Birthday Present<アナザーバージョン>

サーノ

 使った皿を洗っていたら、インタフォンがぴろーんと鳴った。
忘れ物でもしたのか? と一瞬思ったけど、アイツだったらこんなもん使わないで直接ドアまで来るもんな。
……はい。」
 急いで受話スイッチを押したら、聞き慣れた声が、聞き慣れない口調で話し出した。
『…あ…あのよ…。その…』
どうした? コイツが口ごもるなんて、よっぽど重要な話か、言いづらいこと? …はッ、もしかして今日のメシ不味かった!? 珍しく残してたもんな! ご、ごめんオレ気付かなくて…でもそのくらい、面と向かって言ってくれてもいいのに。つーか言ってくれれば作り直して…
『な、なんか改めてってのもアレだしよ、渡しにくかったつーか…あの、だから…ゆ、郵便受けに入れとくから! 後で…あ、明日でも構わねェから、取ってってくれよ、じゃあな!!』
……………待て、…」
ぷつん、と一方的に切れた通話に、呼びかけた名前を飲み込む。クソッ、また間に合わなかった。
とにかく一階だ。郵便受け…何だ? いったい…

 急げばまだ追いつくかもと思って、慌てて降りてきてみたが、もう姿はない。外に出て辺りを見渡しても、とっくに立ち去った後のようだった。
何だろう、渡しにくかったものって…
こんな歯切れの悪いアイツは初めてで、何だか不安になりつつ、そっと郵便受けを開けてみる。
…そういや、アイツにここのフタの解除番号まで教えたっけか?

 そこには、小さな箱があった。
薄いストライプの包み紙に、リボンが付いたそれは、少し潰れて縦長になっている。多分、無理矢理郵便物入れから突っ込んだからだろう。
 …これ。もしかして…
もしかしなくても、…プレゼント…だよな。
でも…何で?
だって、もうちゃんと朝、「おめっとさん」って言ってくれたじゃないか。
ラーメン屋で乾杯してくれたじゃないか。
それ以上、何も。何も…
 …心臓が、何だかズキズキする。

 手に取ってみた。
くしゃっと潰れた小さな箱。
包み紙にはたくさんの折り目、リボンもよれたり折れたりしてるけど、これは今ついたものじゃないようだ。
あちこち、変なふうに止めてあるセロテープには、指紋がべたべたついてる。
背中を丸めて、「げッ、紙足んねェじゃねーか!」とか言いながら、勝手に張り付くセロテープと悪戦苦闘しながら、これを包んでる姿が目に浮かぶ。
 …ぶきっちょなんだよな。足でシャーペン拾ったり、ヘンなことは器用なクセにな。
たまには手伝うとか言って剥いてくれたジャガイモなんか、サイズ3分の1になってたし。一個剥くのに指先三カ所も切ったし。エプロン似合わないし。こらえ性なくて一個で飽きたし…

 …バカだなあ、お前。
こんなことまでしてくれなくてもオレ、これからも一生懸命みんなを護るのに。闘うのに。ご飯だって作るし何泊泊まったって文句なんか言わないのに。
だってオレ…好きでやってんだもん。
 なのに、何でこんな。
お前らしくないやん、こんな…こんな、……

 …ホント…バカだ。
どうしたらいいんだか、全然解らない。
嬉しいのに。どうしよう。苦しい。
 何でだろ。
嬉しくて、もう心臓が張り裂けそうだ。苦しい。泣ければ泣きたい。
なんでこんなに辛いんだろう?
 …言えないからか。ちゃんと伝えられないからか。
こんなに嬉しくて、もう嬉しいんだか悲しいんだか解らなくなるくらい幸せなんだって、これだけで「生まれてきて良かった」って思ってるって、オレお前のためなら死んでもいいと思ったくらい感動したって、笑って、ホントにありがとうって、このお礼は何でもするから、何でも言ってくれって…
 伝えたいのに…。

 …伝えたい。

…伝えよう。

 頑張れば…オレだって、1時間くらいかければ全部言えるかも知れない。「すごく嬉しい」って、こんな顔じゃ通じないかも知れないけど、それでもいいから「すごく嬉しかった」って言おう。
お礼にどんなことでもするからって言おう。そうしたら解ってもらえるかも知れない。いやきっと解ってくれる、京一なら。

 早く台詞の練習をしようと思いながら、その箱を大事に両手で捧げ持ったまま、オレは部屋へと引き上げた。
早く開けたいな。中味なんだろ。でも開けるの勿体ない気もするよな、なんて考えながら、エレベータの中でもずっとそれを見ていた。
なんだか顔が引きつる感じがしたので、もしかしたらオレ、ちょっと笑ってたかも知れない。
…へへへッ。…んなワケないか。

 いつか、きっと。
笑ってありがとうって言えるように。
今日も練習しよう。頑張ろう。
トモダチの気持ちに、ちゃんとすぐ応えられるようになるまで、これからも頑張ろう…。

みんなありがとう…

続く。…かな

2000/06/19 Release.