友達だと言ってくれ

 〜前回のあらすじ〜
真神学園にやってきた転校生、緋勇龍麻は無口だけど中身はお茶目なSissy Boy(笑)。
そして、東京で起こり始めた異変。渋谷でダジャレ少年が起こした事件に続き墨田区では変死を遂げる者が続出していた。その最中突然、葵が倒れ、抱き上げた緋勇はあんまり女の子が柔らかいんでパニックに陥る。
原因が夢に関係することを確信した緋勇は、桜ヶ丘中央病院で京一の女遊びの過去を知ったりしつつ墨田へ赴く。そこで、夢を操る力を得た嵯峨野と闘い、無事に事件を解決したのは良かったが、妖艶な少女、藤咲亜里沙と看護学生の高見沢舞子の「両手に花」にも喜べない女性恐怖症になっていた。


 やあ、みんな! 元気だったかい? オレはとっても元気だ! って誰に挨拶しとんねん!
何でオレがいきなりハイテンションなのかとゆーと、再三部活の見学を勧めてくれていた穂沢に連れられて、演劇部の練習に混ぜてもらったからだ。
 素人を誘う辺り、大したコトないのかと思っていたのに、練習は結構本格的だった。
大講堂で基礎運動とか、発声練習とかをぼーっと観た後、穂沢に台本を渡された。
「ホン合わせをするからやってみないか? いやさ、実は今日、全員揃ってないから、ちょっとチョイ役のトコだけ手伝って欲しいんだよ。」
 そんなコト言われても、オレじゃ棒読みだぜー?
かなり焦ったが、自分で考えたことを話すのと違って、教科書を読みあげたりするのは一応出来るのだ。
 結局、かなり適当ながら、台詞をいくつか言わせてもらった。
それで分かった。オレ、こういうの好きだー。だって、なんか自分で「喋ってる」みたいなんだもの。
部員のみんなは「足手まとい」と思ってたかも知れないけど(何しろ、オレの台詞になる度に全員顔を上げてコッチ睨んでるんだもんな(泣))、すごく楽しかったから、また来いよと言ってくれた穂沢に思い切り頷いて、幸せな気分で校舎を出たのだ。
 そうしたら、たまたま同じ時間に部活を終えた醍醐と蓬莱寺に出くわした。
偶然だけど、友情の起こした奇跡よね〜なんて、更に舞い上がっていたオレは、二人がそのとき話していた空手部だか柔道部だかの話をロクに聞いていなかった上、突然起きた男の野太い悲鳴にも、メチャメチャ反応が遅れてしまったのだった。

 二人が、倒れていた学生を助けおこしている。苦しそうに呻いているのは、真神の生徒だ。
どうした? 持病のシャクか?
近づくと、醍醐が驚いたようにそいつの腕を持ち上げた。
おいおい、ロケットパンチかよ。高校生にもなって無邪気だなあ。で、ソレ飛ぶの?
アフロダイAとかのムネから飛び出すロケットは、あんな薄い発射口にどう格納されててどう発射してるんだろう、とオレの思考が少しズレたとき、蓬莱寺の「馬鹿な、腕が石になるなんて───」と唸るのが聞こえた。あれ? そうなの?
本当だ、制服ごと硬いな。うぬ、オレの観察眼はまだまだ修行が足りないや。
 ちょっぴり反省しつつ、その人を桜ヶ丘に運ぶのを手伝った。

 次の日の放課後、遠野がすごい顔で吹っ飛んできて、午後ずっと居眠りしていた蓬莱寺を張り飛ばした。
首を締め上げながら、昨日のことを話せと詰問する彼女に、蓬莱寺がボケをかます。
「ああ、あのことね。バッチリ見たって。風でめくれたおネエちゃんのパン───
うわっ。すげぇアクションツッコミ。本気で机にアタマぶつけたぞ、蓬莱寺。
遠野は、倒れ込んだところをグイッと持ち上げて、また首を締め上げる。
「誰がおねーちゃんの話をしてるかーッ!!」
 いつものことだが、この二人の漫才は吉本興業の若手芸人並みに身体を張っている。
羨ましいなあ、遠野。蓬莱寺。オレも混ぜて欲しいな〜。3人でコント。うふふふ。
 またトリップしてたので、醍醐がなんか言うのに無意識で頷いてしまった。ん? ああ、遠野にロケット、じゃなくて石化した腕の男の話を教えるんだな。いいんじゃないの?
 交換条件で遠野が教えてくれたことによると、身体が石になっちゃった人があと3人いるらしい。どうしたんだろうな。
ちなみに、オレの顔と口は既にじゅーぶん石化してっけどな。あははは。
…頼む、自虐ボケはやめよう、オレ。ツッコむのが空しい。

 今日は心漫才が不調だなーと思いつつ廊下を歩いていたら、裏密が現れた。
桜井が石化のこととかを訊いたが、コイツの話はいつでも難しくてよく分からん。
しかも「邪眼、欲しくな〜い〜?」なんて訊いてきた。
要らん。じゅーぶん邪眼だっちゅーの、オレ。
きっぱり首を振ると、恨めしそうに睨まれた。ううう、コワイ。オレの目なんかより、絶対コイツの方がコワイよな??
 って、何を思ったか、オレたちについて来るとか抜かしやがる!!
首を横に振りかけて、またジト〜っと見ている裏密の目に、金縛りになってしまった。
ほ、蓬莱寺。コイツ、素質があるどころか、充分イビル・アイだよ〜。
思わず頷いてしまった。うわ〜ん。
オレを責めないでくれ、蓬莱寺。訊かれたのがお前なら、やっぱ首を縦に振ってたと思うぞ!
ほらほら、今だって「嘘付いたら呪っちゃうぞ〜」とか言ってるし! 断ったら呪われてたって!

 そのあと「鎧扇寺学園」というのがアヤシイということになって、オレたちはまたまた調査に出かけた。
すっかり必殺仕事人みたいになってるよなあ。しょっちゅう変なことが起きて不思議な感じだけど、まあ、都会ってこんなもんなのかな。
 鎧扇寺の空手専用道場に入ると、なんか如何にも空手家って感じの人が座っていた。
おわー! 立ったら醍醐よりデカいぞ、こいつ! 上には上がいるんだな。
どうやら有名らしい醍醐の名を確認してるけど、この二人、並んでると怖い。それだけで圧迫される。
 恐々と(いい加減イヤになってきたけど勿論顔には出ない)見ていたオレの視線に気付き、その大男が声をかけてきた。
はァ、と頷くと、そいつは驚くようなことを言い出した。
「緋勇といったか。良い瞳をしている。」
…………………えっ!?!?
 お、オヤジ、いやお兄さん、今なんて!?
良い瞳? 良い目ってオレの目玉? マジ? 「睨んでる」とか「怖い」とかしか言われないコレが、良い瞳ですって!?
キミの方は目ェ悪いんちゃう、とツッコミが心の中で入ったとき、「俺のいう事が信用できるか」と聞いてきた。
いや、キミ目ェ悪いからちょっと。
首を捻ると、大男はニヤリと笑った。「拳を交える事で無実を証明する」という。
おお、拳で語るのは大好きだ。言葉が要らない分、楽だしな!
 待てよ、こんな強そうで立派そうな男なら、オレ程度の目なんか恐るるに足らんって感じなのかも。
うん、そうかも知れない。いや、きっとそうだ。
 先日の昼休み、醍醐達に思いッ切り目を見られた時のことを思い出した。
蓬莱寺なんか、顔を真っ赤にするくらい怒ってたし、醍醐ですら引きつっていた。まァ、その後「オレ、目はこんなんだけどフレンドリーなのよ〜」という表現として、ゴミ捨てをしたお陰か、二人とも許してくれたんだけど。
それでも、やっぱりオレの目を見て平気な人なんていないんだ(…いや、一人いたな…比良坂紗夜って謎の女が…)、なんてちょっと落ち込んだりもしてたのだった。
へへへっ! 本格的武道家は平気なんだ、きっと! わ〜い!
思い出してみれば、鳴瀧先生だって全然平気そうだったもんな。
よーし闘うぜ! そんで今度こそ「お前、強いな」「フッ…お前もな」だぜ!

 嬉しいことに、オレの願いはあっさり聞き届けられた。
紫暮は「あんたの技も凄かったぜ」と、オレの肩をバンバン叩いたのだ。へへへ、そう? いやあ、おにーさんも強かったよ。
正面からの攻撃効かないから、後ろに回って殴りまくっちゃったけど、卑怯じゃないよね? 怒ってないみたいだし、いっか。
「お前、強いな」「フッ…お前もな」の野望達成だ! ノーヒットノーラン決めた佐々岡投手も真っ青な快挙だ!
 しかしすっかり気を許し、これまでの事件など醍醐が話すのを聞いていたら、なんと突然紫暮が増えたので、目玉が飛び出すほど驚いた。勿論実際は目も、顔にも出てないが。
それにしてもコレ…紫暮と紫暮と醍醐の三つどもえはすんごい絵面だ…。
ドッペルなんだって? よく分からないが、幽霊じゃないんならまァいいや。
 共に闘ってくれるというので、喜んで右手を差し出した。敵が闘う前に逃げていくかも知れないし。
そう言えば不審な男を見た部員がいる…と、今頃有力情報を出す辺り、ちょっと頭も筋肉になってる気はするが。
 ん? なんか醍醐が変だな。「スキンヘッドの男」というのを気にしてるようだ。坊主頭がどうかしたのか…
はっ!
…もしかして、醍醐…
ハゲてんのか?
気を遣うタイプだもんな、どっか円形脱毛症になっててもおかしくないよな。
 外に出て、蓬莱寺が心配して声をかけているので、オレもそっと醍醐の肩をポンポンと叩いてやった。
気にするな。気にすると、ますますハゲる。
 醍醐は頷くと、
「大丈夫だ。それより、ちょっと病院へ寄って行かないか?」
と言った。それはいいけど、そんな風に他人のコト気遣うからダメなんだぜ?
うーん、オレの言いたいことは全然伝わらないんだよな。何て言えばいいんだろう。
 内心「えーい、何とか言え、オレ!」と焦っていたら、蓬莱寺が後ろからまた絡んできた。
「…いいヤツだな、お前は。」
そう言うと、前を行く醍醐に声をかける。
「おい大将、コイツがこんなに心配してるってこと、忘れンなよッ」
立ち止まって、醍醐がオレを振り向いた。ちょっと顎に手をあて、オレを見ていたが、
「…そうか。すまんな、緋勇」
と笑ってくれた。
いや、いいんだ。てゆーか、オレにも気を遣わないでくれってば。
若いのにハゲの悩みってのは可哀相だもんな。
 …それにしても、相変わらず蓬莱寺はすごい。テレパシーでも使えるのかなあ。

 ちょっと感動していたオレを、桜ヶ丘で待っていたのはまたもあの女だった。
その姿に気付き、身構える。
女は、屈託のない(フリをした)笑顔で蓬莱寺と会話を交わしている。
全員と挨拶をしたあと、「こんにちは、緋勇さん」と近寄ってきた。
………ああ。また…会ったな。」
と言いつつ、前回試せなかった必殺技「緋勇睨み付けビーム」を繰り出してみることにした。
「えへへッ。」
……………………くっ。や、やっぱり効かない。なんでにこやかに受け流す!?
底の知れない女だ。
 背中に嫌な汗が流れたが、とにかくオレは比良坂がそこから去るまで、ずっと目を離さず見張り続けることにした。
友達がどうのと言っているが、ここには真神の空手部の連中が入院しているのだ。
この女がそれを知っていたとしたら。そしてオレたちを待ち伏せていたのだとしたら。
もしかして、<敵>なんじゃないか? 一連の事件の鍵を握る人間なのでは?
 女が去った後も、しばらく辺りの様子をうかがう。特に何もないことを確認してから、踵を返して病院の中へ入った。
 玄関の前でオレを待っていた蓬莱寺が、少し厳しい顔でオレを見ている。
うん。オレの気持ちを分かってくれるお前なら、あの女の不審な所も分かってくれてるのかも知れないな。
油断すんなよ。アイツは可愛くても普通じゃないからな!

 次の日。
またまた遠野が元気に声をかけてきた。
昨日はビックリしたぜー。普通潜入捜査までやるか? 高校生だぜ?
全くすごいエネルギーだよな。喋るし、動くし、漫才もこなす。ホレちゃうなあ、遠野。オレも、アン子って呼んでもいい? なーんてね。心の中でだけだけど。
 そんなアン子ちゃんでも、流石にあの桜ヶ丘の人喰い先生からは情報をゲット出来なかったらしい。
ま、放課後またみんなで情報集めに歩こうぜ。

 だが、桜井が行方不明ということで、計画は変更になった。
まずは仲間を捜さないとね。空手部には気の毒だけど。
 蓬莱寺と一緒に新宿駅の辺りをうろついてはみたが、桜井の姿はない。
どうなってんだろう。蓬莱寺はさらわれたっていうけど、誰がそんなスゴイことをやってのけたんだ。
あの桜井だぜ? そんなマネしたヤツの脳天には矢の2、3本は刺さったろうに。
「俺たちの内の誰かと顔見知りの可能性が高いな。例えば醍醐のヤツとか…よ。」
刺青のある男と訊いてから醍醐の様子がおかしかった、と蓬莱寺は言う。「スキンヘッド」を気にしてたんじゃないの?
 京一は、ほんのちょっとだけ醍醐の昔の話を教えてくれた。
醍醐も転校生だったとはちょっとビックリ。
あいつも誰かに、東京を護れって言われたのかな。
だから話せないのだとしたら。
ちょっぴり親近感だぜ。
「お前にだって、知られたくねェ過去があるだろう?」
 ん〜………いい思い出ってのは、確かにないけど…。知られたくないんじゃなくて、上手く喋れないだけなんだけどな。ま、確かに、話して面白い話は一つもないよ。
「ま、いいさ。つまんねェこと聞いちまったな。」
気にするな、というように、蓬莱寺がいつものように肩を組んできた。へへっ、すっかり慣れたよな、コレ。

「京一? それにセンパイじゃねェかッ」
 おっ。その奇天烈なアタマは雨紋。…今、オレのことセンパイって言ってくれた? へへへ〜嬉し〜。オレ、後輩って持ったこと無いからすげー新鮮!
えっ、何だって? ナンパ? 渋谷なんかはやっぱ多いんだろうな。それで、桜井もそのナンパに引っかかったっていうのか? まーさかー。ナンパなんかされたらとりあえず矢が5、6本…おっと。蓬莱寺が血相変えて、中央公園に戻ろうと駆け出した。あわわ、待ってくれ〜。何がどうしたんだ〜?

 中央公園に着いてから、杉並ってとこに醍醐を恨んでるヤツがいて、そいつが今回の事件と桜井誘拐の犯人だと蓬莱寺に聞かされた。
ふうん。そりゃ大変だ。でも何で、醍醐に直接来ないで、桜井に行くワケ?
「自分のせいで小蒔が───なんてことになったら、あいつ、どうなっちまうかわからねェからな。」
 えっ。そ、それって、もしかして、醍醐と桜井が…えーと、交際されている、というコトですかっ?
そ、そうなんだ。気付かなかったな。いや、言われてみれば、醍醐は桜井に特に気を遣ってるようないないような…いややっぱそーだよ、さっきだって桜井がさらわれたって分かって、異常に取り乱してたじゃないか。
「たまには、俺たちが、あのでけェのを支えてやんなきゃな。」
 うん。しみじみと頷く。カノジョがさらわれたなんて、ショックだろうな。
よし、絶対桜井を助けようぜ!
 そう言おうと、心の中で台詞の練習を開始したとき。
悲鳴が響き渡った。
………この声は!?

 駆けつけると、やはりあの女───比良坂だった。
見たところ、不良に絡まれているらしい。
オレは立ち止まった。また身体が緊張するのが分かる。
…良い機会だ。この女の正体が分かるんじゃないか?
今はしおらしく不良につかまっているが、いざとなったら…
 比良坂がこちらに気付いた。
「緋勇さん───。」
救けに出ようとする蓬莱寺を止めたが、丁度醍醐と美里も駆けつけてきてしまったので、不良達は比良坂に絡むのを止めてしまった。
醍醐に「凶津サン」が待っていると告げて全員去っていく。ふぅ。命拾いしたな、お前ら。
「あッ、ありがとう。」
 比良坂がそう言って近づいてきたので、オレはかなり思い切って、………その肩を掴んだ。
ぐっ。ややや柔らかい。み、美里と同じだ。少なくとも、何か武術を嗜んでいるような身体ではない。
しかしこうしていても、オレの<<気>>は比良坂を素通りしていく。こんなのは、余程<<気>>を学ばなければ出来ない筈だ。
 比良坂は、オレの行動をどう捉えたのか、にっこり微笑んで「みなさんのおかげです」なんて言っている。
「神様の偶然ってあるんですね…。また、こんな風に会いたいな…」
とか言って、オレを真っ直ぐ見据えてくるし。くっ。
少し肩を引き寄せてみる。こんだけ近くても、オレの目、平気か? お前。
「…そうだな。また『偶然』に…な。」
更に、ちょっと凄んで言ってみた。
しかし。
「嬉しいです…」
…全部、暖簾に腕押し…。
 オレはガックリきて、手を離した。
なんなんだよ、この女〜。もーマジで怖えーよー。何者なの〜?
 とにかく桜井を救けるため、気を取り直して杉並区とやらに向かうことにした。比良坂とはいずれ決着をつけたいけど、今は仲間が先決だ。

 ようやく、醍醐が「凶津」のことを教えてくれた。
要するに、拳と拳で語り合おうとしたら失敗したってことらしい。
それは悔しい話だなあ。男同士、拳で分かり合えないなんてツマンナイぞ。桜井を人質にとる辺り、イマイチ女々しいヤツだしな。そんなヤツのことで、お前が悩むことないぞ? そんなの悩むから毛根も死ぬんだって。
もっかいぶっ飛ばして、それでも分かんないようなら忘れろ。オレらもいるんだしさー。
…と、醍醐の背中に心の中で語りかけ続けたが、蓬莱寺じゃないから通じてなかったらしい。
「お前は、こんな俺を軽蔑するか?」なんて訊かれてしまった。
トモダチを軽蔑するワケないやろ! たとえハゲても足が臭くても腐っても枯れてもトモダチはトモダチなんだぞ。それとも何? もしかして友達と思ってんのオレだけ? うっ…
……………オレたちは…友…だろう? 醍醐。」
 ちょっと訊くの怖かったけど、でもホラお前、オレのコト怖くないって笑ってくれたもんな。ツカイッパしたら許してくれたよな、だから友達って思っていいんだよな?
「ああ…ありがとう」
ホッ。良かった〜こちらこそアリガトウ。(心の中でペコリ)
 蓬莱寺が、俺だって小蒔だってみんな仲間だぞ! とフォローしてくれたので、やっと醍醐も安心したようだ。
良かった、またハゲる原因が増えなくて。軽蔑はしないけど、髪はあった方がやっぱりイイもんね。

 天井がくずれそうな工事現場のバラックに足を踏み入れる。
女の彫像がゴロゴロ並んでて、その奧から、噂の「凶津」が現れた。
どっひゃー。これが、醍醐の親友ー?
その顔のマークは自分で描くわけ? 鏡とか見ながら? う、想像するとちょっと微笑ましいな。
もしかして、サッカーのサポーターってヤツか! どこのファンだ? ちなみにベ○ルタ仙台は弱えーぜ(泣)?
 あわわ、さ、桜井だ! 全身石化しちゃったのか?
い、急いで桜ヶ丘に行かなきゃな! もー凶津の能書き聞いてらんないっつーの!

 前回と違って、相手は人間だからやりやすい。発剄も効くし、触っても気持ち悪くない。
両腕に<<気>>を溜め、空を殴るような要領で、敵の間に放出する。おお、一撃で複数の敵も倒せるぜ。
 ちょっとレベルアップしてるらしいことに満足しつつ辺りに注意を向けると、醍醐がもたもたとチンピラみたいなのを相手にしているところだった。
「醍醐!」
叫んで、チンピラの後頭部を思いっきりブン殴る。
「決着をつけろ!」
 普段の注意をうっかり忘れて、つい思い切り睨んでしまった。
ハッとしたような顔をして、醍醐がオレを見つめる。やばっ。目線は外さないと。
「…ああ。」
何とか間に合ったのか、頷いた時にはもういつもの醍醐だった。
よーしよし、拳で語れッ! 醍醐!

 はっはっは。またも醍醐の勝ちだな。凶津とやら、修業が足りないんじゃないのか?
んー? 鬼? 起動集って何かのアプリケーション? なんだか錯乱してるのか、おマエ。
…イマイチ和解には至らなかったみたいだな。でも、醍醐はもう迷ってないみたいだ。
そんならいいや。
醍醐、蓬莱寺の言う通り、オレたちは「仲間」だからな。
これからはちゃんと相談しろよ! ト・モ・ダ・チ・にな!
 オレは、増毛とカツラとはどっちが安いのかな、なんて考えながら、工事現場を後にしたのだった。

06/05/1999 Release.