拾四
之前

わっくわくの修学旅行!

 前回のあらすじ〜
東京に巻き起こる、怪奇事件の数々。それを影から操っていた鬼道衆頭目、九角の目的こそは、友達も彼女もいないひがみで、東京中に嫌がらせをすることであった。
オペラのヒロインになりきって、自ら九角の元へと赴いた葵。その救出に向かった一行と、蘇った鬼道衆とで怪獣大決戦が始まった。決死の闘いの末、葵を助け出す一行の前で、九角も自らを鬼と化す。
そして全てを終えた緋勇に安息の日々が訪れたが、「まだみんなと友達でいていいのかな」と内心びくつくのだった・・・。


 たらりらったりったらったりったらったりったら♪
うふふ〜。
マリア先生が、明日の注意をしている。
明日…。いよいよ明日…。ふふ。う〜ふ〜ふ〜ッ。裏密っぽいけど気にしない〜!
「なんだ、ひーちゃん。お前も楽しみでたまんねェッてクチか?」
当ったり前やんけ!! という心を込めて、一つ頷く。
「素直な野郎だなー」なんて言われちゃったけど、それは京一が、オレのこれまでの旅行戦歴を知らないからだ。
 小学から高校二年までの林間学校。修学旅行。遠足。親睦会。
辛い思い出が立ち並ぶ団体旅行…
それもこれも、今まで全然トモダチがいなかったからだ。
 自由行動になれば、一人ポツンと置いていかれる。班行動では無視される。
就寝時なんか、オレが部屋から出た途端に枕投げとか始まりやんの。「ここで戻ったらいきなり白けるんだろうな」と仕方なく廊下をウロウロしてたら先生に見つかって、怯えたカオで「せ、正座してなさいっ」なんて命じられたこともあったっけ…。くう、何てつまんない思い出なんだ。
 で・も!
今回は違うんだもんねっ。

「旅のしおりに各班の面子が出てるぞ。」
「3年C組、 第7班は、ボクと葵と京一と醍醐クン…、それから、龍麻クンも一緒だよッ!!」
 見たさ。配られた瞬間に確認して、班長の美里とマリア先生に大感謝したともさ!
京一は不満そうだけど、オレはものすごーく幸せだ。
 今回は。
今回こそは、オレもちゃんと参加出来るんだ。
トモダチと一緒にお寺だの史跡だの見て回って、ご飯食べて風呂入って写真撮ってお土産買って抱っこしてオンブしてまた明日…ああっもう明日のこと考えただけでドキドキしちゃうー! 何かボケが入った気もするけど、ツッコんでいられないー!
「それじゃ、食欲の秋ってことで、帰りにラーメンってのは、どう?」
おいおい、明日から旅行だって日にラーメン屋行く気かよッ! とか心の中で京一っぽく桜井にツッコミ入れてみたりして。へへへ。
ま、オレなんか旅行の準備は一週間も前に終わってて、毎日荷物眺めながらニヤニヤ(久々なんで思いっきり書くけど、勿論心の中でだけだ)してたくらいだ。夜まで遊んでたって構わないけどな。
おお、珍しく美里まで一緒に行くって言ってるぞ。…はっ! そうか、明日の打ち合わせするんだな? 班行動の話か? 朝の待ち合わせの話か?
「龍麻、もちろんお前も来るよな?」
もももちろんですか? も、勿論ですう〜。わ〜い! クラスのみんなみたいに、「明日7時に新宿駅前で待ち合わせしようぜー」とか「お小遣い、いくら持ってく?」とか「バナナはおやつに入るか否か」とか話し合うんだ! …いや、バナナはええわ。小学校の遠足ちゃうねんから。
 と、アン子ちゃんもやってきた。クラス違うから、旅行中はあまり一緒に行動出来ないだろうな。それに、アン子ちゃんは撮影班だから忙しそうだ。
「ひさしぶりに、あんた達の話も聞きたいから、あたしも連れてってよッ。ねッ、いいわよね、龍麻君ッ。」
…………えっ!? い、今なんてっ? …「龍麻君」って言った!?
ひゃあ〜。アン子ちゃんまで名前で呼んでくれるようになったんだ。えへへ、嬉しいなあ。そ、そ。そんなら、オレも、思い切って「遠野」じゃなくて「アン子」って呼んでもいいのかな…なんてねっちょっと図々し過ぎかな!
 とにかく嬉しくて、思いっきり頷いた。
「今日は特別に…私にラーメンを奢らせてあげるッ。」
「鬼か、お前は。」
う…「喜んで奢っちゃうよー」と頷きかけてたら、京一の見事なツッコミが先に入ってしまった。流石だぜ…オレったら全然まだまだだなあ。やっぱ、「アン子」と呼べる日は遠そうだ。もっと京一のこと観察して覚えようっと。
 ところが、突然桜井が用事を思い出したとかで、アン子ちゃんも去っていってしまった。ちょっと残念だけど…仕方ないよな。後から行くって桜井も言ってたし、とりあえず4人で先にラーメン屋に行くことになって、教室を出た。

 ああ…高校最後の、いや学生生活最後の旅行かー。奈良・京都…関西弁のはびこる土地だ。憧れの大阪のお隣だ。実を言うと、オレも中学の時に行ってるんだよね、修学旅行で。でもあの時とは状況が全く違う。古都もバラ色に見えるに違いない…うふふふ〜。
「うふふふふふふふ〜。」
うぎゃーッ?! わわわ、本家本元の「うふふふ〜」がっ。…なんか今裏密、突然現れなかったか? ぼーっとしてたから気付かなかっただけ?
「うふふ〜。神聖なる形成界の彼方より〜、ひーちゃんを救うためにきたの〜。」
………………えっ…?
「ミサちゃん。それ…どういうことなの?」
美里が聞き咎めてるけど、お、オレも訊きたい。
裏密…何でお前がオレを「ひーちゃん」って呼んでんの!?
いや別にいいんだけど…つーか、ほんのちょっぴり嬉しかったりする自分も何だかなあって思うんだけど、や、やっぱし怖いよ…。
京一に「ひーちゃん」と呼んでもらう度、幸せを噛みしめていたオレだが、裏密の呼び方は…「ひ〜ちゃァん〜」って呼び方は…呪われそう。
 理由を教えて欲しいかと訊かれたので、オレは震えながらもきっぱり頷いた。
………教えて…くれ。」
いや、でも…「魔界の因果律に定められてるから〜」とか言われそうでやっぱ怖いかも…。
「もしかしたら、きかない方がいいかもしれないけどね〜。」
ああっ! やっぱそうなんですか? そ、そうか…じゃ、いいです。怖い。
 すると、なんといきなり醍醐が「占って欲しいことが」などと言い出した。
ちょっと待てよ…あんなに裏密怖がってたお前が? それも占いを頼む?
何を占って欲しいんだろうなあ…桜井との仲? そんなん占わんでもめいっぱいラブラブだもんなあ。将来のこととか勉強のこととか? あんまり占いなんかに頼りそうもない奴だけど。青い顔に脂汗たらしながら、どんな重要なことを占ってもらいにいくのかなあ…。
 とにかくこれで、3人になってしまった。…何だかな。京一も美里も残ってるけど…。ま、まあいいや。後で合流出来るよな。うん。
………。やっぱり、変だわ。それに、ミサちゃんがいってた罠って、一体………。」
え? 罠? 美里、それなんの話?

 その罠とやらの正体は、校門を出たところで解った。
今度は京一が、忘れ物をしたとか言い出したのだ。
「ふたりでのんびり帰る、なんてのもたまにはいいんじゃねェの? なッ、ひーちゃん?」
 …………そういうことだったのか。
そんで、今度はそこの角で美里が「私も用事を思い出したわ」とか言い出して、結局オレ一人だけになって、ラーメン屋で待ってても誰も来ないんだ…!
これって、ちょっとしたイタズラなのか? そ、それとも…マジの仲間はずれ…?
オレ、今回は京一たちと同じ班だし、絶対楽しく旅行出来ると思い込んでたから、ちょっぴりショックでかいんだけど…。
勘違い…だったのかな。やっぱオレ、平和な状態では、必要ない人間なのか?
………京一………オレは…」
「…お前のいいたいことはちゃんとわかってるよ。俺はその上で、いってんだ。」
何を解ってるって? …ああそっか、京一はオレの心読めちゃうんだもんな。オレの気持ち、解った上で仲間はずれにするのか? それ、どういう意味なんだよ??
「いつまでも、つまんねェことをグダグダいって、あんまり俺をガッカリさせんなよッ、なッ?」
オレの肩をポンと叩くと、京一は校舎の方へと走り去ってしまった。…そりゃあ、仲間はずれにされたくらいでメソメソ(心の中でだが)してるなんて、男らしくないけど。
 うーん…もしかして…オレを鍛えようとしてるとか?
「一人で雄々しく生きていけるようになってこそ、俺たちの真の仲間として認めてやる」って、そういうノリなのか!?
そうか…そうかも。うん、流石は京一。そうだよな、トモダチに甘えてちゃダメだよな!
ちょっぴり寂しいけど…いやいや、京一が言うんだ、仕方ない。しっかりしろよ、オレ!

 ところが。
何とか前向きに気分を切り替えた時、美里が呟いた。
「罠って、このことだったのね。」
…あれ? 美里はグルじゃないのか??
「…龍麻くんは…私とふたりでもいいの?」
…………ええっ!?
ちょっと待て。何か変だぞ? これは、オレを一人だけ仲間はずれにしようっていう罠…じゃないのか?
美里の台詞からすると、オレと美里を仲間はずれに…つーか、二人きりにさせようって罠だった、てコトか?
何で? どうして?!
京一…お前、自分の彼女をオレとなんか二人きりにさせて、どうしようってんだよ?
みんなも何考えてんだ? もしかして美里への罰ゲームかなんか? まさか。美里がそんな目に遭う理由なんてあるわけない。
 オレはちょっと気持ちを落ち着けて、よく考えてみることにした。
京一と醍醐と桜井が、オレと美里を二人きりで帰るようにと仕組む理由。
……………どう頑張って考えても、オレと美里を仲良くさせようって作戦だよな。他にないよな。
京一が、美里に飽きて(うわ…贅沢な)オレに押しつけようとしてるとか? …そんなものに醍醐や桜井が賛同するとも思えないな。
そうだ、桜井だ。美里が京一に惚れてるんなら、桜井が荷担してるワケがない。
別れちゃったのか? いや、というより…最初からオレの勘違いだった…?
おかしいなあ…まあ、美里って誰にでも優しいよな、よく考えたら。でも、京一の方は本当に美里を気遣ってるし…うーん。京一の片想いなんだろうか?
 でも待てよ。京一と付き合ってないとしても、何で美里がオレと二人きりにされなきゃならないんだ。オレを好きだってんならともかく…そんな無茶な。あはは。
 …はッ! こないだの美里の誕生日に、マリィと3人で手をつないで帰ったの、誰かに見られた!? そ、そんで、オレらラブラブだと思われた?!
あり得る。マリィだって、パパとママみたいだなんて言ってたし。それでみんなで、オレたちを二人きりにしてくれたんだ。うわ、スッゲー誤解!!
 そりゃまあ、オレだって美里のことはとっても…その、い、いいな〜って思ってるけどさ、カノジョになんて考えたこともないよ! エベレスト頂上の登頂記念旗の上に咲いてんじゃないかってくらい高嶺の花なんだよ?
 流石の美里も困ってしまっている。険しい顔してたのは、そのせいだったんだな。
ごめん。オレ、そんな大それた野望は持ってないからね。心配しないでね。迷惑だったろ、ホントごめんな。
 でも「済まん」と謝ったら、美里は益々悲しそうになった。
「…そうよね。迷惑よね…。」
い、いや、そうじゃなくて! ああもう、もどかしいなあオレの口! あの、オレの方が迷惑かけてごめんねって意味で〜! あーうー。
………オレこそ…迷惑を…かけた。」
ごめんね! とお辞儀してみた。ええと、だからそのー、オレなんかと二人きりじゃ可哀想だし、でもラーメン屋で待ってたらみんな来るから、一人で帰るなんて言わないで、あのー、何ならオレの方が一人で先に帰るからさ、美里はラーメン屋に…
心の中で、どう言ったらいいのか混乱しつつ美里を見ていたら、驚いたように「龍麻くん………。」と言った後、少し悲しそうな顔をして、…それからニッコリ笑ってくれた。
「ありがとう。ラーメン屋さんで待っていれば、きっとみんなも来るわ。だから、そこまで…行きましょう、龍麻くん。」
え!? い、いいの?
ありがとう、美里…。なんて優しい人なんだろう。我慢してくれるんだな…。ごめんね。ホントにごめん。感謝感激で、泣けるなら泣きたいくらいだ。ううう。

「どうしてかしら…。私、京都がとても好き。」
 そんな話を楽しそうにしている美里を眺めながら、ほのぼの〜とした気分で相づちを打つ。オレも好きだよ〜関西。
みんなの勘違いとはいえ、こんな風に女のコと二人で歩くなんて、もう一生あり得ないようなイベントだ。こーなっちゃったからには、京一たちに感謝してしまおう。美里には悪いけど。
 何だか最近、美里といても緊張しなくなってきたというか、傍にいると安心感みたいなのまで感じるようになった。いやまあフニャフニャに柔らかい人だと思うとやっぱ怖いけど。
半年も経って、流石に慣れたのかな。ってことは、頑張ればいつかは、この恐怖症みたいなのも治るかも。うん、頑張ろう。
 そんなことを考えていたら、偶然高見沢とマリィに出会った。
そうか、マリィは桜ヶ丘に通院してるんだな。大変だなあマリィ…こんなに可愛いと、岩山先生に喰われないか心配だ。いや、醍醐を美味しそうって言ってたくらいだ、もう少し大きくならないと食べでがないかも知れないな。良かったー、マリィが小っちゃくて。
「お兄チャン…、マリィのコト、ホメてくれる?」
ちょっともじもじしながら尋ねるマリィの目線に合わせて屈んで、オレはマリィの金髪を撫でた。
もーホントに偉い! こんな間近で見つめても、オレの眼を怖がらないくらいだもの。注射も先生も怖くないかもな。小さいのに大したヤツだ。
そういえば、あれからほんの数週間しか経ってないのに、ずいぶん日本語も喋れるようになったよな。
………偉いぞ、マリィ。」
「エヘヘ…。」
「ダーリン、わたしのこともほめてほめて〜ッ。」
は? 高見沢まで、何だそりゃ。こんな小さい子に張り合ってんのか? 変なヤツ。
まあ、マリィが頑張れてるのは高見沢のお陰もあるんだろうし、オレらと同い年で看護婦さんやってるんだから、確かに偉いよな。
………偉いぞ、高見沢。」
「わ〜い、ダーリンにほめられた〜ッ!!」
…よ、喜んでる…。本当に変なヤツだ。大体、何でオレのことダーリンって呼ぶんだろう。サマンサ? 古すぎるゆーねん。えーと、もう一人いたよな、古いマンガで。電撃食らわす、黄色地に黒のシマシマの毛皮の、人間じゃないヤツ…
ピ○チュウ?
 ついでに、金と銀の発売が遅れていることに思いを馳せている間に、二人は立ち去ってしまった。しまった、結局ダーリンて何だか聞き損ねた。もしかして、「ダーウィン」の聞き間違い? …何で進化論?

「龍麻くんと初めて会ったのは…、まだ桜の蕾がほころび始めた頃だったわね。」
 そのまま駅の方へと歩いていると、美里がしみじみとそう言い出した。
ああ、そうだな。そんで、みんなに花見に連れてってもらったよな。嬉しかったなあ…。
「ねえ、龍麻くん。その…前の学校に、好きな人って…いたの?」
は? 何だいきなり。好きな人? いやもう、好きとか嫌いの前に、オレが嫌われてたからなあ…何でそんなこと訊くんだろ。
「あのッ…、変なこときいて、ごめんね。私はただ…、私の知らない龍麻くんのこと、もっと知りたくて…。」
うっ。も、もしかして、何か怪しまれてるのか、オレ。
いや別にやましいことは何もないんだけど。鳴瀧先生に言われて転校してきたけど、実は何があるのかさっぱり解ってなかったし。
 どうしよう、美里に疑われてる〜とパニクっていたら、突然声をかけられた。
「よお、龍麻くんに美里さんじゃねェかッ。」
ああ、織部お姉さん! 天の救けってヤツか!? 妹さんも!
妹さんの買い物にお姉さんが付き合ってあげてるのか。いいなあ、姉妹って。
「女の買い物に付き合うのは辛いだろ?」
お姉さんが訊くので、オレは首を振って否定した。トモダチと買い物するのに辛いわけないやん。3日かかったって付き合っちゃうよ。でも、普通女のコは、オレを付き合わせたりしないけどな。
お姉さんは少しびっくりしたような顔で、オレを誉めてくれた。そうか、普通の男は嫌がるもんなのか。確かに京一なんか「めんどくせー」とか言いそうではあるけどな。
そんなに大変なものなのかな? あっちにしようか、こっちにしようか悩む織部妹さんや美里の姿を想像して、とっても微笑ましいような、ずっと見てても飽きないような気がしたんだけど。
 ちょっと美里と修学旅行の話をして、買い物に戻る二人を見送った後、美里はもういつも通りの態度に戻っていた。良かった、何とか誤魔化せたらしい。いや、本当に後ろめたいことなんかないんだけどね。
 美里は彼女たちに出会ったときのことを、懐かしそうに話している。
オレも、転校してきてから今までのことを振り返ってみた。折り返し地点で総集編をやるのは基本だもんな。て何の基本やねん。しかも総集編って何やねん。
 この無口無表情+常に睨んでるよーな眼のせいで、みんなに速攻嫌われるんじゃないかとびくびくしながら転校してきたのに、クラスのみんなも先生方も、優しく対応してくれたっけ。
それは多分、都会っ子ってのがかなり動じない性質だってことと、それから前の担任・有間の忠告を守って、前髪伸ばして眼を隠したり、喋れない分をジェスチャーでカバーしてきたことが功を奏したらしい。
 その後、鳴瀧先生に言われた通り、色々妙な事件が起きて、それを片づけるうちにどんどん「仲間」が増えて…事件を起こしていた鬼道衆をやっと倒し、現在に至るわけだけど。
「ねえ、気付いたかしら? 雛乃さん…龍麻くんのこと「緋勇さん」って呼んでいたわね。つい先日まで、「緋勇様」って呼んでいたのに。」
突然美里が、ニコニコとしながらそう言った。そういやあそうだったな。鬼道衆との闘いも終わったし、オレなんぞを「様」付けで呼ぶ気が失せたんじゃないか? でもま、堅苦しくない方がオレも気楽だけどな。
「…龍麻くんは、不思議な人ね。雛乃さん…ううん、雛乃さんだけじゃないわ。みんなが貴方のことを特別に思っている。もちろん、私も…」
…え…? な、何それ? どういう意味? 「特別」………? そりゃまあ、この顔と口はかなり特別仕様だけど…うう、やっぱり何か疑われてるのか、オレ。普通の一介の高校生なんですよう〜。美里の方がよっぽど特別だろ、オレと違う意味で〜。美人だし回復技持ってるし頭も成績も性格も良いし、天野さんの話で知ったけど「菩薩顔」らしいし。確かに菩薩のよーに優しくて綺麗な顔してるよね。
 オレの焦りを知ってか知らずか、美里は少しオレを見つめた。
「私…、龍麻くんと一緒に帰れて、すごく楽しかった…。ありがとう、龍麻くん…。」
オレこそ楽しかったよ! ありがとな、美里!
一生懸命頷いたけど、美里の言葉は嘘っつーか社交辞令みたいだった。そんな笑い方…綺麗だけど寂しそうな笑顔で言われるとさ…胸が痛むよ。やっぱ仕方なく我慢してたんだろうなあ…
いやもしかして、何か疑ってて質問してるのに、オレがまともに答えられなかったから、内心怒ってるのかも知れない。
………美里。…オレは…」
何とか言い訳しようと思ったけど、何をどう言えばいいのか解らない。ごめん美里、オレ口が凍ってて〜そんで鳴瀧先生が…オレは何も知らないんだ〜東京を護りに来たけど知らないんだ〜。困ったな。京一通訳してくれ〜。
 美里は一瞬、またちょっと悲しそうなカオをした…のは気のせいだったのか、にっこり笑って言った。
「もう行きましょうか、みんなが待ってるわ」
あ、うん、そうだな。ラーメン屋でみんな待ってるんだ。
オレの気持ち、通じたのかなあ。疑いが晴れたから笑ってくれたのかな? だといいんだけど。
へへ、やっぱ綺麗だよな、美里の笑顔…
「へへッ、兄ちゃんよォ。随分とイイ女連れてんなァ。」
うん、美里ってイイ女だよね。でも「イイ女」って言い方、なんかすっごいドギマギしちゃうんだけど…ってあれ? アンタら誰??
「ここらはオレたちのシマだからよォ、通るってんならそれなりの代金払うんだなッ。」
おお? これってもしかして、久々に因縁つけられてるのか?
うーん、変な事件は起こるけど、東京では全然こういうヤツに出会わなかったから、油断して歩いてたなあ。
あんま強くなさそうな連中だけど、人数は結構多い。美里を護りながら、全員ぶちのめすよりは、逃げた方が楽か…って思ってるウチに囲まれちまった。とほほ。
「龍麻くん………。無茶しないで…。」
うん。無茶はしないで、なんとか逃げよう。明日から修学旅行だってのに、警察のご厄介になったりしたら大変だもんね。
「おーおーッ、カワイイねェ。」
「安心しなよ、オレたちが可愛がってやるからよォ。」
ヒューヒューと口笛を鳴らしながら、からかうのを無視。仕方ないな、久々に必殺の緋勇にらみつけビームでもかまして、右後ろのイチバン弱そうなのをぶっ飛ばして、その隙に美里逃がし…
「下衆が…ッ。」
「そんなんで、女が喜ぶかッ、この馬鹿ッ!!」
………へ? 醍醐? 京一? 何で!?
 気付いたら後ろに京一たちが立っていて、オレは驚愕した。ぬうう、転校初日を思い出すなあ。あん時も、木の上から京一に声かけられて、メチャメチャビックリしたんだ。カオには出なかったけど。
「まずはこの蓬莱寺様に対する礼儀を、このクズどもに教えてやらないと」なんて言いつつ、何だかやたらと嬉しそうな京一。
ますます懐かしいな。流石は総集編だ。
だから何の総集編やねんて訊いとんねんさっきからッ!!
 オレが烈しい心漫才のツッコミに戸惑っているうちに、不良どもとの戦闘が始まってしまった。うー、殺さないように倒すのって難しい。

 うっかりすると、つい技を使っちゃいそうになるのを抑えながら、変な学生服の男を殴る。うう、ものすごく気を遣っても、やっぱり一撃で白目を剥いて倒れてしまった。…大丈夫かなあ。
オレが一人倒してる間に、他の連中もみんな倒されていた。流石だぜ、みんな。…でも桜井…威嚇射撃ならともかく、普通の学生に矢を打ち込むのは怖いぞ。
「覚えてろォ!」なんて芸のない台詞を残して、互いに支え合いつつ連中がヨロヨロと去っていった後、美里がみんなに、どうしてここにいるのかと尋ねた。そうだよな。結構のんびり歩いたし、色々な人に会って遅くなったから、もう先に行ってると思ってたよ。
「もしかして、ずっと、後をつけていたの…?」
「わりィ。でも、悪気があったわけじゃねェんだぜ。その…心配だったからよッ。」
えっ!? てことは、ずっと後ろにいたんだ! 全然気付かなかったぜ…。お前ら、アン子ちゃんが探偵になったら良い助手になれるんじゃないか? オレが鈍いだけ? う、そ、そうかも。
それにしても、心配って何を? 今みたいに不良に絡まれることか?
「悪かったな、ひーちゃん。」
ちょっと決まりが悪そうに、京一が謝った。
別に謝ることじゃないだろうと思って、とりあえず頷いてから、オレは気が付いた。
心配って…もしかして、オレが美里に何か悪さでもすると思ったんだろうか。
疑ってたのか…それで謝ったんだな。そんなに心配なら、こんなことしなけりゃいいだろうに…。京一の男心って良く分からない。
 ラーメン食いに行こうぜ、という京一に頷きながら、オレはちょっぴり溜息をついた。
お前の親友になりたいなんて、かなりビッグな野望に燃えているオレだけど…道のりはかなり遠そうだ。
どうしたら信頼を得られるんだろ。とほほ…

11/15/1999 Release.