A LUNCH

TOMO

こんにちは、先輩!
1時間ほど遅れてしまって自己嫌悪に陥るほど悔しいですぅ〜(涙)
絶対間に合わせるつもりだったのになぁ〜。
できるだけ先輩のとこのひーちゃんに似せてみたのですが上手くいかなかったです・・・。
くぅ〜、もっと上手く書きたかったですぅ〜(泣)


屋上に続くドアを開けると同時に、ムッとするような熱気が外に逃げ、かすかな風が足元を通り抜けた。突き刺すような日差しに一瞬視界が白くなる。
眩しそうに目を細めて手をかざし、京一はすでに所定の位置と化した場所を目指して足を進めた。
わざわざ暑いのにこんな屋上なんかに来る人は少なく先客は見当たらなかった。
「やっぱ誰もいねェな。屋上の日陰がけっこう居心地いいってのを知ってるヤツはそうそういねェからな」
京一は嬉しそうに呟き、片手に持つ弁当をブラブラ揺らす。
暑い屋上で唯一日陰になる場所はちょうど屋上に出るドアの裏側に位置していた。ドアのある建物が飛び出ていて、そこだけが日光を遮れるのである。
(そっれにしても、ひーちゃん何処行っちまったんだろう?一緒に昼飯食おうを思ってたのに何時の間にかいねェし・・・)
ついさっき買ってきた飲み物を飲みつつ、眉間に皺を寄せて考え込む。
大抵の場合、授業が終わるとゆっくり片付けしている龍麻の元に京一が向かい醍醐をまじえて一緒に昼食にしているのである。
「醍醐も用事があるって言うしよぉ。チッ、今日は淋しく俺一人で食う・・・・おわっ!!」
ブツクサと不貞腐れて目当ての場所に回り込んだ京一は、飲んでいたジュースのパックを落としそうになってしまった。
慌てて持ち直したが、いままで飲んでいた分が気管に入り大きく咳き込んだ。
誰もいないと思っていた場所に気配を消した人が座り込んでいたのである。コンクリートの壁に背中を預けて
黙々と口に箸を運んでいたのは京一が探していた人物───龍麻だった。
京一に初めから気付いていたのか龍麻はいきなり現れた京一を見上げるだけで何も言おうとはしなかった。
一人動揺してしまった京一はそれを隠すかのように、「へへっ」と笑って乱暴にドサリと腰をおろした。
「なんだよ、ひーちゃん。先に来てたのか」
「・・・・・・・・・あぁ」
「気付いたらいねェし、探しちまったぜ」
京一は弁当とジュースを置き、両手をいっぱいに伸ばした。
ついでのように腕をグルグル回して体をほぐしている京一を見る龍麻の瞳は前髪に隠れぎみで分かりづらいが、冷静さと人をひきつける強さを秘めていた。そんな龍麻の心情は瞳とは裏腹に大気圏を突き抜け宇宙に飛び出すほど舞い上がっていた。
(“探しちまったぜ”って・・・オレのこと探してくれてたってことだよな!う〜わ〜、なんかめちゃめちゃ嬉しいな。それってトモダチだからだろ?くぅ〜〜“トモダチ”だなんていい響きだよなぁ〜)
幸せ気分を満喫しつつも表情一つ変えず、龍麻は卵焼きを口に運ぶ。
その隣では京一が、「腹減ったぁ〜」と情けない声を出しながら珍しく持参の弁当を広げ始めた。
(ココが取られないように先に来てたんだけど・・・やっぱ一緒に来たほうがいいみたいだな。うん、これからは気をつけるからな、京一!・・・・・・・・・・・って、京一が弁当だなんてめっずらし〜♪)
パカッと開けた弁当を目の前に京一は思わず絶句した。
ご飯におかずがきちんと入ってるのはいいとして、問題なのはその飾り付けにあった。ご飯の上にはそぼろやらなんやらで色鮮やかにハート型が作られている。おかずに入ってる肉の骨には明るいリボンなんかが結んである。デザートであるフルーツが入れてあると思われる別の小さなタッパーはカエルのキャラクターが描かれていて、どう考えても高校3年の男子高生が持ち歩くようなものではなかった。
京一は素早く蓋をしめて包んであった布を被せ、恐る恐る隣を覗き見た。
「・・・見たか?」
コクリと頷く龍麻。鍛えられてる動体視力がこんなところでも発揮されていた。
ふぅー、と諦めたようなため息を吐いて、京一は再び弁当を開いた。
自分で作った弁当を持ってきていた龍麻は羨ましげな眼差しで京一の弁当を眺めていた。
(いいなぁ、手作り弁当だなんてさぁ〜)
「・・・いいな」
ふいに出てしまった言葉に言った本人でさえも(心の中で)焦った。平然としている様子から窺い知ることはできないが、かなりパニック状態になりつつもどうしたらいいのかわからず黙っていると、
「え?ひーちゃん、肉食いたいのか?しょーがねェな。ほら、やるよ」
京一はアルミを巻かれている肉の骨の部分を持って龍麻の弁当の蓋に移した。
(いや、別に肉が食べたい訳じゃないんだけど・・・まぁくれるんだったら喜んでもらうけどさ。・・・・・・・・も、もしかして京一ってば彼女いたのか!?手作り弁当って言ったらやっぱ彼女からもらうもんだよな?)
龍麻がいろいろ考えてる間に京一は箸で綺麗に飾られていたご飯の上の形をぐしゃぐしゃ、と崩してしまった。
「なんだってこんな形に作るんだか・・・」
理解できない、という風に弁当を見つめる。ハートの形のなくなったのを確認してから、気を取り直して京一はやっと弁当を食べ始めた。
「もったいないな」
ふいに龍麻が呟いた言葉を理解できずに京一は、「何が?」と視線で訴える。・・・口に物を入れていて喋れなかったのだ。
「形崩したから (あそこまで綺麗に作るのって時間かかるもんだろう?それをいともあっさり崩しちゃうなんてさ・・・作った彼女に悪いじゃないか)」
「あぁ、これか」
京一は自分の弁当に視線を落とし、ちょこっと眉をひそめて、
「恥ずかしいだけだぜ、こーゆーのって」
「・・・そうか (オレだったら嬉しさのあまり周り中に見せびらかすのになぁ)」
「そうそう。それに食っちまえば同じだぜ」
よほどお腹が空いていたのか、それだけ言うとまた食べることに集中する。
そんなもんかな、と思いつつ龍麻も京一からおすそ分けしてもらった肉に手を伸ばした。
(京一にあげたものを勝手にもらっちゃってすみませんッ!)と密かに合掌してから一口食べてみる。
「おいしい」
「そうか?・・・うん、まぁまぁの味だな」
(またまた〜、そんな辛い評価しちゃって。ものすごくおいしいじゃないか。料理の上手い彼女なんて至れり尽せりだな)
龍麻の反応にそう言いながらも顔は嬉しそうに笑っていた。
そんな京一に龍麻も笑い返そうと努力はしたが・・・・・・・・・・上手く笑えない。
顔の表情が引きつるようにしか動いてくれず、龍麻は仕方なく諦めて残っている肉を食べた。
(う〜ん、それにしても京一の彼女って・・・後輩かなぁ?人気高いもんな。でもお姉ちゃん好きだから年上か!?・・・意表をついて同い年?)
「・・・それは彼女から?」
「ち、ちげーよ!おこぼれでもらったもんだ」
首を大きく振って否定する京一に龍麻は疑わしい瞳を向ける。それに気付いた京一はもう一度否定して不自然に目線を逸らした。
「そうか」
龍麻が漏らした言葉を納得してくれた、と思った京一はホッと胸を撫で下ろして空のほうに逸らしていた瞳を弁当に戻した。
(・・・彼女ができたんだったら、一言くらい言ってくれてもいいのに。オレなりに祝福するのになぁ。・・・・・・京一にとってオレは“トモダチ”で、何でも話してくれると思ってたけどオレの思い込みだったみたいだな。うぅ〜、気分が沈んできちゃったよ)
食べ終わった弁当箱を片付けて、虚しく飲み物を口にした。
京一も最後のフルーツを口に放り込み、いそいそと片付け始めた。満足そうに、「食った食った♪」と両手を後ろに付き空を見上げる。ポッカリと浮かぶ雲を目で追い、しばらくしてから目の前の龍麻に話し掛けようと首を戻し、
「なぁ、ひーちゃん・・・・・・・・・・・・・ってどうかしたか?」
何も変わっていないように見えるが微かに暗い龍麻の雰囲気に敏感に察知した京一は、一転して心配そうに声を少し潜めた。
龍麻はちらりと京一を見て、スッと目を伏せて片膝を抱え込む。
(京一って優しいなぁ〜。トモダチでもないオレにこんなに親身になって心配してくれてんだもんな)
・・・龍麻の思考回路はマイナス方向にひたすら暴走中だった。
日頃喋らないが、それに輪を掛けたように何も言わない龍麻。
痺れを切らして京一は龍麻に詰め寄ろうとしたが、それを遮るようにして昼休み終了の予鈴のチャイムが鳴り響いた。
龍麻はパッと立ち上がって弁当と飲み物を掴み、「授業だ」と言って屋上出口のドアに向かっていった。
いきなりの行動に京一は遅れて立ち上がった。下に置かれた弁当を手に取る瞬間、ちょっとそれを見つめて小さくため息をつき、
(まさか、姉が彼氏に作った弁当のおこぼれだなんて言えねェもんな)
ヘンなとこでこだわる京一は作らなくいい誤解を幾つもつくったまま、屋上を後にするのだった。

ちなみに・・・。
この後もこんな誤解をされてることを京一が気付くことはなかった。

2000/05/20 Release.

 後輩よありがとう! 消してくれと言われた序文も可愛いから残したオレ様を許せ(笑)
まさしく「勘違い」というテーマに相応しい一品でした!
緋勇(やっぱ京一って彼女いるんだなー。そりゃそうだろうな。あんまモテ過ぎて、特定の彼女絞れないんだと思ってた。)←何でお前ってそう人の話を最後まで聞かないんだ…