日常あるいは平穏な日々  ☆女性陣編 1☆

知佳魅 光留

梅雨も明け、太陽がまぶしい夏の始め。
その太陽も西側に傾き始めたPM5:30
美里と小蒔は、池袋のサンシャインシティで買い物をしていた。
「いい水着があってよかったねッ、葵!」
「ええ。小蒔も、気に入った水着かあって良かったわね」
この会話でお分かりになるだろうか。
今度、いつもの真神学園5人組とプールへ行くことになったので、新しい水着を買いに来ていたのだ。


事の発端は、小蒔が京一と緋勇の内緒話を見つけたときだった。
声を掛けたときの京一の慌て様。即座にピンときた。
(京一のバカ、緋勇クンを捕まえてまた変な事言ってるな?)
「へえ~、ふ~ん。男ふたりでプールねェ~」
『男ふたり』を気持ち強調して言ってみる。
図星。京一の顔が見る見る赤くなってきた。
(まァ、ホントの目的はそこじゃないんだろうけどねェ)
最近元気の無い(ように見える)緋勇を気遣っての、京一なりの励まし方なんだろーなァ。
小蒔はそう思いつつ、ふと提案をしてみた。
「そうだッ。どうせ行くなら、みんなで行こうよッ!!」
(みんなだって、京一に負けないぐらい緋勇クンのこと心配してるんだよッ!)
みんなで行けば、きっと緋勇クンも…。
かくして現在に至る、というところであった。


買い物を終えた2人は、池袋駅に向い歩いていた。
「あ、美里に小蒔じゃない。こんなところで何してるの?」
ふいに二人に声がかかる。声のしたほうを振り返ると…。
「あら、藤咲さん」
「藤咲さん!奇遇だねェ、どうしたの?」
そこには夜のオネーサンも真っ青の服を着た藤咲がいた。
「うん、今日はちょっと気晴らしにウィンドウショッピングさ」
とてもウィンドウショッピングするような格好じゃ無いよねェ。
そう思いながらも小蒔は話を続ける。
「で、なんかいいもの見つかったの?」
「欲しい物はあったよ」
「へ~。で、買わなかったの?」
「自分では買わないよ。頭の悪そうな男でも引っ掛けて買わせようと思ってね」
唖然とする2人。そのまま数秒の沈黙が流れる。
「ま、まァ、騙されるほうが悪いよね。ね、葵?」
「え?え、えぇ」
男を敵に回すようなことをさらりと口にしつつ、話は続いた。
「ところで2人とも、このまま新宿に帰るの?」
葵と小蒔は顔を見合わせる。
「えぇ、あんまり遅くなると両親が心配するから…」
「ボクは弟たちが待ってるし」
すると藤咲はため息混じりに言う。
「あんたたち…。とことんマジメなのね。まだ夜にもなってないのにこのまま帰るの?」
「ん~、でもねェ…」
と、小蒔の言葉をさえぎるかのように、独特のトーンの持ち主が三人に声をかけた。
「あ~!美里ちゃんに桜井ちゃんに亜里沙ちゃ~ん!」
「この声…、舞子じゃない!どうしたのよ?こんなところで」
藤咲の言う通り、高見沢がパタパタと手を振り近づいてきた。
「えへっ、舞子ねぇ~今日はぁ~お買い物しにきたの~」
「そうなんだァ。ボクたちも今日、ここに買い物に来たんだ」
高見沢はいつものナース姿とは違い(当然かもしれないが)、サイズの小さいTシャツ、いわゆるチビTとジーパンという動きやすそうなスタイルで、洋服店の袋を抱きかかえていた。
「そうだったんだぁ~、えへっ、奇遇だねっ!」
「えぇ、そうね。残念だわ。会うのがもう少し早かったら、一緒に買い物できたのに」
美里の返事に、高見沢が手を上げる。
「じゃ~、今度ぉ~、みんなで買い物にいこうねっ」
「そうだね!いいかもしれないねッ!」
「もちろん、私も一緒にいくわよ?」
「うふふ、楽しみね」
話が盛り上がっていき、4人とも楽しそうに喋っていた。
「ねぇ、このままこれで終わりなんてのもアレだし、そこら辺でお茶でもしていかない?」
藤咲の提案に、一番最初に食いついたのは高見沢だった。
「さんせ~い!みんなでゆっくりしていこ~よぉ。ね?」
「そうね。ちょっとぐらいだったら…」
「うん、そうだね!それにちょっとくたびれたから、どっかに座りたかったんだァ」
「じゃ、決まりね。私いいお店知ってるから、そこに行きましょ」
そういうと、藤咲を先頭に4人は歩き始めた。
と、ここまではよくある話。
しかしここは天下の池袋である。
しかも揃いもそろって、4人とも美人の部類に入る。
ココの男どもが黙ってみているはずが無い。
案の定、いかにもな男達が近寄ってきた。
「こんばんは。みんな揃ってどこに行くの?」
「もう帰っちゃうの?」
「まだ明るいし、もう少し遊べるよ?」
ここでの四人の反応は…
(どうしよう、困ったわ…。知らない人たちなのになんでこんなに親しく話しかけてくるのかしら…)
(…これってナンパってやつなのかなァ?多分そうだよねェ)
(この人たちぃ~、悪い人たちなのかなぁ~?後ろに寂しそうにしてる幽霊さんがいるぅ~)
(来た来た、典型的なカモね。ふふふっ、さ~て、どうしてやろうかねぇ)
四人四様、それぞれもっともなことを考えていた。(高見沢は抜きとして)
藤咲は、私の出番と言わんばかりにスッと前に出て、男三人組に話し始めた。
「ん~、どうしようかなぁって考えていたところなんです」
(…!喋り方が変わってるよ?藤咲さん)
小蒔の驚きももっともである。
いつもの高飛車な態度は何処へやら。完全におとなしそうな雰囲気の声をかもし出していた。
始めてみる人にとっては、『ちょっと背伸びをしたカワイイ系の女の子』にしか見えない。
「そうなんだ。じゃ、俺らと一緒にどっかメシでも食いに行かない?」
「う~ん。いいけどぉ、友達も一緒なんだけどなぁ?」(←注:藤咲です)
「いいぜ、俺らがバッチリみんなにおごってやるよ!」
男達はニヤニヤしながら藤咲の言葉に応じる。
小蒔は藤咲に近づき、小声で話し掛けた。
(ちょっと藤咲さん!そんなこと言っていいの?この人たち、絶対ナンパしてるよッ)
(分かってるわよ?)
(じゃァ、何で…)
(まぁ、任せといて。こういう馬鹿なヤツらの扱い方、教えてあげる)
そういうと、藤咲は男達のそばまで歩み寄った。
「私達ぃ、お昼抜いちゃったからおなかすいてたんだぁ」(←注:しつこいようですが藤咲です)
「よっしゃ、俺達に任せときな。いいところへ連れてってやるよ」
「ホントー?わぁ、うれしー!」(←注:最後ですがこれは藤咲です)
男達と話をしながら、藤咲は3人にウインクをする。
(大丈夫、いいからついてきなよ。私に任せて)
こそっと小蒔に耳打ちすると、男達についてってしまう藤咲。
困惑顔の美里と、唖然としている小蒔と、きょとんとしていた高見沢は、慌てて藤咲たちの後を追いかけていった。


かくして、藤咲・高見沢・美里・小蒔の4人は、どこぞの男ども3人に連れられて、夕食をおごってもらうことになった。
歩いている最中、藤咲が小蒔ら3人に「私の言うことに相槌打っていればいいわよ」と言われたので、とにかくかえってくる言葉を適当にあしらいつつ、初めての体験をすごしていた。
そして、陽も完全に落ちた8時ごろ、事件が起こる。


「ねェ、この人たち、ドコに連れてってくれるのかなァ?」
小蒔は小声で不安そうに藤咲へ問い掛ける。
「さぁ?あからさまに怪しいところってワケでもないみたいだけどね」
藤咲はこともなげに答える。
「たのし~所だったらいいね~」
今の状況も何処吹く風、高見沢はニコニコしながら話している。
「でも…、なんかここってあまり好きになれそうも無いわ」
おどおど、と言う表現が一番しっくりきそうな感じの美里。
しかし、それもうなずける。
何故かと言うと、4人+3人のいる場所にある。
池袋のサンシャイン通りからかなり外れた裏路地。
通りの賑わいが嘘のように、人はおろか子猫一匹いそうもないぐらい静かで暗いところへ、流れ的に連れられてきてしまったのである。
「ボク的にはじゅーぶん怪しいと思うんだけどなァ」
小蒔がボソリと言う。無理も無い。どう考えたって雰囲気的におかしいのである。
「なんて言うか…、今まで戦ってきた雰囲気に似てるような…」
美里も小蒔に賛同する。
藤咲もそう思い始めたのか、男どもに声を掛ける。
「ねぇ、オニーサン達ぃ」
そう声を掛けたとき、4人は男どもの異変に気がついた。
「…時は来たれり…」
「………は?」
「或る御方の命により、貴様等の命を貰い受ける」
そういうや否や、男どもから異様な<氣>が発せられた。
「な、何?この人たち…!」
小蒔が身構える。
「この<力>…、まさか…!」
美里が驚愕で口に手を覆う。
「やっぱ~、悪い人たちだったのねぇ」
高見沢が気持ち怒った感じで小蒔と同じく身構えていた。
「質は全く違うけど、間違いないね」
藤咲はバックから鞭を取り出してすでに戦闘体制に入っている。
「唐栖クンたちと同じ…<力>を持った人たちだッ!」
小蒔が叫ぶ。4人がそれぞれ隣を守るように並び、男達に対峙したのと同時だった。


バシィィィィィィッ!

「がはっ…!」
藤咲の鞭が男の一人を捕らる。男は苦悶の声を上げてその場に崩れ去った。
「小蒔、大丈夫?!」
「うんッ、何とかねッ!」
しかし武器を持ち合わせてなかった小蒔は、美里と高見沢を守ることで精一杯の状態だった。
「くっそー、弓さえあれば何とかなるのに…」
そうぼやく余裕も無く、他の男達の攻撃をかろうじていなす。
「…!小蒔、あれ!」
守られるようにしていた美里が何かに気づく。
「葵、どうしたの?」
小蒔は敵を見据えたまま小蒔の返答を待つ。
「藤咲さんが倒した人の所に…弓があるわよ!」
「えッ?!」
小蒔は反射的にそちらのほうを見る。
確かに、男の傍らに弓と数本の矢が転がっていた。
隠し持っていた、としては少々不自然だが、今はそんなことを考えている暇は無い。
「何とかしてあれさえ手に入れば…」
藤咲はもう一人の男と戦闘中。最後の一人は今目の前にいる。
こんな時、どうすれば…。
「え~い!」
突如、高見沢が何かを投げつけた。それは男へ見事に命中する。

ガシャーン!

「ちょ、高見沢サン!何投げたの?!」
「ん~?クロロホルムだよ~」
「え?…それって嗅ぐと眠くなるっていう…あれ?」
何でそんなものを持ってるのか、と言ったことはともかく、結構効いているようだ。
男の動きが鈍くなってきている。
「…今だ!」
小蒔は思いっきり男に体当たりをする。
男がよろめいた瞬間、素早く弓を拾いに行く。
弓を手に取り、矢をつがえて引き絞った。
「えいッ」

ヒュンッ!

矢は迷い無く、男の肩に突き刺さった。
「ガッ!」
男はその場にひざまづいた。
「藤咲サンッ!」
「あたしは大丈夫よ!」
そういう藤咲は肩で息をしてるが、何とか持ちこたえそうだった。
「高見沢サンッ!藤咲サンについていてあげて!」
「はぁい!」
高見沢は足早に藤咲の元へ移動する。
と、その時。
「ガァァァァァァァァッ!」
小蒔の攻撃を受けた男が、美里へ攻撃を仕掛けようとしていた。
「葵ッ!」
小蒔は美里を助けに走った。
そしてちょうど小蒔と美里が男を挟むような形になった時…。

ヒィィィィィィィィィィン………

小蒔と美里の体が光に包まれ、その光が男を取り囲むように円形を描き始めた。
「これは…!」
美里が驚きの声をあげる。
力がみなぎるような感覚。体の底から何かが呼びかける。
「葵…!この力…、いけるよッ!」
「ええ!」
「いっくよー、葵!」
「ええ、頼りにしてるわ、小蒔!」

…ィィィィィィィィィン!

美里と小蒔の光が強まり、それと同時に男を取り囲んだ光も強さを増した!
「「やぁぁぁぁぁっ!!」」

ゴゥンンンンッ!!

「ガァァァァァァ!」
男はまばゆい光に包まれ、断末魔の声をあげる。
それは、藤咲がもう一方の男を鞭の餌食にしたのと同時だった。


「この人たち…、普通の人…っぽいよね」
「ええ、まるで誰かに操られていたような…」
戦いが終わり、4人は路地に倒れている男達を見やっていた。
「操られていたって、もしかして…」
藤咲が美里に問い掛ける。
「…まさかとは思うけど…、まさか、鬼道衆…」
美里はしゃがみこみ、男達の手当てをしながら答えた。
「…そうね、可能性は否定できないわ」
「そうだよね。普通の人がこんな<力>を簡単に出せる理由、無いもんね」
小蒔は美里を手伝いながら相槌を打った。
「でも~、この人たちも~、操られちゃう原因があるとおもうな~」
高見沢も、どこから取り出したのか、薬を男達に塗りたくっていた。
残る藤咲は…、それを見ているだけにとどまっていた。
「…ちょっと、3人とも。そんなヤツらの手当てなんてしてやんなくていいわよ」
「え?…でも…」
「いいのよ。どーせこいつら、操られていようがいまいが、あそこでナンパしようとしてたヤツらなんだから」
まだくたばっている男どもを突っつきながら、藤咲は言葉を続けた。
「だって、こいつら見覚えあるもん。確か2週間ぐらい前にもあそこのあたり、うろついてなかったかしら」
「…藤咲サン」
「何?」
「何でそんなこと知ってるの?」
「だってあたし、毎週こっちに出てきてるもん」
「………」
あっけらかんと言われ、続く言葉が出てこない小蒔。
「とりあえず、ここは離れたほうがいいと思うわよ?」
そんな小蒔をくすっと笑い、藤咲が立ち上がった。
「下手して警察に見つかったら厄介でしょ?」
「それもそうね…」
一通り男どもの回復を終わらせた美里が賛同する。
「じゃ、とっととここから離れよッ」
小蒔がそう言うと、4人は揃って走りながらその場を離れていった。


余談だが、その後、藤咲は美里と小蒔を逆ナンに誘ったようなのだが、丁寧にお断りをしたことを付け加えておこう。

2000/08/01 奪

 うむ! 正しいぞ藤咲!(笑)
出だしが妙に恥ずかしかったり照れくさかったりしました。昔懐かしの第八話…(懐かしんでどーするよ)
女のコな上バトるか…どうしてもワタシを倒したいらしいな、知佳魅め(笑)。キミの心はひしひしと受け取りました、ありがとう!!