皮下接触 IV - 龍麻

 ちょ、ちょっと待ってくれ、京一。
いたたたたッ。痛いんだってば、も少し優しくしてくれ…なんてのは贅沢なんだろうな。とほほ。
殴られたり斬られたりする痛みは耐えられるけど、なんか、京一に爪立てられたりきつく握られたりするのは、すごく痛い。何でだろう? 流石に急所だからかな。他の部分も普通より、何てのか…敏感になってる? のかな?
 いッ…いってー!!
…はッ。思わず京一を押しのけちゃった。で、でもマジで痛いんだよ~。なんで胸なんか噛むかなあ。
と、抗議しようと思って身を起こしたら、突き飛ばされた。
…怒ってる? …ご、ごめん…でも…今のは不可抗力だったんだ、けど、な…
ビクビクしながら見ていたら、京一はベルトを外し始めた。…もうツッコむんですか…? 怒らせちゃったもんな。…あーあ…今日はまた格別痛そうだな…しくしく。
 え? 何、オレの手…って、…ええッ!? な、な、何でベルトで縛っちゃうんだ? 両手とも? 痛てて、キツいよこれ! オレが突き飛ばしたせい? 待ってよ、謝るからこれ外してくれよ~。もうしません、誓うか、ら、って、う…
謝ろうと思ったのに。口塞がれちゃ何も言えない。元々ロクに言えないんだけど。
最近ますます京一のキスが気持ち良くなっちゃって、今みたいに「大人のキス」されると身体中の力が抜けてしまう。ああ~、オレってヘンタイ~。
 …もういいや。手首痛いけど、終わったら外してくれる…よな。たぶん。

 京一に抱かれるようになって二週間。
「時々来てくれ」なんて言うまでもなく、コイツは三日とあけず、泊まりに来るようになった。
もう女のコだってよりどりみどりな筈なのに。
想像でしかないけど、同じコトをするなら、やっぱ女のコの方が柔らかくて数倍も気持ち良いんじゃないかな。
なのに、オレのとこに来るのは、どういう理由なんだろう…。
 そんなことを考えつつも、抱き締められたり名前を呼ばれたりするのが嬉しくて、毎日京一が来るのを楽しみにしていたんだけど。
…今は少し、…違う気がする。

 京一の唇が、顎から首筋、胸へと降りる。時々舐められるのが気色悪いような良いような、妙な感じだ。
…まだ降りていくなあ。腹を過ぎて…うう、くすぐったい。って、その辺で終わりにしてくれよ、その先は…って…げッ!!
うわーッ!!! や、や、やめろーッ!! そんなもん舐めたら汚いだろ! バイキンが…ぎゃーッくすぐったい!
「…やめ、ろ…放せ…」
 必死で訴えたけど京一は聞いてくれない。止めてくれ~。もう泣きそう…心の中で。
逃げたいのに、両手を繋がれてしまってるので力も入らない。
一生懸命身を捩って少しでも逃れようとしてたら、ようやく舐めるのを止めてくれた。もー、頼むよ。今すぐうがいして来い、うがい。ビョーキになっちゃうぞ、京一。ちょっと待て、乗っかってくる前にうがいして来いって思ってんのが分からんか! 分からんよな。
 …え? 何を…
も。もしかして。オレにも「コレ」を舐めろと。
そーゆーコトでしょうか、京一先生。
見上げたら、両手で頭をガッチリ掴まれた。正面には、京一の固くなったモノが…うっく。
 …きっと、普通はすることなんだな、これも。
京一もオレのを平気で舐めちゃったし。そうゆうものなのかも知れない。そんなら仕方ないよな。
…きょ、京一の身体の一部じゃないかッ! 汚くなんかないッ! と思おう!
えーい、パクッとな!

 うう~。変な感じ…く、く、口の中に~…しょっぱいっつーか酸っぱいっつーか。苦い…。
んぐぐ! そ、そんな奧ッ。苦しいってば、オエッてなる、オエッって! ここで動かすな~ッ、や、やめ…ッ

 …………ッ!!!

 …うう。飲んじゃったよ…。
これ…飲んでも大丈夫なのか? 保健体育の授業によると、コレって「子供の素」だろ? …もももしかして、京一の子供が出来ちゃったり! するワケないやろ。(びしッと裏拳)いくらオレでもそのくらい分かるぞ。
はふー、咽せるかと思った。出すなら出すって言ってくれよ~!

 最近の京一はなんだか乱暴だ。
いや、元々スゴイ激しいヤツだけど、だんだんエスカレートしてるような気がする。ちょっと怖い。
 オレは目を開けた。
目の前にある京一の顔は、苦しげに歪んでいる。これは、不満がある時の顔だ。
 …ごめん。
さっきのお前みたいに、上手に舐めなくちゃいけなかったんだな、きっと。
ごめんな。
今度までに練習しておくから、今日のところは見逃してくれ。

 とか思ってたら、いきなり京一はオレの腰を抱き上げた。
…おい。…今しがた、出したよな? …何でもう固くなってんの!? どーゆー仕組みになってんだお前のはッ! お前がヘンなのか? それとも、オレがヘンなのか? …オレの方かな。
とほほ。今日はツッコまれずに済むと思ったのに~。

 大分慣れたけど、最初はやっぱ痛い。しかも、今日はえらく無造作。前回はゆっくりやってくれたのに…やっぱり、怒ってるからか。
段々気が遠くなって来た。気持ちいいけど、何だか…。

 京一。
何でお前は、いつも怒ってるんだ?
オレの名前を呼ぶ声も、触れる手も、肌も熱いのに、どうしてそんなに不機嫌なんだ?
なるべく言う通りにしてるつもりなんだけど、まだ甘いのかな…。ま、まあ、上手とは言えないだろうけど…そのせいばかりじゃない気がする。
 女のコを抱くのと、オレを抱くのは違うのか?
…そりゃあ違うだろうな。
女のコをこんな乱暴に扱ったら壊れちゃいそうだし。
だからオレなのかな。ま、頑丈なだけが取り柄だもんなあ、あはは。

  京一は、気を遣わないで粗雑に扱えて楽だから、オレを抱くんだろうか。

いけない。
これ以上考えちゃダメなこと考えてるぞ。
止めろ、オレ。

  でも…

「龍麻…」
 あ、ようやく呼んでくれた! ずっと喋ってくれてなかったな、そういえば。
でもホッとして顔を見たら、やっぱり苦しそうな顔をしてる。

  …殺気を感じるのは、気のせいだよな。

考えちゃダメだったら。
いいじゃないかよ。京一がオレをどう思ってたって、オレが京一を好きなことには変わりないんだから。
オレを、どう、思ってたって───

  もしかしたら、オレは。

止めろ…

  オレは、京一に。

止めろってば。

  京一に、嫌われているのかな───

最初からオレのこと嫌いでこういうコトをしてるんだとしたらオレが京一に満足してもらえるように頑張ってもいつか好きになってくれるってことは全然あり得ないじゃないかそんなの悲しいから考えないようにしてきたのに気付きたくなかったのに「努力すればいつか報われる」って思っていたかったのに少しでもその可能性があるって信じたかったのに。いつから嫌われてたんだろう前からかな最初からかな優しくしてくれたのも単に優しいヤツだからで本当はずっと迷惑だったのかな殺気を発するほど憎んでたのかな憎まれていたのか全然気付かなかったニブイよなオレ。ニブくてトロくてバカで顔は恐いし喋れないし役立たずだしみんなに疎まれて嫌われて…ああそうだったなオレ普通嫌われるんじゃないか忘れてやんの本当にバカだなあ。

 そういう風に考えちゃダメだって分かってるのに、後から後から嫌なことばかり思いつく。

 「お前は俺のものだ」って言われたときはてっきり好かれてると思った。すごい嬉しかった。
うん。はい。そうです。京一のものです。好きなようにしてくれていいです。
って意味を込めて、「ああ。」と返事をした。初めて抱かれた翌日のことだった。

  でも。自分のものだからって好きとは限らないんだ。
  ストレス解消に、自分の持ち物に八つ当たるヤツもいる。

「…あッ…く…ッ」
 いけね、思わずまた声上げちゃった。背中を爪で掻きむしられて痛い。
…『ストレス解消』…『八つ当たり』…か。
本当にそうなのかも知れないなあ…。

  …………………

 でも、それでもいいや。
オレは京一に惚れてるんだもの。
どう思われてても、暴力ふるわれても、嫌われてるって分かっても、どうしても京一のこと好きで好きで好きで仕方ないんだもの。
初めて出来た、オレの友達。話しかけてくれて、笑ってくれて、優しくしてくれた友達。そして今、一番近くにいて、オレに触れてくれる友達。
側にいたい、殴られても蹴られてもいい、嫌われたままでもいいから見捨てないで欲しい。
長年使ってりゃ、気に入らなかったものにも愛着が沸くってこと、あるよな。
そしたらずっと側に置いといてもらえるかも知れない。

 …そうだよ。
まだ希望がないわけじゃないさ。
努力するんだ。それしか能がないんだからとにかく努力するんだ。
危ない危ない、うっかり簡単に絶望しちまうとこだった。へへへ。
ダメだぜ。男たるもの、そう簡単にあきらめちゃ!

  だけど…

止めよう、本当に。バカなんだから、これ以上考えたって結論は出ない。
「京一に好かれる努力をする」
それだけでいい。もういい!
いいんだ…

 なあ、京一。
 このベルト、やっぱ外してくれないかな。
 許されるなら、お前に触りたい。
 どさくさに紛れて、抱き締めておきたい。

  オレが、お前を好きでいることを、どうか許してくれ───