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仲間

(主要人物:葉佩 皆守 阿門 ジャンル:シリアス キーワード:ED手前 - 作品No.39)

最終更新:2006/07/04(Tue) 22:30
寄稿者:西屋

 ……ようやくケリがついた。
 そう思った瞬間地響きがして、遺跡が崩壊を始める。
 冗談じゃない!皆さっきまでの戦闘で、もう体力も限界なのに。
 俺だって人のこと言ってられない状態だし。

「……俺は、責任を取らねばならん」
 こんな状況の中、阿門がポツリと言った。
 一瞬聞き間違いかとも思ったけど、違う。
 阿門はこのまま崩壊する遺跡に残ると言う。そしたら、それに続いて甲ちゃんまで残るなんて言いだした。
 責任を阿門だけに押し付ける事は出来ないって。
「……笑えない冗談はやめてよ。こんな時に」
 責任を取って残るのだと言い張る二人に、心底腹が立つ。
「冗談などではない」
「俺達は本気だ。お前は白岐を連れて早く行け」
 そんなことは解ってる。だから余計に腹が立つんだ。

「俺からも頼む。彼女を地上まで連れて行ってほしい」
「いい加減にしろよッ!」
 残ろうとする二人に向かって俺は怒鳴ってた。
「責任責任って、この遺跡と心中するのが責任を取るって事かっ?そんなの絶対違う!」
「だが、これが俺と阿門の責任の取り方だ」
 ああ言えばこう言う。
 なんで妙に頑固なわけ?この二人……。
 だけど甲ちゃんと阿門がどう言おうと、こんな所で死なせたりしないからね、俺は。
 大体二人に責任があるのなら、俺にだって責任がある。
 この遺跡を探索して、事を荒立てたのは俺なんだから。
 だから、二人の責任の取り方は絶対間違ってる。
「責任の取り方?この遺跡に残る事が?」
「あぁ」
「ふざけんなっ!そんなの、逃げてるだけだろッ!」
「逃げる……?」
 眉を寄せた甲ちゃんと俺の視線がぶつかった。
 互いに目をそらさない。
「逃げてるよ。死ねばそこで命と一緒に責任もお終い。だけど遺跡から出れば、重くてずっとついてくる責任が待ってる。だから甲太郎も阿門も、逃げ出すんだ」
 甲ちゃんが黙り込んだ。
 これから甲太郎と阿門が背負っていくモノは凄く重いんだろう。
 それを背負えって言うのは酷なんだろうな。
 それは解ってるんだけど……。

「逃げ出すと言われても仕方がないだろう。だが……」
 阿門が俺に反論しようとした瞬間、近くに結構大きな瓦礫が落下してきた。あんなのに当たったら助かりそうもない。
 もう、時間が無い。
 二人が責任を取る死をそんなに望むのなら、俺は……。
「そんなに死にたいのなら、遺跡を出た後みんなの前で俺が甲太郎と阿門の命を奪うよ。責任取って命を散らすなら、みんなの前の方がいいだろうから」
 二人を見つめながら俺は言った。
 甲太郎も阿門も、自分が皆にとってどんな存在か知らないから簡単に残るなんて言えるんだ。
 二人が居なくなったら、悲しむ人がたくさんいるのに。
 それを知らないんだ、二人とも。
「だけどさ、俺が二人に銃を向けたら皆が俺を止めると思うよ。大切な、仲間なんだから」
 とびっきりの笑顔で言ってやった。二人が知らないなら、俺が教えてやる。
 言い返せるならやってみればいい。

 案の定、二人は言葉を詰まらせる。
 その時遺跡が大きく揺れた。その影響で頭上の方が崩れて落ちてくる。
「――ッ!」
「九龍っ!!」
 今まで何も言わずに俺達の話を聞いていた白岐さんが息を呑むのと同時ぐらいに、俺の身体が動いていた。
 白岐さんが怪我しないように、抱き込むように飛び込んで。
 直撃は免れたと思うけど、利き足に重い痛みが走った。
 勢いのまま倒れこんで白岐さんの無事を確かめてから、皆に気付かれないように逆の足の力で立ち上がる。
「葉佩さん、あなた……」
「白岐さん、大丈夫だった?」
「えぇ……ありがとう」
 多分足の怪我に気付いているであろう彼女の言葉を途中で止めて、甲ちゃんと阿門の方を見た。
 よかった、二人とも何ともないみたいだ。
 強い二人の事だから心配なんて必要なかったのかもしれないけど、何とも無かったって確認してホッとした。
 それにしても、不覚だなぁ。利き足をやっちゃうなんて。
 これじゃあ二人に生きろって言った俺の方がこの遺跡に残る事になりそうかも。

 小さく息を吐いて、二人と視線を交わす。
「甲太郎、阿門、白岐さんを地上まで連れて行ってよ。責任感じてるなら、さ」
「お前が連れて行けばいいだろ?」
 さすがは甲ちゃん、めざといな。
「俺はホラ、この遺跡の秘宝が本当にないのかチェックしてから戻るから」
 あははと笑って誤魔化そうとしてみたものの、甲太郎の視線が痛い。
 阿門は俺の足の事を知ってか知らずか、頼み通り白岐さんに手を貸してるのに。
「……その足でか?」
 甲ちゃんのその一言のせいで、笑顔が消えた。
「なんだ、気付いてたのか。なら説明しなくても解るよね。早く……早く行け」
 足手まといになって全員が脱出できないよりは、三人が確実に地上へ戻れる方がいい。
 危険と隣り合わせのトレジャーハンターになった時から、覚悟なら出来てるし。

 不意に肩を組まれて驚いた。
「ちょ、甲ちゃんッ?俺のことはいいから早くっ――」
「お前がいなくなっても、あいつらは悲しむだろ」
 そう言われて、みんなの顔が頭に浮かぶ。
「……甲ちゃんも?」
 肩を借りながら小さく訊いてみる。
 もう、脱出なんて間に合いそうもない。
 それなら最後に嘘偽り無い本音、聞いてみたくなって。

「仲間だからな」

 たった一言なのに、凄く嬉しくて。
 泣いてしまいたくなるぐらい嬉しくて。
 顔に自然と笑みが浮かんで、もう間に合うはずもないのに何としてでも地上に戻らないとって思った。
 そう思ってるのは、きっとみんな一緒だ。
 だから四人一緒に帰りたい、仲間のところへ。

 今まで特に信じたこともなかった神サマに、初めてそう願ってみる。
 そう簡単に奇跡なんて起こらないことは解ってるけど、願わずにはいられない。
 皆一緒に仲間のところへ帰りたい、と。
 その直後、願いが届いたかのように双子の彼女達が現れて、俺達は不思議な白い光に包まれた。

 俺達は生きる。重い責任を背負って。
 今を。そして、これからを。
 俺達を信じて、帰りを待っていてくれる仲間と共に――。

  

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