白面猿猴の場合

如月えみり

それは、白面猿猴
(白面猿猴:歌って踊る猿で、伯邑考が紂王に献上した鎖国異宝のひとつ。相手を魅了する)

……白面…猿猴……
………………………
互いの間に沈黙が流れる。
(な、ななななんでこんなもんが出て来るんだよォッ!もっと他になんかあっただろうになんでこんなのが出てくんだ!?…ひ、ひーちゃん違うんだ!誤解しないでくれェ!)
(これって確か魅了アイテムだったよな?京一ってばこれ渡してどうするつもりだったんだろう?
…はッ!オレってば友達少ないからこれで友達作れってこと!?うわーん。京一、プレゼントはすっごく嬉しいんだけど、なんだか悲しいよ〜)

「ひ、ひーちゃん、これはだな…その……そ、そうそう!たまには敵にこういうものを使ってみるのも良いんじゃないかって思ってよッ!」
………………………
「ひ、ひーちゃん?」
京一の言い訳じみたセリフにも、まったく反応しない龍麻に対して言いしれぬ不安を感じた京一は、おそるおそる様子をうかがった。
いつも前髪で隠れている意思の強い瞳がある一点を見つめたまま、微動だにしない。

その視線の先では、猿が踊っていた。

(げッ!いつの間にか動いてる!な、なんでだ!?オレ使った覚えねェぞ!?…で、でも…ってことはひーちゃんが魅了される?オ、オレに?……………な、何考えてるんだオレはッ)
(うわ〜猿が踊ってる〜。しかも歌まで歌ってるよ。芸達者だな〜。日光猿軍団も真っ青ってか?ってことは京一ってば猿回しの人?いつもより余計に多く回っておりま〜す…ってそれちゃうやん!……ってあれ…………なんかすごく気になってきちゃった………

とりあえず本能を理性で押さえつけながら、なんとか魅了状態を回復させようと、京一はいままで取得したモノの中からアイテムを探し出した。
………京一」
そちらに気を取られてた所為であろうか。呼びかけられ顔を上げると龍麻の顔がすぐ間近にあった。
(い、いつの間にそこに……?)
「ひ、ひーちゃん……?」
……………………
…………へ?」
何かつぶやいたが聞き取れなかったので聞き返す。と龍麻は先ほどより比較的大きな声で言った。

「猿を…渡せ…」

そう。龍麻は猿に魅了されてしまったのだ。

あまりのことに京一は思わず猿を抱え込んでしまう。
「邪魔を…するのか…?」
その動作を否定の意と取ったのだろうか。そうつぶやくと手甲を取りだし装備する。どうやら京一を敵とみなしてしまったらしい。
龍麻の<<気>>が急速に練り上げられていく。
そして。
「ちょッ…ひーちゃん、止め……ッ」

練り上げられた<<気>>が、京一に向かって放たれた。

数十分後、旧校舎に降りていったきり戻らない2人を心配して探しに来た仲間達はの見た光景は。
体中焼け焦げて(おそらく巫炎のせいであろう)気絶している京一と、そのそばで無表情に(でも心の中では嬉々として)猿を抱いている龍麻の姿であった。

終わり。

12/07/1999 Release.