眩しい程の陽光。
煌めくステンドグラス。
荘厳な雰囲気を漂わせる、大きな教会の扉。
「おめでとう」の大合唱に乗せて、仲間達の撒いた紙吹雪が、陽にきらめく。
高く輝く十字架が眩しくて、目を開けていられない。
騒々しいまでの祝儀の輪の中心にいるのは、緋勇龍麻だった。
普段のポーカーフェイスも、流石にこの日ばかりは保てないらしい。白いタキシードに身を包み、照れくさそうに微笑んでいる。
あの、辛く苦しい闘いの日々は、既に遠い過去のこと。
今、仲間達の手荒い祝福を受けながら、嬉しそうに、それでも昔と変わらず律儀な姿勢でお辞儀を返している男には、もう以前のような頑なさも、陰も、もはや微塵も感じられない。
そんなことをぼんやり思い出しながら、明るい横顔に見惚れていると、ふいにそれがこちらを向いた。
「………。」
小さく、しかし愛おしげに呟かれた名前。
それは勿論、自分の名前。
そう…
この暖かく眩しい光の輪の中で。
みんなに祝福されて。
あれ程望んでいた彼の、屈託のない笑顔の横で。
憧れのブーケを手に、純白のレース、純白のウェディングドレスに身を包んでいるのは…
「………………オレかよォォォォォオオオオオオオオオーッッッッ!!!!!」
京一が、目覚まし以上の大音響で咆吼を上げたのは、いつも通り遅刻寸前の朝であった。
◆ ◆ ◆
ギリギリでH.R.に間に合い、二時限目が終わっても、まだ京一の機嫌は直らなかった。
腕を組み、苛々と窓の外を眺めながらブツブツ繰り返す。
級友たちが首を傾げて見ているのも気付かないようだ。
(…何で…何で俺が、何で俺があんッッッな少女シュミな夢を見なきゃーなんねェんだよッ!!)
(が…願望…なのか? 俺の心の奥の奥の奥の奥の奥底の方で、あああああんなことを望んでる…なんてわきゃねェだろッ!!)
ガシガシと頭を掻き、まァ、夢にイチイチ腹を立てても仕方ねェよなと、なんとか自らを収めた。
(だけど…それはともかくとしても、よ…)
あのひーちゃんは、本当に幸せそうだったよな…
「実物」の龍麻をそっと振り向く。
龍麻は、いつも通り淡々とした顔で、何か話しかけてきた級友の話を聞いてやっている。
(…闘いが終わったら…そして、あんな阿呆な夢じゃなくて、たとえば美里辺りと…なんて事になったら。…お前は、あんな顔で笑ってくれるのか?)
未だに目に焼き付いている、あの微笑み…。
(ホントにとろけそうな顔してやがって…へへッ。あれが夢じゃなかったらなァ…。おねェちゃん一筋の俺でも、思わずクラッときちまったもんな。…ッたく、だからって何で俺が花嫁やってなきゃなんねェんだよ。気色悪りぃッ! どーせ結婚すんなら、ひーちゃんの方にドレス着せたかっ……)
「…………それも違げーだろォオッ!! 俺のバッカヤローッッッ!!!!」
突然吼えて、ヒビが入りそうな程の勢いで窓に頭突きを食らわせた京一の異様な行動は、誰にも理解出来るものではなかった。
ただ、微妙〜な辺りで理由を察した(あるいは誤解した)醍醐が、その後腹痛を理由に早退したのだが、時々適当に仮病を使ってはジムに篭もる体力男の心配など、誰もしてはくれなかったのだった。
◇ 完 ◇
2001/11/01 Release.
筆者のコメント:…青春だよネ。