緋勇の幸せ

 またか! 何でみんな、比良坂を「カワイイ」だの言うかな。
あいつはな、スパイだったんだぞ? それも、かなりの力を持ったヤツなんだぞ?
この雨紋ってのも、結構腕が立つし、イイ奴みたいなんだけど…
 全く、大したヤツだったぜ、比良坂は。これだけ騙し通せたんだもんな。

「あのひとって、龍麻サンの…、あー…、大事なひと、だったのか?」
…?
大事な人って、どういう意味だ? 大事も何も、敵だったんだぞ。
…まあ…、こいつはデキる、と思ってからは、手合わせの一つもしてみたいとは思ったさ。
あの時だって、ちゃんと約束したんだぜ?
今度、一緒に手合わせするって。
なのに、結局逃げられちまうなんて…クソッ。期待はずれだ!
……比良坂、は」
「ん?」
………比良坂と、約束を…した。」
 うーん。もしかして、万が一にもあそこから脱出出来て、改心してオレを訪ねてくれるってこともあるだろうか。
オレは待つつもりだった。
アイツは殺しても死なない、しぶとい女だ。多分。
だから、きっといつか、あいつと拳を合わせる日が来ると思う。
「いつか…叶うといいな。」
……ああ。」
 気付いたら、雨紋が腕をのばし、オレの肩に回してきていた。
蓬莱寺のお陰で、こうゆうのも大分慣れたんだけど…。
 真横にある雨紋の顔をちょっと眺めて、コイツもスキンシップ好き、と心に刻む。
心構えをしておかないと、心臓に悪い。
コイツの<<気>>も読めるようにしておいて、それで万全だ!
 おっと、気を抜いたら、ちょっと目が合ってしまった。が、雨紋はニヤッと笑う。
コイツも動じない東京ッ子だもんな。そっか、オレの目、平気なんだ。…へへへ。
他校のおトモダチまで出来ちゃったよ。幸せだよなあ。都会って素晴らしい。
 呑みに行こうだとか、未成年な上学ラン着用中なことをまるっきり無視したような、雨紋の発言を聞きながら、オレはたっっっぷりと幸福感に酔っていたのだった…。