〜心象風景〜

せんり

「ねぇねぇねぇねぇ!!龍麻くん!」
6時間目の授業の終わりを告げるベルが鳴ると同時に元気良くアン子ちゃんが飛び込んできた。
早いな〜、アン子ちゃん、もう授業終わったの?
俺のとこに来てくれるのは嬉しいんだけどさ、あ、ほら、せんせーがちょっと睨んでるよ。
だから、今度からはせんせーが教室を出てから、来てくれるかなぁ?…なんて、ちょっと贅沢かな?
でも、アン子ちゃんが怒られるよりはその方が良いし…

でも、せんせーはなにも言わずに教室を出ていった。
あ〜よかった。ところで、俺に何か用?俺なんかで良かったらなんでもするよ〜!だって、大事な友達からの頼みだもんね。
お使い?ボディーガード?今月ちょっとピンチだけどなにかおごれっていうなら喜んでおごっちゃうよ〜!…という気持ちをこめて、
………………何だ…?」
って…えぇ、いつものごとく思ってることの100分の1も言葉になんか出来やしない。
うぅぅ…せめてもーちょっとなにか言えんのか、俺…
「なんだよ、アン子。相変わらず騒々し…」
さっきまで寝ていたんだろう、京一があくびをしながらやってきて、アン子ちゃんに声をかけるがその言葉の途中でアン子ちゃんの平手打ちが炸裂!!!おぉ〜っと、京一選手、派手に吹っ飛びましたっ!これはかなりのダメージかっ?!レフェリーがカウントをとります!1…2…
ってちゃうやろ!大体選手ってなんやねん!!
心漫才に満足してる間に、アン子ちゃんと京一の漫才もかなりの盛り上がりを見せていた。醍醐や桜井、
美里なんかも集まってきて、にこにこしながら二人を見てる。帰り支度をしているクラスメートたちも、
クスクスと笑いながら2人の漫才に見とれている。
はぁ〜…やっぱり、この2人の漫才は一味違うよな〜…
息もぴったりだしさ、俺も、いつかこんな風に京一と漫才できたらなぁ…。

「だから、あたしは龍麻くんに大事な用があってきたの!あんたはかんけーないって!」
「だから、ひーちゃんになんの用だよ?!」
…あ、そうそう、漫才に見とれててすっかり忘れてた。
アン子ちゃん、俺になにか用があってきてたんだっけ。
改めて聞くけど、なになに?
「うん、あのね龍麻くん。写真撮らせてくれない?」
あ〜なんだ、そんな事か。オッケー、良いよ。
写真ぐらい…って!!?い、いいいい、今、な、なんて?
写真撮らせてっていった??そ、それって、俺の写真を撮るってことだよね?マ、マジ?
「ほら、転校してきたとき真神新聞に龍麻くんの記事を載せるって言ってたけど、結局なんの取材もしてなかったじゃない?
今からでも遅くないから龍麻くんの特集を組もうかな―って思ってさ」
…ホントなんだ…ホントに写真、撮ってくれるんだ…
ゆ、夢じゃないよな…写真とってもらうの何年振りだろう…。この邪眼のせいで俺の写真を撮ってくれる人なんか、いなかったんだよな…。
遠足とか、修学旅行、先生が写す写真に、俺が映っているとすれば後姿だけだったような…(泣)
いつだったか、正面から写された写真があったけどまるで心霊写真のような扱いされて…
俺自信も、カメラからは逃げるようになっていた。
う…ヤ、ヤな過去…思い出しちゃった…ああ〜でも、やっぱり、まだ信じられない…ゆ、夢じゃないよな…?
ほっぺた抓っちゃおうか…で、でもそんなコトしたら変に思われるかな…
写真をとる、なんて俺と違って皆は普通にやってることだろうし…
そう思って、とりあえずこっそりと思いっきり手を握ってみた。
つめが手に食い込んで…

い、痛い…や、やっぱり夢じゃないんだ〜!!
うう〜!。アリガト〜アン子ちゃん〜!!
でも俺なんかの特集組んだって、きっと誰も買わないと思うよ〜〜??あ、でも皆は買ってくれるかも…
でも、やっぱり残ると思うんだよね。
そのときは、残り全部俺が買うからね〜〜!!こんな事一生に一度の事だから、記念じゃ〜〜!!
アン子ちゃんの気が変わらないうちに、首を縦に振って写真撮影をお願いした。
…う、しまった…うれしくて首振りすぎた…
ちょっとくらくらする〜〜!!
でも嬉しいから良いや〜う〜ふ〜ふ〜ふ〜ふ〜〜〜
…なんかますます裏密の真似がうまくなってねぇか?俺。
って、そんなんうまくなっても嬉しないわ!
ん〜でも、もう今はなんだって良いや〜〜!!
うふふふっ…って、こっそり美里の真似なんかしたりして。
…う、でも俺がやったら気持ち悪いだけだった。
ん?京一がなんか赤い顔して目をそらしちゃった。
…はっ!心を読まれちゃったんだ!
い、今の美里の真似、やっぱ気持ち悪かった??
ゴ、ごめん!もうやらないよ〜!!
だから、怒らないで〜〜!!

「ん、じゃぁ、龍麻くん、写すわよ?」
そう言って、アン子ちゃんがカメラを構える。
は〜どきどきしてきちゃった!
まだかな〜まだかな〜!!
「…龍麻くん、なんで目を瞑ってるの?」
シャッターが押されるのを、今か今かと待っていた俺に、不思議そうにアン子ちゃんが尋ねた。
…はっ!しまった。ついクセで…
クラス写真撮るときカメラの方を向いてたら睨んでるって思われたらしくって、撮影のおじさんが『ひぃっ!』とか言って冷や汗流しながら、引きつった顔と声で
『そ、そそそれじゃ、う、うつっ…写しますよぉ〜』
ってなるから…。どうしても写らなきゃいけない写真なんかは目を瞑ってたんだ…。
時々失敗して、目を開けたまま写っちゃった事があるけど…そんなときは、俺の顔のところには皆、マジックで線を引いてたみたい…
ほら、心霊写真とかで、目を隠して誰だかわからないようにしてるやつ、アレ、やられたんだよね…。
放課後、女の子達が『怖いよ〜』とか、『サイテ―!』
とか言いながら消してる姿…偶然見ちゃったんだよね…
気付かれないようにこっそりその場から離れて……
そして泣いたんだよな…もちろん心の中で、さ…。

ごめんよ〜アン子ちゃん、そんなわけで、わざとじゃないんだよ〜!!
だから、もう一回チャンスくれる??もう、今度こそ目を瞑ったりしないからさ!
だから、気を悪くしないでね〜!!
……………………済まん…もう一度、頼む……
無理矢理口を動かして、一生懸命言葉にしてみた。
でも、アン子ちゃんは特に怒った風でもなく、「ううん、いいっていいって!じゃぁ、もう一回ね!
龍麻くんの写真ゲットするまでは、このカメラは離さないからね!何度だってオッケー!!」
なんて言ってくれた。うう〜ありがと〜!!うん、俺も、とことん付き合うからさ…何度だって良いから…
朝まで付き合えってんなら、寝ないでやるからね!
アン子ちゃん!
「うん、じゃ、撮るけど、龍麻くん、もっとリラックスしても良いのよ?肩の力を抜いてさ…」
あ、そ、そうだよね!ご、ごめん!!つい緊張して、力んじゃってた!
で、でもそんな簡単に落ち着けない〜!ますますどきどきしてきた〜!
う〜静まれ〜静まれ〜!俺〜!!
祓えたまえ〜清めたまえ〜〜!!
って、ちゃうやろ!!い、いや、もうなんだっていい!!

と、それまで黙ってみてた京一が近づいてきて
「ほれ、ひーちゃん」
そう言って、ほっぺたを指でうりうりと弄った。
え?え?な、なに??
どわわ!!く、くすぐったいって!!京一!!
「リラックスリラックス〜♪」
とか言いながら、あちこちくすぐり始めた。
や、やめてくれ〜〜!!顔には絶対出てないけどかなりこ、こそばゆい〜!!
わわわ〜〜!!や〜め〜れ〜!!!あっはっはっはっは!
ぱしゃぱしゃと、シャッターを切る音が聞こえる。
う、うわ〜!アン子ちゃん、こ、こんなとこ撮らなくっていいよ〜〜!!
…と、思ったけど…友達と、今、一緒に写真を撮ってもらってるんだ…マジで、嬉しいや…いつもどうり、無愛想な顔の俺だけど、京一と一緒に、スキンシップしてるところを、写真にとって貰ってる…。
この街に、この学園に来るまでは、こんな日常なんて、夢だと思ってた。
しあわせ、です。マジで。
京一が、右腕で俺の頭を抱えるようにして抱き寄せる。
相変わらずあいてる左手で、うりうりと横腹のあたりをくすぐりながらぽつり、とつぶやくのが聞こえた。
「なぁ、ひーちゃん、たまにはこんなのも良いよなぁ…嫌な事、全部忘れて、さ…」
うん、俺もそう思う…皆と一緒に、こんな風に…たまにじゃなくて、いつもでも良いや…
でも、撥があたるかもしれないから…
うん、たまに、でも、すごく嬉しいよ…俺…
「ああ…そう、だな…」
すんなりと、言葉が出てきた。
京一が、ちょっとびっくりしたような顔をする。
うん、俺もびっくりした。いつもはこんな風にすぐ返事が出来ないのに…
しばらくじっと俺を見ていた京一が、
「へへへっやっぱ、そうだよな!」
そう言って、すごくうれしそうに笑ってくれた。
「オイ!!小蒔!!おめーも手伝え!!ひーちゃんを攻撃するぞっ!」
京一が桜井に声をかける。
「よぉ〜し!!覚悟しなよね!!それ〜〜!!!」
桜井も加わって、俺をくすぐり始めた。
それを見て、美里も醍醐も笑っている。
アン子ちゃんもうれしそうに写真を撮っている。
うん、やっぱり、皆といるのって良いな…。
俺、今日ほど生きててよかったって、思ったこと無いよ…
ホントに、アリガトな…皆…。

「あ〜もう、フィルムの残り、無いや…ねぇ、ちょっとみんな、あ、ほらほら、美里ちゃんも、醍醐君も、最後の一枚はアンタ達5人を撮ったげるからさ!!」
「お!良いねぇ、おっし!ひーちゃん中心にして…
ほれ、タイショーも美里も、さっさとは入れよ!!」
アン子ちゃんの提案に京一がうれしそうに答える。
「ええ」
「はははっ!よし!」
醍醐も、美里も加わって…
京一が、相変わらず俺の首に腕を回したまま空いた左手でVサインをした手をカメラに向かって突き出して…
反対側に桜井もやってきて俺の肩に手を置いて、京一と同じように右手でVサインを作って…

「ほら、撮るよ、1+1は〜?」
アン子ちゃんの合図に京一と桜井が声をそろえて…
「「に〜〜〜〜っ!!!!」」


数日後、アン子ちゃんが1枚の写真をくれた。
「龍麻君の特集、やるつもりだったんだけどね…
龍麻くん、1人で写ってるの無くてさ。だから、やめにしたの!で、これは写真撮らせてくれたお礼!
ありがとね!龍麻くん!!」
そう言って、じゃあ、取材があるから、と去っていった。
写真には、俺を中心にして、楽しそうに笑っている大好きな友達の姿が写っていた。
嬉しくて、涙が出そうになった…。
出ないの、わかってるんだけど…。
一生の、宝物にしよう…。あ、アン子ちゃんに頼んで、おっきく引き伸ばしてもらおうかな…。
そんな事を考えながら、落とさないように、
失くさない様に、胸ポケットに大事に大事にしまった。



「まぁったく、せっかくの龍麻くん特集だったのに…」
新聞部部室…やまのように積まれた資料の中にある、
ひとつの机。その前に、拗ねた様にすわってちろりと俺を睨んだ。
「だから、ラーメンおごるっつってんだよ!…でもよ、止めにしてくれてサンキューな、アン子。」
「ま、良いけどね…あんたがあんなに真剣に頼むんじゃ…無理に発行するのも気が引けるしね…」
そう言って、アン子はため息をついて肩をすくめる。
「ああ…出来れば、そっとしておいてやって欲しいかんな…」
心を開きかけてる龍麻を…。
嫌な事を、たまには忘れて…そう、聞いたとき、肯定した龍麻を…。
もう少し、このまま…。
「京一」
顔を上げた俺にアン子が1枚の写真を差し出した。
「これ、ほんの一瞬だったんだけど…
良く、撮れてるでしょ?」
受け取った写真には俺と…
「どんな事情があるかは知らないけど…あたしだって、この顔を消したくないからね」
俺と、龍麻の写った写真。
写真の中の龍麻は……笑っていた。
すごく、自然に…すごく……素直に…
「へ…へへ…へへへっ…」
笑みが、こぼれた。
あの、龍麻が笑ってる。
「それ、龍麻くんには見せてないから」
「あぁ…サンキュー…アン子…」
こう言うときばかりはこいつの機転に頭が下がる。
この写真を龍麻に見せれば、きっと、2度とこんな風に笑う事をやめるかもしれない。
自分の心を、殺して殺して、2度と、心の内をあけようとはしなくなるかもしれない。
過去になにかあったであろう龍麻は自分を戒める為に…。
心を開きかけている龍麻の、この笑顔を本当に見れる日が来るまで…
あいつの心が、癒されるそのときまで…
この写真は…
「あ、言っとくけどその写真、有料だから」
「な、なにィィっ!!??くれるんじゃね―のかよ!?」
「なに寝ぼけた事いってんのよ!!現像する為の薬品も、印画紙も、バカにならないのよ??こっちから頼んだ龍麻君にならともかく、なんであんたに無料奉仕しなくちゃなん無いのよ!?いちまい、¥2000よ!」
「にっ…!バカ、高すぎんだろ!?」
「新聞の発行中止で、売上予定金額ぜ〜んぶパーなの!!
そのくらいじゃないと、元が取れないでしょー!?」
「元を取る!?アン子、てめー、焼き増しして売りさばくつもりだな!?」
「うぐっ!!」
「アン子、ネガよこせ!!焼き増しした写真も1枚残らずだ!!」
「ただじゃ、嫌よ!!」
「おぉ〜し、んじゃ、ネガ、それと写真全部で50万!」
「ごっ…!!??あんたがそんなお金持ってるわけ無いでしょ!?」
「へ!1時間ほど待ってろ!!耳をそろえて払ってやるぜ!!」
そして、俺は愛刀をつかみ、1人旧校舎へと向かった。

Fin


〜後書き&お詫び〜
ご、ごめんなさい、サーノ様…変なSSです…。
このサイトに通い始めて1年過ぎちゃいました…
で、サーノ様が一年前に描かれた「心象風景」を見たときから、ず〜〜〜っと、書きたくて書きたくてしょうがなかったんですが…
今回、思い切って、送らせていただきます!!
1年間、暖めつづけてたネタ…でも、ヘボくて済みません…なんか、同ネタ多数とか…有りそうかも…
ひーちゃんの視点で書いてある部分、ホントは京一視点も同時進行(?)で入れたかったんですが、不器用なので、やめにしました。
これを読んでくださっている方、京一視点を想像しながら読んで下さい…
そしてサーノ様、拙いパロディーですが、一生懸命書いてみました。
SS書いた事の無い私が、初めて書いたSSです。
いろいろ文章変なところもあると思います。
受け取ってくださいますか??
はわわ…ホントに、失礼しました〜!!
こ、このお詫びは、サーノ様の側女になって、一生お仕えを…って、げふんげふん…いえ、なんでも有りません…
1年前からずっとずっと大好きです!!
これからもきっとずっと大好きです!!
頑張ってくださいね!!

そ、それでは…
        2000年5月7日  せんり拝

2000/05/07 Release.

 メッチャ早くに戴きました! 何やら緋勇が可愛らしいのなんのって(^^;;)。ワタシの描いた「心象風景」をイメージして下さったとのこと。嬉しいですー!!
是非本当に側女に(殴)…げふんげふん。
緋勇(うわッ…せ、せんりさん、オレいつも写真を撮るとき眼を伏せてんだけど、よく知ってるなー。キミも以心伝心な人なのか? すげーなー!!
オレの気持ち、分かってくれてありがとね〜ッ!)
←そうか、本当の話だったのか…