ごー・ごー・たつま!

あんそむにぃ

あまり知られてないことだが、緋勇龍麻は、野球大好き人間だった。

「かっとばせー!じょーじまーぁ!!」
隣では、親友の京一が、ダイエーカラーのメガホンを振り回して、まわりの私設応援団のおっさんに負けじと、大声で応援している。その向こうには、やはり立ち上がって応援中の小蒔。
その向こうにでは、控えめな応援の醍醐。反対の隣には、葵が微笑みながら見ている。龍麻は今、幸せの絶頂だった。
(トッ、トモダチと・・・野球観戦ッ!しかもドームぅ〜〜!ああ、幸せ・・・。幾度も夢に見た光景が今、ココにっ!!うれしいよ〜、ひ〜〜ん)
そう、龍麻は福岡ドーム外野席にて、真神の仲間とダイエー戦を観戦中だった。
「ひーちゃんっ!ほら、ぼーーっと見てねえで、応援、応援!おっ!!城島っ!ヒットだああああっ!!」
京一に急かされ、龍麻もメガホンを握る。

試合は今や、終盤9回。ダイエーが、3点差を追いかける試合となっている。ここでホームランが出れば、サヨナラという美味しい場面。二死満塁の場面で登場するバッターは
「4番・王貞治」
なぜか監督の王さんが、バッターボックスに入る。背番号は、勿論1番。応援団もしぜんに盛り上がる。
「いっけぇ〜王!ホームランだあああっ!!」
(まさか、王選手の勇姿が見れるなんてっ!あの一本足打法が今ココに!!)
顔には出さないが、龍麻の興奮もピークに達する。カウントはツースリー。もう後が無い王選手。マウンドのピッチャーの手から、ボールが放たれ・・・・

カッキーーーーン!!

見事、ジャストミートしたボールは、ぐんぐんと伸びた。
「やったーーー!!サヨナラホームランだああああっ!!」
まわりの歓声を聞きながら、龍麻はダイアモンドをゆっくりとまわる、王監督の姿を見つめた。
(さすが、世界の王!ここ一番で魅せてくれるぜ!)
と、心の中でビシッと親指を立てた。・・・が、
「ひーちゃんっ!あぶねえっ!!」
京一の声に、顔を上げた龍麻の顔前に、ホームランボールがせまっていた。ボーイ・ミーツ・ア・ボール?ひそかにボケると同時に

ゴンッ!!!!!


その鈍い音は、教室中に響いた。かなりの大きな音で、よほどのことでも目が覚めない京一をも、居眠りの淵から呼び覚ます。
「んあ?」
音源を捜し、後ろを振り返った京一の目に、机に突っ伏した龍麻の姿が映った。ピクリとも動かないその姿に、不安が広がる。
「お、おい、ひーちゃん?どーしたんだよ?ひーちゃん?!」
肩に手を置き、揺すってみるが反応がない。
5時間目の古文の時間。ただでさえ心地よい秋風に、満腹で居眠りに絶好の時間・聞くだけで眠りにいざなわれる古文。だが、授業中に居眠りなど絶対と言っていいほど無い龍麻が、昨夜「パワ○○プロ野球」というゲームソフトにのめり込んだせいで睡眠不足に陥り、午前中はなんとか耐えたが、この時間につい、居眠りをしてしまっても、誰が責められよう?実際のところ、あからさまに居眠りしてマスという京一と違い、龍麻のそれは、きちんと姿勢を伸ばし、腕を軽く教科書の上に置き、ノートを取るが如くシャーペンを握り、やや俯き加減でスースーと眠る姿は、まるでスリーピング・ビューティー。誰も彼が眠っているなどと思わない。今だって、貧血かなにかで倒れたのだとおもっている。勿論さっきのドーム観戦は、龍麻の見ていた夢である。
「せんせー、緋勇を保健室に連れて行ってきマス。」
さっさと席を立ち、龍麻の肩を支えながら、京一は古文の教師の返事も待たずに出て行った。

「大丈夫か、ひーちゃん?」
心配そうに問い掛ける京一に、うっすらと意識が戻っていた龍麻は、心配ないというように頷く。
(どうして・・・どうしてそうやって、一人で無理をしちまうんだよッ!俺じゃあ頼りにならねえのか?!)
激しく勘違いをしている京一は、唇を噛んだ。

保健室のベッドに龍麻を寝かせると、再び眠った龍麻の側にイスを置き、じっと寝顔を見つめる。ちょっと顔色が悪い。ただの貧血ならいいんだが・・・。なにか病気なのだろうか?もしこのまま龍麻が・・・?!嫌な考えばかり浮かぶ。それを振り払うように、頭をふる京一。と、龍麻の唇が微かに動いているのに気付いた。寝言・・・?気になって、顔を近づけるが、その顔が一瞬でこわばった。
「・・・・・きょう・・・・いい・・・」
(きょ・・・京一、イイ・・・?!なッ・・・なにを言ってるんだ、ひーちゃん!!!!)
「・・・・もっと・・・・・・」
(もっとして?!ひ、ひひひひ・・・ひーちゃんッ?!)
思わず立ち上がったため、イスがガタンッと音を立てて倒れる。しかし、京一はそれどころではなかった。
(まさかまさかまさか・・・俺と・・・ひーちゃんが・・・・そんなコトを夢の中で?!・・・俺とひーちゃんが?!)
ぐるぐると、京一の頭の中を妄想が駆け回る。
「う・・・うわあああああああああッ!!!!!」
煩悩多き青年は、雄たけびを上げて駆け出していった。
言っておくが、それは全て京一の妄想であり、実際は激しく違っていた。保健室のベッドに、半ば倒れこんだ龍麻。意識がすぐに無くなり、いつの間にかさっきの幸せなドリームの続きへと、飛んでいた。


「!!」
はっとした龍麻の手が、ぶつかる直前のボールを、見事キャッチした。
「やるじゃねえか、ひーちゃん!」
隣の京一が、感心したように声をかける。それに龍麻は、満面の笑みで答えた。試合も終っており、ダイエーの勝利ゲームの際にあがる花火が、空に輝いた。
(トモダチと野球観戦・王さんの勇姿・ホームランボールも入手したし、花火も見れるなんて・・・もう俺は、いつ死んでも後悔しないぜ!)
花火とおなじくらい輝いている、龍麻の心。と、誰かが、ポンと肩を叩いた。振り返ると・・・王貞治その人!
「君が私のホームランボールを取ってくれたんだね?」
にっこりと王スマイルを見せる。
「・・・はい。」
感激のあまり、いつもより口が重い。が、王選手は、龍麻が差し出したボールに、サラサラとサインをした。
(う・うおおおッ!王さんが、王さんが、俺の目の前でサッ、サインをしている・・・?!)
「はい。大事にしてくれるね?」
サインボールを受け取り、龍麻はコクコクと頷いた。
(やはり、この感激はきちんと伝えなければ・・・!)
「・・・今日は・・・いい、試合でした・・・」
(い、言えた〜〜!よっし、もう一押し!)
「・・・もっと・・・ホームラン記録を・・・伸ばして欲しい・・・」
必死につむいだ言葉に、王選手も強く頷き、握手を求めてきた。がっちりと握手を交わす二人。
(うわあああああ!夢のようだああああ!感激〜!!)
夢だよ、龍麻。

というわけで、京一は龍麻の
「今日はいい試合でした」
「もっとホームラン記録を伸ばして欲しい」
の台詞のほんの一部分を聞いたのみだったのだ。夢のなかでは喋れても、現実世界では、たとえ寝言でも言葉が上手く出ない龍麻が、巻き起こした悲劇というべきか。

結局、放課後まで爆睡したおかげで、すっきりとした目覚めの龍麻。足取りも軽く(あくまで本人がそう思っているだけ。他の人から見れば、普段どおり。)教室に戻る。
(う〜ふ〜ふ〜、いい夢見たな〜。きっと昨夜のソフトで、ダイエーを選んだからだな!よし、今日はどこにしようかな〜そうだ!阪神!男・星野がいる、阪神だぜい!たっのしみだな〜燃えろ!阪神!星野!!なんちゃって。えへへっ・・・しかしなんでデコが痛いんだ?ホームランボールは、ちゃんとキャッチしたのに・・・??)
疼くデコを押さえながら、しかしすでに、今夜の星野阪神プレイに思いを馳せる、緋勇龍麻だった・・・。

終わり(あ、京一置き去り・・・)

2004/05/21 奪

あんそむにぃ「きゃー!5周年おめでとうございます!今後も楽しみにしてます!お題が「ご」ということでしたので、「真神5人衆」(京一以外は殆ど出なかったけれど)、「5時間目の授業」・「ごー・ごー・たつま!」で、無理にこじ付けたのですが、どうでしょうか?」 2004/05/21 22:27


サーノ「全然無理じゃありません! つーか城島にヒット打たせてくれてありがとー!!(笑)
表裏のパロなだけでも有り難く嬉しいのに、王『選手』まで出てきて感無量です〜〜(T^T)。
すぐ邪な方向に走る京一の間違いっぷりと置き去りっぷりが最高でした。
でもついついツッコむけど星野阪神ていつの話やねん!(笑)」2004/06/01 19:50