††A MAID MADE IN 冥土†† 浜離宮地獄変

シュガー佐藤with遊太助

 汝、深淵を覗きこむ時、深淵もまた汝を見るのだ。
 ───ニーチェ


 窓からの、春めいた麗らかな陽射しが、ゆったりと居室を暖める。
 外の世界で幾ら時流が移ろうとも、御門晴明の結界たる此処《異世界の浜離宮》は、とこしえに春のまま時を止めている。主たる己が健在である限りは。
「そう言えば、暦の上では、もう年末なのですね…」
 ふと思い出したように御門はひとりごちた。
凶星の者の出現、黄龍之器の伏臥など、さすがの御門も落ち着き払って入られない事態が続いたためか、すっかり失念していた。尤も、決戦の差し迫った今年は、呑気に年を越す暇などないのだろうが。
 十二月 二十四日。
 それが、今日の日付である。きっと、外界の俗人どもは、クリスマスだ何だと乱痴気騒ぎに繰り出しているのだろう。何故、信じてもいない神の為にそこまで昂ぶれるのか、全く以って衆愚というものは理解しがたい。
「まァ、彼等が呑気にそうしていられる世界を護るのも、私の務めですか…」
 口元が、冷笑を象った。
 と、そこへ、
「晴明様、少しよろしいでしょうか」
 襖の向こうからの、無機的な女性の声。御門が最も信を置く忠実なる式、天后・芙蓉である。だが最近は、黄龍之器などに少なからず影響を受けているようで、多少は口答えをするようになってきてはいるが。
「開いていますよ。入りなさい」
「はい」
 音も無く襖が開き、芙蓉が入ってくる。御門は、それを迎え入れようと振り向き───絶句した。
…………芙蓉」
「はい、如何なさいましたか、晴明様」
 芙蓉は、いかにも人間臭く小首を傾げて(以前はしなかった動作だ。高見沢あたりの影響か)尋ね返してくる。御門は、ビシッと指差しながら問うた。
「何ですか、その格好はッ!?」
 格好、ですか? と芙蓉はスカートの裾を持ち上げながら首を捻る。
 そう、今の芙蓉の姿は───

 悪夢の如くレースを多用したフリフリのワンピ。

 上記に同じく、破壊的に少女趣味なエプロン。

 ネクタイ代わりに蝶々結びのリボン。

 頭にはヒラヒラした布のカチューシャと、何の冗談かフカフカの猫の耳。

 ───そいつに触れることは(ある意味)死を意味するッ! これがッ!《ネコミミメイドさん》だッ!!

 妙なナレーションが入ったが、それはさておき、
「何であなたがそんな格好をしているのです、芙蓉!?」
「はい、それが…」
 と、芙蓉が述懐を始める。
「ご主人様が、『御門もパソゲーヲタ…いや、電脳研究会やってるぐらいだから、盆と年末は有明で徹夜組なんだろうなー。けど、今年はそれどころじゃなさそうだし…。そうだ芙蓉、クリスマス・プレゼント代わりにお前がメイドさんのコスプレでもしてやったら、喜ぶかもしれんぞ?』と仰りまして」
「やはり、龍麻さんが糸を引いていましたか…」
 ───というか、あの腐れ黄龍、皇神の電研を何だと思ってるんですかッ。
 御門は、扇子を手が白くなるほどの力を込めて握り締めた。
 芙蓉は言う。
「あの、御気に召しませんでしたか?」
「御気に召したら、人間として大切な何かを喪っています」
「…はァ」
 要領を得ない顔で頷く芙蓉。
「で、それは一体、何処から調達してきた代物なんですか?」
 ───大方、あの如月だか銭亀だかいう骨董屋なのでしょうが…もしそうなら、一ヶ月の営業停止くらいは覚悟して貰いますよ……
 と、心中、とっても黒いことを考えている御門。
「はい、服飾が得意だという壬生様に相談したところ、『え? 《めいどふく》、ですって? それなら丁度、漫画研に頼まれて作ったのが余ってますが…。で、これを何に使うんです? …御門さんに見せる? ははあ、それならこのネコミミも持っていくといいですよ。この回路を組み込めばメイドさんの性能は数倍になるんですからッ! …ははは、お代はいらないですよ。困ったときはお互い様ですから☆』…と申されまして」
 と、芙蓉は答える。何やってんだ、手芸部アサシン。というか、なぜ拳武館に漫画研究会があるのだ。
……まあ、その話は置いておくとして…」
「…」
「芙蓉、とりあえずその服を着替えなさい。目の毒です」
 ぴしゃりと、そう告げる。だが、芙蓉はその柳眉をたゆませて、
「しかし、この着心地……《じゃすとふぃっと》と言いますか何と言いますか…脱ぐのが持ったいのうございます」
 と、爆弾発言をのたまった。
………(芙蓉、私は貴女をそんな風に育てた覚えはありませんよ、とか思ってる御門)」
………(晴明様、何を食い入るように見つめておられるのですか? ひょっとして、見惚れてる? きゃっ☆ とか思ってる芙蓉)」
 二人の思考は、スカイラブに失敗した人工衛星並の速度ですれちがって行った。
「…とにかく、その服を脱ぎなさいッ」
「ああ、ご無体なッ!!」
「どこで覚えたのですか、そんな真似ッ!!」
 そうこう揉み合っているうちに、二人は畳の上をゴロゴロ転がっていた。畳の間にメイドさん、と言う構図はかなりシュールである。
 と、そこへ、
「お〜い、御門。蓬莱寺の旦那達が来たぜッ。……ッ!?」
 ひょっこり顔を出した村雨が絶句する。
「へへへッ、壬生がいなくって面子が割れてんだ。一局打たねェか? ………ッて、おいッ!?」
 続いて部屋に入ってきた京一が目を丸くする。
「どうしたんだい、二人とも。……おや?」
 不思議そうな顔をしながらやってきた、如月は、先の二人とは違って妙に得心のいった顔をする。
……み、みなさん。何で此処に───
 慌てて扇子を口元に運び、いつものポーズを心がけようと腐心する御門。だが、あまり上手くはいっていない。
 三者三様の視線が、御門に突き刺さる。
「マサキには内緒にしとくからよ、程々にするんだぜ…」
 帽子を深く被り直して、乾いた笑みを漏らす村雨。
「悪ィ…俺、そう言う趣味って、理解出来ねェよ……
 拒絶するように腕組し、そっぽを向く京一。
「水臭いな御門。そういうのなら、ウチでも取り扱っていなくもないのに」
 安くしとくよ、と営業スマイルの如月…。

「晴明様、口からエクトプラズムが出てますが?」
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 へんじがない。ただのしかばねのようだ。

□□■■A BAD END!!■■□□

2003/05/30 奪

シュガー佐藤「サーノ様。どうもお久しぶりですm(__)m
 この度は百万hitおめでとうございます(祝)
 お祝いの品と言うには粗末な物ですが(汗)、拙作を贈らせて頂きます。
 でわ、これからもご健勝でッ。」2003/05/23 02:03


サーノ「ありがとーございますッ! いや…可哀想な御門…つーか何にしろ無理矢理脱がしちゃイカンよアンタ。破けるし(何が。)
いやいや芙蓉ちゃんのメイド姿(しかも猫耳)を想像して萌えましたー(笑)」