四次元バトル

しまこ

 えーと、これがこうだから…よし、終わった〜
今日の4時間目は数学の時間だったのだが、先生が急用だとかで自習になった。、監督の先生は付かなかったものの、オレ達は課題として出されたプリントを黙々と解いていた。簡単な問題だったのがせめてもの救いだ。
 「はァー、疲れたなァ」
目の前で京一がペンを置いて首をコキコキ鳴らしている。おいおい京一、さっきからオレの解答うつしてただけやんけ(ビシ!)まあいいか、それより時間だいぶ余っちゃったな、残りの時間何してようかな。
 辺りを見まわすと、さっさと課題を終わらせた連中が教室内を歩き回ったりしている。皆、結構好き勝手なことやってるなーと思いつつ、隣の席を覗き見た。
げえッ!!オレは思わず声をあげる所だった。イヤ、出るわけ無いっちゅーねん。
 隣の席では美里と桜井が英語の予習をしていたのだ。うわー真面目だな〜。折角の自習なんだから友達とふざけっこしたり、早弁したり、ベランダから隣のクラスを覗きに行ったりするモンじゃないの?あれスリルがあって良いんだよなー、先生に見つからない様にこっそりとね…って誰がすんねん、そんなこと。

 「なあ、ひーちゃんハラへらねェ?」
え、何、京一。腹?へってるへってる。もうお腹と背中がくっつきまくり。
「今から購買行ってこようぜ」
えッ?!購買?!でもまだ授業中デスよ?いいんですか、蓬莱寺さん。…あぁ、でも授業を抜け出して購買部に走るなんて、ちょっといいカンジ?レッツエンジョイ高校生ライフ!(意味不明)
………ああ…」
 行こう、今すぐ行こう。今の返事には「ちょっといけない事だけどオレ達親友だし〜。見つかって怒られるトキも一緒だぜ〜」ってニュアンスを込めてみたんだけど、伝わった?伝わった?
「この時間だと犬神あたりに見つかるかもしんねーけど、怒られる時は一緒だぜ、ひーちゃん」
ハラショー京一。つーかオレ達もう以心伝心?ここまでオレの気持ちを分かってくれるのは、お前しかいないぜ!マイスイートハート!
「お前はロクな事を考えんな、全く」
うわッ醍醐、いきなり現われるなってゆーかアナタそのセリフは今のオレの思考へのツッコミですかッ?!
「なんだよ別にいいだろーが」
 ああ、びっくりした、京一に言ったのか。心臓が口から溶け出すかと思ったよ。
それにしても醍醐、いつもながら何でそんなに真面目なんだろうな。そうか、そういえばさっき美里がマリア先生に「ちゃんと皆を見ててね」って頼まれてたんだよな。マズイ…。
 そっと隣を窺うと、美里が困った様な顔でこっちを見ていた。スミマセン…(泣)ごめんなさい。今のはウソです。もう二度と悪いことはしません。清く正しく美しく生きて行きます…って美しくは無理やっちゅーねん。
……悪い」
 いやその美里さん、反省はしてるんだけど口から出てくるのはこれだけってゆーか、何とかこれで許して下さい。
ほらッ京一も謝れって。でも、桜井のしょうがないなァもう、という声と美里の笑い声で何とか許してもらえた様だ。
 ああ、良かった。京一との友情を深めるあまり、美里の信頼を失うところだった。ムズかしいんだよね、この感情値調整ってのは。つーか、感情値調整って何やねん。

「んじゃ〜ひーちゃん。昼飯賭けて何かやんねェ?」
「今度は賭け事か、全くお前って奴は」
まぁまぁ醍醐、それ位は大目に見てやれって。まだ時間あるし。
「なあ、ひーちゃん何にする?」
うーんトランプとか?…って道具ねーじゃん。何も無くても出来るものってあったかな。
 そうだアレだ!「腕相撲」!一度でいいからやってみたかったんだよな〜アレ。中学でも高校でも、クラスでたまにやってるのを見かけたんだけど、当然一緒にやれる訳は無く(泣)ただ眺めているだけの日々。だがしかし!オレにもついに念願の腕相撲デビューの日がやって来たのだ。ふふふふふ〜オレはやるぞ〜もう、どっからでもかかってこいッ(違)
 オレは意思表示として机に肘をつき、手を京一に向けて差し出した。
「え?!」
「…手を、出せ…」
え?!じゃないよ、もう。腕相撲だよ、分かんないかな〜?見ろよこの正しい腕相撲スタイルを。やったことないけど、型はバッチリよ〜?
「ああ、腕相撲という訳か」
そうそう醍醐。さすがにその道のプロは分かってるな、って誰がプロだっつーの。
 腕相撲が気に入らなかったのか、京一はさんざん躊躇った後、ようやく手を差し出した。はー良かったよう(安堵)腕相撲なんて嫌だって言われたら、どうしようかと思っちゃったよ。途中で気が変わったら困るから、しっかり握っとかないと。
 あれ?何か緊張してないか、京一。もしかしてお前も腕相撲初めて?なんて、ンな訳ないっつーの、オレじゃあるまいし。よし準備オッケー、と醍醐を見ると、何故か苦い顔をしていた醍醐はハッとして自分の手を添えた。

 「よ…よし。3回勝負でいいな?では行くぞ、Ready,Go!」
うるあッ。……あ、アレ?何かあっさり勝っちゃったんですけど。
 京一は剣道やってるし、腕の力が無いって訳ないよな。普通こういう時は、よっしゃーいけーそこだー負けるかー、とか言いつつ白熱した試合展開を見せて、最後に「お前強いな」とか「次は負けねーぜ」とか言うもんじゃないの?違うの?
 ハッ、そうか皆が白熱した試合(?)を出来るのは、最初から本気を出さないからなんだ。腕相撲といえど勝負事だもんな、駆け引きってヤツが必要なんだろう。奥が深いぜ腕相撲。
 ゴメン京一、オレ初心者だから分かんなくて、最初から全力でとばしちゃったよ、びっくりしただろう?次はもう、大丈夫だからな。
「次行くぞ、Ready,Go!」
 今度はそれほど力を入れていない。思った通り京一もそれほど力を入れてこなかったので、腕はそのままピタッと止まってしまった。……………。あのー京一さん、オレこの後どうしたら良いんでしょうか?
 恐る恐る顔を上げると、オレを見ていた京一とバッチリ目が合ってしまった。そのとたん京一の顔がみるみる赤く染まって行く。ええッ?!睨んでませんよ、オレ。うわ〜、お、怒ってるー?!(泣)
 どうしよう、と(心の中で)あたふたしてみるが、どうにもならない。うう、さっきズルしたから怒ったのかな。それとも今、金欠病だからオレが負けてくれるの待ってるとか?分かんねーよ、うわ〜ん、誰か助けて(パニック)
 すがる気持ちでそっと周りを窺うと、不思議そうな美里と桜井の顔と、その横で何故か顔を青くしている醍醐が目に入った。
「ねえ、何で全然動かないの?」
 おお!ナイスツッコミ、桜井。もう誰でもいいからどうにかして!
「それはだなッ」
うわっ、醍醐。急に大声出すなよ、びっくりするだろ。
「2人の力が全く互角なために、互いの力が相殺されてああいった事が起こるんだッ」
「ふーん、そうなんだ」
「そうなんだッッ!!!」
 へ〜え、そうなんだ…って違うやん(ビシッ)おいおい醍醐、それってどういうボケ?力なんて出してないっつーの。どうせボケるんなら、ちょっと2人の世界に浸ってて…くらい言わないと。
それより何か握り合ってる手がだんだん締め付けられるんですけどね?ちょっと、きついよ京一。もうちょっと手、ゆるめて…(泣)
 恐る恐るもう一度京一の顔を覗き込んだオレは、次の瞬間恐怖に凍りついた。
ギャー!!!まだ睨んでる!怖!!やっぱり怒ってるよ、どうしよう。
 とりあえずオレは心の中で一所懸命念じることにした。オレ達は以心伝心なんだからきっと京一にも気持ちは伝わるはずだ。
 ごめんよ〜〜わざとじゃないんだ〜許して下さい〜勝ちは譲ります〜ぜェぜェど…どうだ…ダメ?
京一さま〜とりあえず手をゆるめてくださいませ〜っつーかゆるめろ〜…いっいえいえ今のは冗談です
 腕相撲したまま念じるのは大変だな。こういう喋り方してる裏密も実は大変な思いをしているんだろうか。
きょういぢ〜手ェいずいっちゃ〜ゆるめてけらいん〜おどけでねーぞ〜…まだ通じないのか?!仙台弁じゃ通じないっつーの(ビシ!)
クソオォォもう切れた!離せっつってんのが分からんか!いてまうど!コラァ!
……京一」

 恐慌状態のオレが口を開いたと同時に終業のチャイムが鳴り響いた。
そのとたん京一の腕から力が抜け、あっさりとオレの勝利が確定した。
 周りでは美里と桜井が、やっぱり龍麻クンは強いねーとかすごい勝負だったわねーなどと言っていたがオレはもうそれ所ではなかった。
いっいいの?京一、オレ勝っちゃって。
混乱していると、ふいに京一が立ち上がった。ビクビクしながら(心の中でだってば)見上げるオレに京一は「ニヤッ」といういつもの笑みを向けてくれた。
「やっぱひーちゃんは強えェな。俺の負けだから購買で何か買ってくるぜ。待ってろよッ」
 言うなり部屋を飛び出して行ってしまった。良かった〜もう怒ってないみたいだ。ちょっとまだ顔が赤かったけど、いつもの京一だ。なァ醍醐そうだよな。
醍醐の方を見やると青い顔のまま放心している。どうしたんだ?持病のシャクか?そんな図体して意外と体弱いんだな。
 それにしても、腕相撲って力勝負だと思ってたけど、実はものすごい精神力が必要だったんだな。
今日はちょっと失敗しちゃったけど、次からはちゃんと覚えて立派な腕ズモーラーになるから、いつでもリベンジオッケーだぜ、京一。またやろうな!
 フラフラと教室を出て行く醍醐の後姿を見送りながら、そう心に誓うオレなのであった。


 サーノさま暴サイト開設一周年おめでとうございます
小心者のしまこの為に、いろいろお気遣い有り難うございました。
これからも心漫才ノンストップで頑張って下さい。こっそりと何処までもついて行きます(ストーカー?)
 ええと、今回は私が愛してやまない、表裏のパロディー(のつもり)に挑戦してみました。
しまこからの溢れんばかりの【愛】を広い心で(笑)受け止めてやって下さい。

2000/05/17 Release.

 サイコー。もうこのまま間幕・拾壱之七とか偽って出しちまおーかとさえ思っ(バキッ)…いやマジで。
この作品の挿し絵的イラストも対で戴きました〜!!\(^^)/
緋勇(……ええと…よく分かんないんだけど、…何か可笑しいのか? 何で? オレと京一とで腕相撲したんだろ? ほのぼのしてエエ話やん? …何でサーノさん、そんなウケてんだ??)←はい、てってー的に間違えてます。