<僕と四神>

あかざなぎ

【玄武の場合】

 龍麻は不思議でならなかった。
 ずっと、ずっと不思議だったのだ。
 なので、なんとなく、聞いてみた。
「如月くんって、亀?」
 龍麻の一言により、骨董屋の若旦那は石と化した。
「なんで、亀?」
 いや、なんでと言われましても。
 龍麻に同行していた真神の面々は、それぞれ肩を揺らしている。
 どうやら、笑いの発作を我慢しているようだ。
「水だから?」
 どうやら、属性が水だから亀なのか、と聞いているようだ。
「どうして、くじらとか、アンコウとかじゃダメなの?」
 龍麻の後ろで、我慢できなくなった京一と小蒔が床を叩いて笑っているのが気にならないのだろうか?
 醍醐なんか、堪えすぎて顔色悪くなってるし、葵に至っては意味不明な菩薩笑いだぞ?
「僕、マナティとかかわいくていいと思うの」
 そういう問題ではない。
「た、龍麻……」
 石化のとけた若旦那はうめくように龍麻の名前を呼んだ。
「マナティだめ?じゃあ、ロブスターは?」
 一瞬、ロブスターに如月の顔をはめて想像してしまった京一と小蒔はヒーヒー言いながら笑っている。
 龍麻、如月の手がぷるぷるしているぞ。
「た、龍麻……玄武は、もともと亀とも少しちが……」
「やっぱり、亀がいいの?」
 違うって。
「じゃあ、みどり亀?」
 亀の種類まで気になるのか、龍麻。
「た、龍麻……いただきものの饅頭があるんだが、どうだい?」
「食べるーっ」
 うきゃっ、と喜んで、如月の居住区へ踏み込んでいく龍麻。
 今までの疑問は、饅頭にとって代わられた。
 その程度の問題だったのか……。


【青龍の場合】

 ある日、龍麻はアランに尋ねた。
「アランくん、青龍でしょう?どこに行ったら青龍って見たれるの?動物園?水族館?」
 根本的に、龍麻は間違っていた。
 その龍麻に、アランは。
「オー!青龍は龍デース!ドラゴンデース!OK?」
 いや、いきなり、OK?とか言われても。
 ほら、見ろ。龍麻がわからなくて泣きそうな顔してるぞ。
「うふふっ、アラン君。龍麻を泣かせてはだめよ?」
 菩薩眼光線も出てるし。
「オウ!?葵!?いったいドコから!?」
 ああ、さっきまで、いなかったものな。
 龍麻が首を傾げる。
「うふふっ、龍麻。龍は想像上生き物と言われているから、あまり簡単には見られないのよ?」
 龍麻には、常に、笑顔(しかも極上)なのな。
「YES!ソウデース!龍は見ることはできないデース」
「えー……水族館にいるの違うの?」
 水族館にいる?
 葵とアランは一瞬、考えた。
 水族館にいる龍……って、それは、ひょっとして。
「た、龍麻?それはひょっとして、タツノオトシゴ……」
「Nooooo!!」
 やっぱり、何か間違っている、龍麻であった。


【朱雀の場合】

「マリィちゃーんっ、遊びましょーっ」
 家の前から、龍麻が節をつけて呼びかける。
 いいのか、高校三年生。そんなんで。
「Hi!オ兄チャン!」
 いつものように肩に黒猫メフィストをのせたマリィが飛び出してくる。
「マリィちゃん、おはよー。今日はいい天気だね」
「ウン!マリィ、昨日、てるてる坊主作ッタノ!」
 ほわほわん、とした空気が辺りに漂う。
 今日は二人でヒーローショー(コスモレンジャーの)を見に行くのだ。
「本当に二人で大丈夫?」
 葵が心配気に二人を見つめる。
「平気だよ?僕、お兄ちゃんだもん」
「マリィ、オ兄チャント一緒ダカラ平気!」
 胸を張って平気、という二人だが、葵は心配だった。
(どうしよう……こんなに食べちゃいたいくらいかわいい二人が街の中を歩いていたら悪い人にかどわかされでもしたら……!)
 食べちゃいたいくらいって……。
 しかし、葵のそんな心配事を気にするでもなく、二人は「いってきまーす」と元気に出掛けてしまった。
 もちろん、葵がおとなしく家で待っているわけもなく、尾行開始。
 街中を練り歩く二人に、声をかけてくる怪しげなおじさんを《ジハード》で吹き飛ばしつつ葵は二人に気づかれないように尾行した。(っていうか、目の前で、声をかけてきたおじさんが吹き飛んでも気づかない二人もどうかと思う)
 無事ヒーローショーを観覧した二人が満足げに家に戻ると、先回りした葵が笑顔で出迎えた。
「楽しかったかしら?」
「うん、みんなかっこよかったよ」
「楽シカッタ!」
 ダブルでらぶりー笑顔フラッシュをいただいた葵はよろめいた。
(ああ……幸せ……)
 お手頃な幸せだな。
 で、何が言いたいかというと、だな。
 要するに、龍麻とマリィのツーショットには必ずオプション(菩薩印)がついて来るんだぞ、と……。


【白虎の場合】

「醍醐くん、ふかふか?」
「は?」
 昼食時に尋ねられ、ご飯を運ぶ箸が思わず止まった。
 珍しいことに(本当に珍しいことに)葵は元生徒会長ということで、現会長に呼び出され、京一は犬神先生に捕まり先日さぼった追試を受けさせられ、小蒔は部活の昼練に顔を出しに行ったので、龍麻と醍醐二人でゆっくりと昼食をとっていた。
 そんなとき、龍麻は言った。ふかふか?、と。
「醍醐くんはふかふか?」
 龍麻は繰り返した。
「ふ、ふかふか、とは、なんだ?」
「だから、醍醐くん」
 話にならねぇ。
「俺のどこが、ふかふかだと……」
「びゃっこ……」
 龍麻は首を傾げる。
「白虎?……ああ、白虎のとき、ふかふかということか?」
 こくーり。ゆっくり頷く。
「ふかふか?」
 うーん、と醍醐は唸った。
 虎をふかふかと言っていいのか?
「僕、ふかふかのびゃっこほしー……ぎゅうってするのー」
 うっとりと呟いた龍麻に醍醐は固まる。
(こ、これは、俺や白虎云々というよりも……)
「龍麻、帰りにぬいぐるみ見て帰るか?」
「うんっ!僕ねー、たれぱ○だもいいな……」
 いろいろ思いを巡らせる龍麻に、やれやれ、と呟いて弁当の続きに取り掛かろうとした時、醍醐の肩にぽん、と手が置かれた。
「うふふっ、いいわね、醍醐君。『ぎゅうっ』だなんて……」
 そっと囁かれたその台詞に、醍醐は、今日龍麻と一緒にぬいぐるみを見に行くことが不可能になったのを確信したのだった。

完。

投稿時間 2000/02/18(Fri) 16:35

 なぎさん、有り難うッ! まさか、なぎさんにまでお祝いを戴けるなんて思ってもいませんでした(感涙)。
「いいんでしょうか、こんなんで。なんか、菩薩の暗躍日記みたいになった気が」などと仰ってましたが、龍麻ちゃんが可愛いから全てOKです! ジハード食らっても噴水食らっても(笑)、やっぱ龍麻ちゃん可愛いー!!(絶叫)
…はッ。な、何か殺気が…?(大汗)