龍麻は見た!醍醐の苦痛、その栄光と悲しみ!!そのとき京一と如月はっっ

北斗玻璃

 骨のぶつかる鈍い音を立て、龍麻の攻撃に最後の一体が倒れた。
 気がつけば、旧校舎へ一人で向かおうとする龍麻を追って人が集る…ある者は自身を鍛える為、ある者は仲間を護る為、また別口ではアイテム取得やストレス解消(?)を旨として訪れているかもしれない。
 そのどれにも当て嵌まらず、ただ淡々と指示を飛ばし、闇に巣食う妖を屠り、仲間を庇う盾となる龍麻の意図は誰も掴む事が出来なかった。
 だが、今日の龍麻はいつも様子が違った。
「せ、先輩………。」
ぜぃと荒い呼吸に肩を揺らし、雨紋がヤンキー座りに槍を抱えた。
「もう、そろそろいいんじゃねぇ……?」
負けず嫌いの雨紋にそう言わしめさせる程…常ならば、5階程潜った辺りで帰路を促す龍麻が、既に10階を数えるのに帰る素振りを見せようとしない。
…………いや。」
しかし、否定の意を示す龍麻の言葉に、仲間達のテンションが下がった。
 葵・小蒔の疲労の色は濃く、マリィに至っては葵にしがみついてうとうととし、重い空気に不安げな舞子。
 その中で、平素と変わらない様子で如月が皆が奪取したアイテムを検分し、京一は少し離れた壁際で腕組をして龍麻の背を見つめる…いや、この無茶を諌め様としない彼等も、いつもと様子が違うと言えるだろうか。
 「龍麻。」
すっかり馴染んでしまった胃の…シクシクとする痛みをへの字に曲げた口で耐え、醍醐は龍麻へと向かった。
「何を荒れているのかは知らんが……それは、俺達には話せない事なのか?」
見上げる、漆黒の…圧力すら感じる視線に見つめられ、醍醐は引きそうになるのをぐっと堪えた。
「皆、心配している。お前の事だから何か意味があっての事と思うが、今日はもう引き上げよう…一晩経てば、頭も冷えるだろう。」
龍麻も疲労していないわけではないだろう…近くで見れば、其処ここに傷を負っている。
 醍醐を見上げる龍麻の唇が、迷うように小さく言葉を紡ごうとする…その言葉を待つ間の沈黙を、冷徹な台詞が打ちのめした。
…………先に、帰れ。」
一語ずつを区切ってゆっくりとそう告げる。
 言い聞かせる、のではなく。
 命令。
 皆が意見すらも出来ず口を噤むのを、龍麻は冷淡に見回し、踵を返した。
 あまりにも明確な拒絶の動作に、葵が哀しげに目を伏せる。
「龍麻くん………。」
意気消沈としてしまった空気に、如月の声だけが大きく響く。
「君達は、今まで龍麻の何を見て来たんだい?」
「如月くぅん、それってどういう事なの〜?」
舞子の問いかけに使い物にならない=売り物にならないアイテムをペイと床に放った商人如月は言葉を続けた。
「龍麻が意味なく僕らを遠ざけようとしていると考えているのかい?」
「如月クンは…理由知ってるの!?」
小蒔の大きな声に足を止めて見返る龍麻に、如月が「分かってる。」とでも言うかのように小さく頷いた。
 目線だけで意思を通わせる二人に、カチンと来てしまっているあたりでもう大分ダメダメな京一がツカツカと足音も荒く如月に歩み寄った。
「てめェにひーちゃんの何が分かるってんだよっ!」
掴みかからんばかりの京一の勢いに、皆が目を見張る。
「少なくとも、君よりは分かるつもりさ。」
冷静にというよりも相手にしていない如月に、京一の怒りはたちまち沸点に達した。
「いぃやっ!俺の方がぜってーにっ!ひーちゃんを理解してるぜッ!!」
 胸元に突き付けられた木刀の切っ先をすいと指で横に流し、如月は笑った。
 アイス・マンの異名に相応しい、見る者の背を凍り付かせる冷笑で。
「ほぅ?その理由のない自信の根拠は何かな?」
もう少し強ければ間違いなく大馬鹿に、力の限り小馬鹿にした口調に京一の脳が蒸発した。
「てめぇよりもっ!ひーちゃんの事がス…ス……ッ。」
爆弾が爆発するよりも先に、
「胃…ッ、胃が………ッ!!」
ギリギリと締め上げられるような内蔵の痛みは、如何に頑強な筋肉に鎧われた醍醐であっても耐えられるものではない。
 「や〜ん、醍醐クン、だ〜いじょうぶ〜?」
膝をついてしまった醍醐に駆け寄る仲間達。
 戸惑いがちに一歩を踏み出した龍麻の背から…濃い血の匂いを漂わせた妖が傷ついた体とも思えぬ迅速さで飛び上がった。
「ひーちゃんっ!!」
小蒔の切羽詰った呼びかけに龍麻が振り返るその肩に、たしかにトドメを刺したはずの鎌鼬が、最後の力を振り絞って両の手の刃を振り下ろす。
 刃が届くより早く、小瓶が鎌鼬の額に命中して爆風に吹き飛ばし、宙に浮いた体に刺さる矢と手裏剣。地に落ちかけた所に地を割る剣圧が襲いかかり、雷が身体の一部でもある刃に目掛けて降り注いで紅蓮の炎がたちまちに表皮を覆う。
 一瞬の出来事であった。
 ゴホ、と煤けた頬を袖で拭う龍麻の足元に、コロコロと白い陶器に瓶が転がった…地面に燻る物体と化した鎌鼬から。
 龍麻は片手でそれを掬い上げ、如月に示すのに、目利きの骨董品店主は頷いた。
……………醍醐。」
名だけを呼んで差し出されたそれを、何気に受け取るも意味が掴めず、醍醐は地に膝をついたまま如月を仰いだ。
 「『少彦の酒』…あらゆる状態不能を回復する霊薬だ。醍醐くん、龍麻が無茶をしたのはこの為だったんだよ。」
如月はしたり顔で続ける。
「近頃、君が胃薬を常用している様子を龍麻は見ていたんだ。ただの胃炎にしては服用期間が長いのを気に病んで、昨日僕の所に良い薬はないか聞きに来たのさ。ただ僕の店では購入しなかった…その意味が分かるかい?」
「ヨク、ワカンナイ…。」
マリィが、全員の心情を代表してフルフルと首を横に振る。
 龍麻が黙っているという事は、如月の発言に間違いはないという事だろう。
「ごたくはいいから、さっさと要点を言いやがれっ!」
長台詞に脳の容量が一杯になりそうな京一ががなるのに、ふぅ、と如月はワザとらしく息をついた。
「仮に、龍麻のポケットマネーで『少彦の酒』を購入したとしよう…醍醐くん、君は受け取るかい?」
「いや…それは………。」
と、いうか胃炎の原因に薬を貰っても根本的な解決にはなっていない。
「そして、旧校舎で稼いだ…失礼、拾得した金品はいうなれば皆の財産。それに手をつけるという事は龍麻の律儀な性格から見て絶対に有り得ない。」
其処でチラリと龍麻を見るが、特に異論はない風に沈黙を守るのに如月は腕を組み直した。
「旧校舎で現物を手に入れたならば、それをその場で使用を促しても不自然ではないだろう?…まぁ、僕も事情を知っているだけで告げるつもりはなかったのだが、龍麻の好意が誤解されるのも悲しいのでね。」
立板に水、で玄武の宿星を持つ男は「何か質問は?」と、全員の顔を順繰りに見まわす。
 何の意見も反論もない所で、今度は自身が軽く片手を上げて発言権を主張した。
「それでは、僕からの質問だが……。」
視線は京一へ。
「先ほど、言いかけていた『ス』の続きを聞きたいのだが。」
怒りのエネルギーを鎌鼬に向けたせいか、頭の冷えた京一は己が何を口走りかけていたのかを思い出した。
「ひ、ひーちゃん……『ス』………。」
……………。」
見詰め合う二人に、『少彦の酒』を握り締めて再発した胃痛にうめく醍醐。
 ガマの如く汗をかく京一を見つめる面々。
「ス、スシでも食うか……。」
「やった!京一の奢りッ!?」
………。」
苦し紛れの言葉に、小蒔が嬉々として飛び付いた。
「ウワーイッ、マリィ、マグロが好キッ!」
「皆でお寿司〜。エヘッ、嬉しい〜ッ♪」
はしゃぐマリィと舞子に引くに引けなくなった京一。
 葵が困った様子で皆を嗜める。
「ダメよ、そんな高価なものを…。」
高価でないものならば奢ってもらうつもりなのか。
 更に、如月が追い討ちをかける。
「寿司なら、よい店を知っているよ。江戸前寿司で、ネタの新鮮さは僕が保証するよ。」
「俺様、カウンターで食うの久しぶりなんだっ!」
…回転寿司で誤魔化せる状況ではない。
 正直になれないばかりに…いうか、正直になったらなったで大変に困った状況になったのは必至だが、どちらに転んでも、醍醐と京一にとってろくでもない日であったには違いない。
 醍醐の胃に穴が空くのが先か、龍麻を巡るカンチガイの渦が収束する日が先か、そして龍麻が京一に裏拳ツッコミの練習の成果を披露出来る日は来るのか…未来は、誰にも分からない。


お師匠様っ♪
3番弟子、漸く祝いに参じる事が出来ましたっ!!
ちなみに題はノーミソが干乾びた北斗の代わりにぞー殿が考えてくれましたっ!
アナタの笑顔に繋がる事を願って…君に涙は似合わないさっベイベッ!!(壊)
1周年!コングラッチュレイションンンッ!

2000/05/24 Release.

 タイトル長いっちゅーねん!!>ぞーりんっ(びしッ)
 いやいや、流石は3番弟子だぜ北斗ッ(笑)。相変わらず上手いなあ…つーか緋勇のアホさ加減が輪をかけてハイテンション過ぎて爆笑したザッピングもお楽しみ下さい>ALL。9つもあるのよ♪(笑)
緋勇(……えッ? 何? 醍醐、ハラどーかしたのか?)←…何てこった…こっちの方がもっとアホやった……