のおかげだよ……君は僕の、初めての親友だ」

  『脈拍上昇、心拍数上昇。ハンターが赤面しました』

「やめろ、鎌治ッ! 脱力して落っこちる!!」
「え、あぁ、うん。ごめん」
「やれやれ。それじゃ、さっさと行ってこいよ」
「黙って待ってろよ、お前ら!」
「はいはい」
「わかった、僕たちは黙ってるよ。がんばれ、はっちゃん」
「うんしょ、うんしょ」
「…………」
「…………」
「うんしょ、うんしょ」
「…………」
「…………」
「うんしょ、うんしょ」
「…………」
「……これであの壷の中身が消しゴムとかだったら、はっちゃんは死ぬほどがっかりするんだろうな」

  『ハンターが脱力しました』

「あ、ごめん。声に出す気はなかったんだけど……」
「こ……殺す気か!」
「気をつけろよ、取手。九ちゃんも必死なんだからよ」
「ホントにごめんなさい! もう黙ってるから!」
「頼むぞ、ホント! 俺も真剣勝負なんだからよ! 遺跡探索は遊びじゃないんだからよ!」
(着メロ:アオキキオク)
「おっと、メールだ。なんだ八千穂か……おい、九ちゃん。八千穂と白岐がヒマだから遺跡に遊びに行ってもいいかってさ」

  『ハンターが脱力しました』

「遊びじゃねーんだよー!!」
「あぁ、悪い悪い」
「勝手にしろと言っておけ! あとその辺のもの適当に触るなよって!」
「了解」
「あーあ、もう、すっかりテンション下がり祭り」
「大丈夫、はっちゃん?」
「疲れた。もう動けない」
「そうだろうな。ま、さっさと戻って帰ろうぜ」
「いや、無理。俺は絶対あの秘宝を持って帰るから」
「じゃ、やっぱり何か捨てようよ」
「そっちも無理。大切なものが多すぎて」
「粘土もかよ?」
「窒素系肥料も?」
「もちろん、パイプ椅子も」
「じゃ、どうすんだよ? どうやって帰るんだよ?」
「甲太郎、ここまで荷物取りに来て」
「はあ?」
「荷物重すぎて動けないから、甲太郎がここまで荷物取りに来て」
「おいおい、何を血迷ったこと言ってんだ、あのスフィンクスは? なんで俺がそんな危険おかさなきゃならないんだよ?」
「オーケー、鎌治?」
「オーケー、はっちゃん」
 俺の指示で、鎌治が甲太郎の前に立ちふさがる。
「な、なんだよ?」
 そして学生服の中からレトルトカレー5パックを取り出す。
「これは……!?」
「はっちゃんが、何かあったときはこれを皆守君に見せろと言ってたんだ」
 甲太郎がジロリと俺を睨んだようだが、俺はあいにく口笛を吹くのに忙しくて相手できなかった。
「くそっ、ちょうど買い置きのカレーを切らしちまったところだ」
「それも計算済みだって、はっちゃんが言ってた」
「人んちのカレー数まで計算すんな!」
 しかし、もともとカレーが宇宙の真理だという特殊な宗教を信じている甲太郎にとって、この誘惑は耐えられるはずもないのだ。
「やればいいんだろ、やれば!」
 やるのかよ。本当にやるのかよ。
 俺はカレーの偉大さに何か神がかり的なものを感じる。真理かもしれない。
 甲太郎は恐る恐るロープに捕まると、ゆっくりと俺の方に向かってきた。
 できるだけ下を見ないようにしている甲太郎の必死さが伝わる。
 そうだ、俺はこれが見たかったんだ!
 普段は南国哺乳類系の甲太郎が、必死になる姿って素敵だ! 素敵すぎる!
「ほら、さっさとよこせよ!」
「へいへい」
 甲太郎が手を伸ばす。俺はジャケットを脱いで、甲太郎に向かって差し出す。
 そのとき。
「あぶないッ!?」
 2人の重さに耐えられなくなったロープが端からほどけた。
 とっさに手を伸ばした鎌治がロープを掴む。バランスを失いかけた俺と甲太郎だが、なんとかしがみついている。
 だが、俺たちの命は鎌治の細い腕に預けられている。
「荷物を捨てろ、九ちゃん! 取手が保たない!」
「いやだ! これは捨てられない!」
「無茶言うな! 死んじまうぞ!」
「鎌治、なんとか堪えろ! 甲太郎、ゆっくり戻れ! 揺らすなよ!」
「うぐぐ……はっちゃん、無理だよ……」
「くそっ、待ってろよ、取手! 九ちゃん、いいから荷物は捨てろ!」
「はっちゃん……ッ!もう、ダメだ……ッ!」
「いいか、鎌治! よく聞くんだ! ラクダの睫毛があんなにも長いのは、砂が入るのを防ぐためじゃない! 砂漠の生活がどんなに辛くとも、決して涙を見せたくないからだ!」
「んなわけないだろーが、アホ!」
「そうか……そうだったんだね、はっちゃん。わかった。僕、がんばるよ!」
「ほうら見ろ! 鎌治はこういう話が大好きなんだよ!」
「あぁ、そうかい! 勝手にしろ!」
「僕はいつも考えてたんだ……どうしてはっちゃんは、こんなにも強いんだろうって。どうやったら、君のようになれるんだろうかって……ッ」
 そして鎌治は、じつにいい顔をして微笑んだ。
「僕は決してくじけないよ、はっちゃん。大好きな君にそんな姿を見せたくないから。君の……君のそばにいたいから」

  『脈拍上昇、心拍数上昇』
  『ハンターが赤面しました』
  『バディ1も赤面しました』

「やめろって鎌治ぃ!」
「頼むから、そういうのは俺たちが無事に帰ってからにしてくれ!」
「う、うん! 帰ってからにするよ!」
「急げ甲太郎! だけど決して揺らすなよ!」
「無理いうな!」
「ウググ……ふ、2人とも早く!」
「頑張れ、鎌治! もう少しだ!」
「くっそ! 手に汗が……ッ!」
「皆守君……はっちゃん!」

「あっれ~、みんな、何やってんの?」

 そのとき、やっちーの間延びした声が聞こえた。
 なぜか、俺が行こうとしていた壷のある方からだ。
「白岐さーん! みんないたよー!」
「そう……こんなところにいたのね、九龍。こんばんは」
「あ、あれ? なに? なんで2人ともそっちから来るの?」
「白岐さんが教えてくれたんだ。大広間って、いっぱい隠し入り口があるんだよ。知らなかった?」
「因縁が―――、空洞を生むのよ。呪われし運命の歯車の圧力で」
 え? なに? 相変わらず意味わかんねぇ????
 切迫したこの場面に、妙な沈黙が流れる。そして、同時に嫌な予感も。
「と、ところで、その、そこにあった壷は……?」」
「あ、ごっめ~ん。うっかり蹴飛ばして、割っちゃったー」
「中身は消しゴムだったわ、九龍」






  『脈拍低下。心拍数低下』
  『ハンターは真っ白になりました』
  『バディ1も真っ白になりました』
  『バディ2も真っ白になりました』
  『危険な状態です』
  『ただちに離脱を開始してください』
  『ハンター?』
  『バディ?』
  『………………』
  『H.A.N.Tを停止します』






本日のゲット・トレジャー:「甲太郎の必死」

  

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