皮下接触 II - 龍麻

 何故かオレは一人で旧校舎にいた。こんな恐いところ、夢でも来たくない。悪夢の予感。
と思っていたら、遠くから比良坂がやって来た。
ああ、やっぱ拳を合わせる約束守って来たんだなーと思いながら、オレは待っていた。
どんどん比良坂が近づいてくる。どんどん姿が大きくなる…ぐんぐんと…ちょっと待て、大きくなり過ぎや!
気付いた時には、もう5mくらいになっていた。お前、あれから何食って生きとったんじゃ!
ぎゃーっと叫んで逃げようとしたが、足が動かない。
数歩手前で止まった比良坂から目を逸らすことも出来ない。いやーッ! 死ぬッ!

 すると突然、比良坂の腹がバクッと開いた。

「サーヨ、サーヨ、サーヨ、サーヨ、サーヨ…」
ってかけ声が聞こえる…

陽ちゃん、せんきう!△すげーよ!(笑)

秋島陽子 画

 ぐわーーーーーーーッ! 小っちゃい比良坂がボロボロ出てきたーッ!!
いやーッ、1/10スケール比良坂ッ。それもいっぱい! 101匹比良坂大行進ッ!
く、来るなッ。歌うなッ。「エヘヘッ」とか笑うなッ。うわわ、足元まで来た来た来た~ッ!
助けてッ京一!!!

 ふいに目の前が暗くなった。比良坂の「えへへ☆」が聞こえない。
「ひーちゃん…うなされてたぜ。大丈夫…か?」
…ああ、やっぱ京一。助けに来てくれたんだな。持つべきものは親友(勝手に思ってるだけとはいえ)だ。
って…あれ?
 オレは、自分の部屋にいることに気付いた。
夢から覚めたのか…はああ。良かった~。
 ってことは…そうか、現実の京一のこと起こしちまったんだな。
悲鳴でも上げたのか、オレ。ごめんな~。
まだ夜中じゃないか。ふう…目ェ覚めちゃった。
 もう一回謝ろうと思って京一を見たら、なんか目を逸らしてるので、オレは汗で前髪が飛び散ってるのに気付いた。いけね、邪眼全開?
 とりあえず髪を直そう。それに全身汗でぐっしょりだから着替えてしまいたい。…くっそー、比良坂め。


 冷水で顔を洗って、タオルで全身を拭う。
髪もグシャグシャ拭いて、オレの部屋にある唯一の鏡、洗面台をチラッと見る。
濡れてるから、ちゃんと隠れないな。…ま、夜中だし大丈夫か。結構、京一も慣れちゃったみたいだし。
でもさっきは目を逸らしてたけど…比良坂への怒りで、無意識に睨んでたのかもな。いかんいかん。
 は~。比良坂が行方不明になって2ヶ月も経つのになあ。ヤな夢見せてくれるよ。

 さっぱりしたら眠くなった。さっさと寝よう。明日も早いしな。
床に散らばった毛布を取ろうとしたら、京一がベッドで寝ろと言ってきた。
心配してくれてるんだな。大丈夫だよ、ちょっぴり夢見が悪かっただけで、オレ堅い床って嫌いじゃないし。
それより、まだ後3時間は寝られるのに「起きてる」だなんて。そこまで気を遣ってくれなくてもいいのに…と思ったら、いきなり腕を取られて上手投げを喰らった。横綱は強いッス。敗因は実力不足ッス。明日からもっと稽古するッス。
 とか、国技風にボケてる間に布団も積まれる。ダメだって、京一! だってオレが床に寝る日だろ? そう決めたんだから。これじゃ、これからずっとお前気を遣って床に寝るとか言い出しそう。
 そういうつもりで抗議したら、京一はジロリとオレを睨んだ。
な、なんだよ。なんでそんな怒ってるんだ。…もしかして、本当は夜中に叩き起こされたんで機嫌悪かったのかな。
 眠くて議論するのが面倒になったのだろう。京一は無理矢理ベッドに入ってきて、言った。
「もうジャンケンはやめだ。今日からこーして寝るからなッ。我慢しろよッ。」
いや、オレはいいけど、窮屈だろ? 京一。一人で寝てても、このベッド狭そうにしてるし。
布団をガバッと被ってしまった。これ以上、話は無用って感じだった。…くすん。ゴメンな、京一。またまた怒らせちゃったよオレ。
 と、つい謝っちゃったら、布団がまたガバッと開いて、苛々した顔が現れた。
「…謝ることなんかひとっつもねェ。いいからとっとと寝ろ!」
殆ど鼻と鼻がくっつきそうな位置にまで顔が近づいた状態で怒鳴られる。…恐ッ。よく野球選手や監督が、審判に顔近づけて怒鳴ってるの見掛けるけど、アレ相当恐いんだな。退場させたくもなるよ。よく分かった。
ごめん、本当にごめん。
でも、これ以上謝っても却って怒られそうだったから、なんとか分かって欲しくてじーっと京一を見つめる。睨んでると思われるかな。でも、京一なら「秘技・以心伝心」で分かってくれるかも知れない。

 ふいに、目の前の京一の顔がもっとアップになった。こんなアップでもカッコイイな、お前。
とか思ってたら唇がぶつかった。……へ?
 ビックリしてる間に、京一の顔はまた離れた。何だ…今の。どういう意味…?
「…今のは、お、お休みのご挨拶だッ!」
なんだ、そうか。ふうん。…でも、普通するか? お休みのキスなんて。外国人みたいだな、お前…
あッ分かった! アランだな?
アイツも何かっつーと抱きついたりキスしたりしてくるけど(暑苦しくて凄いメーワクだけど)、すっかりお前、影響受けてたんだな。ははは!
嫌だ嫌だって嫌ってた割には…実は結構気に入ってんのかもな、アランのこと。
……ああ。お休み。」
そう言って、オレは目を閉じた。
お休みのキスなんかしてくれるところを見ると、やっぱり分かってくれたんだ。許してもらえたって考えていいよな。…やっぱ京一だ。へへへ。優しいヤツだなあ。
 醍醐の一件で、少し自重しようと思ってたけど…やっぱしオレ、お前の友達…親友になりたいな。
オレ、一生懸命努力するからさ。うんと頑張って、なるべく喋るようにして、笑ったり泣いたりする練習して、京一に食べさせるご飯も美味しく作って、ついでに鬼道衆もやっつけて、みんなを護り抜くからさ。
 すごく気分が良くなって、オレはすぐさま眠りについた。
同じ悪夢でも、小っちゃい京一がいっぱい出てくるんなら楽しいだろうな、と思いつつ───