007. 負けられん ...【百題的小咄

百題的小咄

「いッくよー!!」
「ブルズアイ!!」

 百発百中の攻撃が、有象無象の化人たちに命中すると、気持ち良く綺麗に消滅する。
「わあ、お二人とも、素晴らしいですー!!」
そんな二人に、葉佩はピョンピョンと飛び跳ねつつ、キャー♪ と嬌声を上げた。
「へへへッ、ピース!」
得意げにVサインを作って声援に応える八千穂。
「九龍チャンのためですもの、シゲミ、頑張っちゃった。」
うッふ〜ん、と投げキッスを送る朱堂。
 一瞬、この二人の間に火花が散る。
と言っても火花を発しているのは、概ね朱堂の方だけだったのだが……
「ね〜ェ、九龍チャン? アタシの活躍と、あのゴリラ女と、どっちの方が美しい闘いぶりだった?」
「ちょっと、誰がゴリラ女よッ。」
「あんな力任せで、数撃ちゃ当たる的な攻撃より、このアタシの、一刺しで無駄なくスマートに決める攻撃の方が上でしょ?」
「ええッ? 何よ、あたしの方が沢山敵を斃したじゃないッ。ねー九龍クン?」
「えーと〜……お二人とも、素晴らしいですし、美しいと思います。甲乙付け難しでございます……。」
「ダメよォ、九龍チャン! 二股は良くないわ、この際ハッキリとこの女をフッてやりなさい!」
「別に、あたしと九龍クンは友達だもんッ。訳の分からないこと言って、九龍クン困らせるんじゃないッ! 九龍クンも、はっきり迷惑だって言ってやりなよ!」
「えーと……えーと……。」
九龍はただオロオロと泣くばかりで、どう答えて良いか解らない。八千穂&朱堂バディで知性マイナス15が響いているのだろう。
「うふふ……八千穂明日香。この辺で決着を付ける方が良さそうね……。」
「まだ懲りてないみたいね、このデバガメ変態……。いいよ、ここでケリをつけようじゃないッ。」
 ゴゴゴゴゴ……と遺跡中に地鳴りが響き、黒雲が立ちこめた。ような気がする。
二人は各々の武器───ラケットとダーツ───を構えて向き合った。
「いッくよー!!」
「ブルズアイ!!」
「No!! やめてくださいー!!」

 八千穂の打ったテニスボールは、朱堂が立っていた後ろの壁に当たって大きく跳ね返った。
そして、朱堂のダーツは───
「う……ッ。」
「く、九龍……チャン……?」
朱堂のダーツは、その朱堂を突き飛ばし、上に覆い被さる形で倒れ込んだ、葉佩の左腕に命中していた。
「九龍クンッ! だ、大丈夫ッ!?」
「なんて無茶するのよ、九龍チャンッ!!」
「だ……大丈夫です。私は軽傷です……ッ。」
 大変、大変〜と言いながら、八千穂がポケットから包帯と消毒薬を取り出す。
装備と上着を脱がせると、葉佩は器用にも片手で患部の応急処置をした。怪我は実際大したことがなかったようで、左腕を軽く動かしてみせる。
「ホラ、大丈夫です。ご心配おかけしました。」
それを見て、二人は顔を見合わせながらホッと胸を撫で下ろすと、またわめき出した。安心して改めて怒りが爆発したのだ。
「もうッ、九龍チャンのバカバカッ! アタシが投げる瞬間に気付いて、力を抜いてなかったら、九龍チャンの腕なんか、もげてたかも知れないのよッ? 全く無茶なんだからッ。」
「何言ってるのさ! 大体、アンタがバカな事言い出さなきゃ、九龍クンは怪我なんかしないで済んだんじゃないッ!」
「誰がバカよ、誰が! この万年追試娘!」
「ま、万年じゃないもんッ! ちょっとだけだもんッ!」
……ふふふッ。」
「「───!?」」
 頭に?マークを付けた二人が揃って葉佩を振り返ると、言い争う二人を見ていた葉佩が、微笑っていた。
「良かった。お二人とも怪我がなくて……。」
邪気の「じゃ」の字、どころか「じ」の濁点の一点さえ無いような天使の笑顔に、流石の二人の毒気も抜ける。
代わりに、九龍に対する罪悪感が込み上げてきた。
(友達が争ってたら悲しいし、先にも進めないし、あたしなら苛々しちゃうかも。九龍クンってやっぱスゴイや。「ケンカするな」って言われるより効くよね、あの笑顔。)
(九龍チャンは、ただ純粋にアタシたちを愛し、心配してくれてるのね。イケナイわ、シゲミッ。彼の愛を疑ったり、あんなちっぽけな女に嫉妬したりしてちゃ、よい女とはいえなくてよッ!)
 二人はやっと葉佩に謝罪し、互いに握手をして和解したのだった。
(な〜んか納得いかないけど、九龍クンのためだし、あたしだってケンカはやだもんね。忘れよっと。)
「えへへッ、ごめんね茂美チャン。これからは仲良くしよッ。」
(そうよ、九龍チャンはアタシを庇って怪我をしたんだもの。八千穂チャンの方じゃなく、アタシを。つまり、八千穂チャンよりアタシの方を愛してるってことじゃない……ヤダわ気付かないなんて、シゲミのオ・バ・カ・さんッ。)
「ううん、アタシこそゴメンなさい。改めて仲良くしましょうね。ウフフフフ。」
「あ、待って下さい、私とも仲良くして下さい〜!」
「ヤダもう、九龍チャンったら。」
「あはははッ!」

 しかし、後日。
「九龍チャンのハートはアタシのも・の♪ アタシの身体も九龍チャンのモ・ノ♪ だってアタシ、あんなに激しく男の人に押し倒されたの、初めてなんだもの……彼ったら小さくて華奢なのに、想像してたよりずっと力強くて逞しかったワ……ああッシゲミ、思い出しただけでも感じちゃう〜!」
などと言いふらして有頂天だった朱堂の耳に、マミーズ爆弾事件の際、葉佩は皆守を押し倒した……いや皆守を庇った、という噂が飛び込み、彼(女?)の闘争心は再び燃え上がるのであった───

続く(嘘)

2004/12/16(木) Release.

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