ある日常の情景

たかにゃん

「おはよ・・・・」
 爽やかな朝に似つかわしくない程、眠そうに目を擦った緋勇龍麻が教室に入って来る。
「よっ!ひーちゃん。何だか疲れてるな」
「うん、すっっっっっごく疲れた。もう・・翡翠ン家に泊まりに行くと疲れる・・ねむーーーい」
 机に辿り着いた瞬間、そのままばったり、と倒れ伏してしまった龍麻に、蓬莱寺京一がピシッ、と来る。
 其処に美里葵と桜井小蒔が入って来ると、何時ものように龍麻の席にやって来た。
「おはよ」
「おはよう。あら、龍麻。何だか眠そうね」
「・・うん・・」
 半分、眠りかけている龍麻がこくこく、と葵の言葉に頷く。
「翡翠ン所に泊まりに行ったんだけど・・寝かせて貰えなくてさ。も、クタクタ・・」
「たっ、龍麻!?」
「ひーちゃんっ!?」
 三人の動揺に気付きもせずに龍麻が小さな声で言い募る。
「もぅ・・最低。風呂あがってから汗かくような事したくないってのに・・。気が付けば朝だし・・・もぅ、疲れた・・って、どうかしたのか?」
 眠そうな目をこじ開ければ、皆の視線がこっちを向いている。
 ますます怪訝そうに龍麻が見返すと、赤くなった葵と小蒔・・そして目を見開いている京一、教室に入って来て早々に硬直して何も言えなくなった醍醐雄矢の姿があった。
「ひーちゃん・・如月と・・その・・やっちまったのか?」
 その言葉に龍麻がこくこく、と頷く。
「そりゃ、やっぱりやるに決まってるだろ?やらなきゃ、男がすたるからさ」
 女の子なんだけどな・・と言いたげな女性陣の視線にも気づかない龍麻が当たり前の如く、さらっと言い切る。
「翡翠に泊まっていけ・・って言われたけど、着替えもないしさ。とりあえず今から少し寝て・・・それ・・から・・・」
 すーっ、と龍麻の寝息が聞こえると、そのまま授業の開始前だと言うのに眠ってしまう。
 そしてひたすら、龍麻は授業で指された時以外は睡眠を貪っていた。
 昼休みなどは屋上で弁当を食べながら眠っていた程なのだ。
 しかし、皆の不思議は・・どうして眠っているのに先生に当てられて答えがすらすら言えるのだろう、という疑問だった。

 そしてすやすや、と眠りながら歩く龍麻を如月骨董店に送り届けに来た葵と小蒔は、些か疲れている如月翡翠の姿を目にする事になった。
「やぁ、いらっしゃい。悪いね、取り込んでいて。龍麻・・やっぱりずっと眠っていたんだね、その様子だと」
 ひょい、とその細い身体に相応しくない力で龍麻を抱き上げた翡翠が、彼女を静かに次の間に寝かせてやる。
 そして不思議そうに自分を見る二人に苦笑して説明した。
「龍麻には悪い事をしたよ。いざ、風呂上がりとなった瞬間に僕の刺客が襲って来てね。なんやかんやで証拠消滅するのに朝まで掛かってしまった。一睡もしてない筈だし・・」
「じゃ・・ひーちゃんが疲れてる原因って・・」
「汗かいたって・・やっちゃったのは戦闘だったんですね」
 良かった、という気持ちと、それは残念という気持ち半分が入り交じった複雑な顔をした葵と小蒔に、翡翠が『?』マークを浮かべる。
 それを二人が上手く誤魔化した瞬間・・龍麻がうにうに、と目を擦りながら起きてきた。
「ひすいーっ・・・」
「ああ、待って。そっちに行くから」
 おぼつかない足取りで歩く龍麻を受けとめた翡翠がぽんぽん、とその背中を抱いてやる。
 絵になるなぁ、と小蒔と葵が微笑みながら、その光景を見ているのにも気づいてない龍麻がぎゅう、としがみついたまま、気持ちよさそうに目を閉じた。
 その瞬間、玄関が派手に壞され・・京一が入ってくる。
「ひーちゃんっ!無事かっっ!!」
 それに白い目を向けたのは当然、此処の若い店主。
「蓬莱寺くん・・その扉、弁償してくれるんだろうね?・・龍麻?」
 ふらり、と翡翠から離れた龍麻が何も言わずに手を翳す。
「秘拳・・・・黄龍っっっ!!!」
 え・・と振り向いた三人の横を疾風が通り抜けた、と思った瞬間・・京一がふっ飛ばされて行く。
「ひ・・ひーちゃん?」
「龍麻?」
「ひすい・・わるいやつはやっつけたからなっ・・」
 まだ呂律の回っていない龍麻が危ない目つきでガッツポーズを取ると、そのままふっ、と倒れてしまう。
 間一髪受けとめた翡翠が、龍麻は昨日の続きを寝ぼけて夢見ているのだ、と気づいた時には・・もう全てが遅かった。
「ところで京一クン・・無事かしら」
 葵の少し青ざめた声に、慌てて小蒔が恐る恐る壞れたドアから外を覗くと・・・すぐに戻って来て如月家の電話を借りると、迷うことなくある番号を押す。
「あ、高見沢さん?今からそっちに京一を送るから、救急車寄越してくれる?うん・・ひーちゃんの「秘拳・黄龍」を受けちゃって」
 これで良し、と電話を置いた後・・本当にすぐに救急車が来て京一を浚って行く。
 手ぐすね引いて待っている桜ヶ丘病院の院長が、手を回したに違いない。
 その後の京一の地獄など露知らない無邪気な女性陣は、バイバ~イ・・と手を振って京一を見送った。
「じゃ、ボクたち帰るんで、ひーちゃんをお願いします」
「それじゃ」
 二人が爽やかに帰っていくのを見届けた後、立ったまま器用に翡翠に凭れて眠っている龍麻をもう一度次の間に寝かせる。
 そして、滅多に見せない穏やかな顔をして翡翠はずっと龍麻の寝顔を見ていた。

---翌日---

 昨日とは打って変わって、寝不足にも悩まされずに爽やかに登校して来た龍麻が『京一の入院』を聞き・・その原因を鬼道衆のせい、と断言して怒りの矛先を向けたが、誰一人として本当の理由を話そうとしなかった。
 いいや・・話せなかった、というのが正しいだろう。
 勿論、常日頃の行いが行いなので鬼道衆に言い訳出来る筈もない。

 そして・・・京一であるが・・入院先の院長先生の熱烈な看護を受け奇跡的に一日で退院したが、やはり怪我をした理由を龍麻に話す事は無かった・・という事である・・・合掌・・。

投稿時間:2000/02/10(Thu) 02:53

たかにゃん「20万ヒットおめでとうございます(*^^*)
そんなめでたい瞬間に居合わせる事が出来て嬉しく思います(^^)
それで何時もお世話になっている上、某所ではゾウガメにされてしまった事だし、何か御祝いと恩返しを・・と考えて、勇気を出して投稿してみました・・どきどき(^ ^ ;

皆様に比べたら格段に見劣りがしますが、宜しければお納め下さいませ。返品可です(笑)
ちなみに「女主」だったりしますが・・はい(^ ^ ;」


サーノ「たかにゃんトコの龍麻さんは、無意識に色々アレな行動を取るらしくて(笑)、誤解されまくってますよね(^^)。
女のコとしての自覚って、今後も生まれないんですか彼女は…?(笑)ってここで聞くな。」