タケ
「…寺」
「…蓬莱寺」
?んだよ、誰だよ。もうちょっと寝かせろよ…。
しかたがないのでゆっくりまぶたを開ければ、俺の視界に映ったのはいつもどおりの教室…。
ったく授業なんて聞く気しねーっての。
そう思って大あくびをかいたところへ紺色のスカートに白のレース…所謂「メイド服」というやつを着た美里の姿が飛び込んできた。
な、なんでそんなものを教室で!?
そう思って美里の後ろにいるひーちゃんを見た。
「ひ、ひーちゃん!?」
やはり紺色ベースのワンピースに白のレース付きのスカート。その上頭にもレース。
心なしか美里のメイド服より3割り増しくらいのレースがついている。
ごしごしと目をこするが、その姿は変わらない。美里とひーちゃんの周りにいる生徒はみんなメイド服を着ている。
いつから真神の制服は男もメイド服になったんだ!?
「寝ぼけているの?京一」
すぐ後ろから小蒔の声がする。
まさか小蒔まで・・・と後ろを向けばやっぱりメイド服を着用している。しかも緑。
と、一番後ろの席にメイド服を着た醍醐を見つけて気が遠くなる。
お前、醍醐、その顔で、そのガタイで、えんじ色のメイド服はねぇだろう!?
胸元に白いリボンまでつけておいて腕組みするんじゃねぇ!
「…京一?」
いきなり立った俺にひーちゃんが声をかける。
もう一度メイド服のひーちゃんを見る。
…透き通るような色白な肌に、紺色のメイド服。
綺麗ってこういうことを言うのかもしれない。
伸びた前髪から見え隠れするその双眸が今は優しい水のようだ。
赤い唇と赤いリボンが・・
…ってひーちゃんは男だぞ!?
「な、何でみんなメイド服着てるんだ!?!」
俺は今しがた頭を占領していた邪念を払うかのようにがなりたてた。
「そういうお前はどうなんだ、蓬莱寺?」
・・・・俺?
そういわれて胸元を見ると大きなピンク色のリボン。
な、なにぃ!?
ふと袖を見れば真神の制服だと思っていたのに袖から白いレースがはみ出している。
…ってことは…
おそるおそる下を見た自分の目に映ったのは真っ白のスカート。
「なんだこりゃー!!!」
絶叫した俺の頭を誰かが小突く。
「いい加減授業に戻ったらどうだ、蓬莱寺。寝ぼけるのもいい加減にしろ」
寝ぼけてなんかねーよ。寝ぼけてるのはそっちだろ。生臭生物教師!
と思って振り返った俺にリーサルウエポンが襲い掛かった。
「あ、あ、あ・・・・」
俺の指はがたがた震えて犬神を指す。
「なんだ。またレポートくらいたいのか?早く席につけ」
涼しい顔してそんなことを言う犬神がまとっているのもまた、メイド服。
醍醐のメイド服姿も卒倒もんだったが、こちらは凶悪すぎる。
チェックの柄の入った水色のスカートに、白のエプロン。
リボンは赤。
いつもの無精ひげのままで、ふりふりレース!?
「う、う、うそだ・・・」
「何が嘘なんだ?早く席につけといっている。ったく、今日から“正しいご主人様の起こし方理論”に入るんだからしっかり聞いておけ。中間テストにでるぞ」
「い、今授業とか言ってる場合じゃ・・・」
授業?
違う。問題は何の理論だって?
「た、正しい…なんだって?」
「正しいご主人様の起こし方理論、だ」
「な、な、なんでそんなもん教えてるんだ!あんた生物教師だろうが!」
思わず木刀の入った袱紗を握り締める。
「生物?なんだ、それは。それにな、蓬莱寺。俺は実技は教えてねぇ」
生物が何だって・・・??おい、あんた大丈夫か?
ってか実技??
頭が混乱しきった俺の手から犬神がすっと木刀を抜き取る。
「か、かえしやがれ!」
ぶん!と腕を伸ばすがするっとかわされた。
「だから、俺は実技は教えてねぇって言ってるだろ。」
「何の実技だよ、ちくしょう。木刀返しやがれ」
そう言うとクラスないに爆笑が起こる。
「蓬莱寺〜。お前、木刀って…」
「お前がそれを愛してるのはわかってるけど、木刀に見立てるとはなぁ」
方々から声が飛ぶ。
木刀に見立てる?木刀じゃねぇか!
「ったく…ほら、お前の愛用の、「箒」だろ?」
犬神があきれて返してくれたそれは、確かに下のほうが膨らんでいた。
…ま、まさか、だろ?
俺が「箒」を常時携帯しているなんて、嘘だろ?
こわごわと包んでいる布を解くと、出てきたのはリッパな「竹箒」だった。
「――――!!!!!」
俺は声にならない叫び声をあげる。
「おい、蓬莱寺、大丈夫か?」
大丈夫じゃあねぇよ。もう何も言うな。聞かせるな。見せるな・・・。
そう思ってぎゅっと目をつぶった俺を犬神が揺さぶる。
ぜってぇ目あけるもんか。
「ったく、理解が不可能だな、こいつは」
そういうとみんなが笑う。ちくしょう、まともなのは俺なんだ…。
「まぁいい。蓬莱寺が理解不可能なのはいつものことだからな。授業進めるぞ。次の問題は一年の時の範囲からだ。“遺伝の法則”関連では9:3:3:1の時のパターンは覚えておけよ。」
・・・・なんだって?
「遺伝の法則・・・・?」
目を開けて前を向いたらそこにいたのはよれよれの白衣を着た犬神だった。
「なんだ、今起きたのか?」
その言葉がまたクラスの爆笑を買う。しかし、今度教室を見渡せば、みんな女も男も真神の制服を着ている。
…夢?
がたん!と音を立てて立ち上がってしまった。
「あんた…・」
「なんだ?犬神“先生”と呼べ。」
「生物、教師だよな?」
「…何処まで寝ぼければ気がすむんだ?」
犬神が近づいてきながらそう言う。
「いつもどおりの汚い白衣だよな」
「…汚いは余計だ。」
目の前に犬神が立つ。
いつもの通り、ぽこん、と音を立てて丸めた教科書で頭を軽く殴られる。
「…よかった…」
「何が?」
「…よかった…」
「そ、そうか…」
俺は無意識に犬神の白衣の袖を掴んで、まじまじと観察して安堵の息をもらした。
あれは、悪夢だったんだ。
醍醐のメイド服も、俺のメイド服も、俺の愛刀が竹箒だったことも、犬神のメイド姿も、授業内容も全て…・。
でも、ひーちゃんのメイド服姿だけは…・。
そっと胸に秘めておこうと決意した俺だった。
数分間生物教師の白衣を握り締め、ほとんど涙目の蓬莱寺京一が微笑みながら「よかった…・」とつぶやき続けたことは瞬く間に女子生徒の間で広まり、怪しげな読本が密かに作られ、絶大な人気を誇ったという。
「今は龍×京より、犬×京よね〜」という会話が公然と話されているとは幸せな真神五人組は露ほどにも知らない。
仕掛け人が「いい商売だわ」とつぶやきながらお金を数える某新聞部部長だということも、彼らは知らない。
2003/06/09 奪
タケ「キリ番取ってしまいました記念です(笑)
久しぶりに訪れたらみなさんのすばらしい作品が掲載されていてそれらに触発されて。この後で「メイド服セール」に続くと思ってください。
また「何これ?」的な文章ですが…
どうしてもメイド服の犬神が書きたくて。(だって誰も書いても描いてもいなかったし…)別に私はカップリング推奨派ではありませんが(笑)」2003/06/09 00:28
サーノ「あっはっはっは!! 犬神キターーー!!(大爆笑) いや済みません…こう来るとは思いませんでした。さすがタケさん、いいセンスしておられます!」2003/06/10 17:38