たれぱ○だ

「…じゃあ、前に俺が持って来たぬいぐるみはどうしたよ? 捨てたのか?」
へッ? 何、突然…。ぬいぐるみって、あのパンダの潰れたようなヤツのことか?
まっさかー!! オレがトモダチからもらったものを捨てるワケないやん!
ええっと、アレはね。大事なものをしまっとく棚の、一番奥に大事に入れておいたんだよ。
ぬいぐるみって表面が割とデコボコしてるし、アレ白いから、外に置いといたらすぐホコリにまみれて汚くなっちゃうと思ってさ。
「…こ、こんなもん…大事にしまっておくようなモンじゃねェだろ…。」
そ、そうなの? じゃあ、どうするべきなんだ? ぬいぐるみって、何に使うの?
見た感じも可愛いとは思うし、手触りも何か妙にイイんだよねーコレ。でも、だからって大の男が、こんなものをなでなでしてたり、「かっわいい~」とか言って頬ずりしたりしてたら怖いよな? 特にオレじゃなァ。
「…く…は…ははッ。あっはっはっは!」
う…な、何で笑ってるんだ京一。…ホラ~。やっぱ、オレがぬいぐるみをいじってる図って、可笑しいんだろ? そしたらもう、大事にしまっておくしかないじゃないか…
「抱っこして寝るんだよ。枕元に置いといて。」
…ええッ!? マジ?
抱っこして…。そんなの、それこそ何だか女のコみたいじゃないか? そんなことないの?
うーん、まあ京一がそう言うんだから、そうなのかもな。そっか、抱っこして寝るもんなんだ。へえ~。
 ぎゅ~っと抱き締めてみたら、やっぱり柔らかくて気持ちいい。うーん…妙なしっとり感が、眠気を催すなあ…「抱っこして寝る」って感覚がよっく分かるぞ。やっぱ正しいんだな、うん…。うう、眠い…
 と。
ふわっと、髪が撫でられた感触にビックリして眼を開けた。ヤベェ、オレ正座したまま眠りそうやったんか。
「…ひー…ちゃん…」
なに? どうした京一。な、何でそんなカオ近づけ…あ、ああ。そうか。アレだな、「お休みのキス」。こないだから時々やってるアメリカ式つーかアラン式ご挨拶な。
なるほど、寝るならもう寝ろってことだな。はーい、お休みなさーい。ちょっと早いけど、もうオレ寝ることにするわ、これ抱っこして。気持ちよく眠れそうだし。

『…緋勇! また来週、こっちまでパトロールに来たら、今度はもっといいボールを持って来てやるよ!』
『お、俺っちだって、今度は新品のボールにサインしてやるぞ!!』
『もうッ! あんた達なんにも解ってないのね! …緋勇クン、今度は私、ちゃんとした色紙にサインしてあげるわねッ!』
こッ…コスモの皆さんッ!?
うわー! 新しいボール? さ、サイン色紙ー!?
わーいわーいバンザーイ!! もう、あれだけで充分幸せだったのに、もっとコスモグッズが増えるんだー!
一気に眠気が吹っ飛んだー!
 と、眼が覚めたオレに気付いたらしく、京一は「お休みのキス」を止めた。はっはっは、ごめん京一。
「…もう寝ようぜ。」
あ、あれ? 結局寝るの? じゃあ「お休みのキス」は? …今日はなし? ……ちぇッ。けっこーアレ、好きなんだけどなあ…だ、だって何か…ものすごーく「スキンシップ」って感じするから…。
まあいいか。今日はこのパンダちゃんとスキンシップだー!

 それから数日間、京一の言う通りに、あの柔らかパンダを抱っこして寝たんだけど、何故か京一が「やっぱ頼むから止めてくれ」と言い出したので、結局それはまた押入に保管されることになった。
ちなみに、何でだって訊いたら、オレがぬいぐるみを抱っこしてるのを見ると眠れないんだって。…そんなに怖い光景…だったんだろうな。くすん…気持ち良かったのに……