swear,again

サーノ

 フン♪ フフ〜ン♪ ラランラ〜♪

 心の中で鼻歌を歌いつつ、オレはコンロのスイッチを切った。
大分、この電気コンロってヤツにも慣れたよな。最初は、なかなか熱くならないし、切ってもすぐ熱が落ちないし、どうやって使うか四苦八苦したもんだが。
…え? なんで鼻歌を心の中だけで歌うかって?
人前で歌うのはもうコリたのよ。京一だって、「地獄の底から這い上がる前世魔人の唸り声」みたいなの聞きたくないだろうしな。

 さてと、お待たせ〜!
アナタ〜お食事出来ましたわ〜なんつって。新婚さんごっこする? 京一♪
…なんてな。勿論、やらないけどな。
前に、翡翠のマネして、京一のほっぺに付いたご飯粒食べたら、ものすごーく怒られたんだ…(泣)。お膳ひっくり返されちゃって。もう、星一徹もビックリよ。

「!…わ、悪ぃ! わざとじゃねーんだっ」
は? な、何が!?
そ、そっか。また心を読まれちまったんだな?
あん時も、「わざとじゃねーんだ」って言ってたっけ。
多分、カッとなってやっちゃって、でもご飯を粗末にしちゃったことを反省したんだろう。掃除も手伝ってくれたし、その後もずーっと謝ってくれてたし。
いや、オレこそごめんね。ちょっと思い出しただけで、気にしてるワケじゃなかったんだぜ? 新婚さんごっこなんかもうやらないから、お前ももう忘れてくれよな!
 この気持ちの方も読んでくんないかなーと思いつつ、じーっと見つめたが、京一は困ったように立ち尽くしている。
ふとテーブルを見ると、郵便受けから持ってきた手紙とかの束を置きっぱなしにしていたことに気づいた。
ハガキを手にしてるとこ見ると、整理しようとしてくれてたらしい。ありがとな〜。結構面倒なんだよ、DMと大事な手紙と選り分けるの。
でも、とりあえずご飯出来ちゃったから、先に食べちゃおうぜ。
……置いて、いいか…」
 何か言いかけてたみたいけど、オレの言葉に京一は顔を綻ばせた。
「おう!へへ、美味そうだなっ」
机の上をざざっと片づけてくれたので、そこに料理を並べる。
今日の献立は〜京一の好きなジャガイモの煮っ転がしと、ジャンボ焼売と、アサリの味噌汁ね。オレ特製、茄子のぬか漬け付き。
茄子は昨日家から送ってきた仙台茄子だ。漬け物に最適なんだぜ。
ご飯もオレんちで穫れたササニシキの新米。今年は豊作だったらしくて、沢山送ってもらったんだ。
 前に「結婚するなら、やっぱ煮物と漬け物の得意な女だよなー」なんて言ってて、ちょっとビックリしたのを思い出した。意外に古風だよな、京一って。オネェチャン好きで、誰にでも声かけてるクセにな。
オレだったら…いや、ケッコン出来るんだったら誰でもいいや。あはは……ふう。

 …京一…。
オレのこと、ヨメにもらってくれないかなあ。
煮物と漬け物、得意なんだけど…

「あのな、ひーちゃ・・・」
 あわわッ。ごめん、勿論ジョーダンですッ。今のナシ!
くだらないネタ連続でごめん〜! 取り消しますー!
 慌てて否定したのが伝わったんだろう、京一は言いかけた言葉を飲み込んだ。
はあ、怒られないで済んだみたい。良かった…。
 …って、もしかして今のツッコミ入るトコだったんじゃないか?
うッ…しまった! オレのバカ!
「なんでオトコをヨメにせなあかんねん!」って言おうとしたんじゃないか、もしかして!
あーッなんて勿体ないことを…しまった〜!
どおしてオレってこうなのよ〜(泣)。

 ガッカリしながら、最後に箸を揃えた。
…仕方ないか。
……次だ、次! またの機会もあるさ!
いつか、きっと。いつか努力して頑張ってさ。
オレの最大の野望を達成させるんだ…。いつか。

「…冷めるぞ。」
 気を取り直すつもりで声をかけたら、京一は「おう、すまんすまん」と言って箸を手にした。
「いっただきやすッ。」
あ〜腹減った、とか言いながら、漬け物に箸を突き立て、口に放り込む。
「やっぱ旨いよな〜ぬか漬け。ホッとするっつーの? 日本人なら米と味噌汁、漬け物ってね。」
…良かった、何も気にしてないみたいだ。
そうだよねー。やっぱ和食だぜ。いや、洋食も中華も好きだけどさ。
「…なぁ、ひーちゃん。いつか…この闘いが終わったらさ、いっぺん仙台を案内してくれよな…」
 …は? なんだ、いきなり? どして?
そりゃ勿論構わないけど…つーかもう喜んで案内しちゃうけど…。
ああ、茄子美味しかったのか? それとも米の方?
うんうん、色々美味しいもんあるぜ、仙台も。
……ああ」
ブンブン頷く。
任せろよ! 方向音痴気味なオレだけど、流石に生まれ育った街くらいは案内出来るぜ。
 へへ。
「闘いが終わったら」…か。
…終わっても、お前はトモダチでいてくれるんだな。
大丈夫、だよな。…へへへッ。

 「グルメ仙台の旅」とか「みちのく食べ歩きマップ」とか、念のため買っておこうと決心しつつ、手にしていた味噌汁を啜るオレだった。