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さらば転校生ズ

(主要人物:葉佩 喪部 ジャンル:ギャグ キーワード: - 作品No.26)

最終更新:2005/05/22(Sun) 17:44
寄稿者:ハリハラ

「ふん、まるで蟻の行列だな……」
「よォ、喪部。こんなところで何やってんだよ」
「葉佩か。キミも見てみろよ、ここから見下ろす光景を」
「あァ、確かにまるでアリンコの行列だな」
「何も考えることなく、ただ規律に従い、日々の糧を得るために骸になるまで働きつづける」
「そしてそれは、全てが群れの頂点に立つ誰かのため、か」
「ククッ、愚かなものさ……こんなクズども、踏み潰してやりたいね」
「あ、大きなエサを見つけたみたいだぞ」
「それはボクが落とした飴玉さ」
「いっぱい集まってきたぞ」
「ふん。ヤツらに運べるものか。無理に決まってる」
「いや、どんどん集まってきた。ちょっとずつ転がし始めたぞ。あー、だけど大変そうだな」
「がんばれ……がんばれ、アリさんたち!」

「それが俺たち転校生ズ!」

「どもー、転校生ズでーす」
「ふん、くだらない……どうしてボクがこんなマネをしなければならないんだ?」
「ばきゅん、ばきゅ~ん」
「おい、何するんだ! いきなり発砲するな!」
「敵影発見、戦闘態勢に移行します」
「やるのか? キミがその気なら、ボクも受けて立つぞ!」
「脈拍低下、心拍数低下」
「おい、どうした? 大丈夫か?」
「ハンターの死亡を確認しました」
「冗談はよすんだ、おい! 目を覚ませ、葉佩!」
「…………」
「葉佩! 葉佩ィ~!!」

「それが俺たち転校生ズ!」

「さーて、マミーズで昼食でもとるかー。カランコロ~ン」
「ふん、いらっしゃいませだな」
「おやおや、ずいぶん無愛想な店員だな……まあいいや、カレー1つ」
「水とカレーはセルフサービスだよ」
「わあ、福神漬だけ置いて行きやがった」
「らっきょうが欲しければ犬のように這いつくばってボクの靴にキッスすればいい」
「とんでもない店だな。もういい。帰るよ」
「お代は5千円だ」
「なんだってえ!? どうなってるんだ、この店はッ!?」
「フフッ、ならば説明しよう。なぜならここは―――」
「脈拍低下、心拍数低下」
「おい、どうした? 大丈夫か?」
「ハンターの死亡を確認しました」
「冗談はよすんだ、おい! 目を覚ませ、葉佩!」
「…………」
「葉佩! 葉佩ィ~!!」

「それが俺たち転校生ズ!」

「今日の体育はサッカーか。よーし、このPKは必ず決めてみせるぞー!」
「ククッ、このボクがキーパーをやっている限り、キミごとき劣悪遺伝子にゴールは不可能さ!」
「右と思わせ左に蹴る!」
「そう見せかけて正面に!」
「つーか、もともと蹴る気も無いし!」
「卒業する気もさらさら無い!」

「それが俺たち転校生ズ!」
「あっ、なんか踏んづけたみたいだ」
「どら、ボクに見せてみろ」
「え、いいよ。見なくたって」
「気になるだろう。見せてみろよ」
「そんな恥ずかしいよ。よせって」
「見せろよ」
「いやだよ」
「見せろ」
「いやだ」
「いいから見せろ!」
「あッ!?」
「…………」
「…………」
「……『好き』って……?」

「それが俺たち転校生ズ!」
「ふゥ、なんだか張り切りすぎて熱が出てきたよ」
「大丈夫か、喪部。ちょっと熱計ってみろよ」
「くそっ、ボクの体温計が見当たらない」
「必要な時に限って見つかないものってあるよね」
「あァ、例えば人生の道しるべとか」
「彼女と最初に出会ったときの気持ちとか」
「子供のころの思い出も」
「友と語ったあの日の夢も」
「例えどんなに悲しい日でも!」
「今日という日は二度とはこない!」
「だから日記を欠かさない!」
「それが俺たち転校生ズ!」
「ところでキミの日記に、ボクの名前はあるのかい?」
「それが俺たち転校生ズ~!」

「ありがとうございました! またお会いましょう!」
「ふん、夢の中で待ってろ」





「……ふゥ、これだけ通し稽古もやれば十分だな」
「ボクはまだまだ出来るんだけどね。まァ、キミがくたびれてしまったというなら、ここまでということで構わない」
「やれるだけのことはやったさ。もうネタは完璧。後は明日の忘年会本番を待つだけだ!」
「そのことだけど、ちょっといいかい?」
「うん?」
「ボクはどうしても今のオチには納得できないんだ」
「え、なんだよ今さら」
「『日記を欠かさない』それがどうしたというんだ?」
「それがどうしたと言われても……1つの教訓というか」
「どうも最後のオチが一番弱いような気がする」
「うーん、じゃあ『歯磨き怠らない』にする?」
「……いや、もっと根本的に違う気がするな」
「どういうことだよ?」
「そもそもいらないだろう、コントに教訓は」
「え、なんで?」
「くどいんだよ、後半から。最後のほうを削って、そこで終わったほうが賢明だな」
「いや、先生も審査員だから、教訓じみたことも言ったほうがいいって。審査委員長なんて阿門だぞ?」
「その時点で優勝はあきらめたほうがいいような気もするが、上を目指すのなら、この冗長さが全体のクオリティを下げている。ボクは削るべきだと思うな」
「削ってどうするんだよ?」
「サッカーネタあたりで切り上げるべきだ」
「勘弁してくれよ。それじゃ靴の裏ネタはどうするんだよ?」
「いらないだろう。特にインパクトのあるネタじゃない」
「冗談じゃない! あれが俺の一番お気に入りのネタなんだよ!」
「へェ、キミの好みか。だけどボクは別に面白いとは思わないな」
「中学のとき、マジにこの手で好きな女子に告白したんだよ!」
「ふられただろ?」
「うん」
「削るべきだな」
「えー」
「むしろその思い出ごと削れ」
「確かにあまりいい思い出ではないなぁ」
「つまり勢いとテンポだけで笑いを作ろうとするのがキミのネタだ。途中でテンポやタイミングをずらす工夫はしているようだが、それだけで引っ張ってもくどくなるだけだ」
「お前がそこまでネタに厳しい人間だったとは」
「ボクも、ここ数日の自分自身の変化に驚いてるよ」
「だけどそれじゃ持ち時間を余してしまうぞ?」
「なら途中からネタの路線を変える」
「どういう風に?」
「『それが俺たち~』だけだからな、要するに。そもそもどうして冗長に感じるかと言えば『それが俺たち~』を引っ張りすぎなんだ。そこがくどいんだよ」
「いや、それは俺たちのカラーというか、全体のオチになる部分だからさ」
「コンビ名を使ったネタは、応用が効かないからな。一般人に浸透しにくい」
「一般人にって、別に忘年会の一発コンビなんだから、浸透しなくていいだろ?」
「やるからにはハイレベルなネタをやりたい。たとえば、ボクたちのフォロワーが生まれるくらいのだ」
「おいおい、お前はどこを目指してるんだよ? 忘年会の余興だぞ?」
「ボクもあれから勉強した。キミの作るネタは正直言ってレベルが低い」
「言ってくれるなァ、おい」
「あともう1つ気にいらないところがある」
「うん。言ってみ」
「コンビ名は『転校生ズ』じゃなくて『ヒモロギーズ』のほうがいい。最初はそういう話だったはずだ」
「だからそれは、それこそ一般生徒はヒモロギなんて知らないからってことだろ?」
「知る必要もないだろう。意味などなくても語呂とインパクトは『ヒモロギーズ』のほうがいい。変更するべきだと思わないか?」
「おい、ツノ。いいかげんにしろよ」
「なんだとこの劣性人種」
「何を今さらグダグダ言ってんだよ! もう『転校生ズ』のTシャツまで作っちゃっただろ!」
「作り直せ。というかTシャツなんか作るな」
「もうこのネタでここまで段取りつけておいて、今さら手直しなんて出来るはずないだろ! バカ!」
「忘年会が始まるまで後10時間と少しある。間に合わせればいい」
「やってられねーよ! そこまでいうなら自分で作ればいいだろ!」
「何も全てを変えろと言ってるわけじゃない。少し目先を変えるだけでネタは生き返るはずだ」
「あーあー! ご立派なもんだね! お前もすっかり一人前の芸人さんさァ! もう俺にはついてけねーよ!」
「不貞腐れるな、三流。ボクのありがたい忠告を受け入れてネタを練り直すことだな」
「ふん! 誰がお前の言うとおりになんかするもんか! やりたいならお前1人でやればいいだろ!」
「図星を指されて逆ギレか。いかにもキミらしい短絡的な思考だな!」
「もうどっか行っちまえよ! 解散だ、解散! 転校生ズはここまでだ!」
「じゃあボクも勝手にさせてもらう! キミなんかに付き合って時間を無駄にしたよ!」
「バーカ、バーカ! 二度と戻ってくるな!」
「ふん、あばよ!」
「ちくしょう、何が優秀な遺伝子だ。せっかく楽しくやってたのに……喪部のバカ! 鬼は外~だ!」





 ―――皆守の部屋。

「あーあ。結局、忘年会の優勝は逃したか」
「ネタが分かりづらいんだよ、九ちゃん。『ゴーギャンに三行半をつきつけられたときのゴッホのマネ』とか言われても、俺たちにはさっぱり分からねェよ」
「そっか……」
「しかもそれを30分間熱演されても困るだけだぜ」
「すぐ出来るネタがそれだけだったんだよな」
「モノマネじゃねェよ、もう。それなら夷澤の『1人Vシネマ』のほうが笑えた」
「神鳳の真里野の『口寄せ忠臣蔵』とかな。笑い死ぬかと思ったよ。ったく、この学園は才能豊かなヤツが多すぎる!」
「九ちゃんのが一番寒かったな」
「あーあ、すっかりテンション下がっちまったよ」
「まァ、それは俺たちの言うことだがな」
「なんかテレビでも付けてくれよ。今はこの静寂さが身に染みるから」
「あァ、いいぜ」

『さあ、それでは今日も期待の新人芸人のみなさんにおおいにネタを披露してもらいましょう』

「お、おい、九ちゃん。コイツは……?」
「え?」

『続いて登場するのは、先祖返りの堕天使ポエマー、レリック喪部!』

「なんだぁ!?」
「コイツ、うちのクラスの喪部だろ? なんでテレビなんかに出てるんだ?」

『愚図ども、ボクのポエムを聞くがいい。ボクの青春は暗黒の嵐にすぎなかった―――。こないだ、ボクは暖かいスープが欲しくて合コンに初参加したんだ。周りでわいのわいの言ってる低俗な連中のことなんてどうでもいいけど(ボクは耳を塞ぐしかなかった)だがボクの隣にいた天使のことは、やたら気になったから声をかけてやったんだ。「キミ、天使の羽をどこに忘れてきたんだい?」って。そしたら彼女はこう言うのさ。「西日暮里」……天使―――そして西日暮里。ボクは新しい詩のインスピレーションを受けたような気がして、一月ほど部屋にこもったけど、どう考えても無理だったよ。クククッ……』

「うわ、なんだよこれ。寒いな」
「いや違うぞ、甲太郎ッ! まだ荒削りだが、この淡々となおかつ傲慢な口調の中に含まれるアイロニーとくすぐり方をみろ。自分本来のキャラクターを掘り下げることによってオリジナリティを確立しつつ、それでいてネタ自体は万人にも理解できる日常をターゲットにしている。だが、この根底に横たわるシュールさは、いったい……? くそっ、これが喪部のやりたかったことか! 頑張れよ、相棒!」
「……いや、そんなことよりよ」
「ん?」
「コイツ、結局何者なんだよ? ただの寒いお笑い好きか?」
「あァ、レリックドーンっていってな。ロゼッタ協会とは反目している間柄の組織があって、コイツもその一員なんだ。まぁ、そのやりくちといったら残虐非道のなんでもありで、俺も一度はコイツらの手にかかって死にかけたこともあるよ。つーかコイツの正体、鬼だから」
「……そうか」
「よし、いいぞ喪部! その調子だ!」
「そうだったのか……」

『おお、苦痛。愚図どもよ、ボクは美しい。石の夢のように! というわけで美しき天使のためにボクが貢いだ額は500万円を超えた。ついでに彼女には二股をかけられたわけだが(じっさいには四股だったけど)ボクは恋愛と500万円の間に新しい言葉の源泉を見つけたような気がして、一月ほど部屋にこもったけど、どう考えてもボクは被害者だよ。クククッ。不可解なスフィンクスのようにね。クククククッ……』

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