皮下接触II' - 京一

「何…見てたんだ?」
…………月を…」
 ベランダから戻ってきた龍麻は、普段と全く変わらないように見えた。
「曇ってたんじゃなかったか?」
………
先にベッドに横になっていた俺は、壁側に寄って、龍麻が入ってくるのを待つ。
ちらりと壁に掛かった時計を見ると、11時半を指していた。
「…まだお前の誕生日だぜ。へへッ」
………
戸締まりを確認し、部屋の灯りを落とすと、龍麻はスルリとベッドに入ってくる。
「誕生日にまで泊まりに来やがって、とか思わねェの?」
………
首を横に振るのは分かっていた。なのに、つい不安になって訊いちまう。
…馬鹿だよな。
 仰向けに、姿勢良く横たわる顔を眺める。
……お休み。」
そう言ってから、自分を見ている俺に気付いたんだろう。見つめ返してくるその瞳が、何か言いたいことでもあるのかと尋ねているようだった。
何となく視線を合わせたまま、互いに無言で暫く見つめ合っちまった。
…何やってんだろう。こんなこと。俺は一体何を…してるんだろう。
そう思ってるのに、目を離せない。疲れているのか、龍麻の瞳にいつもほどの強い光はない。なのに…
 何故俺はこんなにコイツに惹かれているんだろう。
そう思ってしまって、初めて気付いた。
俺は…コイツに惹かれている。もう誤魔化しようのない程、龍麻を欲している。
男だってのに。色っぽいとかカマっぽいとか、そんなんじゃないのに。
……京一?」
 あまりジロジロ見ていたんで気になったらしい。
「いや…何でもねェよ。…お休み、ひーちゃん。」
何気なさを装って、龍麻に覆い被さる。唇を近づけても、龍麻は逃げようともしない。
以前のように、気絶されてしまうと困るので、軽く唇を合わせるだけに留めておく。…思い切り舌を突っ込んで舐め尽くしたい欲望を、必死で抑える。
 名残惜しい気持ちを隠して離れると、龍麻は「お休み」と呟いて、何事もなかったように眼を閉じた。
無防備だよなァ。そんなに信用していいのか? 俺は、信用されている…のか?
 寝付きの良い龍麻は、ほどなく規則的な寝息を立て始めた。
その横顔をしばらく眺めていたが、迷いに迷った末、カチカチに勃っちまったムスコに手を伸ばした。
しんと静まり返った部屋に、不自然に響く布擦れの音で、龍麻が起きてしまうのではというスリル。横で寝てる親友の顔を見ながらセンズリかいてる罪悪感。信用されてるらしいのに、こんな邪な想いを抱いちまってる背徳感。そんなものがない交ぜになって、俺はあっさりイッた。

 龍麻…犯りてェ。犯りてェ犯りてェ犯りてェ。その身体を穢して汚して痛めつけて烙印を押して。快感に溺れさせてしまいたい。
そこまでしても、お前は…やっぱり、その冷たい貌を崩さないんだろうか───