Happy Birthday!!

うろこ

はっ、はっ、はっ・・・
息を弾ませ、金髪の少女が、家路をいそいでいる。頭には、必死でしがみついている、黒い子猫がいた。
いつもなら、”トモダチ”と一緒に、喋ったり、ふざけたりしながら、帰る道のり。
今日は、少しでも早くかえらなくっちゃ。

ばんっ!と勢い良く、自分の家の扉を開いて。

「タダイマ!ママっ!」
「あら、マリィ、お帰りなさい。どうしたの?」
「ママッ!マリィ、キッチン使うねっ!」

肩に乗った黒猫のメフィストも落ちそうな勢いで帰ってきたマリィは、そんな事を言い出した。

「あら?また作るの?最近、多いわね・・・・・」
「ウンっ!今日が本番ナノッ!」

(ああ、その為に、毎日練習していたのね・・・)

まるで自分の事のように、うきうきとした瞳で話すマリィを見て、納得する。

「マリィ、一人で大丈夫?」
「Don’t Warry!ちゃんと、一人で出来るよっ!」
「火の元には気をつけるのよ?お母さんは、待ってるわ。」
「ハーイ!」

───私の事を、怒鳴ったりしないで、やさしくしてくれるママ。

姉の葵とおそろいのエプロンをつけて、レシピを片手にマリィは台所へと向かう。

「メフィスト、邪魔しちゃダメだヨ?」
「にゃーん」

小麦粉、卵、砂糖、バター、牛乳・・・・
材料をそろえ、正確にグラムを測っていく。
粉をふるって、卵をあわ立てて・・・・

「アッ、メフィスト!卵が落っつこちチャウヨ!!」
「えーっと、次は砂糖ダッケ?」
「アッ、まぜ過ぎチャッタ!」

ドタバタと、キッチンは絶えず騒がしい・・・
でも、マリィはとても楽しそうである。

「アッ!パパ、お帰りなさい!」
「マリィ〜〜ただいまあ〜〜〜〜ほーら、お土産だぞう!」
「ごめんね、パパ。今マリィ、イソガシいのっ!」
「マリィ〜〜〜、2日ぶりなのに・・・。」
「あら、あなた、お帰りなさい。出張お疲れ様。今ね、マリィは忙しいんですよ。居間で、待っていてくださいね。」

───すっごくかわいがってくれる、パパ。

「ただいま、お母さん。あら、お父さんもお帰りなさい。」
「葵オネエちゃん!お帰りなさい!」
「マリィ、頑張ってるわね。もうすぐ出来るかしら?」
「もうチョット!マリィ、一人でやるからねっ!」
「そう?頑張ってね。」

───やさしい、ダイスキな、葵オネエちゃん。

生地を型に流し込んで。オーブンにいれる。

「大丈夫?火傷しないでね?」
「ママ、大丈夫だヨ!」

その間に、生クリームを泡立てて。
イチゴを綺麗にあらって。
そうするうちに、スポンジが焼きあがる。

「まあ、ちょうど良い焼きかげん!マリィ、上手だわ!」
「エヘヘッ、ありがとう!葵オネエちゃん!」

デコレーションをして。最後に、メッセージを書いて。

「マリィ。ケーキを作ってくれたのかい?お父さんは、嬉しいなあ・・・・」
「パパ!いじっちゃダメっ!」
「マ、マリィ〜〜(泣)」
「お父さんったら。」

きちんと箱に入れて。リボンをかけて。

「イッテキマス!」
「あ、私も一緒に行くわ。もう、外も暗いしね。」
「ウンッ!葵オネエちゃん、一緒に行こう!!」
「じゃあ、行ってきますね。」
「マリィ〜〜、葵〜〜、お父さんと会うの、久しぶりなんだぞう・・・・・」
「あなた。すねないでくださいな。しょうがないですよ、今日は・・・・・」

肌寒い、夕暮れの道のりを、葵と手をつなぎながら歩く。
本当は、走っていって、速く手渡したい。

───ミンナやさしくって、ダイスキ。キョウイチオニイチャンも、ダイゴオニイチャンも、小蒔オネエちゃんも、ミンナミンナ・・・
───ダイスキなオニイチャン。
───マリィがさみしくって、悲しくって、メフィストしかいなかった時。手を差し伸べてくれた、お兄ちゃんに・・・
───マリィの大切な人だから、オニイチャンにも、笑っていて欲しいから・・・・

ありったけの、ありがとうと、ダイスキの気持ちをこめて。

ワンルームマンションのドアの前に立って、チャイムを鳴らす。

「龍麻オニイチャン!!HAPPY BRITHDAY!!!」

12/07/1999 Release.