拾伍
ノ後

新たな敵! コスモ危うし?

 ぎゃーーーーーーーーーーーーッ!! 鬼ーーーーーーーッ!?
ど、ど、ど、どーしてえ!? だってもう、鬼道衆は…九角は斃したのにー!!
パニクってるオレをよそに、みんなはもう身構えている。なんて臨機応変な連中なんだろう。しくしく。
とにかく京一の隣に走る。一番安心だし、美里や桜井の盾にもなる位置だ。
久々で怖えーよーとか泣きつつ(無論心の中でだ)、急いで京一に手前の鬼の横に回り込んでもらって、醍醐に美里たち守ってもらって、オレは左側の…とか計算し始めた時だった。
「ちょおッと待ったァッ!!」
…こ、こ、この声はッ…
コスモレンジャーだーッ!!
すごいすごい! オレたちに何かあったら駆けつけるとか言ってくれてたけど、本当だったんだ! ああ、なんて頼もしい人たちなんだろう。
 ふと、さっき引いたおみくじを思い出した。
危ないとき、意外な助けがあるって書いてあったんだっけ。…きっと、このことだったんだ。スゴイな、花園神社のおみくじって! オレの野望を結局叶えてくれなかった仁和寺とは大違………バチが当たったら怖いからこれ以上はやめとこ。
「行くぜ、ひーちゃん!!」
 いつも通り、京一が気合いを入れる。
応よッ! 今日のオレは燃えてるぜ〜ッ!
この世に鬼がいる限りッ! 正義の祈りが我を呼ぶのだーッ!!

 さてと、今日は頼もしい味方がいるから楽勝かな。でもまあ、おみくじに「油断するな」って書いてあったし、慎重に行こっと。
手前の鬼どもと犬は雑魚だ、いつも通りオレたちで殴り倒して、とどめを桜井に頼んで。その間に余りスピードのなさそうな奥の鬼どものトコへオレと京一が走り込んで足止めして…
「キャアアアッ! な、何よコイツらッ!!」
「なッ、何だ!? 着ぐるみじゃないのかッ!?」
 あれ? コスモレンジャーの皆さんが慌ててる。そっか、普段は鬼じゃなくて、戦闘員や怪人と闘ってんだもんな。こういう種類を見るのは初めてなのか。
じゃあ、今日は無理しないでもらおう。どうせ雑魚だ、もっと強いボス敵とかが現れたらガンガン活躍してもらえばいいや。
「お前達は下がってろ!!」
…じゃーなーくーて〜! もーオレったら〜…ええと、コスモレンジャーさんたちは、ボスが出るまで待機しててね! 雑魚はオレたちがやっつけるから、って言いたいんだけど、そんな長い台詞言ってるヒマも技能もない! ごめんねコスモレンジャーのみんな、オレ偉そうで。ホントは違うんだよ? って解らんゆーねん(裏拳)。
 ちょっと心漫才に走りかけていたら、京一がこっちへ向けて鬼を吹き飛ばしてよこした。おうよ、いつもの二段攻撃だな、1号! 誰が1号やねん(びしっと裏拳)。
よっしゃー、ラ、イ、ダーッ、キーック! なーんつってな、跳び蹴りじゃねェけどな。わはははッ。
良く聞け怪人…いや鬼ども。仮面ライダーのライダーキックはな、仮面ライダーだから出来るんだ。だからオレには出来ません。って何じゃそりゃ。キミとはやっとれんわ! どーもありがとうございました!(てけてんつくてん♪)
…マニアックな上、長い心漫才だなあ。オレ、はしゃぎ過ぎかしら。
 うおっと、思ってたより動きが早いな。まだ無傷な鬼が、後ろのみんなのところへ走りだそうとするのに慌てて剄を発する。注意をこっちに向けないと…
「うわァッ!!」
しまったッ! 仕留め損ねた一匹が、桜井を襲おうとしている。やばッ、間に合わないよッ! ごめんコスモレンジャー、やっぱ助けて!!
「レッド!! ビッグバンアタックだッ!!」
「応ッ!!」
おー! コスモレンジャー、やっぱスゴイや。オレが叫ぶや否や、ビシッと必殺技の決め台詞を唱え始める。
カッコいいなあ〜。オレも混ざりたいー! もうあの舞台一回見ただけで、台詞もポーズも覚えたんだぜ。「ガラスの仮面」の女のコ(名前知らないけど)並みだろ? …言えないんだけどさ(泣)。
それに、正式に入隊したワケでもないし、特訓とかもしてないのに混ぜてなんかもらえないだろうから、泣く泣く我慢する。しくしく。
それにしても、やっぱ頼りになるな、コスモレンジャー。あっさり鬼を斃してくれた。
それに引き替えオレったら…油断しないようにしてたのに、これだもの。
以前より鬼どもが強いみたいだ。気を付けないとな。

 全部ようやく片付くと、コスモの皆さんは口々に質問してきた。…いえ、オレには訊かないで下さい。2日くらいかかっちゃうぞ。
 他のみんなが代わる代わる、オレたちも東京を護ってるってことを説明した。
「ねェ、もしかして、あなたたちも正義の味方…なの?」
うーん、鬼道衆っていう悪人たちを斃したんだし、そう…なのかな? そ、そっか。オレたちって、正義の味方だったんだ! うわーカッコイイ!
 頷いたら、コスモのみんなは喜んでくれた。えへへ…お、オレもヒーローか…うふふ…
「ひーちゃん!! お前も、適当なこというんじゃねェよ。」
ひゃッ? あわわ、京一に怒られてしまった。ご、ごめんなさい。
そうだよね…よくよく考えたら、京一や醍醐はともかく、オレは成り行きで闘ってるってゆーか、美里やアン子ちゃんの意志に逆らえないだけって感じだもんな。そんなヒーローはいないっちゅーねん。
とほほ。またまた調子に乗り過ぎちゃった。

「俺達が闘ってんのは正義のためなんかじゃねェ。ただ───、」
「自分たちの大切なものを護るため…、だとおもうの。」

 そうか…
…そうだよな。
本当のヒーローは、自分で「ヒーローです」なんて言わないよな。
信念も正義もすべて胸に秘めて、ただ「みんなを護るためだけに闘う」とサラッと言うのがカッコイイんだよな。流石は美里と京一だ。
コスモのみんなも、同じことを思ったらしい。口々に美里と京一を誉めている。
 人におだてられて図に乗ってると、そこを弱点として突かれる、なんて定石じゃないか。
オレ今日は本当に全然ダメだ。唯一の取り柄の戦闘でもミスっちゃったし。これじゃ、コスモグリーン(かブルーか…しつこいっちゅーねん)なんて全然なれやしない…
「よしッ!! 今日からコスモレンジャーはアンタたちの味方だッ!! 困ったことがあったら、いつでも呼んでくれッ!!」
えッ!?
あ、あのう…ってことは、オレやっぱり「コスモグリーン」にしてもらえ…ないの? …味方って…困ったことがあったら呼べって…仲間にしてはもらえないってこと? そんなあ〜。
やっぱりダメだったのか。そうだよな、こんなミスだらけじゃ、認めてもらえるワケないか…。
 でもまァいいや。トモダチとしては認めてもらえたみたいだし。
これも京一と美里のお陰だ。やっぱ、真のヒーロー&ヒロインは違うぜ。
よし。オレも見習って頑張ろう! そしていつかきっと…
 と、レッドが何かを思い出したように戻ってきた。
「へへへッ、緋勇。アンタに、これやるよッ。」
…え? 野球のボール? 何…
あッ! レッドのサインが入ってるー!! 「あかい たけし」だってー!!
な、何で何で? オレがサイン欲しがってたの、解ったのかッ!?
「俺ッちとアンタの友情の証だッ。大事にしてくれよなッ。」
 れ、レッド…いや、紅井…くん。
こんな未熟なオレなのに、ヒーローに向かないカオと声と性格なのに、口下手で臆病で弱点だらけですぐ落ち込むわいい気になるわ、とことん自分に甘いオレなのに、…友情の証をくれるなんて。京一みたくキメられないのに、全然良いトコ見せられなかったのに、トモダチだって…ああ、やっぱヒーローは違うよな…。なんて心が広いんだろう。
ありがとう、紅井! オレ頑張るよ! そしてお前たちにちゃんと一人前のコスモグリーン(もうコスモブラウンでもコスモグレーでもコスモウグイスでも何でもいいから!)って認めてもらえるように頑張るよー!
「ありがと〜ッ」と言って、思い切って握手もしてもらっちゃった。えっへっへ〜。
 大切に、鞄にボールをしまったら、京一が「うざってェ」とか何とか言って笑った。
…フン。ウザくて悪かったな。生まれつきヒーローなヤツには解らないんだ、オレの憧れの気持ちなんか…。

「う…うう…。」
 うぎゃあッ!? ななな何、今の呻り声ッ!? まだ鬼が残ってたか?
びっくりして身構えたら、さっき倒したヤツが一匹、しぶとく生きてて何やらワケの分からんことを言い出した。なんかコイツ気味悪いな…伏臥上体反らしの格好で喋るなよ。腹筋鍛えてんのか?
「龍山のおじいちゃん!!」
「貴様ら…、先生に何をしたッ!!」
え? 何が? …あ、竹とか龍とかって、またまたご老公のこと!?
うわわわ、大変だー!!

 ぜえぜえ。
よ、よし。ようやく着いたぞ…ご老公の家だ。
先の副将軍の身に何かあったら大変だ。まだまだ諸国を漫遊して、悪代官を一人ずつ懲らしめて罪のない民を救わなくちゃならないんだもんね。
たまたま帰り道に出くわした織部姉妹が合流したので、多少の敵なら何とでもなりそうだと思いつつ、辺りを見回した。
 …静かだな。
電気のこぎりにかけられようとしているご老公の姿と、「スイッチを切れば龍山邸は大爆発を起こすのだ!」とほくそ笑む地獄大使を想像していたのに、ちょっと拍子抜けだ。それとも、もっと手の込んだ罠なのかな。
 だけど、みんなで捜していたら、ご老公は元気いっぱい姿を現した。なーんだ考え過ぎだったのか。それとも、実はコイツは偽黄門で、オレたちが油断したところでゾル大佐が正体を現すという作戦なのでは…ってホント古いっちゅーねん(びし)。

 ───その時。

ぞわぞわぞわ〜っと鳥肌が立つような感覚があって、目の前の、何もいない筈の竹林の中から黒い影が滲み出してきた。ぎゃ〜〜〜
聞き覚えのある声が笑う…こ、これって…これって…
「九角───!!」
や、やっぱし〜〜!? 何でェ〜〜???
斃した筈だよな? オレたち協力して斃したよな美里ッ!?
 縋るように振り向いたら、美里も真っ青な顔で鬼を見上げていた。
「そんな…。九角…さん…。」
ずる。美里…敵にまで「さん」付けはないやろ、「さん」付けは。(びしッ)
 美里のボケにツッコミを入れた心漫才のお陰で、オレはちょっぴりパニックから立ち直った。
むむむ、きっとコイツは「ネオ九角」か「メカ九角」か「サイコ九角」なんだろう。
特撮にはよくある話だ。今回はコスモレンジャー登場の回なんだから、こういう演出もありなんだな、きっと。
「貴様ら、ひとり残らず、この俺が喰らい尽くしてくれるッ!!」
フフン、例え改良されて出てきても、悪の栄えた例しなしだぜ。ナメるなッ! つーか、食うなッ! 怖いわッ!
…そういや、蘇ったってことはお前…ゆゆゆ幽霊? 鬼なのに幽霊? つーかゾンビか。ああ、バラモスゾンビ! そっちだったか!!

 …しかし、九角ゾンビは殆ど攻撃をしてこなかった。…変なの。
前に斃したときと、弱点も変わってない。ものスゴイ<<気>>を発してるから、相当強くなって戻ってきたのかと思ったのに。
何か罠でも仕掛けてたら怖いので、とりあえず全力で斃したが、やっぱり九角ゾンビは殆ど何もしないままに倒れてしまった。
「九角さん───!!」
 美里、だからその敬語はどうして…まあいいや。
ホントにどうした九角ゾンビ? ハラでも壊したのか? ま、まさか、もう人間を食った後なのか!? そんな食い慣れないもん食ったら、ハラも壊すやろ。ってそういう問題か!
「忘れるんじゃねェぜ。なぜ、俺がこうして、再び<<力>>を得ることができたのかを───。」
何故って…そんなこと言われても。何が言いたいんだお前。
 よせばいいのに、優しい美里が鬼から人の姿に戻った九角に駆け寄った。
でも流石にもう力尽きたか、九角は攻撃しない。良かった、本当に美里に食いついたらどうしようかと思っちゃった。
「緋勇───。この女を、護ってやれ。こいつを護れるのは、てめェしかいねェんだからな。」
えッ? オレッ!? 京一じゃなくて?
まあ、そりゃあもう、オレなりに頑張りまっせ。それしか能ないし。
 お前に言われる筋合いはないぞ、とツッコミ入れかけて、ふとオレは気付いた。
お前、本当は…後悔してるのか?
 だよなー。闘うのもいいけど、友情の方が256倍イイもんな。お前も、変に意地張ったり暗い仕返ししたりしないで、「仲間に入れてくれ」って言えば良かったんだよ。
そうすれば、こんなオレでも認めてくれる優しい仲間たちが、お前のことも許してトモダチになってくれたのに。ホラ、美里だって悲しそうじゃないか。

 だが、全ては遅かった。
鬼で幽霊でゾンビだった九角は、空気に溶けるようにして消えた。
 今度こそ───さよなら、九角。
結局トモダチもカノジョも出来ないまま、前世がどうの生まれ変わりがこうのと呟きつつ死んでしまうなんて…ちょっぴりお前って…い、いや。死んでしまった人を色々言うのは良くないな、うん。折角忠告してくれたんだし。
九角、お前の友情、しかと受け取ったぜ! 生まれ変わったら(ホラホラ、お前好きだろ? そーゆーの)一緒にどつき漫才目指そうぜ。楽しいお笑いを追求しながら、明るい未来を目指して生きていこうぜ…一緒にさ。

 それにしても、参ったなー。
普通、前の敵の首領が現れて忠告っぽいこと言って死ぬって、新たに強大な敵が現れる予兆なんだよな? 少年マンガによくあるパターンだよね。どう思う? 京一、美里。
「これでひとつだけ、はっきりしたぜ。まだ、何も終わっちゃいねェってことがな。」
そうか、やっぱそうなんだな。うむうむ、流石はヒーロー京一、よく解ってるぜ。
 また闘わなくちゃいけないのかー…平和にみんなと遊ぶの、楽しかったんだけどな。
でもまあ、敵がいないとオレの出番って全然ないし、またみんなを護って闘う生活になれば、正々堂々トモダチと一緒にいられるし、その数も時間も増えるかも知れないしな。うん、そうそう。ものは考えようってヤツだ。
よっしゃ、頑張るぞー! 鬼が出ようが蛇が来ようが、どんと来いだー!!
 とりあえず、兵庫の道場と、ちょっとヤだけど旧校舎で特訓して、より強力になった鬼に対抗出来るようにしよう。
キレイな満月に誓いつつ、オレはご老公の家を後にしたのだった。…バイク乗れたら、さぞかしカッコいいエンディングになっただろうなあ。

2000/04/28 Release.