【いふ・わーるどのおまけ】

ばいかる

 ある日ある時ある場所で。
「たーつまっ!!」
 学校帰りに突然、背後から呼び止められて振り返ったら、見たことも聞いたことも触ったことも舐めたことも…って、舐めるのは、知ってるヤツでもヤバいだろ、オレ…とにかく、見ず知らずの女性が立っていた。
 オレのことを『龍麻』って呼んでくれる人なんて、片手の指でも余っちゃうくらい、希少価値なんだけど…アンタ、誰?
「た、龍麻???」
 だーかーら、誰だって聞いてるのがわからんのかいッ! って、わかるわけないか。心の中で言ったって。
 マジで知らない人だよな…でも、この人はすごーくオレのこと知ってそうで。こっちは知らないのに、向こうは知ってる…追っかけ? ストーカー? って、なんでオレに追っかけとかストーカーがつくねん。美里やマリア先生じゃあるまいし。ごめんなさい、目の前の人。今、すごく失礼なこと思っちゃいました。
 オレ、知らないうちに記憶喪失になっちゃったのか? それとも、宇宙人に攫われて記憶消去され、更に改造されて無口・無表情に! …それは、元からだろ。
 う…なんか、泣きそうな顔してオロオロしてる…もしかして、誰だろうなァって思ってじーっと見ちゃったから、睨んでるのと勘違いされた?
 ───アレ? …なんか手が伸びてき…て、───ええッ?!
“ふにぃ”
 あ、あの、一体なんでしょうか? そんな、どーして急に、ほっぺた抓るんですか? オレ、痛みには強い方だけどさ…、痛くても顔に出ないけどさ…、でも痛みを感じないわけじゃないわけで…やっぱ痛い。すいませーん、痛いんで止めていただけると…イ、イタタタタ。だから止めて下さいってば…ええいッ、止めろって言ってるのがわからんのかーッ! って、口で言わなきゃわからんっちゅうの。
 とにかく、止めて下さいって言わなきゃ…いっせぇのぉ…えーい、開けっ、口ッ!
「表情欠乏症───
 …今、しゃべったのって、オレ? なんかえらく声が高いような…声変りしたのか? って、なんで声変りして声が高くなるねん。だいたい『ひょうじょうけつぼうしょう』って一体、何よ。…氷の上で笑えるように願うこと───氷上闕望笑───って、絶対違うだろ、それ。
 しゃべろうって思った瞬間に声が聞こえたから、一瞬錯覚しちゃったけど、今のって、オレじゃないからこの人だよね? 周りに他の人いないし。…まさか、目には見えない人がいて───は、コワイから考えるの止めよう。
 そんなことより、オレもしゃべらなくっちゃ。ええと、抓るの止めて下さい───って、もう抓られてないじゃん。う…と、何言おうかな…。
 うわわわっ!! 今度は唐突に肩叩かれたー。ビ、ビックリした…相変わらず、顔には出てないけど。もう何なのよ、この人。(心の中で泣)
「大丈夫。絶対に治してあげるからね」
 …はい? 治すって、何を?? オレ、どっか病気なのか???
 ち、ちょっと! 意味不明な言葉を残して、さわやかに笑いながら去っていかないくれ! 気になるから、何の病気なのか教えてくれー…って、心の中で言って、わかってくれるのは、京一くらいか。くすん。
 追いかけようとしたけれど、なんだかすっごく速くて、あっという間に見失ってしまった。…加速装置でもついてたのかな?

* * * * *

 ───あの後。
 なんとなく気になって、1時間くらいあそこで待ってみたんだけど、結局あの人は戻って来なかった。
 あれは一体、なんだったのか───それは、未だに謎のままである。


≪おしまい…お師匠様、ごめんなさいぃ(><)≫

2000/05/21 Release.