皮下接触III - 京一

 玄関のチャイムを押すと、軽い音が鳴る。俺は、呼吸を整えた。
とにかく、さっき言いかけたことを聞こう。あんな心細そうな龍麻を初めて見た気がする。
もし…もしそれが、今回の俺の失踪が原因なら…少し嬉しい気もするな。…い、いやそうじゃねェだろッ。キチンと詫びねェとな。そう、俺は詫びに来たんだ。

 玄関はすぐに開いた。
悪リィ、とすぐ言おうとして、思わずギクリとした。
ドアを開けてじっと俺を見つめている龍麻は、上半身が裸だったのだ。
慌てて目を逸らし、口ごもりながら謝った。
…よく考えれば、男なんだから、上くらい見られたって恥ずかしくもないだろう。
 龍麻は俺を招き入れるように、身体を退いた。どぎまぎしている心臓を叱咤しつつ、中に入る。
やっぱり直視出来ない。お前、ちょっと色が白すぎんだよッ。
 龍麻は人の気も知らず、まだ靴を脱ぎかけていた俺を押しのけるようにして、鍵なんかかけている。
目の前に、きめの細かい白い肌が広がる。チェーンをかけるのに、引き締まった脇腹が少し捩れるのを見つめ…俺は、勃起してしまったことに気付いた。
 カッとなって、思わず龍麻を壁に押しつけてしまう。
てめェ、誘ってやがんのかッ!?
かなり理不尽な文句が口に出かかったが、龍麻は静かに俺を見つめて来る。
…んなワケねェよ。コイツは何も分かってねェ。無邪気に、冷静に、俺を虜にしてきた。何も意識せずに。俺一人が、いつでも勝手に一喜一憂してるんだ。
 だが。
次の龍麻の行動は、それならどう考えたら良かったのだろう。
俺を見つめたままで、その白い腕を俺の背に絡ませてきたのは。濡れた唇を開き、心持ち顎を上げて目を伏せたのは。

 俺は殴りつけるような勢いで、龍麻に口づけた。
貪るように唇を吸う。ずっと…こうしたかった。
うっかり襲って、気絶させてしまったときのことを思い出す。
ついキスしてしまったのを「おやすみのご挨拶だ!」などと誤魔化したことも。
龍麻はその下らない言い訳を静かに受け入れ、今でも時々ふざけて唇を奪うのを許している。
 お前は、本当はどう思ってるんだ?
俺の気持ちを知っていて、からかって楽しんでいるのか?
気味が悪いと内心では思っているのに、心広く「許して」くれているだけなのか?
 もう隠しようもないので、思い切り龍麻の唇の感触を楽しんだ。
唇の隙間に舌を差し入れ、歯を舐めると、ゆっくりと開かれる。どういうつもりか知らねェが、そう来るんなら遠慮はしねェ。舌を絡め取り、激しく舐る。
 その表情を見てやろうと、ちょっと唇を放したら、龍麻は切なげに息を吐き出した。
表情はやっぱり変わっていないが、微かに肩が上下している。
流石に、少しは感じたんだろうか?
惜しげもなく晒された胸の二つの突起が、半分固くなっているのに気付いて、俺は舞い上がってしまった。
「ひー…ちゃ…」
興奮して声が出ない。
震える手で、ゆっくりと肩から首、胸をなぞる。滑らかでひんやりした肌の感触に、俺のムスコは膨張する一方だ。
その突起に触れた途端、龍麻の身体がビクリと震えた。思わず、乳首を強く掴んでしまう。…感じてんだな、ひーちゃんッ!? マジだよなッ!?
今頃になって諫めるかのように、手首を掴んできたが、もう俺にはやめる気など無かった。
何か言おうとした唇を塞ぐ。わざといやらしい音を立て、ピチャピチャと龍麻の舌をしゃぶる。俺の手首を掴んでいた両手が、俺を押しのけようとしてきたので、乳首を弄んでいた手の片方を背中に回した。背中を撫で上げてやると、案の定腕の力がガクリと抜ける。微かに呻く声が、唇を通して伝わってきた。
 もう一度、龍麻を解放する。今度こそ、顔に出てもいいんじゃねェか?
龍麻も眼を開き、じっと俺を見つめてきた。
まだ我慢すんのかよ…何でそんなに顔に出さねェ?
だが、カッとしかけて俺は気付いた。龍麻の唇が、微かに震えているのを。乱れた息を整えられずにいるのを。
 背筋にぞくぞくと快感が走った。
龍麻。
多少の傷を負っても声一つ立てず、呼吸を乱さない男が、俺の愛撫で震えている。
もう止められない。お前が欲しい、抱きたい。メチャクチャ犯して、俺のものにしたい。
俺は思いきり龍麻を抱き締め、その気持ちを告げた。
龍麻が抵抗したら、殴ってでもベッドに引きずり込むつもりだった。黙って殴られるようなヤツではないが、それでも無理を通すつもりだった。
 しかし、そんなことはしないで済んだ。
龍麻は「構わん。」と呟いたのだ。
驚いてその顔を見つめると、軽く唇を合わせてきた。
…本当に?
俺は…お前に、身体を許してもらえるほど、信用されている。そう思っていいのか?


 龍麻を抱き締めたまま、ベッドに倒れ込む。
手を離したら、突然気が変わってしまいそうで怖かったのだ。しかし、龍麻は俺の腕の下でじっとしていた。
 深いキスを繰り返しながら、ベルトを外した。
窮屈に納まっていたムスコを出してやる。これから龍麻を犯すのだと思っただけでイッちまいそうだ。
口内をねっとりと味わいながら、龍麻の下の方も脱がす。大人しく俺に合わせてくれたので、あっさり全裸になった姿を眺めた。
以前の俺だったら、絶対にオトコの身体なんか眺めたいとも思わなかっただろう。ましてや、触ったり互いに扱きあったりなんて、考えるだけで恐ろしい。
だけど、龍麻は特別だった。どうしてかは知らねェが、コイツだけは違った。
白くて引き締まった身体の隅々まで舐め回して、龍麻を汚したい。俺のをぶち込んで、悲鳴を上げさせたい。窓を開けて、コイツは俺のもんだ、と叫んでやりたかった。
 首筋に沿って舌を這わせ、乳首まで降りる。舐めたり噛んだりしながら、龍麻のモノに手を伸ばした。
まだ半勃ちってトコか。
「うッ…」
 柔らかく撫でさすってやると、龍麻が喘いだ。いつもの高圧的な響きはない。艶めかしく掠れて、ますます俺の劣情を掻き立てる。
とにかく勃たせてやろうと、右手に集中していると、不意に龍麻の手が伸びてきて、俺のモノを撫で始めた。ち、ちょっと待て! 俺はもう爆発寸前なんだ、お前に触られたりしたら…!
耐えられなくなって、俺は一旦身を起こした。
 冗談じゃねェぜ。外でなんかイカねェからなッ、絶対!
「…京一…?」
 呟くような声が響いて、龍麻の手が離れたので、俺はまたヤツを勃たせにかかる。そして、その顔を見つめた。イく顔が見たかったのだ。
龍麻は微かに眉を寄せ、眼を閉じていた。時折唇が震えて、耐えきれないように呻き声が洩れる。
苦しげに、首を微かに振ると、こめかみの辺りから流れた汗が、龍麻の唇を濡らした。赤い舌がチラリと見え隠れする。睫毛が震え、また切なげな吐息が漏れる。
 …駄目だ。俺の方が、もう限界だ。
既に溢れ始めている俺の精液を右手になすりつけ、潤滑油代わりにして、指を龍麻の中に差し入れた。息を呑むのが伝わってくるが、構わず入り口の辺りを湿らせ、そのまま奧まで指を突っ込む。穴を広げるように、中で蠢かしてみる。
「…あふッ…あっ…!」
初めて、龍麻の口から明らかな嬌声があがった。
慌てて顔を見る。固く眼をつぶり、唇を噛みしめているが、もう一度指を動かすと、切なそうに声を上げた。
「う…うご…かす……なっ」
マジかよ…? 龍麻、お前、俺にこんなとこ弄られて、感じちゃってんの?
また背すじにぞくりと快感が走った。
これは、征服感だ。この龍麻を、いいように嬲っているという満足感。
「…ひーちゃん…感じてんのか…?」
返事はない。しかし聞かなくとも、左手の中の龍麻のモノの堅さが、答を示していた。
「…ここ…入って…いいか?」
訊いたのは、了承を得るためじゃない。言葉でも龍麻を犯したかっただけ。
 指をひき抜いて、充分濡らした入り口にムスコをあてがう。もう爆発しそうなのを我慢して、無理矢理ねじ込んだ。
………ッ!!」
一瞬、総てを拒絶するかのように、龍麻が身を固くした。
入り口で、壁に当たったような圧迫感に押される。キツい。
「力、抜いてろ。」
乱暴に言い放つと、息を吐き出しながら、俺の言うとおりに力を抜くのが感じられた。
障壁がゆるゆると開いていく。それに合わせて、狭い中を強引に押し入っていくと、弾力のある肉の感触が、今度は中へと導くように、熱くまとわりついてくる。
 あらゆる意味で気持ちが良かった。
強くて美しい、野生の獣のような男。敵に対しては容赦なく切り込み、味方を傅かせ、命じ、どこまでも弱みを見せない男が、今は俺のモノを咥え込んで、大人しく命令を受け入れている。
激しく腰を動かすと、再び艶声をあげた。
抱き締めると、しがみついてくる。…これがお前の本当の姿なのか?
 痛みか快感か、苦しそうに歪んだ顔を見て、とうとう俺は極みへと達した。

 総て出してしまうように、腰をゆっくり動かしてから引き抜いた。
中からトロリと精液が流れ出す。
龍麻を見ると、グッタリと気を失っていた。
もしかして、また忘れちまうんだろうか。
 とりあえず、後始末をしてやろうと思って立ち上がると、俺の腹の辺りにも飛沫がかかっているのが見えた。
左手もべたついている…
 そこで初めて、龍麻も同時に射精したのだということに気付いた。
顔がニヤついてくるのを止められない。…そうか、俺に突っ込まれてイッたかよ。へええ。
嬉しさの余り、またムスコが頭を持ち上げかけたので、俺は慌てて頭をブンブン振って、タオルを探した。

 龍麻を俯せに返してみたが、目を覚ます様子はない。
さっきまで俺に蹂躙されていたソコに、タオルを宛う。指で掻き出してやると、白濁した液が結構残っていた。少し血が混じっているのに気付く。少し乱暴過ぎたか。
……ッ」
ピクリ、と龍麻が反応した。気が付いたのか?
 俺は龍麻の前髪を掻き上げた。長い睫毛が黒々と、白い頬に影を落とす。
指を更に奧へと入り込ませると、睫毛が震え、赤く濡れた唇が微かに開閉した。
「色っぽ過ぎるぜ、ひーちゃん…」
苦笑して、俺はそれ以上悪戯をするのをやめた。血ィ出てるしな。また今度…があるといいけど。
 前回のように、全て忘れてしまったら、どうする?
処置を終え、布団をかけてやる。
白い彫像のように美しい寝顔を眺めながら考えた。
もう俺は知らないフリなど出来そうもねェ。ただの友達になんか戻りたくはねェ。龍麻が忘れたら、何度でも同じことをする。
 決意してみれば、どうということもなかった。
一緒に布団に入って、龍麻の額に口づける。
逃げようったって無駄だ。お前はもう俺のモノだ、誰にも渡さねェからな。
強く抱き締めたいのを我慢しながら、軽く抱き寄せた。
 もう…俺のものだ…。龍麻………