異性交遊のススメ方

 〜前回のあらすじ〜
真神学園も夏休みに入り、緋勇と仲間達は、束の間の安息を得るけど男衆は補習で大変だった。だが、江戸川ではすでに、新たな事件が起きていた。次々と発見される他殺体は皆、首がなかったが「かまいたちの夜」は面白いと思う緋勇。ルポライターの天野から情報を得た緋勇は、街で知り合ったアランに美里をあげることにして仲間に叱られつつ江戸川へ向かうのだった。そこで新たな黄泉の門から現れたナメクジ妖怪と、相変わらず突然出てきて緋勇をビビらせる鬼道衆、風角を斃し、事件を解決したのだった。


 9月になっても結構蒸し暑いが、だいぶ慣れた。一時期に比べりゃマシ、という程度だが。
実は先月は、暑かったのもあるけど、オレの実家の方では盛大に七夕祭りやってて、毎年見に行ってたワケでもないのに行けないとなると無性に見たくなったり…つまり、…ちょっぴりホームシックに陥ったのだった。
でもまあ、補習とかあったし、みんなちょこちょこ連絡くれたりして、すっかり気が紛れてしまった。
京一やアランなんかはよくウチに来たし、翡翠や醍醐も何かと電話をくれた。雷人は海に連れてってくれたし、藤咲と高見沢がハーゲンダッツのアイス大量に持って遊びに来たときも大変だったよなあ。紫暮ん家の道場にも何回行ったかな。穂沢に誘われて、演劇部の夏合宿を見学にも行った。そうそう、裏密も…いや。あのことは忘れよう。もう二度とあんな恐ろしい目には遭いたくない! 思い出しちゃダメだ。
とにかく、「仲間」たちが日替わりに遊んでくれたお陰で、暑くて辛い東京の夏を乗り切り、こうして二学期を迎えたというわけだ。
 だけど、あれ程早く学校が始まって欲しいと思っていたのに、今はちょっぴり憂鬱だったりする。
毎日京一たちに逢えるのは、一学期と同じだ。なんとなく時間があると、みんなでいつの間にか集まって、他愛ないお喋りをする。それは全然変わりないけど…
醍醐と桜井、京一と美里がカップルのグループ交際の中に混ぜてもらってるんだ。そう思うと、申し訳なくて落ち着かないのだ。
 気付いてみれば、醍醐はいつも桜井の些細な言動に反応してるし、京一も美里に気を遣ってるのがハッキリ分かる。オレ、今までよく気付かなかったよな。ま、今まで友達付き合いしたことなかったから、その辺ニブいのも仕方ないか。
 別に、彼女がいないことを今更ひがんだりはしない。…い、いや、ちょっとは妬けちゃうけどさ。
ただ、すごく気まずくなるときがある。如何にもいい雰囲気になりかけて、慌てて話題を変えたりする時がそうだ。
独り身なオレに気を遣ってるんだろうな。いーんだよ、全然気にしなくて。もーバンバンラブラブいっちゃえ〜! ヒューヒュー熱いヨー! と言いたいんだけど、分かってもらえないのがもどかしい。
 そんなワケで、桜井の弓道部の練習試合を観に行くことになった今も、少し恐縮してるのだ。
だって、最初から誘われてた美里と、カレシの醍醐と、美里のカレシの京一が行くのはともかく、オレも行っていいのか? って思うよな、普通。誘われてもいないんだぜ?
美里が「私たちも早く行きましょう」なんてあっさり言うから、いいのかなーとオドオドしつつ、でも、「仲間」だもんな、きっと仲間だから許してくれるよな、なんて虫のいいこと考えてついて来てしまった。…ホント、オレって自分に甘いっス(泣)。

 醍醐と美里が並んで何か楽しそうに話している。多分桜井のことだろう。
オレの隣には京一がいたが、珍しく黙って歩いている。美里と話したいのかも知れないな。
…………醍醐。…ちょっと。」
話が盛り上がっているところ悪いんだけど、なんか京一ヤキモチ妬いてるみたいだから、ちょっと二人で並ばせてやろうよ。
「どうした? 龍麻。」
巨体を縮めるようにして、オレを覗き込んでくる顔をちょっと見て、さて何の話をしようかと迷った。
一応目的は果たせて、京一は美里と何か話している。
うーんと。えーと。今日は晴れてて良かったな。…桜井、勝つといいよな。…あー。昨日のナイター観た? マシンガン打線は健在だよなー。…それよりトキの子供さ、「トッキー」は止めてくれって思わねえ?
…ダメだ、良さそうな話を思いつかない〜。
「…何でも、ない。」
ごめん! 醍醐。呼びつけといてしょーもないよな。悪かった。
と、京一と美里もオレを振り向いて、すごく変な顔をしてる。…しまった…逆効果だ。またみんなに気を遣わせてしまう。そんなつもりじゃなくて、オレは単に、二人に仲良くして欲しくて、オレなんかのことは放っといていいって言いたかったんだけど…もう、どうしてこうなんだろう。 オレはどうして普通に…
 いかん、落ち込んできた。よせ、この「コミュニケーション能力の欠落」は充分悩み尽くしたネタだろっ、オレ! 転校するとき、絶対前向きに生きようって決めたんだから。
 そーだ、オレもうじうじしてないで彼女作る努力をしよう! 声もかけられないし触るのも怖いけど…、ま、まあいい! 根性と努力で克服するんだ! 絶対無理だと思ってた友達も出来たんじゃないか。為せば成る。多分。
よーし、頑張るぞ! おっしゃあ!!

 と、かなり強引に自分を浮上させた頃、ゆきみヶ原高校に着いた。
弓道場が地図に書かれてないらしい。
「分ッかり難いなァッ」とか言いながら、美里の持った地図を横から覗き込む京一。…はあ〜。美男美女のカップルっているんだな〜。やっぱお似合いだよ、この二人。
 ぼーっと見惚れていると、京一がオレに「どうする?」と尋ねてきた。
「…先に…行け。」
オレと醍醐は待ってみるからさ、先に中に入って探してよ。オレら、ここの生徒通りかかったら場所尋ねて追っかけていくから、二人で…ね? へへへ。
と言いたかったのだが、京一はあからさまに嫌そうな顔をした。…ごめん。うまく伝わらないな、やっぱ。しょぼん。
「コラッ、そこのッ!!」
うわ? は、はい!?
 いきなり声をかけられて驚いたが、声の主にも驚いた。この人、どっかで会ったような…
と思ってたら、桜井の友達らしい。それで面識があるのか?
でも美里と初対面ってことは、やっぱりオレの勘違いかな。
この見掛けと違った(失礼)清冽で澄んだ<<気>>は、そんじょそこらに転がってるものじゃない。京一はお嬢様っぽくないとか言ってるけど、そんなことはないとオレは思うぜ。…<<気>>だけは(また失礼)。
とにかく弓道場の場所を教えてもらえた。あとで桜井に聞いてみよう。

 わー。弓道場って初めて見た。かっこいいなあ。如何にも古くからの伝統武道って感じだ。
練習試合とはいえ、結構見物人も多い。しかも、弓を射るのに邪魔なんだろう、構える時の静けさがまた緊張感を煽る。弓弦を弾く音、空を切って飛ぶ矢音が聞こえる。すげー。
 丁度、桜井の番に間に合ったようだ。良かったな、醍醐。へへへ、拳握りしめちゃって、桜井より緊張してやんの。可愛いよなあ。
…あれ? 対戦相手の子、さっきの子と同じ<<気>>を…
あっ!! 思い出した、プールで会った子たちだ! そーだよ、似てないし変わった姉妹だって思ったんだっけ。あの<<気>>は忘れないよなあ、それもダブルでだぜ? ダブルヒーロー攻撃は協力技の一つだけどな。って何をゆーとんねん。

 なんと試合は桜井の負けで終わった。ルールがよく分からないんだけど、とにかく相手の「織部」さんが満点で、桜井は一つ僅かに中心から外したようだった。惜しかったよな。てゆうか、全部あんな遠くの的に当たるだけでもスゴイと思う。
 桜井が、お守りもらったのに…とホントに済まなそうに醍醐に謝った。醍醐は慌てて慰めている。…んー、青春って感じ! いいよなあ、この二人も。もろ「明るく正しい男女交際!」て感じだ。
よっ。熱いよご両人。見せつけてくれちゃって〜、とか心の中ではやし立てていたら、さっきの対戦相手の織部さんがやって来た。近くで見ても可愛い。話し方も仕草も、如何にもお嬢様〜って雰囲気だな、お姉さんと違って(またまた失礼)。
そのお姉さんもやって来た。こうして並べてみると、やっぱ全然似てない。<<気>>も、僅かに違うな。お姉さんは清浄な中にも苛烈な色が見え隠れする。気性の現れだろうか。妹さんより桜井に似てるかもな。
結構鍛えてあって、スレンダーで、京一が「美少年」とからかいそうな人だ。…でも、こういう人でも触ったら柔らかいんだろうな…はっ。い、いかん、そこで後込みしちゃダメだ。よし、まずこの人とお友達になることから始めてみようっと。大江千里の道も大阪からじゃ。って分からんわ!
 心漫才に紛れてそんな決意をしていたら、神社をやっているという二人の家に誘われた。でも、お姉さんは嫌そうだ。…め、メゲるもんか。ここでめげたら、また落ち込んでしまいそうだ。男たるもの、そうウジウジしてちゃイカンのだ。
「…そう言うな。………頼む。」
じゃなくて、お願いだから冷たいこと言わないでよー。桜井の友達ならオレらも友達だろー? と言いたいんだってのに。
でも、有り難いことに、多少は気持ちが通じたらしく、来てもいいって言われた。良かった〜。

 如何にも神社らしい境内の、横の奥まったところに社務所があり、更に奧が織部さんたちの住まいになっていた。古くて立派な家だよな。美里が褒めてるけど、ここまで古いと家鳴りとかして怖そうだ。
 そんなことを考えていたら、妹さんが昔話を語り出した。オレ、こうゆう民話みたいなのもダメなんだよね。小さい頃「鬼が出るぞ」とか「勿体ないオバケが出るぞ」とか脅されるだろ? アレがやたらと染みついちゃってるらしくてさ。うわ、やっぱり龍とか鬼とか出てくるし。
そんで? このお話の教訓は、「身分をわきまえろ」ってことかな? うう、悲しい話や。
「皆様───<<龍脈>>というのをご存じですか?」
え? ああ。オレの熱くたぎる血を体中に運ぶ管だ。それは動脈やっちゅーの。
じゃあ外国に言葉や文化を学びにそれは留学や! って、オレのボケが終わらないウチにツッコミ入るし。やるな、オレの心ツッコミも。
「では、<<風水>>というのをご存じですか?」
ああ! そっちは知ってるぜ。Dr.コパだろ? オレん家、母親がちょっと凝ってたからさ。
なんか、水回りに花を置くといいとか、東に緑を置けとかいうヤツな。おまじないみたいなもんだろ?
オレもやってたぜー、玄関を出るとき左足から出ると、テストでいい成績が取れるとか。ってそれは違うやろ。しかもそのジンクスで点数良かったことないやん。しくしく。
 オレが心漫才の現実的なオチに涙して(勿論心の中でだけ)いるうちに、話は進んでいたらしい。
妹さんがまた尋ねてきた。
「陰の未来と陽の未来…緋勇様なら、どちらを選ばれますか?」
そらもう、陽気で明るい未来ですわ。みんなで楽しくドツキ漫才しながら暮らすんだよ。
と言いたいところだったが、その未来にはオレが住めないかも知れない(泣)。ちょっぴり自信がないから、「陰の未来」と答えておいた。しくしく。オレ、陰気じゃないのよ? でも、エンマ様とかが見掛けで判断しないとは限らないもんね。
 と、テーブルに肘をついて、じーっとオレを睨んでいたお姉さんが、突然叫んだ。
「決めたぜ、雛ッ。オレはこいつらについていく。」
…え? じゃ、お姉さんも仲間? マジ? わーい!
てことは、「お友達」だよな! やったー目標達成だー!
とっても嬉しかったので、思わず手を差し出した。女の子にやっちゃいけないんだったと思い出した時には、お姉さんはニッと笑ってオレの手を掴み、ブンブン振って「ヨロシクなッ」と言ってくれたのだった。
女の子だけど、タコだらけの手。長刀部っていったな。なんか頼りになりそうだ。オレは「…よろしく頼む」とかろうじて付け加えた。
「おうッ任せとけ!」と笑うお姉さん。少しは好印象持ってもらえたのかな? へへ。
 しかし、それを聞いて、妹さんまで仲間になると言い出してしまった。そんな華奢な身体で鬼道衆と闘うのー?
…まあ、桜井に勝つくらいの腕だしな。その<<気>>もただ者じゃないし。
弓使いなら、後方で援護してもらえばいい。それにお姉さんがきっと護ってくれるだろう。
 彼女にも「よろしく」と言って、ちょっと迷ったけど手を差し出した。
「こちらこそ、よろしくお願い致しますわね。」
そう言ってニッコリ微笑んだ彼女は、軽く手を握り返してくれた。うん、華奢でも弓道を嗜む人の手だ。見た目で判断しちゃいけないな、オレも。ちょっと反省だ。

 新宿駅まで帰ってきて、いつも通り京一がラーメン屋に誘ったけど、桜井と美里は帰ると言って断った。
美里にフラレて寂しいんだな。拗ねちゃって、ちょっと可愛いぞ、京一。
「ごめんね、京一くん」と謝る美里も可愛らしい。ラブラブね〜。へへへ。ま、時間も遅いし、醍醐の言うとおり、今日のトコはオレたちだけで勘弁してくれな。
 ところがラーメン屋で、京一のいつものビョーキが始まった。
「しっかし、雛乃ちゃんて可愛いよなあ。雪乃の方は小蒔に輪をかけて憎たらしいけどよ、雛乃ちゃんは全然似てなくて、おじょーさまって感じで、いいと思わねェ? ひーちゃん。」
ったくもー。お前には「おじょーさま」って感じの美里がいるじゃんよ! 困ったヤツだな。
………馬鹿を言うな。」
一応叱っとくと、ビックリしたのか「悪りィ」と言ったきり黙ってしまった。いやまあ、分かればいいんだけどさ。
でももし結婚したら、美里はしょっ中泣かされるんだろうな。今から少しずつでも、この浮気癖は直させないと可哀相だ。…よし。
「…女は、生涯一人で、…充分だろう。」
うん、オレだいぶ長く喋れるようになったみたい。てへへ。
…って、アレ? ちょ、ちょっと。京一はともかく、なんで醍醐までそんな悲しそうな顔してんの!? オレ、そんなおかしなコト言ったか?
男って、やっぱ浮気するのが基本なのかなあ。信じらんねえ! 一人でも彼女になってもらえるだけ有り難いと思えよな。なんか腹立って来たぞ。二人とも欲張りになってんじゃないの? ちょっとモテるからってさ。モテない奴の身にもなれっての。やだやだ。
 店を出ると、京一が何か言いたそうに見ていた。でも、オレは無視してさっさと立ち去る。
少しは反省しろよ。オレがひがんでるだけじゃないぞ! 美里のためだからな。
…気を悪くしたのかな…い、いや。悪いところは指摘してこそ友情だ!

 なんて意地張ってみたものの、翌日いつも通り「よッ」と声をかけてくれるまで戦々恐々としていたオレは、かなり情けない。でも、いいや。京一は気にしてないし、それに今日も醍醐の師匠を訪ねて、みんなでお出かけだ。へっへっへ。
 醍醐の師匠の家は、ものすごく立派な竹林の続く山の上だった。東京にもこんなトコあるんだな、ちょっとビックリだ。
「パンダでも飼ってんのか」なんて京一が言っている。ふふん、違うな。筍栽培してんだよ。春にはボロボロ採れるだろ、こんだけの山なら。かなり儲かるぜ? 採ってすぐ食うタケノコってのがまた美味いんだよなー。まぜご飯もいいけど、煮物もイイ。米ぬかで煮てアクとって…はっ。米ぬかって実家や近所の農家にはいっぱいあったけど、東京の人はどこで入手するんだろ。スーパーで売ってるかな…
 米ぬかに思いを馳せているうちに、いつの間にか目的地に着いた。
昨日の織部神社じゃないけど、ここもかなり古いお宅だな。尤も、あんな山道上がってきて突然洋館とか出てきたら、中でゾンビか怪魚に襲われるのがオチだから嫌だな。って、前回に引き続き他社のゲームネタを。せめて蜘蛛男爵かバラランガくらいにしとけっつーの。

 中に勝手に入ってウロウロしてたら、奧から水戸黄門が現れた。うわー。醍醐、先の副将軍が師匠なのか。おお、「ほっほっほ」だって! 笑い方もご老公!
「すると、こっちが緋勇龍麻か。」
と言われたので、「はい」と応えて平伏した。はは〜。なんて。
 黄門様は、鬼道ってのが古くからある話をしている。昨日の織部妹さんの話を思い出すな。
「どうじゃ、他に聞きたいことはあるか?」
うーん…じゃ、織部妹さんの言ってた、意味の分からん単語を訊くか。えーと何だっけ、動脈じゃないし静脈じゃないし葉脈じゃないし…
………りゅーみゃく、とは…」
ご老公は、龍脈とは大地のエネルギーだと説明してくれた。
地熱とかいうヤツ? それ使って発電する話をどっかで聞いたな。うむ、エコロジーで良し。
オレもちゃんと牛乳パックやトレーをスーパーの回収箱に返してるぜ。東京はゴミ捨て制限がうるさいけど、住民としてキチンと守らなきゃな!
 と、気付いたら醍醐がご老公に珠を見せて相談している。ああ、そういやそんなのもあったっけか。
「ごしきのわに」? 五色沼のことかな。って、あそこにワニはいないやろ。いたらやっぱり五色なんだろうか。いや、五匹いるってのはどうだ?
ワニレッド! ワニブルー! ワニグリーン! ワニピンク! ワニイエロー!
敵は稲葉の白ウサギだ。悪辣な白ウサ将軍を倒すため、五人の心を一つに併せて今日も闘うのだ!
「わしの話が分かったかの?」
はうっ。…ご、ごめんなさい、聞いてませんでした。
首を捻ったら、またご老公が黄門笑いをして許してくれた。さすがご老公。
 とにかく、拾った珠をお寺かなんかに封じろということらしい。承知致しましたとばかりに頷いて帰ろうとしたら、呼び止められた。
「また、ここに来る事があれば、お主には話しておきたい事がある。それまでは、己が信じた道を歩むがよい…。」
そう言って、さっきの珠をオレに渡して寄越す。
な、何だよ。醍醐に渡してよ、なんかオレ壊しそうで嫌だ、こんなガラス玉。
「あの…」
これ、要りません。と言おうとしたら睨まれた。
「…そんな顔をするでない。」
そんな顔? どんな顔ですか? い、今顔に出てたの? ちょちょちょっとジーさん、いやご老公、これオレにとっては大事なコトだから教えてよ。
ねえ黄門様! そんな板っきれなんかいらないっての! …ああ〜肝心なときに言葉が出てこないんだから〜も〜!

 ちょっとがっかりしつつ山を下りると、結構遅くなっていた。
「明日にでも、不動へ行ってみようぜッ。」
おお、そうだったな。さっきの珠を持って行くんだった。そっか、明日もみんなと一緒だ〜。
 四人には申し訳ないけど、やっぱオレ、みんなとなるべく一緒にいたいんだよね。こういう理由があれば恐縮しないで、堂々とついて歩けるもんな。
黄門様に感謝しつつ、みんなと別れた。
 この後悲しみが待ち受けていることを、オレはまだ知らなかったのだ───

07/06/1999 Release.