アズライール
某日、某学園旧校舎地下。
「やっぱり、ヒーローは5人居ないとしっくりこねえな」
そんな声が唐突に上がった。
「─────は?」
「そうかっ、それもそうだなっ」
「でも、今まで三人だけのヒーローも居なかったわけじゃないわ」
いきなりの事に誰もが素っ頓狂な、もしくは不可解な表情をしている中、流石に同じヒーロー同士ブラックこと黒崎とピンクの本郷はすぐに反応を返す。レッドたる紅井は二人にうなづき、
「おう。確かに今までのヒーローの中でも三人は居た。だが、最近では新たな仲間として4人、5人、6人とどんどん増えていくのが定番だっ!こうしている間にも敵はますます強くなる。今こそ新たなる仲間を集めるべきだっ」
力こぶしを振り上げて演説する口調は元気そのものだが、方陣技を使い座り込みながらの台詞に(約2名除く)周囲の目は冷たい。
が、まったく気にしないのはいつものことである。
いつの間にやら仲間のうちで『ヒーローたる資質』のある仲間は誰だ!?と勝手に討議を始めてしまった。もちろん座り込んだまま。
ちなみに、現在も敵の数が減ったとはいえ、戦闘中である。
「まず、美里や織部妹、マリィは除外だなっ」
「そうだな。やはりヒロインだろう。守るべき存在だ」
「あら、それを言うなら舞子もそうじゃない?」
ピンクの言葉に、二人は彼女を目で追う。話題の主はちょうどニトロをばら撒くところだった。
「あッ、危ない」
といいつつ、どっかんどっかんと景気のいい音を立てる。威力抜群なものだけあってついでに敵味方関係なく吹っ飛んでいく。とは言ってもいつものことなので味方の被害は意外と少ない。
「………え〜っと」
「…………彼女の武器は少々ヒーローとしては問題があるんじゃないか?」
そういうお前たちはどうなんだ、と聞いていた周囲は思った。
野球のバットは見方を変えると凶器。リボンは……それを武器にしていたヒーロー(?)もいるので微妙。サッカーボールに至ってはヒーローというよりかどこぞの探偵の方が似合っている。しかし、ラクビーボールを武器に使ったヒーローもいるくらいなので、世の中は広い。
「え?でも『いくわよ?良いわね』って言ってから小型爆弾投げるヒーローもいるじゃない」
ピンクは不思議そうに聞き返す。
いったいお前はいくつなんだ?と尋ねてもいけない。女の子には秘密がいっぱいあるのだ。
「し、しかし彼女だと色はどうする?ピンクだとかぶるだろう?」
絶句したレッドに代わってブラックが尚も意見を出す。確かに舞子のイメージはピンクしか思いつかない。想像力が足りないと決していってはいけないのだ。
「………そうね。じゃあ彼女もヒロインってことで」
ヒーローにしてはちょっと気合が足りないわね、と思っていたのもあって、あっさりひいた。
先ほどの件で微妙な間をおいて、やはりレッドから切り出した。やっぱり仲間を増やしたいと思う気持ち&期待は予想以上に大きいらしい。
「まずは京一からだなッ。どう思う?」
「あいつはヒーローというより悪の手下のほうが似合いそうだな」
うんうん、と二人も同意を示す。
「それも一番下っ端の」
「大口たたいてすぐ負けるヤツだなッ」
言いたい放題の中、聞きたくないがつい耳に入ってしまった当の本人は諸手上段のつもりがついうっかり剣拳・発剄をかまして吹き飛ばしで敵に追突された雨紋に睨まれている。
3人の脇を龍麻が走り抜けたが、全く気がついていない。
「じゃあ、醍醐はどうだ?」
「いいわね。気は優しくて力持ちって正しくヒーローのあるべき姿じゃないのッ」
「後、カレー好きだとなお良いなッ」
何故カレー?と(聞きたくなくても)聞いていた皆は思った。が、二人には通ずるものがあったらしい。ますます調子に乗ってきた。
「俺も異存はない。ただ………」
ブラックの妙に歯切れの悪い言葉に、二人とも首をかしげる。
「ただ?」
「紫暮も同じじゃないかなと思ったんだが…」
とたんに脳裏に浮かぶ、一度みたら忘れられないくらいインパクトのある方陣技。それをたった今かけられたかのように二人は石化する。
やれ上腕筋だの大腿筋だの叫ばれても普通のお子様には意味不明。
もちろん、普通の高校生にとっても未知の単語ではあるが。
「でも、あの顔はヒーロー向けじゃないわね」
スパッとピンクが斬った。その言葉に凍った時間が再び動く。
「そっそれもそうだな」
「では、除外ということで」
いつの間にやら醍醐も一緒に候補から外れることになったらしい。
なにやらお腹あたりを押さえていた白虎がそれを聞いてほっとしたとかしないとか。
その様子を龍麻がじっと見ていたのだが、当の本人は気がつかなかったらしい。
地下を降りてからもあれこれ考えるうなり声はなお続く。周囲を気にせず我が道を行くその強さは大したものだが、周囲の温度は確実に冷えていった。
「ええと、如月さんはどうかしら?」
ぽつりとピンクが言った独り言に即座に2人は反応する。
「クールな役どころか〜うん、いいかもな」
「でも、それならブラックとかぶらない?」
「いや、あの人は忍者なんだし、第六番目のヒーローとして影から見守ってくれるはずッ」
何時からそんなことになったんだ?
自然と視線は如月に向く。当の本人は聞くのもばからしいとばかりに敵の群れに突っ込んでいた。
ただし、深き者の中に。
気にしてない風でもきっちり動揺はしていたらしい。修行が足りない忍者である。
からかおうとしてた京一や雨紋も龍麻の指示で慌ててフォローに走っていった。
「視点を変えて、藤咲は?」
『ダメ』
見事なユニゾンで却下される。ブラックも言ってみただけなのだが。
「やっぱりアレは悪の幹部だろ」
「いや、途中で正義に目覚めて共に戦うっていうのもあるだろ」
「そうよねっ。最初は敵だったっていうし」
段々と盛り上がってきたところで、当の本人から鞭が飛んてきた。
「ゴチャゴチャやってんじゃないよッ!」
回避技のあるピンクやスピードのブラックはうまく避けたが、あわれレッドだけはその餌食となった。
「じゃあ、桜井さんや織部姉さん」
ピンクが再び提案すれば、男二人は考え込んだ。
「ヒーローに男も女も関係ない。だけど…………」
「最近は男3、女2の編成も珍しくはないが……」
どうも男女割合に問題があるらしい。その辺のこだわりが見えないので不思議そうに二人を眺めていたピンクがふと思い出した。
「女性といえば、裏密さんもそうよね」
その一言に仲間はおろか、周りの人間にも不可解なダメージをクリティカルヒットの勢いでもたらした。
曰く。彼らと同じデザインのユニフォームを身に纏い、独特のポーズと共に高らかに
『うふふ〜めくるめく邪妖の世界より来たりし〜智と〜混沌の使者〜コスモ(お好きな色をおいれください)登〜場〜』
体感温度が絶対零度を突破した。あちこちで「うっ…」だの「うおおおおおおっ」だの無言で頭を抱えたりする者もいる。
幸い、ここには彼女は居ない。だが、何故か彼女の『呪っちゃうぞ〜?』という声が耳元で囁かれた気がした。
あまりの寒さに味方側だけ空白の間と距離ができる。
ただでさえコスモレンジャーに他の仲間たちが引き気味だったのと会話に夢中だったのとで動かないでいた為に無視できない隙間に敵が割り込む形で突入してきたのだ。
さっきのダメージが抜けきらないうちにこんな間近まで接近を許してしまったショックが更に動きを鈍くする。
周りのフォローも届かない。誰もが次の惨劇を想像し、呑まれようとしたとき、それを打ち砕く力強い声が辺りに響き渡った。
「ビックバンアタックを使え!アラン、フォローを!」
聞く者を奮い立たせ、勇気づけられるその声に、今度は底抜けに陽気な声が重なる。
「HAHAHAHA。ボクが来たから、もー安心ネッ!」
いち早くコスモレンジャーにたどり着いたのはアランだった。しかし、彼の霊銃では足止めには不十分。…………と、誰もがそう思った。だが。
「この世に悪がある限り…」
レッドの口上が始まったとたん、アランの《気》までもが同調しはじめたのだ。さすがに三人とも驚いて顔を見合わせる。
「これは………」
「新しい仲間の誕生ねッ!」
「OH!ボクも世界のヘーワ、守りマース!」
流石ノリのいいメキシカン。あっさりと現状を受け入れている。
皆が唖然としている中、新たな仲間&必殺技が誕生したのであった。
気がつけば、この階の敵も全て倒されたようである。
何故か(一部を除いて)いつもの倍ほどの疲労感を覚えた彼らに更に下へ行く気力も体力もなく、結局帰ることになった。
いつもの道をいつもよりは時間をかけて帰る中、新たなる目的を見つけた彼らは元気だった。
「こうなったら5人目も早く見つけないとなッ」
「燃えてきたわねッ!」
「方陣技を使えば見つけやすいんだなッ。試していけばきっと見つかるはずだッ」
それぞれが力説していたとき、ふとピンクが後ろから強い視線を感じた。
その視線の先には。
「緋勇くん………?」
先ほどまでの戦闘とはうって変わってひっそりと集団の中にとけ込んでいたのに、今は睨みつけてると言ってもおかしくはないほどにこちらを見ていた。
知らず知らずのうちに喉が渇き、冷や汗が出てくる。そんなピンクに不思議そうな目を向けていたブラックもその視線の先を見、息をのむ。
「どうしたんだ?二人とも」
ただ一人、あの視線をものともせずレッドが声をかける。二人と緋勇を見比べて、ぽん、と手をたたいた。
「そういや、あいつを忘れてたな。今度一緒に」
レッドがそこまで言ったとたん、戦闘中でもないのに吹っ飛んでいく。これ以上ないほどきれいな放物線を描いて壁に激突した。
「レッド!?」
「ちょっと、大丈夫?」
慌てて駆け寄る二人にレッドは何とか身を起こしつつ答えた。流石頑丈が売りだけある。
「ヒーローなんだ……これくらいで負けるもんか…」
どこからか舌打ちの音がしたが誰も気がついていない(多分)。
ついでに剣圧や電気、水流等に混じって天使が見え隠れしていたのも気がついてはいけないことである。
地雷を踏んだことは分かったのだろう。他の二人も何も言えなかった。
どうにか舞子の治療で歩けるほどになったので再びもと来た道を帰る面々。
「思ったんだけどね、緋勇くんはヒーローだけどちょっと違うのよね」
再度の地雷に一瞬びくつくが、ピンクの意図が分からなくてレッドとブラックは互いに顔を見合わせる。
「ヒーローだけどヒーローじゃない?」
「そ。アレね。ヒーローたちを指揮する司令官」
その言葉に大きくうなずく。
「なるほど。言えてるなッ」
「正しくその通り。ぴったりじゃないかッ」
再び盛り上がってきた仲間にもう何も言う気力もない。
ただ、これ以上自分たちを勧誘するのはやめそうな気配だったのでそれだけはホッとしていた。ただ一人を除いて。
(し、司令官!?あのふんぞり返ってエラそーに文句ばっかり言ってるあの?しくしく。俺ってそんな風に見られてたんだ〜〜〜ううっ。期待してみていたのが間違いだったのかな〜?はっ、もしかしてまた睨まれてるって思った!?)
あれこれ悩む緋勇にまた京一が心配して悩みの輪が広がるわけだが、それはコスモレンジャー最後の一人、劉が参戦するまで続いたのである。
2004/05/19 奪
アズライール「5周年おめでとうございます。
もうそんなに月日がたったんですね…SS書いてるとしみじみ感じてしまいました。何とか形にはなったんですがキャラの口調が違うとか呼び方が違うとかはそっと胸の内にしまってやってください(笑)仕込んだお遊びも一応テーマにこじつけてはみたんですがどうでしょう?ちょっと分かるか心配なんですが。
では、次の機会にお会いできるのを楽しみにして(ダッ←まて)」 2004/05/19 00:40
サーノ「うを〜ッ! 相変わらず上手いなキミ!(って言い方もどうなのかと思うが(笑))
しかもふんだんにちりばめられた古すぎる特撮ネタが涙を誘います(笑いすぎで)。
ゴは5のゴですからネ! サンもあって有難う!(笑)
ちなみにコスモに混ぜてもらえない話はワタシも書くので(笑)かぶるけど気にしないで下さい(っておい。)」2004/06/01 19:50