小咄
之九

Match売りのGirl


 冬の寒空の下、少女はマッチを売っていました。
「Hey Guy! Matchヲ、買ッテクダサイ!」
道行く人々は皆忙しなく歩き、少女を振り向いてもくれません。
 マッチがたくさん入った籠の中から、黒い子猫が顔を出し、小さな声でと鳴きます。
「メフィスト…全然、売れナイヨ。ドウしよウ…」
その時、可哀想な少女は後ろからドンと押され、転んでしまいました。
籠からマッチ箱がいくつか転がり落ち、メフィストがひらりと飛び降りて「フーッ」と威嚇します。
「往来の真ん中に突っ立ってるんじゃないぞ!」
少女にぶつかった、金持ちそうな男は、謝るどころかそう怒鳴りつけ、歩き去っていきました。
「痛イヨウ…寒イヨウ…葵オネエチャン…ウッウッ」
少女はとうとう泣き出してしまいました。

 心配そうにすり寄ってきた子猫を抱きしめ、やがて少女は言いました。
「メフィスト…寒イネ。Matchも、全然売れナイ…そうダ、Fireで、あったまろうヨ」
「ニャア」
賛成、というような子猫の「お返事」に少女はにっこり微笑み、立ち上がって叫びました。
「Fire!!」
「うぎゃあああ!!」
見ると、さっきぶつかってきた男が、少し離れたところで火柱を上げて燃えています。
少女は小走りに近寄ると、手袋もしていないあかぎれた両手をかざしました。
「アッタカーイ。ウフフ」
でも、所詮はマッチ。火はすぐに消えてしまいます。
「アア、もう消えてシマッタ。…次のMatchは、ドレにしようカナ? メフィスト」
「ニャア」
大通りはたちまち大恐慌です。
「キャアアア! 燃やさないでー!!」
「わ、わ、ワシは水太りで、燃えにくいぞー!!」
「エヘヘッ。Fire!!」
「ギャ───ッ!!」

 街の殆どが焼き尽くされたこの事件は、後世の人々に「炎の7日間」と呼ばれ世界中に畏れられたということです。
おしまい。

◆ ◆ ◆

「ネェ、オニィチャン、タツマオニィチャン! どうしテ、マリィの方、見てくれナイノ? マリィ、何かシタノ? オニィチャ〜ン」
 昨夜恐ろしい夢を見たから、とは説明出来ない相変わらずの龍麻だった。

◇ 完 ◇

2005/12/21 Release.