(主要人物:葉佩 皆守 夕薙 ジャンル:ギャグ キーワード: - 作品No.5)
最終更新:2005/01/18(Tue) 01:13
寄稿者:大江
輝く円盤からあらわれたそれは皆守にじり寄ってきた。
動こうとするが皆守の足は動かない。鼻をかすめるのはあの臭いだった。
ガラムマサラ、そして混じりあったスパイスはまさにカレー臭。
やっぱりカレー星人は、スパイスのにおいがするのか!
「なにを、やってるんだ葉佩?」
「うん? 見て解らんのか」
「解るもなにも…、なぜ甲太郎の顔にカレールーが乗ってるんだ?」
その日、夕薙は朝から気分が優れなかった。HR前に見切りをつけて、保健室にやってくるとこの光景。理解できるほうがおかしいだろう。
「いたずらだ。なかなかに面白いぞコレ」
そう言うと葉佩は子供っぽい笑みを見せた。手にはカレーの外箱がある。
ベッドに横になっている皆守はうなされている。顔にカレールーをのせたまま、時々「カレー星人」だの「スパイス」などと、うわごとのようにくりかえしていた。
「こいつ、さぞや良い夢みてるんだろうな」
「そうは見えないが……」
むしろ苦しんでいるように見える。そもそもカレー星人って何なんだ? インドの人か? それともアンパンと一緒にカレーを吐き出すアレの国か?
ふむ、となにやら思いついた顔をすると、葉佩は皆守の耳元でなにかをささやいた。
くそっ、俺はアブダクションされるのか。しかもカレー星人に。
……悪くないのかもしれないな。アロマもいらないカレーの王国。
スパイスと食材の踊る夢世界こそが、俺の行くべき場所なのかもしれない。
俺をどこへでも連れて行けカレー星人。だが、おまえの目的は何なんだ?
《フフフ、ワレワレの目的ハ地球から……》
「地球から全てのカレーを奪うことだ」
「言っておくが人の夢というのは、そんなに簡単に操作できないものだぞ葉佩」
「きっちり反応してるんだが?」
耳をすませてみると確かに「認めない」だの、「許すかよ」だのという単語が聞こえてくる。その寝顔を見ながら夕薙は脱力した。
「いろいろな意味で純粋なヤツだな」
「まあ否定は出来んな」
なぜだ、なぜカレー星人は地球からカレーを奪おうとする。
《宇宙のカレー資源を浪費するオマエのような地球人ガ存在するカラダ》
何だと?
《キサマはレトルト、店屋物、自炊トほぼ三食カレーではナイカ。現在、宇宙規模でカレー資源が不足シテイルノダ。カレー星人トシテ見過ごすコトは出来ナイ》
くっ、まさか宇宙はカレー危機に直面しているのか?
《ソウダ、いまや惑星間ノ戦争はカレーに左右サレテイルノダ》
「おい、深刻な顔でうなりはじめたぞ。大丈夫なのか?」
「もちろんだ。それにこれは皆守のためでもある」
世の中にはアレルギーというものがある。少量なら問題なくとも、それを摂取しすぎれば死に至るような、恐ろしい事態をまねくこともある。カレーにアレルギーがあるかは分からないが、そうでなくとも栄養がかたよってしまうことは、体によくない。
「これを機に一度でいい、皆守が自分でカレー中毒を改善してくれればと心配しているだけだ」
「……」
「断じて、食後のカレーとラベンダーの混合臭が嫌だからというわけではない!」
「……君の気持ちは痛いほど判った」
「ああ」
「とりあえず甲太郎の顔のカレールーを取ってやってくれ」
「む、わかった」
《だが、もしオマエがカレーを控エルと誓うナラ、地球からカレーを奪ウコトを止めてもイイ。ドウダ?》
どうする、俺の肩にはカレーの運命がかかっている。
しかし、しかしカレーを食うなというのか、この俺に。
じゃあ聞くが、控えるってのはどれくらいのものなんだ?
葉佩はあごに指をあてて考えた後、こうささやいた。
「週二回は許そう」
シュウニ? 週二回だと?
皆守の腕に力がこもった。怒りの力だ。
そんなものを許せるか。
野菜カレーとシーフードカレーでおしまい、たった二皿。
週二回で満足? できるわけがない。
静かにこぶしを握りしめて、皆守は決意した。
「…れが」
「ん?」
「これが、俺の答えだカレー星人!!」
「うごっ!!?」
皆守の右ストレートは、まるっきり無防備だった葉佩をぶっとばした。助け起こした夕薙が最初に聞いた第一声は「やりすぎた」でもなく、痛みを訴えることでもなかった。
「失敗か……。せめて週四ぐらいにすべきだった」
夕薙がためいきをもらしたのは言うまでもない。
その後、女子寮での宇宙人騒ぎなどがあったが、結局のところ皆守の食生活はカレー中毒のままだったという。