K
<龍麻くんと犬>
いつも通り、京一が龍麻と学校帰りにぶらぶらと歩いていたときの事である。
龍麻はふとその物体に目を向け、足を止めた。
犬である。
「どーした、ひーちゃん?」
「・・・・・・・・・・・・・・。」
「その犬がどうかしたのかよ?」
「・・・腹が減った・・・。」
「・・・・・・?」
龍麻はポケットを探り、平べったい財布を取り出した。
掌の上に逆さにすると、微かな音を立てて1円玉が3枚、転がり落ちた。
龍麻は再び犬を見た。
「いぬ・・・その気になれば・・・」
“駄目だ、目が死んでる”
京一は友人の悲惨な状況に静かに涙を流すのであった。
(お前の家で何か食わしたれや、京一)
<裏密さんと猫>
京一が何とか犬を見つめつづける龍麻をひきずって30mほどきた頃、
そこには地球上の生命体で何が苦手だと言われたら3本の指に入るであろう
未確認歩行物体が存在していた。
京一は素早く隠れた。
まさに神速。さすがは神速の木刀使いである。この場合木刀は関係ないが。
裏密は何かを見て、その足を止めた。
「・・・・・・・・・・・・・・。」
京一は龍麻を抱えて電柱の影からその物体を注意深く眺めていた。
本来なら一秒たりとも見ていたくなどないモノなのだが、その物体が自分たちの帰り道を塞いでいるため、
一刻も早く退いて欲しかった京一は、仕方なくいらいらとその物体を見ていた。
「うふふふふ〜。ちょうど、よかったあ〜。生贄が、たりなか・・・」
その瞬間京一はUターンして走り去った。
<小蒔さんと鳥>
何だかしらないが2人は学校まで戻ってきてしまっていた。
ふと校庭を見ると、弓道武の面々がそこにいた。みんなで空に向かって弓を構えている。
フォームの練習だろうか。
その中には小蒔の姿があった。彼女は部長なので当然いる。
某剣道部サボリ魔部長とは違うのである。
「おい、それは俺のことか?」
ナレーションにつっこんではいけないぞ京一。
「はァッ!!」
どすどすどすどす。
空を飛んでいた何かに大量の矢が突き刺さり、燃え盛る。
ぼとっ。
それは、こんがり焼けて落ちてきた。
「・・・・・・・・・・・・・・。」
「さあって、おやつおやつッ。あ、京一、ひーちゃん、キミたちも食べ」
龍麻は狂気すら宿した眼でその物体を見た。
「とり・・・とりなら大丈」
京一は龍麻を引きずって逃げ出した。
<美里さんとゴキ>
いつもは通らない公園の傍を通った時、2人はその人物が美里である事に気付いた。
「美里・・・。」
「なにしてんの?」
「あら、龍麻、京一くん、こんにちは。
うふふっ、ボランティアでゴミ拾いをしているのよ。」
そういう美里の姿は全く汚れていなかった。
周りで熱心に作業を勧めている人々は既にぼろぼろであったのだが。
とことん自分の手を汚す事なく善行に励む女であった。
「あ``」
「うふ・・・?」
わさわさわさ。
ソレは、長い触角をなびかせ、手足を蠢かせながら素早く走り回った。
「ゴキ・・・」
美里は微笑んでいる。こめかみにブチ切れそうなほどに血管を浮かばせて。
「うふふふふふふ」
二人は逃げだした。背後から連続した爆発音と、
「じはーど」
という美里の声だけが繰り返し聞こえていた。
<醍醐くんとアレ>
二人が歩いていると、醍醐が塀の横に立っていた。
「よォ、醍醐。」
「じゃあなッ、醍醐。」
2人は挨拶していってしまったが、実は醍醐は幽霊に金縛りにされていた。
2人に去られてしまった醍醐は、ただただ立ち尽くしていた。
「俺の出番は、これだけか・・・?」
そうです。
<如月くんと亀>
ふと気付くと、前方に如月が立っていた。
てゆーか、二人はぶつかった。
「何をするんだい・・・気配でわかるだろうに」
「気配って・・・消してんじゃねェか。」
「ふっ、そうともいうな。」
よく分からない。
「ところでお前何持ってんだ?」
「これは・・・亀の卵なんだが・・・漢方の材料にいるとかで―――
ああ、でも、亀・・・亀なのに・・・」
龍麻は病人のような目でぼそっと呟いた。
「玄武如月・かめたまご・・・」
「うわあああぁぁぁぁ―――!!」
京一はまたもやおかしくなった龍麻を引きずって逃げ出した。
<京一くんと院長>
気がつくと桜ヶ丘中央病院の傍だった。
イヤな予感を覚えた京一は、龍麻を引きずってさっさと病院を迂回してしまった。
「ぐひひひひっ・・・って、ワシの出番はナシかい」
ええ、その通りです。
―了―