食わず嫌い

えびちよ

 平和な昼下がり。
「わははっはあははははははは…!」
 唐突に家に響き渡った奇声に、如月翡翠は手にしていた古伊万里の壷を取り落とすところだった。
「は、はははははははは…!!」
 再び響き渡る爆笑。
 その声の主は彼の良く知る人物であったが、いやそもそも家には今如月自身とその人物しか居ないのだが。
……あーーっはははっはっはははは!!」
 そもそもいつも冷めたような皮肉げな笑い方しかしないはずの相手が何故?
「…ひ、ひすいーー!おーい、翡翠ーー!!」
 呼んでいる。
 もしかして、何か変なものでも食べたのだろうか。いや、しかし昨夜からずっと一緒にいて、当然同じものを食べていたはず。量は倍ほど違ったが。
「く、ははは…!翡翠ってばー!」
 とにかく行くしかない。
 やや蒼ざめながらも、如月は大切な壷を棚に戻し、今だ笑い声の響く部屋に向かった。

「龍巳、一体どうし…?」
 襖を開くと、畳の上に転がっていたのは間違い無く緋勇龍巳だった。
 しかしその様子は尋常では無かった。
 体を二つに折り曲げ、苦しそうに身を捩りつつ、息も絶え絶えといった感じである。目には涙まで浮かべて。
「龍巳!?どうしたんだ、大丈夫か!?」
 慌てて抱き起こすと、視線を上げて如月の顔を見た。
次の瞬間。
……ぶっ、は、はっははははははははっはははははは!!!」
 産まれてこの方18年と幾月。面と向かって顔を見られて爆笑されるという初めての経験に呆然自失する如月。
「あはっ、は、はははははは…!」
 手足をばたつかせて笑い転げる龍巳に、如月がはたと我に返った。
「龍巳!一体何事だい?」
 龍巳は答えず、震える手である方向を指差した。
それは普段あまり使われる事の無いテレビだった。たまにN○Kのドキュメンタリー番組やニュースを映す位の。
 しかし今は妙なアニメ番組が流れている。接続されたデッキが稼動しているところを見るとビデオらしいが……
「この番組がどうかしたのかい?」
「ま、まぁ観てみろ…」
 息切れを起こしつつ龍巳が告げる。
 まさか今流行りの呪いのビデオじゃあるまいな…などとずれた事を考えてしまう如月。(99年当時)
 言われるままにそのアニメを見ていた如月の顔色が徐々に蒼ざめていく。
…………龍巳、これはどうしたんだい?」
 それは数年前にアメリカで大ヒットしたTMNT…ティーンエイジ・ミュータント・ニンジャ・タートルズというアニメだった…。
 そう。ライバルの陰謀によりネズミの姿になってしまった武道家が、同じ薬品で巨大化した(っても人間サイズ)3匹の亀を弟子とし、一人前のニンジャとして育て上げるという…あまりにも素っ頓狂な設定のアニメである。
 画面では、覆面をしたその亀達が怪しい技を使いながら敵と戦っていた。
 ……龍巳が爆笑していた理由・如月の顔を見てさらに爆笑した理由は最早問うまでもない。
「面白いだろ?紅葉が忘れていったんだ」
 ようやく落ち付いたらしい龍巳の言葉に如月は壬生の確信的犯行を知った。
(忘れたはずがあるかーーー!!絶対わざと置いて行ったんだっ!!)
 日々『無』の心境を心がける如月だけに↑の言葉は心の奥底だけで響いて龍巳の耳に入る事は無かった。
「雷人と隼人呼んで一緒に観よ♪ウケるぞー、あいつらなら」
……頼むから止めてくれ…」
 無の心境にヒビが入って氷点下の如月の声など聞く耳持たない龍巳である。
 いそいそと携帯に伸ばしかけた手を慌てて止める。
「何だよ?」
……龍巳。わざとやってるね?」
「解るか?」
 にやり。といつもの笑い方で皮肉に笑われて、如月の中の理性の糸があっさりと切れた。


 その夜。
「…あのさー翡翠…」
「何だい?早く食べないと冷めるよ」
……
 卓袱台の上にはラージサイズのピザ。普段は和食一辺倒の如月家では実に珍しいメニューである。
 これは別に如月が夕食の仕度を手抜きした訳では無い。どころか、ピザ生地を練るところから自分でやったという逆に気合の入った一品である。
 しかし。
「なぁ、翡翠…」
 龍巳の額には冷汗が浮いている。
「どうしたんだ?…あのアニメが随分気に入っていたみたいだから折角同じメニューにしてあげたのに…まさか食べないって言わないだろうね?」
 だからって…何も気合い入れてチョコバナナピザの納豆トッピングなんて作らなくてもいいだろーーーー!?
 龍巳の言葉に出せない絶叫を心の声で聞きつつも、表情には出さない如月。
 その目は完全に据わっていて、いりませんなどと一言でももらしたが最後、飛水流奥義が飛んでくるだろうことは必至。
…………
「あのピンクの団子みたいなスシの方がいいなら今から作るけど?」
「…いらない」
 その夜、緋勇龍巳は生まれて初めて泣きながら「ごめんなさい」と言ったという……

 TMNT…それは勘違いしたアメリカ人スタッフと、血迷った日本側の翻訳のミスマッチングのおかげで愉快な日本食が飛び交う謎のアニメであった…。

終わり

投稿時間:2000/02/10(Thu) 22:11

えび「弐零零零零零接触おめでとうございます!

 てな訳でお祝い…になるのか!?ちゅーか季節がらバレンタインネタとして考えていただけると良いかと。
 どこがバレンタイかって?チョコでてるじゃないっすか♪(おい)
 ちなみにTMNTアニメ見たのってざっと6,7年前なのでちょっとうろ覚え…(^^;)とにかく怪しいアニメだった……でももう1回見たいなぁ。
 レンタルでもあまり見かけないのだが…壬生はどこから入手したのだ?
 ちなみにTMNT実写版のピザは普通だったのですが、アニメはとかく妙なトッピングばかりだったのが印象的でした。

 しかし…甘いものがお嫌いな師匠にはやばいネタだったか…(--;)
ごめんなさい…あぅ(自爆)」


サーノ「いいえワタシは寛大なので、ちょっと想像して気持ち悪くなったってえびには言わないわ!(書いとるやん。)
とりあえず、あの龍巳がバカ笑いしてるトコに3000点(意味不明)。泣きながら謝るところに全部お願いします!(全くもって意味不明)」