犬神くんと散歩

ベミ

 今日の東京は良いお天気。嬉しくなった龍麻くんは、飼い犬の犬神くんを連れてお散歩に出かけました。
 最初に会ったのは、龍麻くんの大の仲良し京一くん。彼は天気が良いと、必ず学校の近くの道端でナンパをしているのです。しかし、未だに成功したと聞いたことはありませんが…。
 今日も今日とて、ナンパ中の京一くんに龍麻くんは声を掛けてみました。
「京一く〜ん。おっはよ〜っ!」
「おう、なんだひーちゃんか。げ、犬神を連れてきたのか!」
 そうです。彼、京一くんは、犬神くんが大の苦手。理由は聞いていないので判りませんが、たぶん前に犬で恐い思いをしたのでしょう。そう思った龍麻くんは、京一くんにこれ以上恐い思いをさすわけにもいきません。犬神くんの綱を引くと、京一くんに別れを告げて先を急ぎました。

 次に出会ったのは、京一くんの親友である醍醐くんです。もちろん龍麻くんも親友と呼べるくらい仲良しですが、京一くんと比べると少し堅いところがあるので、遊び友達というよりは、お兄さんのような感じだといつも龍麻くんは思っています。
「醍醐くん。おはよう。」
「よお、なんだ散歩か?」
「うん。天気がいいからね」
「い、犬神もいるのか…」
 そうです。醍醐くんも犬神くんが苦手でした。理由は…これまた尋ねたことがないので判りません。でも、醍醐くんの視線を追っていると、犬神くんの背後をしきりに見ているようです。どうやら、彼には犬神くんの背に乗る“何か”が見えるのでしょう。
 龍麻くんは、また醍醐くんをあまり怯えさせないように、犬神くんの綱を引くとそそくさとその場を立ち去りました。

 さてその次に出会ったのは、桜井さんと美里さん。龍麻くんや京一くん、醍醐くんとも仲良しの女の子達です。
「やっほー。ひーちゃん何処行くの?」
 桜井さんの方から声を掛けてきてくれました。
「うん。天気が良いからね。犬神くんとお散歩なんだ」
「犬神くん?」
「あ、そういや二人にはまだ紹介してなかったね。」
「うっわー!大きい犬だね。何処で買ったの?」
「拾ったんだ」
「へー。何処で?」
「うん。旧校舎。」
 にっこり笑って龍麻くんが答えると、桜井さんと美里さんは硬直して青褪めてしまいました。どうしたのだろうと、龍麻くんは首を捻りましたが、二人の顔が余りにも青いので、その場を立ち去ることにしました。

 その日最後に出会ったのは近所の猫のマリアでした。マリアは大変美しい猫で、気位も高いという評判の猫です。でも何故か龍麻くんには懐いていて、向こうから寄ってきては撫でろと催促の嵐。しかし、今日は犬神くんが一緒です。何もなければ良いのですが…。
 案の定、龍麻くんの姿を見つけたマリアは、その白い流麗な肢体をしならせてやってきました。そして、いつものように龍麻くんに擦り寄ろうとした時、思いがけない邪魔が入りました。
 犬神くんが、マリアと龍麻くんの間に首を突っ込んだのです。それでもめげずに、マリアは今度は反対側に回って首を差し出しました。
 でも、ここでもやはり犬神くんの頭が邪魔に入ります。
 怒ったマリアは、一声唸ると前足を上げて犬神くんの顔めがけ、振り下ろしました。そして、まるで「フンッ!」とでも言いたげに、長い尾を立てて去って行きました。
「犬神くん。遊んでもらって良かったね」
 にっこり笑う龍麻くんの顔を、犬神くんは何か言いたげに見事な引っかき傷のついた顔で見上げましたが、結局は何も言わずにまたのそのそと家に向けて歩き始めました。

‐ ひょっとしたら、続くかも… ‐