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転校生ズ

(主要人物:葉佩 喪部 ジャンル:ギャグ キーワード:(再投稿) - 作品No.25)

最終更新:2006/01/20(Fri) 01:21
寄稿者:ハリハラ

 ―――夜、喪部の部屋

 コンコン

「ん、誰だこんな時間に?」

 ガチャ

「俺、葉佩九龍。最近暗視ゴーグルがきつくなってきた、まだまだ成長期のトレジャーハンター」
「あぁ、まるで水中メガネみたいになってるな。というよりそれは水中メガネだ」
「なんだい、パッとしないツッコミだな……だけどまぁ、いいか」
「何がだ?」
「もうすぐ寮の忘年会があるだろう?」
「あぁ……そんなものもあったか。ボクには関係ないけどね」
「俺とお前で漫才やろうぜ」
「ハッ、くだらない。誰がやるかそんなもの」
「俺たち転校生ズ!」
「おい、まさかそれがコンビ名か? どうしようもなくセンスのない名前だな。言っとくがボクはやらないぞ」

「転校生ズ!」

「なんだそのポーズは!? ボクの許可なく発展させるな!」
「ヒモロギをモチーフにしてみたよ」
「しかも発展させる方向が間違ってるぞ! 転校関係ないだろう!」
「ヒモロギだけにベジタブルでフレキシブルな感じがトランスファーブルな俺たちにしっくりシックに決まっちゃうんだよね」
「おい、やめろ。ボクはそういう無意味な語呂合わせが一番嫌いだ」
「(物部と喪部の語呂合わせも十分無意味だけどな)あぁ、それはすまなかったな」
「聞こえてるぞ。そしてわざと聞こえるように言ってることにも気づいてるぞ」
「なぁ、やろうぜ。俺とお前なら絶対うまくいくって」
「うまくいくとかいかないとかの問題じゃない。そんな恥ずかしいマネはボクにはできないね」
「なんだよ、どうせやることないんだろ、お前?」
「バカな。このボクをキミのような劣性暇人種と一緒にするな。その日はあいにく予定が入ってるよ」
「えー、なに?」
「キミは本気で言ってるのか? それとも、とぼけてるのか?」
「?」
「なんだバカなだけか」
「うん」
「ここの全員がその忘年会などという戯けたイベントに注目するのなら、それだけボクたちの目的に近づきやすい状況だとは考えないのか?」
「うーん」
「キミがそうやって遊びに夢中になるのなら、それでもいいさ。だけどボクとしては正直がっかりだな。ロゼッタ協会の送り込んだ人間が、よりによってこんな無能な男だったとは」
「……」
「勝手にするがいい。あとで後悔するのもキミの勝手だ。だが忘れるな。この学園の《秘宝》を手にするの1人だけ。それがボクたち―――」

「転校生ズ!」

「やらせるな!」
「うまいなー。お前、ヒモロギうまいなー」
「ボクの優秀な頭脳があのくだらない化人を完璧に記憶してしまってるだけだ! その嬉しそうな顔はやめろ!」
「なんか、絶対成功しそうな気がしてきたよ」
「するわけがないだろう。成功以前に、そんなことをする意味が無い」
「意味ならあるぞ」
「へえ。ならば聞くだけは聞いてやろうか。どうせ寝るまでの時間を持て余していたところだ」
「お前は天岩戸の話を知ってるか? アマ何とかいう引きこもりの神様を、みんなでパーティーに誘い出して一晩中騒ぎまくりのビールかけまくりだったという伝承だ。そのときアマ何とかがMVPで貰ったのが今の日本列島だという」
「チョット待て。そいつらは何に優勝したんだ?」
「俺が独自に調べたところによると、この学園にはその時と同じ風習が続いている。今度の忘年会でもお目にかかれるらしい」
「ほう。キミが本当に天岩戸伝承を知っているかどうか疑問だが、一応、聞いてやる」
「なんと今度の忘年会の余興で優秀賞をとると、マミーズのお食事券1週間分が貰えるんだって」
「おい、そろそろ寝るからボクがベッドに入ったら電気を消して帰ってくれ」
「なんだい、つれないな」
「つまりは忘年会で目立てばお食事券がもらえるという話だろ。ああ、じつに有意義な情報だったな。キミにしては」
「ちなみにこの情報は廊下にポスターが貼ってあるから、あとで確認するといい」
「もういい。キミの話は聞くだけ無駄だった。これ以上酸素を浪費してボクの優秀な頭脳に負担をかけないでくれ」
「まあまあ、そういわずに思い出作りだと思って出場しようぜ」
「だからボクはこの学園生活に思い出など求めていない。《秘宝》を手にすれば明日にでも出て行きたいくらいだ」
「そんなことないって。馴染めば面白いって学校生活も」
「ハン、くだらない……いや、そうか。わかったぞ、キミの狙いが」
「え?」
「くくくっ……そういうことか。ボクをくだらない学校行事などに縛り付けて、その間に出し抜こうって腹なんだろう? あいにくだったね。ボクがそんな手に引っかかると思っていたのかい? くくくっ……おめでたい男だ」
「バカ。お前の頭はツノの土台か?」
「なんだとこの劣性人種」
「秘宝探しなんて学校生活の合間に見付ければいいんだよ。とりあえず今は今を楽しむべきだ。せっかく学校に潜入してるんだから」
「……キミは本気で言ってるのか?」
「うん」
「くくくっ……そうか、いや失礼。ロゼッタ協会もやきが回ったものだ。こんなクズしか人材がいないとは」
「学園生活すら楽しめなくて、なんのための《宝探し屋》か。思い出こそが何者にも代え難い宝物だぞ。友達が宝だぞ」
「ふん、それこそくだらないと言っているんだ。思い出なんてものに何の価値がある? ボクたち《宝探し屋》が追い求めるものはこの世に2つとない人類最高の《秘宝》だ。馴れ合いなどで分かち合える宝ではない」
「喪部……」
「キミに1つだけ忠告しておいてやる。友情などという無駄な感情に期待するな。2人の男が追いかける《秘宝》は1つ。ならばどちらが手にしようと、残された男の末路は……敗北、そして死あるのみ」

「それが俺たち転校生ズ!」

「やらせるなと言ってるんだ!」
「そっかー。表情までヒモロギにするのか。勉強になるなー」
「言っとくぞ。というよりもう何度も言ったぞ。誰が漫才なんかするか!」
「やろうぜって。絶対うまくいくから」
「いくか。そもそもボクには無理だ。あぁ、認めてやるよ。さすがに選ばれた人間であるボクにも、漫才は無理だ。ほら、これでいいだろう。キミの勝ちだ。だから帰れ」
「そんなことないって。お前には隠れた素質があるって」
「ない。さっきボクの優秀な遺伝子に聞いてみたけど、そんなの見当たらないと言ってた」
「聞いてみたのか」
「だいたい寒いんだよ、素人漫才なんかを舞台で披露するなんて」
「なんだって?」
「そんなことをすればボクらのあだ名は卒業するまで『あの面白くない人たち』だ。ボクにはそんな屈辱耐え難いね」
「やってみなければ分からないだろうが。なんでやる前から諦めてんだよ」
「諦めてるんじゃない。冷静にシミュレーションしてるんだ」
「忘年会の余興を冷静にシミュレーションできるお前だからこそ、必要なんだよ」
「やだね。やりたければキミ1人でやればいいだろ」
「それも考えてはみた。だけど俺、モノマネとか結構得意なんだけど、すどりんとネタがかぶってるんだよね」
「ついでにキャラもかぶってしまえ」
「そうなんだ。同じ事をやってもキャラで負けてるから、すどりんには勝てないんだよ」
「なるほど、キミなりに考えてはいたんだな。だが、だからといってボクと組めば勝てると読んだ根拠はなんだ?」
「……意外性、かな」
「意外性?」
「そう、いつもスカしてるお前が舞台の上で絶叫する。ヒモロギする。その崩れていくキャラクター像が見る者に衝撃と笑いを生むと思うんだ」
「帰れ」
「えー、なんで?」
「今、どっ引きする観客の凍りついた笑みが見えた。キミの考えてる方向性は間違っている」
「そうかなぁ。ウケると思うけど」
「ボクを笑いものにする気か。絶対にやるもんか!」
「あっ、ツノが!?」
「ボクを本気で怒らせるなよ。キミごとき、いつでもこのツノで一突きだということを忘れるな」
「よせよ、喪部。漫才のネタ合わせで変生するヤツがあるかよ。ていうかサイじゃないんだからツノで脅すなよ」
「ボクをここまで怒らせたのは誰だ! いい加減にしろと言っているんだ!」
「ちぇっ、なんだよ、せっかく人が誘ってやってるのに!」
「それが余計なお世話だというんだ! キミのような軟体生物などと馴れ合うつもりはない!」
「上等だ、コノヤロウ! ここで決着つけてやる! 銃を抜け!」
「このボクに銃を向けるとはいい度胸だな! ここで死ぬがいい!」
「ハッ、しょせん俺たちは敵同士!」
「いずれこうなる運命だったというわけさ!」

「それが俺たち転校生ズ!」

「帰れ! もう帰ってくれ!」
「わ、わかったよ。出て行くからそろそろツノ隠せよ。他のヤツらに見つかっちゃうぞ?」
「いいから出て行け! これ以上ボクを怒らせるな!」
「へいへい。それじゃまたな!」

 バタン!

「ふん、これだから無能な人間は。まったく、なにが『転校生ズ』だ……」

 ガチャ

「むしろ『転校生ズ』より『ヒモロギーズ』の方がいいかな?」
「ボクも今、それを考えていたところだ……いや、やらないと言っているだろう!」

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