(主要人物:葉佩 皆守 ジャンル:シリアス キーワード:ネタバレ - 作品No.38)
最終更新:2006/06/06(Tue) 00:18
寄稿者:西屋
「九ちゃん」
いつもと同じように呼ぶ声。
けだるそうで、やる気もなくて、無気力系で。
そのくせ何か世話やきで、文句は言うけど付き合いよくて、不健康優良児。
「マミーズにカレー食いに行こうぜ」
あとカレーが大好きな奴。
変なの。
でも、そんな甲ちゃんが好きなんだよなぁ、俺は……。
「今日も地下、行くのか?」
マミーズでカレーを食べながらそう訊いてくる。面倒くさそうに。
「行く。もう最下層だけだし、阿門にもこれ以上いろんなモノ背負っててほしくないから」
「どうしてお前は他人のためにそこまで必死になれる…?」
あれ…?
いつもより甲ちゃんの声が緊張してる?
何か珍しいな。
「他人なんかじゃないよ。友達のため。阿門だって俺から見れば友達だ」
出会い方があんまり良くなかったけど、阿門だって友達だ。
一瞬甲ちゃんが驚いたような顔して、寂しそうに笑った。
「お前は…卒業までここにいるのか?」
あ……。
忘れてた。俺は仕事で来てたんだ、この学園に。
すっかり今の日常に慣れちゃったからなぁ。
この学園での仕事が終われば、次の遺跡が俺を待ってる。
「……仕事が終われば、行くと思う」
首を横に振って呟いたら、「やっぱりな」って甲ちゃんが席を立つ。
俺もそれに続いてマミーズを出た。
早く遺跡の最下層に行くべきだと思いつつも、もう少しこの学園にいたいと思う。
「甲ちゃん、今日はやっぱり……」
「行くんだろ?阿門と決着つけに…。今夜、俺も呼べよ?」
行くのをやめようと言う前に、甲ちゃんにそう言われてしまった。
今更後には退けない。
甲ちゃんは、俺がいなくなったら寂しがってくれるかなぁ。
それともいつも通り、アロマ吸って無気力系のままなのかなぁ。
少しでも寂しいって思ってくれたら嬉しいなぁ、なんて……。
「俺が相手だ」
何の事だか一瞬、いや、しばらく理解できなかった。
遺跡の最下層に辿り着いたから、阿門を探さなきゃいけないのに。
「甲ちゃん、何言って……?」
「俺が生徒会副会長だ」
……あぁ、そうか。
今までずっと、俺を見張ってたんだ。要注意人物の俺を。
目の前に立っている友人、皆守甲太郎は生徒会副会長で、俺、葉佩九龍は遺跡を荒らしたトレジャーハンター。
つまりはそういうコト。
甲ちゃんは今までずっと生徒会での役割を果たしてたんだ。
仲良くなれて浮かれてたのは俺だけ。
俺はずっと騙されてたってことか。
そっか、甲ちゃんはずっと騙してたんだ。
そうさ、甲ちゃんはそんな奴……じゃない。
人を騙すような奴なんかじゃない。
俺だって甲ちゃんの不思議な言動を不審に思わなかったわけじゃないよ。だけど信じていたかったから…。
甲ちゃんは俺の敵になったりしないって、信じていたかったのに……。
悔しい。悔しいのに。
それなのに俺は、こんなにも――。
「……好きだよ、甲太郎」
泣きたいぐらい悔しいのに、つい笑んでしまう俺がいる。
たとえ今までの甲太郎が作りモノだったとしても、もう俺には遅い。
俺の気持ちは変わらない。
だから、俺は負けない。
勝って甲太郎の重い部分を持って行く。
「………いくよッ!」
俺がいなくなったら、甲太郎は寂しく思ってくれるだろうか……?