拾壱
之壱

春雷の出逢い

───あァ。分かったぜ、よく知らせてくれたな、アラン。」
『HAHAHAッ。ライトはフレーンドだから、トーゼンネッ。』
 オレは笑いながら携帯を切った。…ッたく、日を空けずしてあの人達は闘ってやがる。

 どういう理屈かは全然分からないが、アランは醍醐という龍麻サンの級友の危機を察したらしい。まァそういうコトもあるんだろう。
 ともかく、今現在龍麻サンがどっかで闘ってると聞いて、駆けつけないわけにはいかねェ。待ってろよ、オレ様が行くまで戦闘終わらせンじゃねェぞ!
 などと思いながら、新宿区の中央公園に着くと、アランに聞いた通り独特の空気を感じた。…ここだ、間違いねェ。鬼道衆とかいう連中のクセェ匂いを感じる。
中に入ってすぐ、龍麻サン達の姿と、やたらとデカイ鬼道衆の一人とが対峙していた。なんだ、やけに雑魚の数が多いみてェだな。

 思い切り槍を振り回し、身体に溜まってくる熱いパワーを掌に集中させると、台風みたいな「風」(フツーの風とは違うような気もするが、まァいい)が巻き起こって鬼どもを何匹かぶっ倒した。…ヘヘッ。見たか。
「龍麻サン! 加勢するぜッ!」
こっちを振り向くことなく、頷きながら鬼を素手でぶん殴って、あのシビレる声がオレに告げる。
「雷人、後方を固めろ!」
相変わらずクールだぜ。
なンか背中が血塗れなんだけど…ま、あの人強えェからな。平気なンだろ。そういうトコにホレちまうンだよなァ。

「こっちよ、姉様!」
「待て雛、お前は下がってろ!」
 聞き慣れない声がした。振り向いてみると、メチャメチャ可愛い嬢ちゃんが駆け寄ってくるところだった。
「お…おいおい、ここはちっと取り込んでっからよ、公園には入ンないで…」
「どけよデカブツッ!」
いきなりオレの忠告を無視して、もう一人の茶髪女が脇をすり抜けていく。な、何だ? お前。
「姉様、お気を付けて!」
そう言いつつ、カワイコちゃんの方も、弓矢をつがえようとしている…。
「…なンだ、新しい<仲間>だったのかよ。」
ビックリさせるぜ、全く。だよな、一般人が、あの鬼ども見て、近寄ってくるワケねェよな。
「え? は、はい。織部と申しますが、ご挨拶は後ほど。今は火急の場合ですので」
「おう、そうだったな。そンじゃア後でな。」
「はいッ。」
日本人形みたいなカオをしてるのに、弓を引き絞ったところはなかなか「凛々しい」って感じだ。理想的な大和撫子かもなァ。ちぇッ、龍麻サン、いつの間にこんなカワイコちゃんをナンパしてやがんだ?
ちょっぴり面白くない気もしつつ、前戦の方へと走る。今度ナンパする時は、オレ様も誘ってくれよなァ。
 おっと、さっきの生意気そうな女が早速闘ってやがる。…へェ、長刀ねェ。
突きや払いの迅さに少し感心したので、ちょいと声をかけてみることにした。
「よォ、アンタ、新しい<仲間>なんだってなァ。ヨロシク頼むぜ、オレ様は雨も…」
「うるせェッ! このクソ忙しいのに何くっちゃべってやがんだッ!! 後にしやがれ、後に!」
………
…オレ様としたことが、絶句しちまったぜ。なんてェ女だ。それでも女かよ。さっきのカワイコちゃんとはエライ違いじゃねェか。
とりあえず、ムカついたんで槍に集中する。オレ様の怒りは雷鳴となって敵に降り注ぐってェ仕掛けだ。コレやるとちょっとスッキリするから気に入ってンだよな。
 一瞬の稲光の後、周りのザコが一掃されて空間が出来た。あちこちからまた新手が出てきてるから、のんびり喋ってるヒマはなさそうだったが、一言いわねェとやっぱ気が済まねェ。
「何だってんだよ。オレ様が下手に出てやってるってのに、大体オレ様はこの"闘い"の先輩だぜ? ちったァ敬って見せるくらいしろよな。」
………
 ヘヘッ。オレ様の技に感激したらしいな。一瞬にして鬼どもをぶっ倒したんでビビッたか。
辺りをちょっと見渡して、女はオレを振り向きざま、感動の礼を告げ…
「…って余計なコトしやがんだよッ!! 全部オレの獲物だったんじゃねェか! トドメだけ差しに来やがるなんて、お前相当卑怯なヤツだなッ!」
……てコラちょっと待て! 全然話がちげーじゃねェかよッ!!!
チクショウ、なんて女だ。
もう一発文句を言ってやろうと思ったら、女はハーッっと思いッ切り息を吐き出し、額の汗を拭った。
「…まァいいや、まだまだ雑魚はいやがるしな。」
………。」
確かに、遊んでる場合じゃなさそうだ。さっきと同じくらいの鬼どもが集まってくる。
「ちっ。やってやるぜ!」
「オレの邪魔はすんなよなッ!」
仕方なく、その生意気クソ女と並んで構える。けッ、威勢がいい割にはもう息が上がってンじゃねェか。
そのことをからかってやろうと思った時だった。

 グオオオオォォォォォッ!!

 野獣の咆吼が、公園内の木々を揺らした。
今度はどんな敵が現れやがったのかと、鬼どもの後方を見ると、そこにいたのは醍醐ってヤツだった。
何だアリャ!? カオも身体も獣のようになってンじゃねェか。ウルフガイシリーズに出てきた虎男みたいだ。(小説はそんなに読まねェオレだが、あのシリーズは割と好きなンだよな、クールでよ)
 それで今度は、スゲエ馬力で鬼どもを蹴散らしてる。
…オレ、あんまあの人眼中になかったんだが(トロクセェからな)、今日からは「醍醐センパイ」って呼ぶことにしよう…。
 と、醍醐センパイに気を取られてるうちに、周りの鬼どもが一気に減っちまっていた。何でかは分からないが、それはそれでいい。とりあえず残った雑魚どもをぶっ倒すのがオレ様のすべき事だからな。

 ちょいと見渡すと、あちこちに分散された鬼がみんなにボコられている。オレの近くには三匹。まァ、不足はないか。
ふと、隣の女が僅かに身体を沈めた。空気の流れと違う「風」を感じる。これは、このオレの技を使うときと同じだ。
腰溜めにした長刀がパチパチッと静電気を帯びる。巻き起こる「風」と共に真上に突き上げられ、気合い一閃、一気に振り下ろされた。
空中に創り出された雷の直撃を受けた三体がヨロヨロとふらつき、オレは思わず口笛を吹いちまった。
見ようによっては、オレ様のお気に入りの技に似てなくもないじゃねェか。
「やるじゃねェか、アンタ。」
「けッ。とーぜんだッ!」
まだ怒ってやがるな。でも、こいつらのトドメを任すのはオレとしても面白くない。
「今度はオレ様の番だぜ。」
「て、てめェ! こいつらはオレがやるんだよッ!」
「いいからすっ込んでな。この程度で息が上がるよーじゃァ、到底龍麻サンの助けになんかなんねェよッ。」
…………ッ!!」
おっと、イタいとこ突いちまったらしいな。カオ真っ赤にして怒ってる。まァいい、さっさと雑魚倒して、あのデカイ野郎を倒すのに混ざりてェし。
 技を仕掛けようと、残った三匹の中に飛び込むと、女もついて来ちまった。
「オレが足手まといかどうか、目ン玉見開いてよッく見とけ!!」
ちッ、コイツ素早さだけはオレ様より上らしいな。オレも負けじと槍を構える。
 ───と?
な、なんだ、この光は??
もうコイツが技を放っちまったのかと顔を見たら、オレと同様驚いてる。何だ、違うのか。
そういや、コレと似たようなの見たことがあったな。
…ま、いいか。とにかく倒しちまえ。
槍を高く掲げると、気を取り直したのか、女も長刀を斜めに掲げた。…たく、相当負けず嫌いと見たぜ。
すると、足元から沸き上がるような光が一気に上昇し、突然掻き消えた。
闇に包まれたような錯覚に陥った次の瞬間。
消えたと思った光は、真上で凝縮されただけだったのだ。
弾けるように放電が起こって、無数の落雷が周りの鬼どもに降り注いだ。
非音楽的な、気色悪い断末魔の叫びが三つ、同時に消えていく。

 …コイツはたまんねェ。ゾクゾクしやがる。

 思い出したぜ、確か前に、あの醍醐センパイと紫暮って人がやってた技だ。
似たような技を持ってると出来るのかもな。
 女の方を見ると、少し呆然としていたようだったが、やがてフーッと長く息を吐き出した。
ちょっと、それが震えてるのに気付く。
……そッか。アンタ…
「姉様!」
後ろから、さっきのカワイコちゃんが駆け寄ってきた。
「姉様、お怪我は? 雛乃はとても心配でしたわ。このように鬼道の者と闘うのは初めてですのに…」
「ははッ、何言ってやがんだよ、雛。このオレがあんな雑魚に手間取るワケないだろ? お前こそ、怪我なんかしなかったろうな。」
「ええ、私は後方から援護射撃をするよう、緋勇様から命じられましたから。」
「ふん。アイツ、戦闘になった途端エラそうになりやがったな。」
「姉様ったら、そんな風に言うものではありませんわ。緋勇様は、とても的確に私どもを導いて下さいましたし、お陰で私たちは無事だったではありませんか。言わば命の恩人でもある緋勇様をそのように…」
「あーッ! 分かった分かったッ、オレが悪かったよッ。もう言わねェよ。」
「うふふ、分かればいいです。」
 なんとなく声をかけそびれたので、二人の───どうやら姉妹らしい、全然全くサッパリ欠片ほども似てねェが───会話をぼんやり聞いていると、妹の方がようやくオレに気付いた。
「先ほどは失礼致しました。私は織部が妹、雛乃と申します。姉の雪乃ともども、今後とも宜しくお願い致しますわ。」
「お、おう。オレ様は雨紋雷人ってんだ。渋谷は神代高の二年だ、『雷人』って呼んでくれていいぜ。」
ちょっと龍麻サンのマネして右手を差し出すと、雛乃サンは微笑んで握手をしてくれた。可愛いな…。
「けッ、クソ生意気な野郎だと思ったら一コ下かよ。口のきき方くれェ習って来いよなッ。」
ほんの毛の先ほども雛乃サンに似ていない生意気女…雪乃が、間に割って入って来やがる。
 ムカつく女だが、さっきのは気持ちよかったから、アレに免じて今日は黙っててやるか。
それに、いくら生意気な口を叩いても、やっぱ女は女だよな。息が上がってたのも、少し震えてたのも、汗も、ビビッてたせいだろ? 口きく余裕もないくらい。
それでもあんだけ闘えンなら、大したモンだと思うしな。前言は撤回してやる。
「…ま、足手まといじゃねェのは認めてやってもいいぜ。」
「…ッチイチ生意気なヤツだなッ!」
オレの差し出した手を、バシッとひっぱたく。ホント、ムカツク女だ。
「何ニヤニヤしてやがんだッ!!」
さァな。オレにも分かんねェよ。
「笑うなってんだよ! ば、バカにしてやがんなッ!? いーか、オレは一人でもあの程度の連中は倒せたんだからな! 分かってんだろうなッ!」
「分かってるよ、雪乃サン。」
「全然分かってねェだろ! てめー、ここで勝負するんだったらやってもいいんだぜ!」
慌てて止める雛乃サンを振り解こうとしている、一コ上の雪乃サン。
「可愛い」ってのとは違うな…「女のくせに」って気分も失せちまった。強いて言うなら、男の友情を感じるぜ。
「だーかーらーッ笑うなっつってんだろーがッ!」
ま、いいか。一人ダチが増えたってことだ。雛乃サンは可愛いし、今日はツイてる気分だ。
「てめーッ! 雷人とか言ったなッ! ぜってー倒す! 見てろよッ!!」
オレは笑いながら歩き出した。そうだな、ちょっと勝負してみるのも悪くなさそうだ。時代錯誤だけど、友情が生まれちまいそうで、また吹き出してしまう。
 これだから、龍麻サンの側は面白いんだよな。
明日はどんな戦闘になるンだろう。どんな出会いが待ってるやら…なーんて、ガラにもなくウキウキしちまうぜ。

07/27/1999 Release.