之参

魔人の星 〜Take Me to the Trouble

鮎川いきる様に捧ぐ

「だ〜りィよな〜。フツー、炎天下で野球なんかやる?」
「だよなー。ちくしょー、いいなあD組の奴ら。ジャンケン勝ってたらサッカーだったのになー。」
「細野の野郎、自分の趣味押しつけんじゃねーよなー。」
さんざん文句を言いつつ、級友たちは野球のボールやグローブ、バットなどを倉庫から運んでいる。
「確かに、授業で野球をやるのは珍しいな。」
「今の連中が言ってたろ? 細野が野球狂なんだよ。ホントは甲子園とか目指したかったのに、真神の野球部は弱えーかんな。鬱憤晴らしたいんじゃねェの?」
醍醐の台詞に、溜息混じりに応えて、京一は一つ欠伸をした。
 じっとしていても、じりじりと腕や頬が焼ける。
梅雨が空けたばかりの今は、普段なら白々とぼやけて見える空も青く広がり、点在する白雲がくっきりと際だって見える。
「プール入りてェ…。」
「排水溝の修理が終わらないのでは仕方あるまい。」
「近所のガッコに借りるとか、市民プールに行くとかあんだろーがッ! あーチックショー暑いッ。」
「無茶を言うな、無茶を。」
 先週末、排水溝に亀裂が入ったため、現在プールは使用禁止となっている。
修理は今週までに終わる筈だったのだが、古くなった水管をすべて取り替えることになって、思いの外長引いていた。
そのため、今日の3−C、D組の体育の授業は、空いていたグラウンドを使ってのものに変更となってしまったのだ。女子は全員でバレーボール、男子は代表者のジャンケンにより、C組が野球、D組は第二グラウンドでサッカーをすることに決まっていた。
3−C男子が18名、3−Dは19名。10対9でサッカーをやるよりは、マシなのかもしれない。

 京一は隣を黙々と走る龍麻に声をかけた。
「よォ、ひーちゃん。お前、野球って得意?」
……いや。」
「ふうん。」
 聞いてはみたが、特に興味があったわけでもなかったので受け流す。
準備運動を兼ねた校庭一周程度でも、この時期は暑くて辛い。殆どの生徒がただ歩いている中で、きちんと走っているのは龍麻ただ一人だった。醍醐すら、適当に足を運んでいるといった様子だ。
「何だよ、真面目に走れよ、醍醐。」
「ふん、俺は朝トレで、充分準備運動が済んでいるさ。お前こそ、龍麻を見習ったらどうだ。」
「ちッ。あ〜あ、あっちいなあ〜。」

 誰も知らない。
龍麻が心から燃えていたことを。
(う〜ふ〜ふ〜。野球。18人以上いないと出来ないスポーツ。小、中学時代、授業でやらない科目。…憧れだったんだよ! ナイター中継観てて、一度でいいからやってみたいなあって。へへへッ、楽しみ!)

「…は? …嘘だろ?」
 体育担当の細野教官が、すっとんきょうな声をあげた。
整列した3−C組の男子生徒達が、互いに顔を見合わせる。
「こんなにいて、野球経験者いないの?」
よほど意外なのだろう。疑わしそうに全員の顔を見て、もう一度、挙手を促した。
「ちょっとでいいよ、野球やったことあるヤツ、手をあげろ。」
しかし、何度やっても結果は同じ。たった一人、現野球部員の原田だけが手を挙げている。
……空き地で三角ベース、てのは経験に入んねェよな?」
「さあ…」
ヒソヒソと交わす声もあったが、恐らく全員分かっていたのだ。
「野球経験者=投手をやらされる」ということを。
(冗談じゃねェよ。ピッチャーなんて、かったるい)
(向こうで女子連見てるじゃねーかよ〜。カッコ悪いとこ見せたくねーじゃん)
思惑は様々であったが、実力があって且つ目立ちたいという生徒はいなかったらしい。
「ふう。仕方ないな。…2〜3人はいると思ったんだが。………。おい、蓬莱寺。」
「…んあ?」
「んあ? じゃないだろ。お前、運動神経だけはいいから、やってみるか? ピッチャー」
「"だけ"はよけーだッ! って…オレがピッチャー? 悪りいけど、オレ全然野球って知らねェぜ?」
「全然!? テレビでプロ野球とか甲子園とかやってんだろーがッ。」
「そんな暑苦しいの見ねェッての。」
「かーッ! 嘆かわしい! …おい、お前ら! ルールくらい知ってるだろ? 知ってるヤツ手を挙げてみろ!」
ここで手を挙げたら即ピッチャー。全員が互いの動向を探り合う中、何も分かっていない男が、一人だけ何も考えずに挙手した。
「…おお、緋勇か。お前もそこそこ、やれそうだな。じゃ、ピッチャーやってくれるな?」
……………やったことが…ありません。」
「いや、構わん! さっさと試合やろう、時間がないからな! その他のポジションは適当に決めて、打順はジャンケンででも決めろ! 5分後に始めるぞー!」
「…おいおい…いー加減だな…」
生徒達がブツブツいうのを尻目に、細野は楽しげに白線を引き出した。仕方なく全員で、相談を始める。
「緋勇、大丈夫か? ま、適当にやりゃあいいからな。勝ち負け関係ねーだろうし。」
原田が気の毒そうに、龍麻に声をかけた。彼にしても、野球部とはいえ弱小の、しかも外野補欠でしかない。
……ああ。」
特に困った風でもなく頷く龍麻に笑いかけ、全員の顔を見渡した。
「で、他のポジションどーする? キャッチャーの一人は醍醐で決まりだとして」
……お、俺は決まりか……まあいいが…」
「他も適当にジャンケンで決めてこーぜ。どこも変わんねえだろ?」
「全然違うよ…京一…。ま、いいか。どーせみんな似たり寄ったりだもんな。じゃ、適当にジャンケンしよっか。チーム分けもついでにな。」
 自然と中心になっている原田の周りで、ジャンケン大会が巻きおこった。

「…で、大体決まったな? じゃ、こっちに俺のチーム、そっちに緋勇チームで別れてみてよ。」
五分後には、全員のポジションと打順が決まった。作戦もセオリーもありはしない。
「ふむ。ということは、俺は龍麻の球を受けることになるわけだな。お手柔らかに頼むぞ。」
醍醐が楽しげに笑いながら、緋勇の背中をドンと叩いた。
「…ああ。」
「原田〜、あんま速い球投げんなよ? 俺取れねェぞ?」
「分かってるって、てゆーか俺だって速い球なんか投げられねェよ」
「ファーストって一塁だよな。」
「レフトってどっちだ? 向かって左? 守ってて左?」
がやがやと、特にルールを知らない連中が、原田を質問責めにしている。
京一は側を離れ、龍麻の背中にのしかかった。
「…てことは、俺、ひーちゃんの投げる球を打つんだな。」
原田チーム、7番センター。それが京一のジャンケンの結果であった。
「なんか賭けねェか? 俺がひーちゃんの球を打てたら昼飯おごってくれる、とかさ。」
………。」
「よっし、決まりな! へっへっへー。腕が鳴るぜ!」
バットに触ったことすらないのに、京一は既に打つ気でいる。
「全く、相変わらず勝手なことを。…龍麻、気にするな。」
………。」

 (勝負! ああ…平成の名勝負…野茂対清原。松坂対イチロー。……やる! オレはやるぜ、伴ッ!! ってオレ飛雄馬かッ? 緋勇龍麻やっちゅーねん。…似てる?! …ま、まあいっか。)
当然、彼のいつもの心漫才を知る者は誰もいない。

「こら、醍醐。ちゃんとプロテクターをつけんか。」
「大丈夫ですよ、先生。俺は打たれ強いし、第一あんなものを付けたら動きが取れませんよ。」
 龍麻とのジャンケンで原田が勝ち、先攻を取った。どうせ残り時間も30分程度、大して回らないなら、打つ側からやった方があまり投げなくて済む、という計算なのだろう。
「よし、龍麻。軽く放ってみてくれ。」
醍醐が無造作に、ホームベースの後ろにしゃがんだ。
コクリと頷き、龍麻がボールを細野から受け取る。

 (…わー。野球のボールだー。へええ、堅いんだなあ。そりゃ、硬球っていうくらいだし。…投げてみるか。どんな風に投げようかな? 技巧派…は無理だし…うーと。誰の真似しよっかなーっと。)

 す、と龍麻の両腕が上がった。
「ほう? ワインドアップか。」
細野が、出っ張った腹を揺すりながら呟く。隣に立っていた原田も、興味深く見つめた。
腕を綺麗に伸ばし、背筋をピンと張った状態で、一瞬ピタリと止まる。
そこからおもむろに身体を沈め、後ろに一旦退かれた左腕が、豪快にしなって風を切った。

 醍醐のミットから、小気味よい音が響く。

………ウソ…。」
「ちょっと待てよ…緋勇…マジ?」
ざわざわと、級友たちが騒ぎ出した。
「…今のは…本物、か?」
「…さ、さあ…しかし…凄い、ストレートでしたね…」
 五秒後、暫く固まっていた醍醐が立ち上がって、大人しくプロテクターを着用し始めた。

 (違うッ! 山本昌のマネだったのに、こんなにストレートが速くちゃダメだッ!!)
かなり失礼なボケをかましている龍麻の心は、やはり誰にも分からない。

「…チクショウ…得意じゃない、だと?」
 京一は歯がみした。
一応全員に配られたが、殆どの者が使っていない帽子をキチッと目深に被り、醍醐の返球を軽く捌く姿から目を離せない。
 何故、そんな嘘をついたのか。野球をやっていたことを隠したかったのか? ただの謙遜とも思えない。第一、普段からは考えられないほど闘志を溢れさせているのが分かる。
(野球をやっていたことを、忘れたかったのだろうか…。)
京一はまた溜息をついた。
 だいたい、龍麻は何でも軽くこなしてしまう。
水泳、バスケ、サッカーなど色々授業で行われたが、何の苦もなく、そこそこの活躍をする。
本気を出せばどれだけの実力があるものか。しかし彼はある程度で力を抜いてしまうのが常だった。
他の授業でもそうだ。時々ノートを借りる京一は、その細かに書き込まれた内容や宿題などから、龍麻が授業内容をほぼ完璧に把握していることを知っていたが、指名されると「分かりません」と回答を拒否することがあるのを奇妙に思っていた。
 落ちこぼれて教師にマークされる程ではなく、優秀で皆に注目される程でもなく…。
その位置を保とうとするかのようだった。

 言うまでもないが、全部誤解である。
体育で力を出し切ってないように見えるのは、顔に出ないだけ。本人はいつでも全力である。
授業で答えられないのは、長々と説明しなければならない時。できるなら苦労はしていない。
龍麻の成績が中位をキープしているのは、真面目だから毎日きちんと予習復習をしているくせに、テストであっさりケアレスミスを連発するためだった。だが、そんなことは誰にも分からない。

 昼飯、ソンしちまったな。
そう思いつつ、京一は転がっているバットを拾い上げた。木刀とは違う、堅く太い金属バットは、振ってみるとひどくバランスが取りづらかった。

「ストラック! バッター、アウーツッ!」
 やたらと嬉しそうな細野のダミ声が、原田チームの第一打者の凡退を告げる。
ほぼど真ん中に投げ込まれる球は、当てるのは簡単そうだったが、速すぎて素人には合わせることなど出来はしない。
その後も簡単に三者連続三球三振で、一回表は終了した。
(難しいな。昌兄ィ、どうしてあんな豪快なフォームで120〜130km台のストレートが投げられるんだろう。)
山本昌が聞いたら泣き出しそうな恐ろしいことを考えつつ、龍麻はマウンドを駆け下りる。
(桑田を尊敬している投手は、イニング終了の時必ず走ってベンチに帰らなくてはならない掟だからな。)
いつから投手になったのかは知らないが、とにかく龍麻は走って陣地に戻った。
「龍麻、野球をやっていたのか?」
………いや。」
「そうか? 凄い球じゃないか。本格的に、甲子園でも目指していたのかと思ったぞ。」
………
 昔から野球は好きで、色々な投手や打者のフォームをマネしてみたりすることは多かったが、実際にバットやグローブに触ったのは今日が初めてである。
古武道による、自然な円運動が身に付いていることと、バランス良く鍛えた腕力・背筋力の賜物なのだろうが、プロのプレイしか知らない当の本人は、皆こんなもんなんだろうとしか思っていない。
(投手を誉めてその気にさせて完投させるつもりだな。流石は伴! オレはやるぜ! それはもうエエっちゅーの。つーかただの授業なのに、醍醐も真面目だなー)
心漫才と勝負に夢中の龍麻には、周囲のどよめきも歓声も聞こえないらしかった。

 試合は、龍麻を意識してしまったらしい原田が四球を連発、醍醐があっさりホームランを飛ばして3−0となった。
その後立ち直った原田は、流石に素人に当てさせない球を投げ、程なく1回を終了。
2回表も龍麻があっさり三者連続三振を取り、裏もあっけなく終了する。
 授業の残り時間は10分を切っていた。
「よっしゃあ! この俺が絶対、ひーちゃんからホームランをかっとばしてやるぜ!」
口だけは威勢良く、京一がバッターボックスに入る。
「…蓬莱寺。」
「何だよ、センセー。とっとと始めろよ。」
「お前、右利きだよな?」
「だったら何だよ。」
「…こっちじゃない。右のボックスに入って構えてみろ。握りが逆だ、それじゃ。」
「何でだ? ったく、これだから野球なんてもんはキライなんだよ。適当で良いじゃねェかそんなもん。オラとっととやろうぜ。チャイム鳴っちまうって。」
「…まァいいが…ふう。…緋勇、始めよう」
ぎこちなくバットを構えた京一は、マウンドの龍麻を睨み付けた。帽子の下、輝く双眸が真っ向から対峙する。
(どういう事情があったにしろ、お前、野球やりたかったんだな。…へへ。なんかワクワクするぜ。)
(行くぞッ! 花形ッ! オレの魔球を打ってみろ!)
近いようで遠い二人の思考が複雑な形で火花を散らす。
京一の足元で、醍醐も二人の対決を興味深げに見守っていた。

 ぶおんっ。

 だが、一球目にして既に勝負にならないことが、素人の醍醐にも分かった。
球から50cm離れた上空を回ったバットが、そのまま振った本人をも引きずって一回転する。
かろうじて、尻餅を付かずに済んだ京一が思わず唸った。
……速えぇ…」
横で見ているより、ずっと速くて、怖い。投げたと思ったら、もうミットに納まっている。
「おい、情けないな。当てることも出来んか。」
ニヤニヤ笑いながら、醍醐が返球する。
「…うるせェ…てめェだって打てねーだろっ」
「ああ。味方で良かった、といいたいところだが、掌の皮が剥けそうだ。全く、次から次へと魅せてくれる男だよ。」
 立ち上がって両手を軽く振ってみせる。赤くなった手をまたミットに差し入れて、醍醐は座り直した。
「…あと二回振れるんだよな?」
「ああ。」
 今度は、龍麻が投げた瞬間に、バットを振ってみた。
チッ、という微かな音がして、球が醍醐の足元に跳ね、後方に転がる。
……当たった!?」
 どよめきが起こった。
三番を打った原田も、当てることすら出来なかった。どうみても素人のデタラメなフォームで、あの剛速球に当てられるとは誰も思っていなかったのだ。
「ちっくしょー! もう少しだったのに!」
京一が、ブンブンと素振りをしながら喚く。
「こんなへんてこりんなモンじゃ、当てるに当てらんねーじゃねェか!」
「また無茶なことを…仕方ないだろう。そら、あと一球あるぞ。」
 醍醐の声に、もう一度構え直そうとした京一は、ふとあることに気付いて金属バットを放り出した。
「…そーだッ。いーこと思いついた! タイムな、ひーちゃん!」
そして、道具などを立てかけてあったフェンス際に駆け寄り、見慣れたものを持って戻ってきた。
………まさか…京一。それ…」
「応よッ。コイツなら、自在に振れるぜッ。」
そう。京一は、愛用の木刀を持ち出したのだ。

「おおおお! 蓬莱寺、面白えー!」
「やれやれー! 緋勇、あの邪魔な木刀、折っちまえー!」
 両軍とも色めき立った。気が付けば、少し離れたところでバレーボールをしていた筈の女子達まで集まり、キャーキャーと騒いでいる。
「緋勇くーん、頑張れー!」
「京一くん、ファイトー!」
 細野はしばらく呆れ顔で見ていたが、やがてふうっと溜息をつき、どうせ言っても聞かないだろうとプレイを再開した。
「醍醐、念のため、もう少し下がって構えとけ。」
「はい。」

 実に異様な光景だった。
たかが体育の授業なのだが、烈しい<<気>>を抑えようともしない龍麻と、木刀をピタリと構えて微動だにしない京一。木刀の届かないところに下がった捕手・醍醐と、万が一のために名簿で顔をガードした審判・細野。その他、敵味方関係なく盛り上がっているクラスメート達。
 龍麻の両腕が、頭上高く掲げられた。

 次の瞬間に起きた出来事を把握出来たのは、恐らく醍醐だけであったろう。
パン、という軽い音と、バシッとグローブが鳴る音。それだけが、殆どの見学者に理解できた現象だった。
…………え?」
………京一。大したもんだが、アウトだ。」
……え?」
「ピッチャーライナーでワンナウト。」
「…えッ!?」
 驚いたことに、京一の木刀は見事に龍麻渾身のストレートをジャストミートし、強烈なライナーとなって龍麻を襲ったのだ。しかし、動体視力の優れた龍麻が、素早くグローブを差し出して、難なくキャッチした。
これが真相だったのだ。
「…何だよッ。オレ、当てただろッ? 当たったら俺の勝ちじゃねェかッ!」
……京一、野球ってのはな…」
 ようやく事態を把握した周囲の人々から、誰からともなく拍手がわき起こった。
「すげー! 木刀で打つ京一も京一だけど、捕っちゃう緋勇も緋勇だな!」
「今あたし、全然見えなかったー。緋勇クンて、やっぱ凄ーい!」

 この時、折角級友達に褒められているにも関わらず、全然聞いていなかった龍麻を責めることは出来まい。心臓が口から飛び出しそうな程ドキドキしていて、それどころではなかったのだから。
(…こ、こ、こ、怖かったっ!! し、し、死ぬかと思った! 京一、木刀で打ち返せるなんて凄すぎだよーっ! ビックリした、球が返ってきたから怖くて慌てて顔隠したら、たまたま捕っちゃったけど。てことは、グローブで顔を隠してなかったら、顔面直撃だったんだぜ!? うわーっ! 野球って観てると面白いけど、やるのって怖いんだ…も、もうやだ。二度とやりたくない。観るだけで充分ですう…)

「何でだよッ! 当てたんだから、俺の勝ちだ! ひーちゃん、おごってくれるよなッ!?」
「全然違う! 龍麻、このバカにおごらせて、ルールをたっぷり教えてやれ! 俺はもう知らん!」
 大騒ぎの中、校舎の方から終了のチャイムが鳴り響く。
……先生、緋勇をウチの部に勧誘しとけば良かったですね。」
「あー…もうちょっと早ければなあ…予選に間に合ったのに…」
「本当ですね…」
 細野と原田が寂しげに語り合う。もしこれが春頃だったら、甲子園で活躍する龍麻の姿が見られたのだろうか。そういう意味では、運が良かったのか悪かったのか、誰にとっての運なのか、定かではなかった。
 何にせよ、暑くてつまらない筈の臨時授業が思いの外盛り上がったのは、誰にとっても幸せなことであったに違いない。

 その後、また勝負しようと持ちかけても頑なに拒む龍麻が、京一にあらぬ誤解をまたまた植え付けるのだが、それはまた、別の、お話。

06/23/1999 Release.

(ちなみに、この話にいきる嬢が続編・「呪い☆鯉」を作ってくれました♪)