弐

変態撲滅でGo!

 〜前回のあらすじ〜
心漫才の暴走により、佐久間を殺してしまった醍醐の夢を見た緋勇は、京一に嫌われたと思いこんでしまうが何とか仲直りをする。杏子や裏密の協力もあり、醍醐が龍山の元にいると確信した一行は道を急ぐが、それを待ち構えていた岩角に行く手を阻まれる。更に鬼道衆、炎角が醍醐を狙っていた。ひとり龍山邸に辿りついた小蒔は単身、炎角に挑む。乙女のキッスをもらって、弱き己と決別した醍醐は小蒔を助け、ついに一行の元へと戻ったが、緋勇にビビられてるとは露ほども思わなかったのだった。


 うえ〜…キモチワルイ…。
待ってくれ〜、京一。醍醐。は、吐きそう〜。
ラッシュの電車ってスゴイ。ぎゅーぎゅーに詰め込まれて、潰されて死ぬかと思った。さすが都会だ。混み方もハンパじゃない。
 勿論、仙台にもラッシュはある。仙石線だって東北本線だって、朝や夕方はぎっしり満員だ。
でもオレは今まで幸いにも、徒歩で通える学校にしか行かなかったので、満員電車というヤツには全然乗ったことがなかったのだ。
揺れとか匂いとかもスゴイが、何より密着した他人の身体に一番パニクった。
それも、丁度正面がOLのおねーさんだったのがマズイ。それでなくてもドキドキしてたのに、柔っこくてあったかい身体が引っ付いて来て、恐慌に陥った。当然顔には出ないけど。
 少しでもくっつくまいと、身体をずらそうとしても、360度押さえ込まれている。ちょっとキツめの化粧の匂いを嗅ぎながら、どんどん気が遠くなって…ヤバイ、と思ったとき、ようやく目的地に着いたのだった。
 ふう、まだフラフラする。気を付けて歩かないと。
醍醐も京一もケロッとしてるな。都会っ子だから慣れてるんだろう。

 駅前では、既に兵庫が待っていた。
「珠の奉納は早い方がいいだろう。これで三つ目となれば、いつ鬼道衆の邪魔が入るとも限らない。」という醍醐の意見により、放課後を待たないで、朝早くから目黒不動にお参りすることになった。
で、目黒に住んでる兵庫に連絡を取り、道を尋ねようとしたところ、自ら案内すると言ってくれたのだった。
「悪かったな、紫暮。朝早くから…」
「何、構わんさ。ロードワークのついでだ。」
そう言って、兵庫は豪快に笑う。そう言えば、朝は5時起きでロードワークをこなしてから、空手部の連中と朝練してるんだったな。
 後から来たオレに気付いて、兵庫はオレにも声をかけてくれた。
「お前等こそ、朝早くからご苦労なことだな。…よう、龍麻。」
………お早う、兵庫。」
「ちゃんとメシを食ってきたか?」
「…いや。」
「朝食は摂らないといかんぞ。身体を作る基本だからな。それでなくても、お前は武道をやっている割には少々細身だからなあ。」
おいおい、お前やお前んちの家族がデカ過ぎるんだっちゅーの。オレは普通。朝飯もばっちり食べてるぞ。今日は早すぎて、朝食も弁当も作る余裕がなかったけど、抜いたことなんか滅多にない。
「母がお前のことを心配してるんでな。またウチに手合わせに来い。泊まっていってくれれば、祖母や弟も喜ぶ。」
オレは有り難く思いつつ、心を込めて頷いた。
 夏休み中にたまたま出くわして、誘われるまま兵庫の家にお邪魔した時のことを思い出す。
兵庫の三人の兄弟は全部武道家だ。空手道場の師範をやってる如何にも厳しそうなお父さんと、優しくて控えめなお母さん、かくしゃくとしたお祖母さんと元気いっぱいの弟・徳史くんに大歓迎を受けて、それ以来ちょくちょくお邪魔している。
 独立してしまっているのでたまにしか会えない上の二人の兄、群馬さんと静雄さんも屈強の武道家で体もデカイ。そのためなのか、紫暮家は風呂もリビングもトイレも何もかもが大きめに作られていて、何だか自分がメチャメチャ小さくなった気がして笑える。
それに、紫暮家の人々はみんな豪快で暖かくて、オレみたいなのも気軽に受け入れて、家族に一員にしてもらえてるみたいな感じがして、好きなんだ。
「…有り難う。…また…是非。」
「応ッ。いつでも来るといい、何ならずっと住み込んでくれても構わんぞ。」
そう言ってまたガハハハと笑う。さすがは兵庫、なんつー大雑把。
そんなことを言っている間に、目黒不動尊に着いて、兵庫は笑いながら走り去った。もう登校しないといけない時間だ。本当に親切だよな、あいつ。

 不動ガチャポンに珠を突っ込むと、今回の景品は何故か土偶だった。歴史的価値でもあるのかな。オレとしては埴輪の方が好きだ。…土偶って、なんかジト目で睨まれてるよーな…鏡見てるみたいでキライだ。
「さあ、真神へ帰るぞ」と言われて気付いた。…またあの電車に乗るのか…トホホ。
すると京一が「朝飯食ってこーぜ」と提案してくれた。賛成っ。もうちょっと遅ければ、電車も少しは空くだろ? そうしようよ。

 …というわけで、オレたちが学校に着いたのは一時限目が終わってからだった。
後で穂沢にノート借りよう、などと思っていると桜井が声をかけてきた。
「京一ィ。あんまり、醍醐クンと龍麻クンの足、引っ張るなよ。」
ドキッ。さ、桜井…サラッと今名前で呼んでくれた? へ、へへ。美里に引き続き、お前もか。照れるなァ…やっと、こう、真神の仲間に入れてもらえた気がするな。なんてね。
本当は、食事に行くのを賛成したオレも悪いんだけど、醍醐と顔を合わせてアハハッと笑う桜井の顔を見て、口出しをやめた。京一も拗ねたフリして笑ってるし。
 そこにアン子ちゃんが飛び込んできた。
「大変よ、大変よッ!」
相変わらず元気だなー、アン子ちゃん。
「なんだよ…、新聞部が廃部にでもなったか?」
やっぱりいつも通り、京一が素早くボケて、アン子ちゃんが強烈にツッコむ。ああ、いつみても素晴らしい。キレが違うぜ、二人とも。思わず見惚れちゃう。
「美里ちゃんとマリア先生が、ゆ、誘拐されたのよッ───!」
えっ!? …それって切り返しボケ!?
…違うらしい。それが証拠に京一がマジ顔になっている。ウソだろ〜!
醍醐は「営利誘拐か?」なんて言ってるけど、違うだろっ。この物騒な昨今、一番心配しなきゃいけないのは変態に攫われることだ! ワイドショー見てないのか!? オレも見てないけど。
二人とも破格の美人だし、ストーカーなんかワンサカいそうだ。特に美里なんか、ちょっと通りがかりに親切にしただけで他校生に誘拐されたばかりじゃないか。美人ってのも大変だ…なんて言ってる場合じゃない。ヤバイよヤバイっすよ〜!

 新聞部の部室はいつ見ても狭い。
部屋が狭いんじゃなくて、壁一面の本棚にぎっちりと資料が詰め込まれ、それでも足りずに山積みされたファイルや雑誌が所狭しと転がっているからだ。
 膨大なその山の中から、さっき見せてもらった鉤十字模様を探すことになった。
…でも、こんなもので探しても、ストーカーなんか見つかるのかなあ。それより警察に届けるべきじゃないのかー? …騒ぎを起こしたくないのは分かるけど…美里をオレたちで助けようってのも悪くないけど…。
 さっきからボーッとオレたちを見たり、ウロウロ歩いたり、適当な雑誌をパラパラめくっていた京一が、お茶を煎れると言い出した。お茶も嬉しいけどさ、お前、カノジョが攫われたってのに、随分余裕だな。こうしてる間にも、美里が変なヤツの手にかかって…お、オレの頭じゃ想像がつかないようなコトをされてるかも知れないんだぞ!
そう思って京一を睨み付けたら、真面目な顔で見返された。
 …待てよ。本当は、内心ではすごく焦ってるんだろうか。それで落ち着きなく動き回ってたのか。
ごめんな京一…そういう心の機微を分かってやれなくて。
………そうだな。」
同意すると、京一は明らかにホッとした顔をした。
「おうッ、ちょっと待ってろよなッ。」
ヘヘッと笑いながら楽しそうに急須と湯飲みを用意している。
きっと、ここにいるみんなに心配かけまいとしてるんだな。…男だなあ、京一…。
「みなさ〜ん、お茶がはいりましたよォ〜。」
ずるっ。思わず吉本的にズッコケるとこだった。京一、そのキモチワルイ甲高い声は、今オレが考えてたことに対するボケ返しなのか? 流石だぜ。

「ちょっと、これ見てよ。」
 アン子ちゃんが指し示す新聞を覗き込む。
…………………………ぷっ。
十五夜のお月見団子レースだって。くっだらねー。相変わらず「コボちゃん」はしょーもないなあ。つまんな過ぎて笑っちまう。
………この写真は…。」
へ? 4コママンガじゃなかったのか? って、そりゃそうだろな。
何々、…ローゼンクロイツ学院長? おっかない面してんな。…で、この人と誘拐とどう関係があるんだ?
え? どこ行くんだ、醍醐。この学校へ行くって?
…つまり、この写真の爺さんが、誘拐犯ってことか。ちょっと話聞いてなかったんだけど、あの証拠品とこの新聞から、どんな推理して犯人を割り出したんだ!? スゴイなあアン子ちゃん。本当に探偵にもなれそうだ。金田一少年もビックリだぜ。
そう言われて見れば、ムッツリスケベな顔してるよな、このじーさん。教職者のクセに、ヤダヤダ。よし、とっとと行ってぶっ飛ばして来よう。

 うおー。ここがハーゲンダッツ…じゃない、えーと、ローズ…は横浜の主砲…まあいいや。ナントカカントカ学院だ。でっかい校舎だなあ。象でも飼ってんのか?
でも、校門にいきなり警備員がいるなんて変なの。陸自の仙台駐屯基地を思い出すぜ。
醍醐が何故か躊躇しているので、早く入ろうと促した。警備員さんに、「院長に会わせて下さい」って言えばいいんだろ? 何で困ってるんだ?
 と、そこに天野さんが現れた。あのスケベジジイにインタビューするんだって。すごい偶然もあったもんだよな。
「あなたたちはジャーナリスト志望の学生、私の一日見習いとして、一緒に中に入る。というのはどう?」
お、オレも? ジャーナリストのタマゴ…アン子ちゃんみたいだな。
ちょっとカッコイイのでこくこくと頷いた。

 おっかなそうな警備員に、天野さんはスラスラと嘘を語っている。すっげえ…さすが大人の女の人だ。天野さんて、言い寄る男を手玉に取って翻弄するタイプかもしれないなあ。さっきマリア先生の知り合いだって聞いて驚いたけど、似たもの友達な気がしてきたぞ。
口々に挨拶して入るみんなの後ろにくっついて、警備員さんに軽く会釈する。ひー。ビビるよ苦手だよこーゆーの。今だけは顔に出ないことを感謝してしまった。

 なんとか中に入り込んだけど、さて、あとはどうすりゃいいんだ。
辛気くさい校舎をフラフラ歩き回る。どうでもいいけど、どうして生徒がいないんだ? 集団登校拒否か? 風邪で学級閉鎖か? 宇宙人に攫われたか? 実は創立記念日?
 あ、ようやく一人発見。…初等部の子みたいだな。しかも外国人の子だ。金髪が綺麗にウェーブしてて可愛い。
「…アナタタチ、ダレ?」
うっ。いかん、オレは特に子供がダメなんだ。ただ目が合っただけでも大抵泣き出されて、どっからか親がやって来て「ウチの子に何するのよっ」なんて怒鳴られたり、慌てて逃げられたりするんだよ。
泣かせないようにと眼を逸らしたが、その子は何故かオレをじーっと見つめてきた。…この子、オレのこと恐くないのかな。
そーっと眼を合わせてみると、青い瞳が覗き込んでくる。オレの方がたじろいでしまった。さすが小さくても外国人。「目を見て話せ」とか習ってるんだろう。
 突然、桜井が声を上げた。
「このコが持ってる時計…これ、葵のだよッ!!」
何っ? …てことは、この子が誘拐犯!?
美里とマリア先生を後ろから襲い、無理矢理薬とか嗅がせて動けなくなったところを二人まとめて抱えて連れ去って、体育館裏とか倉庫に監禁して色々な色々を…って、こんな小さな子供がそんなんやったら恐いわっ。と心の中で裏拳を入れる。
「アナタタチ…アオイヲ知ッテルノ?」
へへん。よくぞ聞いてくれました。オレは大威張りで言った。
「…美里の、トモダチだ。」
そして、こっちのおにーちゃんが美里の恋人だよ。なんて、子供にはまだ早いよな。
「トモダチ…分カラナイ…」
 …? どうしたんだろう?
桜井が「大切な仲間」だと説明しても、何やら変なことを言っている。
…この子、友達いないのかな。
オレと…ちょっと前までのオレと一緒なのかな。
外国人だからってイジメられてるのかも知れない。きっとそうだ。
この黒猫だけがお友達で、クラスメートからはシカトされたり机に「鉄面皮」って書かれたり牛乳パチられたり振り向くと「きゃー」とか叫んで女子連が逃げてって遠くの方でクスクス笑ってたり…ううっ。こんなに可愛いのに、なんて可哀相なんだ。って全部オレバージョンのイジメだけど。
オレは、半分無意識に、彼女の頭を撫でた。
驚いた少女がオレを見上げる。またじっと見つめてくるのを、今度は正面から受け止めた。出来れば睨んでいるように見えませんように、と願いつつ。
オレの祈りが通じたらしく、少女は階下に美里がいることを教えてくれた。
やっぱりアン子ちゃんの推理通り、あのジジイが誘拐犯だったようだ。他校の生徒に手を出すくらいだ、学校の中でも色々やってるに違いない。エロ教職者めーと久々に怒りに燃えて、オレは階段を駆け下りた。

 部屋に飛び込むと、妙な機械の固まりと、新聞のジジイと、やたら多国籍な子供達が立っていた。 機械を見渡すと、正面にでっかい朝鮮人参が漬けてある。あんなでっかいの、そうとう滋養強壮効果がありそうだなー。
と思ったら。
 ───み、みみ美里っ!?!?
漬け込んであるのは人参じゃなくて美里じゃないかーっ! 真っ白くてビックリだー!!
も、も、もしかして、死んじゃってホルマリン漬けになってるのか…?
思わず震える。や、やだよ、美里。最近ようやく仲良くなれたかなーと思ったのに、…オレ、友達を護れなかったのか!?!?
 軍服ジジイが何か言ってる。やかましい、色ボケジジイのたわ言なんか聞いてられっかよ!
そう思って飛びかかってやろうとした矢先、さっきの金髪の女の子が飛び込んできた。
「アオイッ!!」
女の子が叫ぶと、美里がちょっと反応したようだ。…生きてる? 生きてるんだな、美里!
ちょっと安心したが、しかし水の中でどうやって呼吸してんだろ。見えないところから空気送り込まれてるのかな。
ま、まさか、既に改造されてるとか! 海中や川底に長時間潜って諜報活動が出来るようにイルカの能力を取り付けられたのか? コードは008か!? そんな、嫁入り前の女のコになんてコトを!
くそう…美里、お前が改造人間になってもオレの友情は変わらないからな。多分京一も、気持ちが変わったりはしないだろう。虎で身の丈10mなゴジラやガメラがいるんだ、ちょっとサイボーグなくらい、何てコトないぜ。
もし…絶対そんなことはあり得ないけど、万が一、万々が一、京一が「機械の身体なんかイヤだ」とか言ってフッちゃったら、絶対ないとは思うけどそうなったら、おおおオレが嫁にもらってやるからな。…イヤですか? そ、そうだよね…「アンタのその鉄面皮の方がよっぽどロボットみたい」とか言われちゃった…て想像の中で速攻でフラレるなよ、オレ。大体美里はそんなキツイこと言わないぞ。「良いお友達でいましょう」って言うんだろーな。何しろトモダチだもんな。ヘヘヘ。
…とにかくこの変態オヤジだけは益々許せん。生きた女の子を水に漬け込んで飾ったり改造したりするってどーゆー趣味だ。勘弁ならん、成敗してくれる!
 前に出ようとすると、子供らが三人立ちはだかった。洗脳でもしたのか? この子たちも改造されてんのか? どこまでヤラシイ変態なんだっ。おい子供、オレもあんまし幼児虐待とかしたくはないが、美里を救けるためだ。本気で行かせてもらうからな。とりあえず、緋勇睨み付けビームで先制じゃっ!

 と、勢い込んだはいいが、戦闘は結構大変だった。さっきの子───マリィの<<力>>がなかったら、かなり苦戦していたかも知れない。助かったぜマリィちゃん、ありがとな。
とにかく急いで美里を助け出さなくちゃ。
しかし、機械を見ても、どこをどうやったら美里を出せるか全然分からない。分かり難いなーボタンに「開く」とか「出す」とか「電源」とか「再生」とか書いててくれなきゃ、家電としては失格だぜ。って家電なのかコレ。一般販売するには大きすぎるな。コンパクト化が今後の課題…
と、心漫才のボケにうっかり気を取られてしまっている間に、京一がいきなり美里に向かって刀を構え…って、お、おい! ちょっと待っ…
止める間もなく鋭い衝撃が飛ばされ、美里を漬け込んでいた大きな瓶が粉々に割れた。
水が噴き出し、美里の身体が崩れ落ちる───

 …オレが抱き留めたらあの柔らかい身体が粉々になってしまわないかでも床に落ちたら間違いなく粉々になる気がするし一番近くにいるのはオレとマリィでマリィじゃ支えきれないやろいくら何でもああイカン新庄選手は何で捕球の時あんな必要なしにジャンプするんやろって何でこんな時に出てくんねん…

 一瞬だったと思うが、なんだか長く迷った気がした。
飛び出してきた水の勢いに足を取られながら、しっかり美里を支える。…良かった〜、間に合って。
あとちょっと遅れたら、割れ残ったガラスの破片が美里の足にざっくり刺さっていただろう。改めてゾッとしながら、そーっと美里を抱きかかえた。…京一ぃ〜。後先考えろっ!
美里の柔らかさも恐かったが、別の恐怖が勝っていたので何とか耐える。
 だが、ホッとして美里の顔を見ようとしたとき…
き、き、キャ〜〜〜〜〜〜! チラッとむ、む、胸が視界に!!!!
ごごゴメンゴメンゴメン美里っ!! みみみ見るつもりはなかったんですっ! そ、それにチョットしか見えなかったからっ! 許してくれっ!
顔がカーッと熱くなる。…いや、実際には赤くなったりしてないんだろうけどさ、なんつーの、心理的表現として。
とにかく美里の白い身体が見えないよう、大慌てで床に下ろした。ひー。まだドキドキしてるよ。
醍醐がすぐに自分の学ランを羽織らせたのが見えて、ようやくホッとした。
 目を開けてからもちょっとぼんやりしていた美里が、段々意識をはっきり取り戻す。
「来てくれたのね…ありがとう。」
いやいや、生きててくれて良かったよ〜。死んじゃってたらどうしようと思った。そう、生きてるんだもんな。見た目もフツー、触っても柔らかいフツーの女のコだったし…って…ヴ…しまった、また思い出しちゃった。ゴメン美里っ。
と、とにかく全然前と変わらないんだから、多少の改造なんかどうでもいいよ。な、京一。
 そう思いつつ京一を見ると、丁度こっちを見ていた視線にぶつかった。
京一は何故か悲しげな顔をしている。何だ? やっぱり改造体はイヤか? この贅沢者め。
…違うよな、京一がそんな狭い了見で美里を捨てる筈ない。今もチラチラとオレと美里を見比べ…あ。
もしやオレが美里(それもは、は、ハダカの)に抱きついちゃったんで、ヤキモチ妬いてる?
も〜ったくバカだなあ、どうせやるならオレがガラスを砕いて、お前が受け止めてくれりゃ良かったろうに。
 オレの気持ちが分かったのかどうか、京一が口を開く。
が、何か言いかけたとき、美里に服を着せるからと後ろを向かされてしまった。

「あれェ、ブラがない。」
 ………ぶ。ぶ。ぶら。って何ですか。やはりあの、おおお、お胸に付ける、後ろには「じゃー」が付く、アレの略称でゴザイマスか。
「アオイノ胸、大キイネ。」
そ、そ、そのようで…はっ。ゴメン美里っまたまたちょっぴり思い出しちゃった!
 なんだとォ、と呟く京一の声が聞こえる。それで、パニクりかけてたのがちょっと収まり、つい笑ってしまった(心の中で)。
何だよ京一、産婦人科のお世話になるようなヤツが今更さあ。
そういや、本気で好きになると手が出せないとか何とかいうのを聞いたことがあるな。…なるほど。マジなんだなぁ、お前。良かった、やっぱり美里を捨てたりするワケないな。うんうん。めでたしめでたし。

 美里の方は解決した、あとはマリア先生だ。
マリィに聞いて、監禁部屋とやらに来たけどもぬけの殻だ。別の部屋で朝鮮人参になってるのかも知れないと思うと居ても立ってもいられない。
 また全員で合流して、屋上へと向かう。ヘリポートがある学校なんて聞いたことないぞ。どーゆー野郎なんだ、エロジジイめ。農薬でも散布してんのか?(意味不明)
 いた! んなろー、この期に及んでまだマリア先生だけでも連れて逃げようとは不届き千万っ。
マリア先生は、自分なんか放っといて逃げろ、なんて泣かせることを叫ぶ。
逃げるわけないだろ。オレたちは先生を救けに来たんだぜ?
 マリィちゃんが超能力を発揮して、銃を構えていたヤツをぶっ飛ばしてくれた。
よーし、マリア先生ゲット。後は全部ぶっ倒すまで…
「ふははは…」
うぎゃっ。また突然笑うし!
 何だよ〜こんなたて込んでる時に鬼道衆さん? 何しに来たわけ? そのエロジジイと知り合いなのか。流石オニども、類は友を呼ぶってヤツだな。分かったよ、お前もまとめてぶっ飛ばす!
 と思っていたら、エロジジイが気持ち悪い叫び声を上げながら、化け物に変わってしまった。
またかよ…。鬼道衆、きッたねえ。

 今回助っ人がいないから、効率よく倒さないと結構キツイな。
いつものように、オレじゃないオレがテキパキと仲間に指示を出す。小さい子供使うのは気が咎めるけど、マリィにも働いてもらう。
雑魚の鬼どもはともかく、ジジイだった化け物と黄色い鬼は手こずりそうなので、二手に分かれた。
京一がオレの意図をすぐ理解して、ジジイ鬼を吹き飛ばして寄越す。へ〜へ〜へ〜。ジジイ〜。背中がガラ空きだよーん。
思っきし殴って倒れたところに、マリィが炎を放った。
「グギャアアアアアッ」
マリィ…よっぽどコイツが嫌だったんだ。…もしかして、美里みたいに改造されてハダカにされて水に漬けられたことがあるんだろうか。こんなに可愛いのに、可哀相に…燃え終わったらグシャグシャ踏みつけてやろうな。
 泣きながら炎を睨み付けるマリィの頭をまた撫でてやる。
オレの眼を怖がらないこの子は、オレを見上げて、少し笑ってくれた。
よしよし。犬に噛まれたと思って、忘れるんだぞ。辛いだろうけど…オレたちがついててやるからな。

 何故か爆発し出した建物から逃げ出して、ようやく一息つくと、美里がマリィを「家に来い」と誘った。良かったなー、マリィ。美里は優しいおねーさんになるだろうな。改造されてしまった者同士、支え合いながら正義の味方になってくれ。オレも応援するぜ。
 やっと一息ついて、そういや昼飯食ってないなと気付いた。マリア先生、今日は見逃してくれよな。とゆーか、一緒に行きましょう、ラーメン屋。
そんで、みんな無事だったお祝いをしよう。ラーメンで乾杯ってのもクールだよね。ってラーメンは熱いっちゅーねん。大体クールって何やねん。おサムイっちゅー意味か。
 ホッとしてフル回転してる心漫才を楽しみながら、オレは、まだ爆発音が響くラーメンライス…違うな、えーと…なんとか学院を後にしたのだった。

08/02/1999 Release.